やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 讃井將満
 自治医科大学附属さいたま医療センター集中治療部
 2020年3月11日に世界保健機関(WHO)のテドロス・アダノム事務局長が,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックと認定して1年半が経過した.この間,世界で約2億3千万人が感染し,約470万人が亡くなった.日本でも約170万人が感染し,およそ1万7千人が亡くなった.亡くなった方たちの多くは,もしCOVID-19パンデミックがなかったら亡くならずに済んだ方たちであり,医療に携わる者として,改めてこの数字を重く受け止めなければならないと思う.
 もちろんこの間,医学や医療は手をこまねいていたわけではない.かつてないほどのスピードでその病態が解明され,標準的な治療薬や呼吸療法が確立され,優れたワクチンが開発された.その結果多くの命が救われたが,変異ウイルスの出現もあり,繰り返される感染拡大の波に病床は逼迫し,自宅や宿泊施設での療養中に亡くなる患者が発生し,救急診療を中心に通常診療も大きな影響を受けた.さらに,標準治療ではどうしても救えない患者,後遺症により今なお社会復帰が妨げられている患者がいる.
 このあたりで,COVID-19がどのような病気で,われわれはどのように闘ってきたかをまとめておく意義はあるであろう.パンデミックの完全収束が見通せない状況で,中間サマリーを作成しておくことは,残された課題を解決するために役立つはずであるし,10年以内に再来が予想されている次のパンデミックに備えて,貴重なアーカイブスになるからである.
 本書の制作にあたり,各分野のエキスパートの先生方に,多忙を極めるなか執筆をご快諾いただいた.また,本書の企画,執筆依頼にあたり,自治医科大学附属病院感染制御部・森澤雄司先生のお力をお借りした.著名な臨床感染症科医である森澤先生には,一介の集中治療医として,自施設や埼玉県で重症COVID-19と闘ってきた筆者の弱点を補うに余りあるご貢献をいただいた.この場を借りて感謝申し上げる.
 この1年半,われわれ医療者の祈りは届かず,感染拡大の大波のたびに医療は逼迫した.第5波が収束しつつある今,今度こそわれわれの祈りがかなうことを願ってやまない.
 (2021年9月30日)
 はじめに(讃井將満)
1.コロナ禍で明らかになった課題:臨床研究とPCR検査
 (永井良三)
2.COVID-19の疫学
 ─発生率,死亡率,年齢,性別,患者背景,発生様式,発生地域,とくに世界と日本のデータ比較
 (亀谷航平・早川佳代子・松永展明)
3.SARS-CoV-2のウイルス学的特徴と変異
 (増田道明)
4.新型コロナウイルスの免疫逃避機構と重症化メカニズム
 (荒瀬 尚)
5.血栓症と炎症:多臓器不全・多様な症状への進行機序
 (射場敏明)
6.新型コロナウイルス感染症の臨床像
 (忽那賢志)
7.新型コロナウイルス検査の性能と利用法
 (宮地勇人)
8.介護・医療施設における感染予防策・クラスター対策
 (鈴木 潤・遠藤史郎)
9.クリニックにおける感染症予防策とPCR検査センター設置
 (倉持 仁)
10.クルーズ船と災害時感染制御支援チーム
 (櫻井 滋)
11.COVID-19の薬物治療
 (畠山修司)
12.呼吸療法
 ─酸素療法,非侵襲的換気,リハビリテーション
 (大山慶介)
13.呼吸療法:侵襲的人工呼吸管理とECMO概論
 (笠原 道・小倉崇以)
14.専門家会議
 ─これまでの背景と役割
 (岡部信彦)
15.COVID-19患者の宿泊療養
 (大澤良介)
16.米国の臨床現場からの報告
 ─ニューヨーク市での感染爆発を経験して
 (野本功一)
17.妊婦のCOVID-19感染
 (高橋宏典・薄井里英)
18.COVID-19による虚血性脳卒中リスクへの影響
 ─救急診療への影響も含めて
 (守谷 俊・新里祐太朗・崎原永立)
19.COVID-19後遺症
 ─COVID-19重症患者の後遺症への対応が急がれる
 (本多英喜・藤谷茂樹)
20.ウイルス感染後疲労症候群および筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)の基礎と臨床
 ─COVID-19との関連
 (山村 隆)

 Side Memo
  “懸念される変異株“と“注目すべき変異株”
  血管内皮細胞はSARS-CoV-2感染の標的となるか
  Spike proteinに対する抗体カクテル療法
  新型コロナウイルス核酸検査の精度の確保に係る法的基準
  用語解説(クラスター,アウトブレイク,ユニバーサルマスキング)
  略語の意味を確認しておく(COVID-19,SARS-CoV-2,COVID-19後の症状)