はじめに
加藤聖子
九州大学大学院医学研究院生殖病態生理学分野,同病院産科婦人科
婦人科は,子宮頸部・子宮体部・腟・外陰・卵巣・卵管・腹膜に発生した悪性腫瘍を扱う.ほかの癌腫と同様婦人科がん領域の研究・臨床にも大きな変革が起きている.2018年7月に第266巻1号「婦人科がん―研究・臨床の新展開」の企画を担当させていただいたが,婦人科がんをめぐる状況はその後も刻々と変化している.今回,その進展を踏まえた別冊を発刊することになった.
子宮頸癌ではヒトパピローマウイルスの予防ワクチンだけではなく治療ワクチンの開発も進み医師主導治験も開始された.診断では病理診断の組織分類が改訂され,発生機構に基づく分子の免疫染色も積極的に診断に用いられている.遺伝子検査の普及に伴い,従来の病理分類からゲノム変化に基づく分類が治療の指標に変わろうとしている.ゲノム医療中核拠点病院やその連携病院の体制も整備され,「遺伝子パネル検査」の保険収載も近い.
他領域に比べ分子標的薬の導入が遅れていたが,卵巣癌に続き子宮頸癌にもベマシズマブの適応が拡大され,また,乳癌・卵巣癌症候群の原因遺伝子であるBRCAの変異を標的としたPARP阻害剤も卵巣癌に対して認可された.従来の化学療法とこれらの分子標的薬との組み合わせを対象にした多くの臨床試験が行われている.免疫チェックポイント阻害剤の承認も待たれていたが,ペンブロリズマブが2018年12月にDNAマイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する固形がんに適応拡大された.
手術においては低侵襲手術の普及が急速に進み,早期子宮体癌に対する腹腔鏡手術が2014年に,ロボット支援下手術が2018年に,子宮頸癌に対する腹腔鏡下広汎子宮全摘術が2018年にそれぞれ保険収載された.子宮体癌の傍大動脈リンパ節郭清も先進医療で行われている.しかし,海外で行われた臨床研究で子宮頸癌の低侵襲手術の予後が開腹術に比べ悪かったことが報告され,日本におけるデータの集積が課題となっている.
婦人科は骨盤を扱う領域であり下肢リンパ浮腫を防ぐためにセンチネルリンパ節生検の臨床研究も複数の施設で行われている.生殖器を扱う婦人科がん治療は,妊孕性に対する配慮が必要で子宮・卵巣がんに対する妊孕性温存治療が行われている.放射線治療では,重粒子線治療が軟部肉腫の子宮肉腫に保険適用され,現在,他の婦人科腫瘍は先進医療で行われている.
本別冊では,以上の点を各領域のエキスパートの先生方に解説していただいた.婦人科がんの研究・臨床の新展開をご理解いただけると幸いである.
加藤聖子
九州大学大学院医学研究院生殖病態生理学分野,同病院産科婦人科
婦人科は,子宮頸部・子宮体部・腟・外陰・卵巣・卵管・腹膜に発生した悪性腫瘍を扱う.ほかの癌腫と同様婦人科がん領域の研究・臨床にも大きな変革が起きている.2018年7月に第266巻1号「婦人科がん―研究・臨床の新展開」の企画を担当させていただいたが,婦人科がんをめぐる状況はその後も刻々と変化している.今回,その進展を踏まえた別冊を発刊することになった.
子宮頸癌ではヒトパピローマウイルスの予防ワクチンだけではなく治療ワクチンの開発も進み医師主導治験も開始された.診断では病理診断の組織分類が改訂され,発生機構に基づく分子の免疫染色も積極的に診断に用いられている.遺伝子検査の普及に伴い,従来の病理分類からゲノム変化に基づく分類が治療の指標に変わろうとしている.ゲノム医療中核拠点病院やその連携病院の体制も整備され,「遺伝子パネル検査」の保険収載も近い.
他領域に比べ分子標的薬の導入が遅れていたが,卵巣癌に続き子宮頸癌にもベマシズマブの適応が拡大され,また,乳癌・卵巣癌症候群の原因遺伝子であるBRCAの変異を標的としたPARP阻害剤も卵巣癌に対して認可された.従来の化学療法とこれらの分子標的薬との組み合わせを対象にした多くの臨床試験が行われている.免疫チェックポイント阻害剤の承認も待たれていたが,ペンブロリズマブが2018年12月にDNAマイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する固形がんに適応拡大された.
手術においては低侵襲手術の普及が急速に進み,早期子宮体癌に対する腹腔鏡手術が2014年に,ロボット支援下手術が2018年に,子宮頸癌に対する腹腔鏡下広汎子宮全摘術が2018年にそれぞれ保険収載された.子宮体癌の傍大動脈リンパ節郭清も先進医療で行われている.しかし,海外で行われた臨床研究で子宮頸癌の低侵襲手術の予後が開腹術に比べ悪かったことが報告され,日本におけるデータの集積が課題となっている.
