やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 瀬戸泰之
 東京大学大学院医学系研究科消化管外科学
 かつてわが国では癌といえば,ほとんど胃癌を意味する時代があった.最近では,胃癌の年齢調整死亡率・罹患率は減少していることが示されている.しかし,いまだ悪性腫瘍の死因で第3 位を占める重要な癌腫であることは間違いない.また,胃癌患者の高齢化が大きな問題になっていることも,本特集のなかで指摘されている.
 胃癌発生の大きな原因はピロリ感染と考えてられており,その感染率減少が胃癌発生減少につながっていることは疑う余地はない.しかし,ピロリ感染のない胃癌があることも間違いなく,やはりその解明が急務の課題となっている.
 胃癌治療は,ここ数年で大きく変化している.内視鏡治療は適応が拡大され,おそらく胃癌の初回治療としては,1/4〜1/3 の症例で内視鏡治療が行われていると推測する.手術治療においては,2018 年保険改定で,胃切除,噴門側切除,胃全摘の3 術式でロボット支援が認められ,胃癌領域外科治療でも活用されていくものと思う.一方,開腹手術や腹腔鏡手術の意義が薄れるものではけっしてないことも,本特集をご一読いただければご理解いただけるものと考える.化学療法がもっとも変貌した治療法であり,選択肢が増え,かつ免疫チェックポイント阻害薬も保険適用になった.適応,使用方法に熟知していただくことが肝要であり,ぜひ本特集を活用していただきたい.さらに,本特集では,最新トピックスとして,「Conversion Surgery」「ビッグデータ(NCD)」「ゲノム解析」を取りあげている.いずれも,今後の胃癌治療を大きく変えうるものであり,これもご一読いただきたい.
 本特集は「胃癌のすべて」と題しているように,この一冊で胃癌を深く理解していただくことをめざしている.その内容は,その期待に十二分に応えていただいているものであり,かならずや,読者の方々の日常診療あるいは胃癌研究の一助になることを確信しており,また,そのように活用していただければ望外の喜びである.
 はじめに(瀬戸泰之)
総論
 1.ピロリ菌がん蛋白質CagA―その構造多型と胃発がんリスク(畠山昌則)
  ・ピロリ菌CagAの構造生物学
  ・EPIYA多型とSHP2 結合能
  ・CM多型とPAR1 結合能
  ・CagA-SHP2 相互作用の構造生物学的基盤
 2.胃癌の疫学(若尾文彦)
  ・日本のがんの統計の状況
  ・胃癌の死亡の状況
  ・胃癌の罹患の状況
  ・胃癌のリスク・予防要因
  ・胃癌の生存率データ
  ・胃癌の将来予測
  ・統計データのソースについて
 3.『胃癌取扱い規約第15 版』と『胃癌治療ガイドライン改訂第5 版』の概要(佐野 武)
  ・『胃癌取扱い規約第15 版』のおもな改訂点
  ・『胃癌治療ガイドライン改訂第5 版』のおもな改訂点
  ・クリニカルクエスチョン(CQ)
 4.高齢化社会における胃癌―高齢者胃癌治療の考え方(大嶋陽幸・島田英昭)
  ・80 歳超胃癌患者数と予後
  ・高齢者胃癌治療の課題
  ・治療ガイドラインでの高齢者胃癌化学療法に関するステートメント
  ・加齢と身体能力の相関関係―フレイルの位置づけ
  ・実臨床での80 歳超高齢者胃癌手術とその予後
  ・実臨床での高齢者胃癌術後補助療法の工夫
  ・結語と展望
 5.早期胃癌に対する内視鏡治療(江崎 充・後藤田卓志)
  ・内視鏡治療の発展
  ・内視鏡治療の実際
  ・内視鏡治療の工夫と偶発症への対策
  ・内視鏡治療の適応とその拡大
  ・新ガイドラインによる内視鏡的根治度基準
  ・内視鏡治療の課題と展望
各論
【外科治療】
 6.開腹手術の立場から胃癌手術の現在を考える―問題点と今後の展望(深川剛生)
  ・手術は日々変化する
  ・脾門部のリンパ節郭清
  ・残胃癌の手術
  ・NAC後D3 は必要か?
