やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 池田修一
 信州大学医学部附属病院難病診療センター
 アミロイドーシスは,アミロイドとよばれる線維性の異常蛋白が特定の臓器または組織の細胞外へ沈着して,それら臓器の機能障害を引き起こす病態の総称である.また病変は,神経系,種々な内臓器官,骨・関節系の障害として出現するため,その臨床像は多様である.従来,アミロイドーシスは治療困難な疾患の代表とみなされてきた.しかし,過去十数年間にその成因解明が著しく進歩して,アミロイドーシスに対する根治療法への道が開けてきた.
 わが国のアミロイドーシス研究は,1960年代末頃にはじまり,その後遺伝性アミロイドーシス,脳アミロイドーシスを中心に多方面から国際的成果が出されている.さらに最近は,神経内科に加えて血液内科,腎臓内科などの多くの臨床医がアミロイドーシスに関心を示してくれるようになり,国内におけるアミロイドーシスの認知度は向上している.そこで著者が中心となり,平成24年(2012)12月に日本アミロイドーシス研究会が設立されて,毎年1回の研究発表会が開催されている.
 アミロイドーシスの病態解明の本質は,可溶性のアミロイド前駆蛋白が,どのような過程を経て不溶性のアミロイド細線維として組織へ沈着するのかを明らかにすることである.また,治療法の原則は,体内におけるアミロイド前駆蛋白の産生阻止である.近年,治療が成功したアミロドーシス患者においては,沈着していたアミロイドが患者体内から退縮する現象が見出されている.診療面での画期的な進歩である.
 本特集では,こうした臨床面での進捗を含めてアミロイドーシス研究の最新情報を掲載すべく,分類,病態生理,診断法,治療法,注目すべき臓器障害などについて概説した.さらに,わが国発の最近のアミロイドーシス研究情報をショート・トピックとして取りあげた.本誌を一読することで,読者の頭のなかから“アミロイドーシスは不治の病”という過去の固定概念が払拭され,同時に臨床医の皆様の日常診療にお役に立つことを心から願っている.
 はじめに(池田修一)
アミロイドーシスの基礎的知識
 1.アミロイドーシスの分類(安東由喜雄)
  ・全身性アミロイドーシス ・動物におけるアミロイドーシス
  ・限局性アミロイドーシス ・アミロイド類似の構造を示す細胞内封入体
 2.アミロイド沈着の病理組織像の多様性(星井嘉信・他)
  ・アミロイドの沈着臓器の多様性
  ・コンゴーレッド染色の多様性および螢光観察
 3.アミロイド線維の形成・沈着と臓器障害の分子機構(大越忠和・内木宏延)
  ・重合核依存性重合モデルによるアミロイド線維形成の分子機構
  ・アミロイド線維形成・沈着過程における分子間相互作用と臓器特異性
  ・アミロイド線維沈着による臓器障害機序
 4.全身性アミロイドーシスの疾患感受性と個体間伝播(樋口京一・澤下仁子)
  ・マウスAApoAIIアミロイドーシスの発症感受性
  ・マウスAApoAIIアミロイドーシスの個体間伝播
  ・AAアミロイドーシスの発症感受性
  ・AAアミロイドーシスの伝播性
アミロイドーシスの診断プロセス
 5.アミロイドーシスを疑う臨床症状と徴候(山下太郎・安東由喜雄)
  ・アミロイドーシスとは
  ・アミロイドーシスの症状と徴候
  ・アミロイドーシスの診断
  ・代表的アミロイドーシス
  ・非集積地の高齢発症ATTR V30M型FAP
  ・野生型トランスサイレチンアミロイドーシス(老人性全身性アミロイドーシス:SSA)
 6.アミロイド蛋白質の免疫組織化学的・蛋白質化学的同定法(植田光晴・安東由喜雄)
  ・免疫組織化学染色
  ・アミロイド線維の抽出およびアミロイド蛋白質の解析
  ・ホルマリン固定パラフィンブロック組織切片からの質量分析法
  ・新規のアミロイド蛋白質の場合
 7.アミロイドーシスを確定診断するためのフローチャート(矢ア正英)
  ・全身性アミロイドーシスを疑う臨床症状
  ・アミロイドーシスの診断に関連する臨床検査
  ・血清前駆蛋白と遺伝子解析
  ・生検部位の選定ならびに免疫組織学的検索法
  ・次世代型アミロイド蛋白の解析法
アミロイドーシスの治療
 8.慢性炎症性疾患と反応性AAアミロイドーシス―基礎疾患と治療法(奥田恭章)
  ・AAアミロイドーシスの発症機序
  ・臓器症状
  ・診断
  ・各原疾患に合併するAAアミロイドーシスに対する治療戦略
 9.全身性免疫グロブリン関連(AL)アミロイドーシスの治療と今後の展望(鈴木憲史・入倉朋也)
  ・ALアミロイドーシスの治療戦略 ・自家移植
  ・ALアミロイドーシスの治療効果判定 ・移植非適応例の治療
 10.見逃されている疾患:AHアミロイドーシス(淵田真一・島崎千尋)
  ・AHアミロイドーシスの報告例と臨床的特徴 ・自験例
