やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 檜垣實男
 愛媛大学大学院循環器・呼吸器・腎高血圧内科学
 本年(2017)は日本高血圧学会が創立されて40周年にあたる.学会創立時のわが国の死亡率第一位は脳卒中であり,本症を引き起こす高血圧はがん以上におそれられていた.そして現在でも高血圧はわが国の死亡者数の第2 位を占める“脳卒中を含む循環器病”の最大のリスクである.確かに,この40 年間の医療従事者による継続的な減塩活動と降圧療法の進歩によって脳卒中の発症を激減させるという成果が得られている.しかし,超高齢化社会を反映して高血圧患者数は推計4,300 万人と急激に増加を続けており,高血圧はいまなお国民の健康に対する最大の脅威として君臨している.そして,降圧療法の進歩にもかかわらず,降圧目標値未満に血圧がコントロールされることでその恩恵を受けている患者は全患者数のうちわずか8 分の1 にとどまっているという“高血圧パラドックス”の問題も深刻である.
 日本人の高血圧の特徴は,高齢者の増加,肥満の増加による代謝異常症の合併,世界的にもトップクラスの食塩摂取量である.このような特徴は日本人の高血圧の病態を複雑にし,治療戦略の多様化・個別化が進む一方で,難治性高血圧の原因にもなっている.これに対して高血圧領域の診断治療法の進歩は目をみはるものがある.本特集では,高血圧とその合併疾患に関する画期的診断法の開発,新規降圧薬を含むエビデンスに基づいた最新治療,水銀血圧計から電子血圧計への転換と,情報通信技術や人工知能,internet of things(IoT)などのニューテクノロジーとの関係など,めざましい進歩を遂げつつある臨床高血圧学の諸問題についてそれぞれのトップランナーに最新の情報をまとめていただいた.高血圧との戦いは,単なる一疾患の克服というよりは健康で幸せな暮らしを希求するすべての人びとにとってのチャレンジである.本特集がこの国をより幸福で健康な社会に変えていく一助になれば幸いである.
 はじめに(檜垣實男)
高血圧の現状
 1.循環器病の発症率・死亡率減少に対する高血圧治療の貢献(三浦克之)
  ・循環器疾患の発症率・死亡率の動向
  ・血圧水準,高血圧有病率の動向
  ・高血圧の治療率・管理率の動向
  ・血圧高値による循環器疾患発症・死亡への寄与の大きさ
  ・まとめと今後の高血圧治療の戦略
診断
 2.さまざまな血圧パラメータ(血圧変動も含む)―どの値が臨床的に有用か(藤原健史・苅尾七臣)
  ・白衣高血圧と仮面高血圧 ・血圧変動―SHATSの病態から迫る
  ・早朝高血圧 ・血圧変動の表現型
  ・夜間高血圧
 3.自動血圧計の時代へ―水銀血圧計置き換えとしての自動血圧計とその原理,精度,導入効果(白崎 修)
  ・非観血血圧計の分類 ・自動血圧計の精度と関連法規制
  ・測定原理とその特徴 ・自動血圧計導入の効果
 4.各種血管機能検査を高血圧診療に活かすには(江尻健太郎・伊藤 浩)
  ・動脈の構造と動脈硬化 ・血管機能検査
  ・血管機能と動脈硬化の関係
 5.高血圧診療に有用なバイオマーカー(大蔵隆文)
  ・バイオマーカーとは
  ・高血圧発症に関連するバイオマーカー
  ・高血圧臓器障害としてのバイオマーカー
病態に応じた治療法
 6.高血圧の発症予防:生活習慣の改善はなぜ必要なのか―高血圧・循環器病予防療養指導士の創設と役割(又吉哲太郎・大屋祐輔)
  ・肥満 ・飲酒
  ・身体活動の不足 ・喫煙
  ・ナトリウム(Na)の摂取過剰 ・行動変容
  ・カリウム(K)の摂取不足
 7.肥満を合併する高血圧(市原淳弘)
  ・肥満による高血圧発症のメカニズム ・病態に応じた治療
 8.糖尿病を合併する高血圧(甲斐久史・甲斐麻美子)
  ・降圧目標
  ・第一選択薬と二次選択薬
  ・糖尿病合併高血圧治療にあたって注意すべき病態
  ・今後の課題
 9.慢性腎臓病(CKD)を合併する高血圧―微量アルブミン尿陽性患者から透析患者まで(桑原篤憲・柏原直樹)
  ・高血圧が腎に与える影響 ・Ca拮抗薬
  ・CKD合併高血圧患者の血圧管理 ・利尿薬
  ・糖尿病合併例 ・透析患者の血圧管理
  ・糖尿病非合併
 10.冠動脈疾患を合併する高血圧―冠動脈疾患の一次予防と二次予防(加茂雄大・他)
  ・高血圧患者における冠動脈疾患の一次予防
