はじめに
渡邊衡一郎
杏林大学医学部精神神経科学教室
世界保健機関(WHO)によると,うつ病は2023年にはすべての疾患における“生涯調整生命年(DALYs)”の1位になると予測されている.うつ病が与える経済的損失は,今後ますます大きくなるであろう.しかし残念なことに,2000年代半ばに実施された米国の大規模研究Sequenced Treatment Alternatives to Relieve Depression(STAR*D)研究において,全例に選択的セロトニン再取り込み阻害薬(selective serotonin reuptake inhibitor:SSRI)を投与し,非寛解例などには変薬や増強・併用,さらには認知療法までも付加して1年以上経過しても,約1/3は寛解しないことが示されている.この研究には,時代的背景として非定型(第二世代)抗精神病薬による増強療法が含まれていないが,それを加味したとしても,多くの当事者が寛解に至っていないというのが現状である.
われわれ臨床医としては,この病態をいかに寛解,そして回復に至らせ,さらに当事者の社会性やQOL(quality of life)などをふたたび獲得させることが使命であり,治療の絶対的ゴールとなる.しかし,この病態をどのように考え,どう取り組むべきかについては,はっきりとした指針はいまだ示されていない.
そこで本別冊では,この“難治性うつ病”の診断をどう再考するか,さまざまな疾患の可能性や併存症についての検討のほか,アドヒアランスへの配慮や望ましい薬物療法上の工夫,精神療法の効果,新たなツールも生まれ注目されている神経刺激療法,さらには難治性うつ病に驚くべき成果をあげている麻酔薬ケタミンに至るまで,2020年現在考えられるあらゆる可能性について網羅して取り上げた.そしてそれぞれの稿において第一線で活躍され,この問題に熱心に取り組んでおられる先生方にご執筆をいただいた.改めて感謝申し上げる.
本別冊が,“うつがなかなか治らない““難治性うつ病”と考えられた際でもさまざまな可能性を追求し,この難しい病態に対して臨床家があきらめずに取り組む一助となることを願う.そしてその結果,臨床家だけでなく,当事者や支援者に対しても,その先の未来に勇気を与えられるものになればと期待してやまない.
渡邊衡一郎
杏林大学医学部精神神経科学教室
世界保健機関(WHO)によると,うつ病は2023年にはすべての疾患における“生涯調整生命年(DALYs)”の1位になると予測されている.うつ病が与える経済的損失は,今後ますます大きくなるであろう.しかし残念なことに,2000年代半ばに実施された米国の大規模研究Sequenced Treatment Alternatives to Relieve Depression(STAR*D)研究において,全例に選択的セロトニン再取り込み阻害薬(selective serotonin reuptake inhibitor:SSRI)を投与し,非寛解例などには変薬や増強・併用,さらには認知療法までも付加して1年以上経過しても,約1/3は寛解しないことが示されている.この研究には,時代的背景として非定型(第二世代)抗精神病薬による増強療法が含まれていないが,それを加味したとしても,多くの当事者が寛解に至っていないというのが現状である.
われわれ臨床医としては,この病態をいかに寛解,そして回復に至らせ,さらに当事者の社会性やQOL(quality of life)などをふたたび獲得させることが使命であり,治療の絶対的ゴールとなる.しかし,この病態をどのように考え,どう取り組むべきかについては,はっきりとした指針はいまだ示されていない.
そこで本別冊では,この“難治性うつ病”の診断をどう再考するか,さまざまな疾患の可能性や併存症についての検討のほか,アドヒアランスへの配慮や望ましい薬物療法上の工夫,精神療法の効果,新たなツールも生まれ注目されている神経刺激療法,さらには難治性うつ病に驚くべき成果をあげている麻酔薬ケタミンに至るまで,2020年現在考えられるあらゆる可能性について網羅して取り上げた.そしてそれぞれの稿において第一線で活躍され,この問題に熱心に取り組んでおられる先生方にご執筆をいただいた.改めて感謝申し上げる.