婦人科は骨盤を扱う領域であり下肢リンパ浮腫を防ぐためにセンチネルリンパ節生検の臨床研究も複数の施設で行われている.生殖器を扱う婦人科がん治療は,妊孕性に対する配慮が必要で子宮・卵巣がんに対する妊孕性温存治療が行われている.放射線治療では,重粒子線治療が軟部肉腫の子宮肉腫に保険適用され,現在,他の婦人科腫瘍は先進医療で行われている.
本別冊では,以上の点を各領域のエキスパートの先生方に解説していただいた.婦人科がんの研究・臨床の新展開をご理解いただけると幸いである.
はじめに(加藤聖子)
子宮頸癌
1.ヒトパピローマウイルス(HPV)をめぐる研究の現状と課題(川名 敬)
・ハイリスク型ヒトパピローマウイルス(HR-HPV)感染と子宮頸癌―国内の実態
・子宮頸癌予防における現状と課題―HPVの視点から
・HPVとHPV発癌メカニズムに注目した創薬開発
・子宮頸癌の病態―HPV感染から癌が発症するメカニズム
・HPVを標的とした創薬研究
・癌幹細胞を標的にした子宮頸癌に対する創薬開発
2.子宮頸癌:病理診断のあらたな展開(三上芳喜)
・扁平上皮癌とその前駆病変
・腺癌とその前駆病変
3.子宮頸癌:腹腔鏡下広汎子宮全摘術の現状と留意点(小林栄仁・他)
・腹腔鏡下広汎子宮全摘術(LRH)の術式
・LRHの腫瘍学的予後―過去の報告から,周術期成績を含めて
・腹腔鏡下神経温存広汎子宮全摘術(LNSRH)
・腹腔鏡手術特有の問題点
4.子宮頸癌:化学療法の現状と分子標的療法の展開(喜多川 亮)
・進行再発子宮頸癌に対する殺細胞性抗がん薬の臨床試験と標準治療の変遷
・進行再発子宮頸癌に対する分子標的療法やその他の新規薬剤
・今後の展開
5.子宮頸癌:放射線治療の現状と今後の展開(中村和正・小西憲太)
・根治的放射線治療
・傍大動脈リンパ節領域への治療
・重粒子線治療
6.子宮頸癌:センチネルリンパ節検査(矢幡秀昭)
・センチネルリンパ節(SLN)同定法
・SLNにおけるultra staging
・子宮頸癌におけるSLNナビゲーション手術(SNNS)
・SLN検査の今後
子宮体癌
7.子宮体癌:分子生物学的背景―Precision medicineを見すえて(織田克利)
・子宮体癌におけるゲノム不安定性
・子宮体癌におけるゲノム不安定性に基づく4つのサブグループ
・子宮体癌における免疫チェックポイント阻害薬
・子宮体癌における遺伝子変異と治療標的経路
・ゲノム医療の展開
8.子宮内膜癌の病理診断とあらたな展開(大石善丈)
・類内膜癌
・漿液性腺癌
・明細胞腺癌
・粘液性腺癌
・扁平上皮癌
・未分化癌
・子宮内膜癌の網羅的遺伝子解析結果
・病理組織像とmolecular subtypeの相関
・病理診断の今後のあり方
9.子宮体癌:手術療法のあらたな展開(寺井義人)
・子宮体癌に対する腹腔鏡下手術の適応
・傍大動脈リンパ節郭清と進行子宮体癌への対応
・ロボット支援下子宮体癌手術
10.子宮体癌:化学療法・分子標的療法(松本光史)
・子宮体癌に対する化学療法―JGOG2043
・免疫チェックポイント阻害薬
・その他の分子標的治療薬
・併用療法
11.子宮体癌:妊孕性温存治療の現状(牛嶋公生)
・若年子宮体癌の疫学
・子宮体癌妊孕性温存治療の適格基準と方法
・妊孕性温存治療の成績
・妊孕性温存治療後の妊娠と再発率
子宮肉腫・絨毛性疾患・腟癌・外陰癌
12.子宮平滑筋肉腫へのあらたな診断・治療アプローチをめざして(園田顕三・小玉敬亮)
・子宮平滑筋肉腫の病態―分子生物学的背景を含めて
・診断
・治療
・新規薬剤・ホルモン療法・分子標的治療
13.絨毛性疾患:診断・治療Update―取扱い規約(第3版)の要旨と,胞状奇胎の病理診断のポイント(兼城英輔)
・胞状奇胎(Hydatidiform mole)
・侵入奇胎(Invasive mole)
・絨毛癌
・胎盤部トロホブラスト腫瘍(PSTT)
・類上皮トロホブラスト腫瘍(ETT)
・存続絨毛症
・絨毛性疾患の治療・管理
14.外陰癌,腟癌の診断と治療(富田友衣・齋藤俊章)
・外陰癌の診断
・外陰癌の治療