  ・冠動脈疾患を合併する高血圧患者に対する二次予防
 11.心不全,心房細動を合併する高血圧(藤本直紀・伊藤正明)
  ・心不全や心房細動のリスクとしての高血圧
  ・心不全に対しての高血圧治療
  ・慢性心不全を合併する高血圧の治療法
  ・急性心不全を合併する高血圧の治療法
  ・心房細動を合併する高血圧の治療
 12.脳卒中予防をめざした血圧管理―脳卒中の一次予防と二次予防(棚橋紀夫)
  ・一次予防の立場から ・二次予防の立場から
 13.無症候性高尿酸血症を合併する高血圧―XO阻害薬をどう使い分けるか(浜田紀宏・久留一郎)
  ・痛風のみならず心血管疾患治療・予防ターゲットとしての尿酸とXO阻害薬
  ・アロプリノールによる薬理学的問題点
  ・アロプリノールにおける弱点の多くを解決できる新規XO阻害薬
  ・高尿酸血症の病型分類にかかわらず有効である新規XO阻害薬
  ・腎機能低下と新規XO阻害薬
  ・おわりに:臨床現場において新規XO阻害薬を活用するために解決すべき疑問点とは
 14.高齢者の高血圧―フレイル,認知症を合併する高血圧の管理(山本浩一・樂木宏実)
  ・高度なフレイルや認知症を有しない高齢者への降圧治療の指針
  ・高度なフレイルや認知症を有する高齢者の治療対象や降圧目標
 15.がん患者の降圧療法―血管新生阻害薬と薬剤性高血圧(向井幹夫)
  ・分子標的薬とがん治療 ・血管新生阻害薬と降圧治療
  ・血管新生阻害薬と高血圧 ・実際の降圧療法
エビデンスに基づく降圧療法
 16.血圧はどこまで下げるべきか―SPRINT以後の世界はどのように変わるのか(大石 充)
  ・SPRINTとその解釈
  ・降圧療法アウトカムとしての心不全
  ・Post SPRINT時代の降圧療法はどうなるのか
 17.降圧利尿薬の使い方(徳重明央・植田真一郎)
  ・エビデンスに基づく使い方 ・DIME試験
  ・副作用
 18.β遮断薬の使い方―高血圧専門医の冷淡さに対する心臓専門医の言い分(岡田 基)
  ・高血圧専門医の言い分
  ・エビデンスのあるβ遮断薬は?―心臓専門医の言い分
 19.レニン-アンジオテンシン系阻害薬の使い方(檜垣實男・大蔵隆文)
  ・レニン-アンジオテンシン(RA)系と高血圧
  ・アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE)
  ・アンジオテンシンII受容体阻害薬(ARB)
  ・直接的レニン阻害薬(DRI)
  ・ACE阻害薬およびARBの臓器保護効果
  ・副作用と投与にあたって注意すべき病態
 20.カルシウム拮抗薬の使い方(石光俊彦・他)
  ・高血圧の病態に即した降圧薬の選択
  ・降圧薬としてのCa拮抗薬の特徴
  ・合併症を有する高血圧におけるCa拮抗薬の有用性
 21.多剤服用患者における処方整理・減薬・合剤使用のコツ(勝谷友宏)
  ・高齢者の安全な「薬物療法ガイドライン2015」から考える
  ・生活習慣指導の併用で降圧薬を減らす
  ・基本に戻ってJSH2014から考える降圧薬の減量と併用療法のコツ
  ・配合剤の活用とコンコーダンス医療
  ・血圧変動性と配合剤
高血圧診療のTOPICS
 22.原発性アルドステロン症―変わるコンセプト(高畑 尚・伊藤 裕)
  ・原発性アルドステロン症の沿革
  ・原発性アルドステロン症の各論
 23.災害と高血圧(土橋卓也)
  ・災害と高血圧との関係 ・降圧薬の選択
  ・災害時の血圧管理と循環器疾患予防
 24.非薬物降圧治療の可能性―RDN,デバイス,遠隔モニタリング(八木秀介・佐田政隆)
  ・腎デナベーション(RDN) ・血圧遠隔モニタリング
  ・頸動脈洞動脈圧受容体刺激療法(BAT)
 25.高血圧ワクチンから薬物予防まで(中神啓徳・森下竜一)
  ・レニン-アンジオテンシン系を標的としたワクチンの開発の歴史
  ・臨床試験での成績

 サイドメモ
  血圧算出精度の基準
  SPRINTにおけるAOBP
  PWVとCAVIの違い
  腸内細菌叢と血圧
  圧利尿曲線
  重症低血糖と心血管イベント
  Jカーブ現象
  CKDにおけるJカーブ現象
  Ca拮抗薬の腎作用
  有害事象共通用語基準v4.0日本語訳JCOG版と高血圧
  食塩感受性とは
  ARBとネプリライシン阻害薬(LCZ696)
  アルドステロンブレイクスルー
  家庭血圧測定と血圧手帳の活用