やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 藤田直也
 (公財)がん研究会がん化学療法センター所長
 がんを取り巻く微小環境が,腫瘍増殖や転移などがんの悪性化に深く関与していることは100年以上前から指摘されてきた.実際,がんの転移先臓器はランダムではなくがん種により転移先臓器がある一定の傾向を示すが,これは転移先臓器のがん微小環境ががんの増殖を制御していることを意味している.近年では,同一腫瘍組織内におけるがん微小環境の多様性が,がんの難治性・治療抵抗性につながるがん細胞自身の多様性創出にも関与していることが報告され,注目を集めている.がんの根治をめざした治療法開発には,がん微小環境を含めた腫瘍組織全体の理解とその理解に基づく革新的な治療法開発が不可欠である.
 本特集では,がん微小環境を構成する細胞・因子,がん微小環境によるがん多様性創出,がん微小環境を標的にした治療法開発の現状,といった各側面から,がんの進展に伴いダイナミックに変化するがん微小環境に関する基礎研究がどこまで進み,それが臨床へどのように応用されているのかを,第一線で研究されている先生方に最新知見を含めて執筆していただいた.本特集を通じ,より多くの読者ががん微小環境の研究に興味をもって取り組み,がん克服への道筋が近い将来明らかになることを期待したい.
 はじめに(藤田直也)
総論
 1.がん微小環境によるがん進展の制御(藤田直也)
  ・がん分子標的治療薬への耐性化
  ・がん微小環境によるがん転移の制御
  ・がん微小環境を標的にしたがん治療の可能性
がん微小環境を構成する細胞と因子
 2.腫瘍血管・腫瘍血管内皮細胞の特徴とその分子機構(間石奈湖・樋田京子)
  ・腫瘍血管新生と血管新生阻害療法
  ・腫瘍血管の特徴
  ・腫瘍血管内皮細胞の特性
  ・腫瘍血管内皮細胞の多様性とがん微小環境
 3.がん微小環境における腫瘍リンパ管の役割(渡部徹郎)
  ・がん転移におけるリンパ管の重要性
  ・腫瘍リンパ管新生をつかさどるシグナル因子
  ・抗リンパ管新生治療の現状
 4.血小板・エクソソーム(竹本 愛)
  ・がんと血小板の関係
  ・血小板によるがん転移促進の機構
  ・血小板機能抑制によるがんへの効果
  ・がん特異的な血小板作用因子
  ・がん-血小板相互作用を標的とした転移抑制法
  ・エクソソーム(exosome)とは
  ・エクソソームに含まれる因子
  ・がんにおけるエクソソームの機能
 5.薬剤感受性にかかわる微小環境を構成するがん関連線維芽細胞(石井源一郎)
  ・がん関連線維芽細胞(CAFs)とがん治療
  ・薬剤感受性に対して抵抗性に働くCAFs
  ・薬剤感受性を増強するCAFs
  ・CAFsを標的とした治療戦略
 6.がんの発生と悪性化を促進するマクロファージ―炎症反応が制御するがん幹細胞特性(越前佳奈恵・大島正伸)
  ・COX-/PGE2 経路の活性化と消化器がん発生
  ・自然免疫活性化による腫瘍微小環境形成と幹細胞性の維持
  ・TNF-αによるNOX1 活性化を介した腫瘍形成促進機構
  ・粘膜下浸潤過程における慢性炎症反応の役割
  ・腫瘍随伴マクロファージ(TAM)の起原と分類
 7.がん幹細胞ニッチ(後藤典子)
  ・正常の組織とがん組織の構築
  ・正常幹細胞ニッチとがん幹細胞のニッチ
  ・がんの不均一性とがん幹細胞ニッチ
  ・がん幹細胞がニッチを利用する分子機構
 8.がんの臓器特異的転移を決定する転移ニッチ(瀧田守親・丸 義朗)
  ・肺転移ニッチ
  ・骨転移ニッチ
がん微小環境によるがん多様性創出
 9.がん多様性に対するがん微小環境―とくに免疫応答に関して(三森功士・他)
  ・さまざまながん腫における一腫瘍内多様性と変異のクローナリティ
  ・微小環境は腫瘍内多様性を生じるために必要
  ・がん細胞における変異の多様性が及ぼすがん微小環境への影響
 10.がん微小環境におけるTGF-βの多彩な作用(橋恵生・他)
  ・TGF-βのがん細胞の増殖に対する作用
  ・TGF-βによるがん細胞のEMTの誘導
  ・がん細胞の転移とEMT
  ・がん幹細胞とEMT
  ・TGF-βによるECMの産生と線維化
  ・TGF-βシグナル伝達に対する阻害剤の開発
 11.一細胞オーミクス解析―がん微小環境の解明に向けて(鹿島幸恵・他)
  ・一細胞解析とは?