  ・診断 ・治療・予後
 11.遺伝性ATTRアミロイドーシスの新規治療指針(関島良樹)
  ・遺伝性ATTRアミロイドーシスの臨床症状
  ・遺伝性ATTRアミロイドーシスの診断
  ・遺伝性ATTRアミロイドーシスに対する疾患修飾療法
  ・遺伝性ATTRアミロイドーシスの新規治療指針
  ・現在臨床試験が進行中の新規治療
 12.ゲルゾリン(フィンランド)型家族性アミロイドポリニューロパチー―臨床像とアミロイド形成機構(砂田芳秀)
  ・臨床症状 ・アミロイド形成の分子機構
  ・ゲルゾリン遺伝子異常
 13.透析関連アミロイドーシスの病態と治療法(川田真宏・乳原善文)
  ・透析関連アミロイドーシス(HDA)の疫学と病態 ・HDAの治療
  ・HDAの診断と実態 ・HDAの対策
 14.老人性全身性アミロイドーシスの臨床像,とくに手根管症候群との関連で―加齢に伴う野生型トランスサイレチン由来のアミロイドーシス(池田修一)
  ・老人性全身性アミロイドーシス(SSA)の疾患頻度と病理組織像
  ・臨床症状
  ・診断
  ・鑑別診断
  ・治療
限局性アミロイドーシス治療
 15.限局性アミロイドーシスとアミロイドーマ(加藤修明)
  ・限局性ALアミロイドーシスの病態 ・病理像
  ・診断 ・臨床像および治療
 16.脳アミロイドアンギオパチーの臨床像と治療法(坂井健二・山田正仁)
  ・孤発性Aβ型CAA ・CAAの治療
  ・CAAに関連した臨床症状と検査所見 ・遺伝性CAA
  ・CAAの診断
 17.脳アミロイドーシスの画像診断(東海林幹夫)
  ・ADNI研究とAlzheimer病(AD)における画像診断の進歩
  ・アミロイドPET
  ・脳アミロイド蓄積と認知機能障害
  ・タウPET
  ・DIAN研究と今後の展開
稀な疾患のアミロイドーシス
 18.アミロイド関連構造物の脳内伝播―神経変性疾患の成因との関連(亀谷富由樹・長谷川成人)
  ・アミロイド線維形成機序 ・αシヌクレインの伝播
  ・Aβの伝播 ・TDP-43およびSODの伝播
  ・タウの伝播
 19.眼アミロイドーシスの病態と治療法(宮原照良)
  ・限局性の眼アミロイドーシス(全身性アミロイドーシスに伴わないもの)の病態と治療
  ・全身性の眼アミロイドーシス(全身性アミロイドーシスに伴うもの)の病態と治療
 20.動物のアミロイドーシス(宇根有美)
  ・全身性アミロイドーシス ・局所性アミロイドーシス
ショート・トピック
 21.あらたに発見されたアミロイド前駆蛋白質(三隅洋平・安東由喜雄)
  ・アポリポ蛋白質(apolipoprotein)C-III(ApoC-III)
  ・Leukocyte cell-derived chemotaxin 2(LECT2)
  ・変異型β2ミクログロブリン
  ・高齢者の腸管,肺血管に生じるあらたなアミロイドーシス
 22.日本人で見出された遺伝性腎アミロイドーシス(吉長恒明・矢ア正英)
  ・ゲルソリン型アミロイドーシス(AGelアミロイドーシス)
  ・フィブリノゲン型アミロイドーシスの症例
  ・わが国における遺伝性アミロイドーシスの臨床的特徴
 23.アミロイド構成蛋白の局所における代謝回転(鈴木彩子・矢ア正英)
  ・家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP) ・肝移植前後のアミロイド動態における沈着アミロイドの構成蛋白 ・まとめ
 24.トランスサイレチン分子構造の安定性と水素結合(水口峰之・横山武司)
  ・His88周辺の水素結合ネットワーク
  ・Fストランドを連結する水素結合ネットワーク
  ・Ser112周辺の水素結合ネットワーク
  ・二量体-二量体界面のCH…O水素結合
 25.ミスフォールド蛋白解析技術の革新―改良型レーザーマイクロダイセクションシステム(ALMD)の開発(紋川 亮・八谷如美)
  ・凝集蛋白質の解析 ・LMD法の問題点
  ・レーザーマイクロダイセクション(LMD)法 ・ALMDの開発と学術上の重要性

 サイドメモ
  Travel of gene
  高齢発症のFAP
  抗λ鎖定常領域抗体anti-λ(118-134)および抗κ鎖定常領域抗体anti-κ(116-133)
  Seeding反応
  Prasの水抽出法
  アミロイドーシスセンター
  ドミノ移植レシピエントへの伝播性(医原性)FAP
  Liquid chromatography tandem mass spectrometry(LC-MS/MS)
  野生型ATTRアミロイドーシス
  老人性全身性アミロイドーシス(SSA)は黒人に多発する?
  限局性腱滑膜アミロイドーシス
  医原性アミロイドーシス
  アルツハイマー病(AD)
  2型糖尿病
  蛋白質の構造
  プリオン病