本別冊が,“うつがなかなか治らない““難治性うつ病”と考えられた際でもさまざまな可能性を追求し,この難しい病態に対して臨床家があきらめずに取り組む一助となることを願う.そしてその結果,臨床家だけでなく,当事者や支援者に対しても,その先の未来に勇気を与えられるものになればと期待してやまない.
はじめに(渡邊衡一郎)
総論
1.難治性うつ病の定義(田中輝明)
KeyWord 難治性うつ病,治療抵抗性,偽難治性,Stageモデル
2.抑うつの難治化とその転帰(白川 治)
KeyWord 抑うつ,うつ病,遷延化,慢性化
3.うつ病の診断・治療上のエラー(野ア和博)
KeyWord 難治性うつ病,併存疾患,診断,薬物療法
各疾患へのアプローチ
4.双極性障害の影響を考慮したアプローチ(寺尾 岳)
KeyWord 難治性うつ病,双極性障害,躁的因子,リチウム,ラモトリギン
5.不安症の影響を考慮したアプローチ(井上 猛・他)
KeyWord うつ病,難治性うつ病,不安症,不安症状
6.パーソナリティ障害を併存するうつ病(永田利彦)
KeyWord 難治性うつ病(治療抵抗性うつ病),プロトタイプ診断,回避性パーソナリティ障害,境界性パーソナリティ障害,validation
7.難治性うつと神経発達症の関連について考える─自閉スペクトラム症,注意欠如・多動症に焦点を当てて(大江悠樹・栗原真理子)
KeyWord 難治性うつ(TRD),神経発達症,自閉スペクトラム症(ASD),注意欠如・多動症(ADHD)
8.難治性うつ病に対する,身体疾患の影響を考慮したアプローチ(小笠原一能)
KeyWord 難治性うつ病,身体疾患,炎症,薬物療法,生活指導
9.認知症や神経変性疾患を考慮した高齢者のうつ病へのアプローチ(馬場 元)
KeyWord うつ病,高齢,認知症,神経変性疾患,治療
10.睡眠障害の影響を考慮したアプローチ(高江洲義和)
KeyWord 難治性うつ病,睡眠障害,残遺不眠,睡眠時無呼吸症候群,概日リズム睡眠・覚醒障害
11.栄養・運動を考慮したアプローチ(功刀 浩)
KeyWord 栄養,運動,うつ病
12.難治性うつ病とアドヒアランス─うつ病の訪問診療(澤田法英)
KeyWord うつ病,訪問診療,アドヒアランス,治療者-患者関係,shared decision making(意思決定の共有)
13.難知性うつ病に対する作業療法アプローチ(早坂友成)
KeyWord 難治性うつ病,作業療法,治療構造
治療効果の検討
14.難治性うつ病の適切な薬物療法を考える(加藤正樹)
KeyWord 難治性,うつ病,補充療法,抗うつ薬
15.治療抵抗性うつ病に対する認知行動療法(満田 大・他)
KeyWord 治療抵抗性うつ病,認知行動療法(CBT),RCT
16.難治性うつ病に対する対人関係療法の付加の効果(片桐建志)
KeyWord 難治性うつ病,対人関係療法(IPT),対人関係社会リズム療法(IPSRT)
17.難治性うつ病に対する電気けいれん療法の有効性と安全性(安田和幸)
KeyWord 電気けいれん療法(ECT),うつ病,難治性,併用療法,メンテナンスECT
18.難治性うつ病に対する反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)療法─併用療法としてのrTMS療法とその展望(山ア龍一・鬼頭伸輔)
KeyWord 反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)療法,難治性うつ病,併用療法
19.リワークプログラム標準化の取り組みとリワークの効果研究(有馬秀晃・秋山 剛)
KeyWord リワークプログラム,レジリエンスビルディング,就労継続割合,うつ病,気分障害
20.難治性うつ病に対する漢方薬の可能性(坪井貴嗣)
KeyWord 難治性うつ病,漢方薬,エビデンス,気血水,腹診
