やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 吉村健一 広島大学学術院/病院未来医療センター 生物統計部
 手良向 聡 京都府立医科大学大学院医学研究科 生物統計学
 近年,臨床試験を取り巻く環境は大きく変化している.多方面における新しいクラスの治療法の急速な発展,リアルワールドデータの臨床試験の枠組みのなかでの利用の試み,臨床研究法による介入研究(臨床試験)の法制化に加え,新たに医療法に位置づけられた臨床研究中核病院,それにともなうAcademic Research Organization(ARO)の基盤整備の促進,さらにそれに伴う臨床試験を専門とする生物統計家のこれまでにはなかった需要の高まりである.臨床試験を専門とする生物統計家の育成に関しては,2016年に産官学協働の事業として国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)が生物統計家育成支援事業を開始した.また2017年には一般社団法人日本計量生物学会が,本特集執筆時点においてはわが国では唯一の臨床試験を専門とする生物統計家の認定制度として,試験統計家認定制度を制定した.
 新しい薬剤が有効かどうか,がんなどの病気の原因は何か,ある病気にかかった人がどれくらい生き延びることができるかなど,医学,生物学,公衆衛生における研究課題に対して統計というツールを使って効率的に,研究デザインを策定し,情報を収集し,統計解析を行い,バイアスのない結論を出すために有用な学問として生物統計学がある.現代のすべての科学において,エビデンスとして必要なデータを収集したうえで,それを評価することが必要である.この点において,生物統計学はすべての医系科学分野の中心的存在のひとつである.現代の医学領域,とくに臨床試験においても,同様に中心的存在のひとつでなければならないし,当然ながら,われわれ生物統計家もそういう自覚をもって,臨床試験に関わらなければならない.
 本特集では,臨床試験の第一線にたつ生物統計の第一人者の先生方に著述をいただいた.とくに,今回は前述した試験統計家認定制度において最上位資格である責任試験統計家をもつ,まさに本領域の専門家の先生方を中心にお願いした.
 ご協力をいただいた諸先生方には,ここに厚く御礼申し上げます.
 はじめに 吉村健一・手良向 聡
臨床試験の方法
 臨床試験デザインの基礎 柴田大朗
 臨床試験のエンドポイントの設定−適切なエンドポイントに求められる性質 上村鋼平
 ランダム化と解析対象集団 下川元継
 研究設計に役立つ検定と信頼区間の基本知識−α,β,期待する群間差,優越性/非劣性試験,サンプルサイズ設計 阿部貴行
 臨床試験における多重性の問題 吉村健一
 これだけは知っておきたい臨床試験における中間解析の基礎 小山暢之
 サブグループ解析とその限界 吉村健一
 生存時間データの統計解析 平川晃弘
 メタ解析の基礎と結果を解釈する際の留意点 大庭幸治
観察研究の方法
 観察研究(コホート研究タイプ)の基礎と応用 山本精一郎・溝田友里
 観察分析疫学におけるバイアス 鈴木貞夫
 観察研究の報告において大事なこと−STROBE声明より 嘉田晃子
 リアルワールドデータを利活用した臨床試験のデザインと統計的留意事項 上村夕香理
方法論の近年の発展
 ベイズ流統計学の臨床試験への応用 手良向 聡
 バスケット試験,アンブレラ試験,プラットフォーム試験−実例を交えて 山本英晴
 アダプティブデザインの基礎−実例とともに 長島健悟・佐藤泰憲
 抗悪性腫瘍薬の用量探索試験のためのベイズ流適応的デザイン−3+3デザインからの脱却 大門貴志
 PRO/QOLを用いた臨床試験のデザインおよび統計解析−SISAQOLプロジェクトより 水澤純基
 ログランク検定・Cox比例ハザードモデルに代わる手法を用いるランダム化比較試験の計画と解析 野村尚吾
 臨床研究におけるエスティマンド 篠崎智大・菅波秀規
 複数の主要評価変数を用いる臨床試験の実際 寒水孝司・濱ア俊光
 臨床試験における多重性の調整 吉村健一
 後治療の解析−RPSFTM 山口拓洋
 操作変数法 田栗正隆
 臨床試験に基づく費用対効果評価 河田祐一・荒西利彦
 治療経過に応じて決まる治療方針の因果効果 篠崎智大
バイオマーカー解析
 バイオマーカーを用いた検証的臨床試験のデザイン 松井茂之
 がんゲノムデータの探索とバリデーション 口羽 文
 臨床試験における分子診断シグナチャーの開発と検証 松井茂之
 予測/診断アルゴリズムの性能評価に関する統計学的論点−Framingham Risk Scoreから人工知能技術を利用した診断支援まで 田中司朗
質の担保と有用なガイドライン
 臨床試験におけるQuality Management 山口拓洋
 ランダム化比較試験の報告の質を担保するためのCONSORTガイドライン 川野伶緒・吉村健一
 ランダム化比較試験の報告の質を担保するためのCONSORTガイドライン 下川敏雄
 国際共同治験におけるガイドライン−考慮すべき4つのポイント 青木 岳・吉村健一
 EMAによるサブグループ解析ガイドライン 吉村健一
臨床家と試験統計家のよりよい協同に向けて
 臨床研究デザイン・医療統計学のセンスとスキルをもった臨床医の育成 森本 剛
 生物統計家育成事業−東京大学大学院での取り組み 松山 裕
 日本計量生物学会・試験統計家認定制度 手良向 聡

 次号の特集予告

 サイドメモ
  検定統計量とαとβ
  サンプルサイズの設定(1)
  サンプルサイズの設定(2)
  棄却限界値
  情報分数
  医薬品規制調和国際会議(ICH)
  制限付平均生存時間(RMST)
  バイアスのリスク(risk of bias)
  文献ベースのメタ解析と個票ベースのメタ解析
  ネット検索でヒットするさまざまな“バイアス”
  交絡と交互作用
  EQUATOR network
  STRATOS initiative
  Immortal time bias
  ベイズ流共役解析
  抗悪性腫瘍薬の用量探索試験の対象集団
  用量探索試験の計画時の論点
  患者報告型アウトカム(PRO)と健康関連QOL(HRQOL)
  欠測メカニズム
  エスティマンド設定のための中間事象に対する5つのストラテジー
  主要層における効果
  質調整生存年(QALY)
  集団全員でのY(1,1-L)の分布
  IPW法による効果推定
  Deep learningと医療機器カテゴリー
  リスクの値が臨床で用いられるケース
  FDAが性能変化を扱ったケース
  シミュレーションに基づく症例数計算とは?