・腟癌の診断
・腟癌の治療
・外陰癌,腟癌とHPV感染の関連
卵巣癌・卵管癌・腹膜癌
15.卵巣癌・卵管癌・腹膜癌:分子生物学的背景と分子標的薬(M西潤三・万代昌紀)
・腫瘍血管新生を標的とした分子標的薬
・DNA修復機構(PARP)を標的とした分子標的薬
・上皮増殖因子受容体(EGFR)阻害薬
・PI3K/AKT/mTOR経路の阻害薬
・MAPKキナーゼ経路阻害薬
・免疫チェックポイントPD-1 経路阻害薬
16.上皮性卵巣悪性腫瘍(卵巣癌)の組織分類をめぐるあらたな展開―“卵巣癌”の多くは卵管由来か(清川貴子・岩本雅美)
・漿液性癌
・粘液性腫瘍と漿液粘液性腫瘍
・進行期分類
17.上皮性卵巣癌・卵管癌・腹膜癌:手術療法のタイミング(恩田貴志)
・進行卵巣癌に対する標準治療とNAC療法
・NAC療法と標準治療の第III相比較試験
・今後の方向性
18.上皮性卵巣癌・卵管癌・腹膜癌:化学療法Update(勝俣範之)
・上皮性卵巣癌の初回化学療法のコンセンサス
・Dose dense TC療法の追試試験(GOG262,ICON8)
・Poly(ADP-ribose)polymerase(PARP)inhibitor(PARP阻害薬)
・免疫チェックポイント阻害薬
・抗PD-1抗体
・今後の展望
19.悪性卵巣胚細胞腫瘍:診断・治療Update(梶山広明)
・手術療法
・化学療法
・再発腫瘍への対応
遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)
20.遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)の診断と治療の今後(関根正幸・榎本隆之)
・BRCA遺伝子診断
・リスク低減手術
・PARP阻害薬
サイドメモ
異形成と子宮頸部上皮内腫瘍(CIN)
GOG240 試験におけるパクリタキセル(PTX)+トポテカン療法
わが国の腔内照射の現状
ゲノム医療で同定される二次的所見
高分化型類内膜癌
子宮内膜全面?爬
Levonorgesterol(LNG)−IUD
生殖補助医療(ART)
がんゲノミクス
インプリンティング遺伝子と胞状奇胎
オラパリブの国内承認の根拠となった2つの臨床試験―SOLO2試験とStudy19
NACにおける化学療法
子宮頸癌
1.ヒトパピローマウイルス(HPV)をめぐる研究の現状と課題(川名 敬)
・ハイリスク型ヒトパピローマウイルス(HR-HPV)感染と子宮頸癌―国内の実態
・子宮頸癌予防における現状と課題―HPVの視点から
・HPVとHPV発癌メカニズムに注目した創薬開発
・子宮頸癌の病態―HPV感染から癌が発症するメカニズム
・HPVを標的とした創薬研究
・癌幹細胞を標的にした子宮頸癌に対する創薬開発
2.子宮頸癌:病理診断のあらたな展開(三上芳喜)
・扁平上皮癌とその前駆病変
・腺癌とその前駆病変
3.子宮頸癌:腹腔鏡下広汎子宮全摘術の現状と留意点(小林栄仁・他)
・腹腔鏡下広汎子宮全摘術(LRH)の術式
・LRHの腫瘍学的予後―過去の報告から,周術期成績を含めて
・腹腔鏡下神経温存広汎子宮全摘術(LNSRH)
・腹腔鏡手術特有の問題点
4.子宮頸癌:化学療法の現状と分子標的療法の展開(喜多川 亮)
・進行再発子宮頸癌に対する殺細胞性抗がん薬の臨床試験と標準治療の変遷
・進行再発子宮頸癌に対する分子標的療法やその他の新規薬剤
・今後の展開
5.子宮頸癌:放射線治療の現状と今後の展開(中村和正・小西憲太)
・根治的放射線治療
・傍大動脈リンパ節領域への治療
・重粒子線治療
6.子宮頸癌:センチネルリンパ節検査(矢幡秀昭)
・センチネルリンパ節(SLN)同定法
・SLNにおけるultra staging
・子宮頸癌におけるSLNナビゲーション手術(SNNS)
・SLN検査の今後
子宮体癌
7.子宮体癌:分子生物学的背景―Precision medicineを見すえて(織田克利)
・子宮体癌におけるゲノム不安定性
・子宮体癌におけるゲノム不安定性に基づく4つのサブグループ