  ・一細胞解析の現状
  ・一細胞解析を用いたがん微小環境の解析
  ・一細胞解析における今後の課題
 12.がん微小環境による造腫瘍性促進機構の解明をめざして(川崎善博・秋山 徹)
  ・がん微小環境によるlncRNAを介した制御
  ・R-spondin/LGR5 経路がかかわる制御
がん微小環境を標的にした治療法開発の現状
 13.がん微小環境によるEGFRチロシンキナーゼ阻害薬耐性(矢野聖二)
  ・EGFR-TKI耐性の分子機構
  ・微小環境を標的とした耐性克服治療
  ・今後の課題
 14.ALK融合遺伝子陽性肺がんの多様なTKI耐性化機構(片山量平)
  ・ALKの機能
  ・ALKの遺伝子異常によるがん
  ・ALK融合遺伝子
  ・ALKチロシンキナーゼ阻害薬によるALK融合遺伝子陽性肺がんの治療と耐性
  ・次世代ALK阻害薬
 15.免疫調節受容体を標的としたがん免疫療法―免疫刺激分子および免疫抑制分子に対する抗体療法(竹内美子・西川博嘉)
  ・CD8+T細胞の活性化
  ・免疫刺激分子や免疫抑制分子による免疫応答の調節
  ・がん細胞に対する免疫応答
  ・免疫刺激・抑制分子に対する抗体療法
 16.MMPを標的にしたがん微小環境の制御(坂本毅治)
  ・マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)とは?
  ・MMP阻害剤の開発
  ・MMPのプロテアーゼ活性以外の機能を標的にしたがん治療の可能性―MT1-MMPを中心に
 17.骨微小環境を利用したがん骨転移の制御(米田俊之)
  ・がんの骨転移とその過程
  ・骨転移における破骨細胞の貢献
  ・骨転移の成立・進展に影響を及ぼす骨内の細胞・組織
  ・骨転移ニッチ
  ・骨転移の成立・進展に対する感覚神経線維の貢献
  ・骨微小環境修飾薬剤(BMA)による骨転移治療
 18.がん微小環境を標的とした栄養飢餓耐性制御薬の開発(江角浩安・他)
  ・栄養飢餓耐性解除を指標にスクリーニングすると抗腫瘍活性をもった化合物がとれる
  ・アルクチゲニンの臨床開発
  ・アルクチゲニンの投与により腫瘍組織の代謝は好気的に変化
  ・アルクチゲニンと抗がん剤の併用により顕著な増強効果
  ・アルクチゲニン投与により腫瘍微小環境が変化する
  ・がん微小環境の正常化

 サイドメモ
  エクソソーム(exosome)の定義
  がん幹細胞
  生体内における上皮間葉移行(EMT)のさまざまな役割
  TGF-βシグナル
  血中循環腫瘍細胞(CTC)
  上皮間葉転換(EMT)
  ALK変異陽性肺がんの治療
  骨リモデリング
  骨髄ニッチ