21.難治性うつ病治療に対するケタミンへの期待(橋本謙二)
KeyWord ケタミン,即効性抗うつ効果,光学異性体
サイドメモ
地中海式食事
ケタミン
リスク評価軽減戦略(REMS)
総論
1.難治性うつ病の定義(田中輝明)
KeyWord 難治性うつ病,治療抵抗性,偽難治性,Stageモデル
2.抑うつの難治化とその転帰(白川 治)
KeyWord 抑うつ,うつ病,遷延化,慢性化
3.うつ病の診断・治療上のエラー(野ア和博)
KeyWord 難治性うつ病,併存疾患,診断,薬物療法
各疾患へのアプローチ
4.双極性障害の影響を考慮したアプローチ(寺尾 岳)
KeyWord 難治性うつ病,双極性障害,躁的因子,リチウム,ラモトリギン
5.不安症の影響を考慮したアプローチ(井上 猛・他)
KeyWord うつ病,難治性うつ病,不安症,不安症状
6.パーソナリティ障害を併存するうつ病(永田利彦)
KeyWord 難治性うつ病(治療抵抗性うつ病),プロトタイプ診断,回避性パーソナリティ障害,境界性パーソナリティ障害,validation
7.難治性うつと神経発達症の関連について考える─自閉スペクトラム症,注意欠如・多動症に焦点を当てて(大江悠樹・栗原真理子)
KeyWord 難治性うつ(TRD),神経発達症,自閉スペクトラム症(ASD),注意欠如・多動症(ADHD)
8.難治性うつ病に対する,身体疾患の影響を考慮したアプローチ(小笠原一能)
KeyWord 難治性うつ病,身体疾患,炎症,薬物療法,生活指導
9.認知症や神経変性疾患を考慮した高齢者のうつ病へのアプローチ(馬場 元)
KeyWord うつ病,高齢,認知症,神経変性疾患,治療
10.睡眠障害の影響を考慮したアプローチ(高江洲義和)
KeyWord 難治性うつ病,睡眠障害,残遺不眠,睡眠時無呼吸症候群,概日リズム睡眠・覚醒障害
11.栄養・運動を考慮したアプローチ(功刀 浩)
KeyWord 栄養,運動,うつ病
12.難治性うつ病とアドヒアランス─うつ病の訪問診療(澤田法英)
KeyWord うつ病,訪問診療,アドヒアランス,治療者-患者関係,shared decision making(意思決定の共有)
13.難知性うつ病に対する作業療法アプローチ(早坂友成)
KeyWord 難治性うつ病,作業療法,治療構造
治療効果の検討
14.難治性うつ病の適切な薬物療法を考える(加藤正樹)
KeyWord 難治性,うつ病,補充療法,抗うつ薬
15.治療抵抗性うつ病に対する認知行動療法(満田 大・他)
KeyWord 治療抵抗性うつ病,認知行動療法(CBT),RCT
16.難治性うつ病に対する対人関係療法の付加の効果(片桐建志)
KeyWord 難治性うつ病,対人関係療法(IPT),対人関係社会リズム療法(IPSRT)
17.難治性うつ病に対する電気けいれん療法の有効性と安全性(安田和幸)
KeyWord 電気けいれん療法(ECT),うつ病,難治性,併用療法,メンテナンスECT
18.難治性うつ病に対する反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)療法─併用療法としてのrTMS療法とその展望(山ア龍一・鬼頭伸輔)
KeyWord 反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)療法,難治性うつ病,併用療法
19.リワークプログラム標準化の取り組みとリワークの効果研究(有馬秀晃・秋山 剛)
KeyWord リワークプログラム,レジリエンスビルディング,就労継続割合,うつ病,気分障害
20.難治性うつ病に対する漢方薬の可能性(坪井貴嗣)
KeyWord 難治性うつ病,漢方薬,エビデンス,気血水,腹診
21.難治性うつ病治療に対するケタミンへの期待(橋本謙二)
KeyWord ケタミン,即効性抗うつ効果,光学異性体
サイドメモ
地中海式食事
ケタミン
リスク評価軽減戦略(REMS)