  ・Bursectomyの使い道
  ・D2+郭清
  ・CY1 の手術方針
 7.胃癌に対する腹腔鏡手術の歩み―腹腔鏡下胃切除のエビデンスと日常臨床における位置づけ(八木秀祐・布部創也)
  ・腹腔鏡下胃切除の歩み
  ・腹腔鏡下胃切除の適応
  ・cStageIの胃上部癌に対するLATGとLAPG
  ・進行胃癌に対する腹腔鏡下胃切除
 8.胃癌に対するロボット支援下胃切除手術の現状と展望(大森隼人・寺島雅典)
  ・da Vinci(R)の歴史
  ・胃癌手術への応用
  ・実際の手術手技
  ・ロボット支援下胃切除(RG)に関する文献的報告
  ・今後の展望
【薬物療法】
 9.胃癌に対する術前・術後補助化学療法(吉川貴己)
  ・補助化学療法の目的
  ・わが国における標準治療
  ・今後の治療開発と術前補助化学療法
  ・JCOGにおける術前化学療法の治療開発
  ・免疫チェックポイント阻害薬の展開
  ・術前化学療法の至適コース数とレジメン
  ・ヨーロッパにおける周術期化学療法
 10.胃癌の一次治療(石井貴大・設楽紘平)
  ・HER2 陰性胃癌
  ・HER2 陽性胃癌
 11.切除不能進行・再発胃癌の二次・三次化学療法の開発(馬場英司・有山 寛)
  ・二次治療に用いられる殺細胞性抗がん薬
  ・二次治療に用いられる分子標的薬―血管新生阻害薬
  ・HER2 陽性胃癌に対する二次治療における抗HER2 療法
  ・三次治療以降
 12.免疫療法(水上拓郎・中島貴子)
  ・胃癌に対する免疫チェックポイント阻害剤の開発
  ・PD-1 およびPD-L1 阻害剤
  ・CTLA-4 阻害剤
  ・治療効果予測因子の探索
 13.胃癌腹膜播種に対するタキサン腹腔内反復化学療法(北山丈二)
  ・基礎的研究に基づいた腹腔内化学療法の論理的根拠
  ・胃癌腹膜播種に対する臨床試験
  ・腹膜播種のバイオマーカー
  ・今後の展望
 14.胃癌の緩和医療(薬物療法を中心に)(林 章敏)
  ・緩和医療とは―WHOによる定義
  ・がん疼痛
  ・ほかの消化器症状への対応
  ・輸液に関するガイドラインから
  ・看護ケア・食事指導
  ・苦悩への対応
【最新トピックス】
 15.Conversion surgeryの考え方―Precision medicineからPrecision surgeryへの幕開け(松橋延壽・吉田和弘)
  ・Conversionを勧める根拠―胃癌の化学療法の進歩と限界
  ・なぜconversionが必要か―その意義と考え方
  ・胃癌stage IVの多様性―あらたな分類と病態
  ・Conversionに対するメリット・デメリット
  ・RCTによるエビデンスの創出―PerSeUS-GC01 とCONVO-GC1
 16.ビッグデータからみた胃癌(國崎主税)
  ・ビッグデータが重要な理由
  ・ビッグデータを扱ううえでの問題点
  ・ビッグデータを扱うプロセス
  ・医療分野におけるビッグデータ分析とは?
  ・医療ビックデータが抱える課題と解決策
  ・病院医療情報システムの構築
  ・新時代に向けた病院医療情報システムとは?
  ・新時代に向けた病院医療情報システムの特徴・利点
  ・医療ビックデータと胃癌治療
 17.ゲノム解析からみえた胃癌(加藤洋人・石川俊平)
  ・がんゲノム解析からみえてきた胃癌の分子病理学的亜型分類
  ・免疫ゲノム解析からみえた胃癌腫瘍免疫の全体像
  ・主要な液性腫瘍免疫抗原としての硫酸化グリコサミノグリカン

 サイドメモ
  胃がん検診
  En-block切除の根拠
  オキサリプラチンの用量
  Bidirectional chemotherapy