やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 下光輝一
 公益財団法人健康・体力づくり事業財団理事長,健康日本21推進全国連絡協議会会長,東京医科大学名誉教授
 国の健康づくり施策,21世紀における第二次国民健康づくり運動〔以下,健康日本21(第二次)〕は,2012年7月10日に厚生労働大臣告示として公表された.この施策は,2000年から開始された健康日本21の最終評価において,糖尿病合併症の減少や日常生活における歩数の増加など重要な項目において目標値を達成するどころか基準値よりも悪化してしまったことから,個人に対する生活習慣改善のアプローチのみでは限界があり,個人の置かれている環境(地理的・社会経済的な環境)や地域・職域における社会支援の改善なども含めて行うことが重要であるという結論に至り,健康日本21(第二次)では,健康づくり支援環境の整備が大きく盛り込まれた.
 これは,1986年オタワで開催された第1回ヘルスプロモーション国際会議における「ヘルスプロモーションとは,人々が自らの健康をコントロールし,改善することができるようにするプロセスである」という理念,すなわちヘルスプロモーションは個々人の生活習慣改善の努力ばかりでなく,それを支援する社会環境の整備を包含したものである,という理念を体現しようとするものであった.そして,健康日本21(第二次)では,“健康寿命の延伸と健康格差の縮小“という大目標が掲げられ,それを達成するための9分野80項目の目標値が疫学研究の成果など科学的な根拠に基づいて設定された.わが国のこれまでの健康づくり施策のなかではより洗練され,完成された施策といえよう.問題はこの優れた施策を“絵にかいた餅”とせずに,どのようにして市町村などの地域や職域を通して,効果的な国民運動として展開し,健康長寿社会を実現していくのかということになる.
 2018年9月には,厚生労働省から健康日本21(第二次)中間評価報告書が公表された.そのなかでは,それぞれの目標項目について詳細な分析が行われ,今後の問題点が検討されている.本別冊では,おもにこれらの項目の目標値の評価に関わられた専門委員会委員の方々を中心として,目標値の推移についての分析のみならず目標達成のための課題について論じていただいた.さらに,健康日本21(第二次)を取り巻く諸問題についても,その分野の第一人者にご執筆いただき,本施策の新たな方向性についても貴重な示唆をいただいた.
 本企画が,健康日本21(第二次)推進の一助となり,次期の健康日本21(第三次)の計画立案の参考になれば,幸甚である.
 はじめに(下光輝一)
総論
 1.健康寿命の延伸と健康格差の縮小─健康日本21(第二次)の中間評価とこれからの取り組み(辻 一郎)
  KeyWord 健康日本21(第二次),健康寿命,健康格差,中間評価
主要な生活習慣病の発症予防と重症化予防の徹底
 2.“がん”の発症予防と重症化予防の徹底(若尾文彦)
  KeyWord 医療政策,予防医学,がん対策
 3.循環器疾患対策の進捗状況と今後の課題(岡村智教)
  KeyWord 脳血管疾患,虚血性心疾患,危険因子,生活習慣,脳・循環器疾患対策基本法
 4.糖尿病発症予防・重症化予防の取り組みとその成果,今後の方向性(津下一代)
  KeyWord 糖尿病,肥満,メタボリックシンドローム,特定保健指導,重症化予防プログラム
社会生活を営むために必要な機能の維持・向上
 5.こころの健康(西 大輔)
  KeyWord こころの健康,心理的苦痛,予防
 6.次世代の健康(山縣然太朗)
  KeyWord 健康日本21(第二次),中間評価,健やか親子21(第二次),次世代の健康,成育基本法
 7.高齢者の健康─ロコモティブシンドロームを中心に(吉村典子)
  KeyWord 健康日本21(第二次),ロコモティブシンドローム,ロコモ度テスト,有病率ROADスタディ
生活習慣及び社会環境の整備
 8.健康を守るための社会環境の整備とソーシャルキャピタルの醸成(横山芽衣子・近藤克則)
  KeyWord 健康格差,社会参加,通いの場,ソーシャルキャピタル
 9.“栄養・食生活”について(村山伸子)
  KeyWord 健康日本21(第二次),栄養・食生活,中間評価,食環境,健康格差
 10.身体活動・運動・座位行動(澤田 亨)
  KeyWord 身体活動・運動・体力・社会環境・座位行動
 11.睡眠に関する健康の評価と今後の展望(前田光哉・他)
  KeyWord 睡眠時間,健康づくりのための睡眠指針2014,睡眠呼吸障害,過重労働
 12.“飲酒”について(松下幸生)
  KeyWord アルコール関連問題,アルコールの有害な使用を低減するための世界戦略,アルコール健康障害対策基本法,アルコール健康障害対策推進基本計画,健康日本21(第二次)
 13.“喫煙”について(中村正和)
  KeyWord 健康日本21(第二次),中間評価,喫煙,たばこ規制・対策,たばこ規制枠組条約
 14.歯と口腔の健康について(野直久)
  KeyWord 健康づくり,歯と口腔,健康格差,健康寿命,8020運動
健康日本21(第二次)を取り巻く諸課題
 15.健康政策をめぐる世界の潮流と健康日本21(葛西 健・森下福史)
  KeyWord 持続可能な開発目標(SDGs),グローバルヘルス,健康格差,ユニバーサルヘルスカバレッジ(UHC),プライマリヘルスケア(PHC)
 16.WHOヘルスプロモーションの視点からみた健康日本21─人々の健康と幸福のために,今できること(島内憲夫・鈴木美奈子)
  KeyWord WHOヘルスプロモーション,健康日本21,健康の社会的決定要因,主観的健康観,スピリチュアルヘルス,幸福
 17.高齢社会における企業の社会的要請─働き方改革と健康経営(岡田邦夫)
  KeyWord 高齢社会,労働生産人口,働き方,労働生産性,健康経営
 18.国民の健康増進をめざした公衆衛生領域における連携の現状と課題(武藤孝司)
  KeyWord 地域保健,学校保健,産業保健,連携,公衆衛生
 19.住環境と“健康日本21(第二次)”(村上周三・伊香賀俊治)
  KeyWord 住宅内温熱環境,生活習慣,家庭血圧,身体活動量,健康診断
 20.健康づくりにおける行動経済学とナッジの応用(福田吉治)
  KeyWord 行動経済学,ナッジ,インサイト,健康無関心層,健康づくり
 21.超高齢社会の課題解決に資する自然と“健幸”になるまちづくり(久野譜也)
  KeyWord 健康無関心層対策,Walkable City,Smart Wellness City,首長研究会,ソーシャルインパクトボンド,健幸アンバサダー
 22.環境改善による健康格差対策の類型とその実践─医療に求められる“社会的処方”(近藤尚己)
  KeyWord 社会的処方,健康格差,連携,地域包括ケア
 23.健康づくりと医療経済学(橋本英樹)
  KeyWord 医療経済学,将来推計,医療介護費,予防,行動変容介入
【ayumi TOPICS】
 24.持続可能な開発目標(SDGs)─トリプル・ウィンのグローバルヘルスの枠組み(中谷比呂樹)
 25.“健康寿命延伸プラン“と“スマート・ライフ・プロジェクト”(神ノ田昌博)
 26.身体活動の普及戦略─エビデンスが示す壁と成功の鍵(鎌田真光)

 サイドメモ
  がん教育
  健康寿命の延伸等を図るための脳卒中,心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法
  K6
  健康づくりのための睡眠指針2014
  睡眠呼吸障害
  障害調整生命年(DALY)