・子宮体癌における免疫チェックポイント阻害薬
・子宮体癌における遺伝子変異と治療標的経路
・ゲノム医療の展開
8.子宮内膜癌の病理診断とあらたな展開(大石善丈)
・類内膜癌
・漿液性腺癌
・明細胞腺癌
・粘液性腺癌
・扁平上皮癌
・未分化癌
・子宮内膜癌の網羅的遺伝子解析結果
・病理組織像とmolecular subtypeの相関
・病理診断の今後のあり方
9.子宮体癌:手術療法のあらたな展開(寺井義人)
・子宮体癌に対する腹腔鏡下手術の適応
・傍大動脈リンパ節郭清と進行子宮体癌への対応
・ロボット支援下子宮体癌手術
10.子宮体癌:化学療法・分子標的療法(松本光史)
・子宮体癌に対する化学療法―JGOG2043
・免疫チェックポイント阻害薬
・その他の分子標的治療薬
・併用療法
11.子宮体癌:妊孕性温存治療の現状(牛嶋公生)
・若年子宮体癌の疫学
・子宮体癌妊孕性温存治療の適格基準と方法
・妊孕性温存治療の成績
・妊孕性温存治療後の妊娠と再発率
子宮肉腫・絨毛性疾患・腟癌・外陰癌
12.子宮平滑筋肉腫へのあらたな診断・治療アプローチをめざして(園田顕三・小玉敬亮)
・子宮平滑筋肉腫の病態―分子生物学的背景を含めて
・診断
・治療
・新規薬剤・ホルモン療法・分子標的治療
13.絨毛性疾患:診断・治療Update―取扱い規約(第3版)の要旨と,胞状奇胎の病理診断のポイント(兼城英輔)
・胞状奇胎(Hydatidiform mole)
・侵入奇胎(Invasive mole)
・絨毛癌
・胎盤部トロホブラスト腫瘍(PSTT)
・類上皮トロホブラスト腫瘍(ETT)
・存続絨毛症
・絨毛性疾患の治療・管理
14.外陰癌,腟癌の診断と治療(富田友衣・齋藤俊章)
・外陰癌の診断
・外陰癌の治療
・腟癌の診断
・腟癌の治療
・外陰癌,腟癌とHPV感染の関連
卵巣癌・卵管癌・腹膜癌
15.卵巣癌・卵管癌・腹膜癌:分子生物学的背景と分子標的薬(M西潤三・万代昌紀)
・腫瘍血管新生を標的とした分子標的薬
・DNA修復機構(PARP)を標的とした分子標的薬
・上皮増殖因子受容体(EGFR)阻害薬
・PI3K/AKT/mTOR経路の阻害薬
・MAPKキナーゼ経路阻害薬
・免疫チェックポイントPD-1 経路阻害薬
16.上皮性卵巣悪性腫瘍(卵巣癌)の組織分類をめぐるあらたな展開―“卵巣癌”の多くは卵管由来か(清川貴子・岩本雅美)
・漿液性癌
・粘液性腫瘍と漿液粘液性腫瘍
・進行期分類
17.上皮性卵巣癌・卵管癌・腹膜癌:手術療法のタイミング(恩田貴志)
・進行卵巣癌に対する標準治療とNAC療法
・NAC療法と標準治療の第III相比較試験
・今後の方向性
18.上皮性卵巣癌・卵管癌・腹膜癌:化学療法Update(勝俣範之)
・上皮性卵巣癌の初回化学療法のコンセンサス
・Dose dense TC療法の追試試験(GOG262,ICON8)
・Poly(ADP-ribose)polymerase(PARP)inhibitor(PARP阻害薬)
・免疫チェックポイント阻害薬
・抗PD-1抗体
・今後の展望
19.悪性卵巣胚細胞腫瘍:診断・治療Update(梶山広明)
・手術療法
・化学療法
・再発腫瘍への対応
遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)
20.遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)の診断と治療の今後(関根正幸・榎本隆之)
・BRCA遺伝子診断
・リスク低減手術
・PARP阻害薬
サイドメモ
異形成と子宮頸部上皮内腫瘍(CIN)
GOG240 試験におけるパクリタキセル(PTX)+トポテカン療法
わが国の腔内照射の現状
ゲノム医療で同定される二次的所見
高分化型類内膜癌
子宮内膜全面?爬
Levonorgesterol(LNG)−IUD
生殖補助医療(ART)
がんゲノミクス
インプリンティング遺伝子と胞状奇胎
オラパリブの国内承認の根拠となった2つの臨床試験―SOLO2試験とStudy19
NACにおける化学療法