やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 青沼和隆
 筑波大学医学医療系循環器内科学
 高周波カテーテルアブレーションが開始されてから早35年の月日が経過し,現在多くの不整脈は根治可能となるに至った.21世紀に入ってすでに15年が過ぎ,発作性上室性頻拍,心房粗動・心房頻拍,心室性期外収縮などはその機序や好発部位などがほぼ同定され,多くの症例で根治が得られるようになった.発作性心房細動でさえも,徐々にその発生機序が明確になるにつけ,根治が得られる時代へと突入している.
 2016年現在,頻脈性不整脈のなかで不整脈専門医が真に難治性であると考えるものは,とくに基礎心疾患合併心停止発作,持続性心房細動であろう.今世紀においてもいまだ治療困難であると考えられるこの2つの不整脈の最新の考え方を解説いただくことを目的に,“不整脈を科学する”と題して特集号を企画した.基礎心疾患合併心停止発作,持続性心房細動に加えて,近年あらたな知見が得られているイオンチャネル病における突然死についても,最新知識を中心に専門家に執筆いただいた.さらには心房細動のあらたなとらえ方としてメタボリック症候群,あるいは遺伝子異常を背景とした心房細動のとらえ方,あらたなバルーンカテーテルを用いたアブレーション法を紹介いただいた.
 執筆は各分野のトップリーダーにお願いし,一般医家にとっても理解できるように,わかりやすく解説いただいた.多くの読者の方々にとって本特集が,現代における難治性不整脈に対するあらたな考え方と治療に対する考え方を理解するうえで絶好の手引きとなり,明日からの診療と今後の難治性不整脈研究に寄与することを願っている.
 はじめに(青沼和隆)
突然死を識る・治す
【イオンチャネル病における突然死】
 1.先天性QT延長症候群―年齢層別にみた臨床像の特徴,リスク因子と突然死の予防(堀米仁志)
  ・先天性QT延長症候群(LQTS)の診断 ・年齢層別にみたLQTSの臨床像と管理
  ・代表的なタイプの病態と臨床的表現型 ・生活管理と治療
  ・LQTSの心電図診断
 2.QT短縮症候群(堀江 稔)
  ・QT短縮症候群(SQTS)の定義 ・心電図学的特徴
  ・臨床像 ・心臓電気生理学的検査
  ・遺伝的背景 ・治療,予後
 3.カテコラミン誘発多形性心室頻拍(CPVT)(住友直方)
  ・CPVTのサブタイプと発症機序 ・心電図の特徴
  ・診断基準 ・治療法
 4.Brugada症候群の診断と治療―大規模研究からみた最新の知見(木雅彦)
  ・Brugada症候群の定義・分類 ・診断と検査
  ・病態・病因 ・治療
 5.J波症候群(森田 宏)
  ・定義および診断 ・臨床像Brugada症候群との類似性と差異
  ・J波症候群の分類・頻度 ・リスク評価
  ・遺伝子変異および心電図波形の成因 ・治療
 6.Purkinje起源心室細動(野上昭彦)
  ・心室細動(VF)の機序とPurkinje組織の関与
  ・Purkinje組織が関与するVF
  ・Short-coupled variant of torsade de pointes(SCTdP)
  ・早期再分極症候群(ERS)
  ・カテコールアミン誘発性多形性心室頻拍(CPVT)
  ・ラミン心筋症(LMNA)
  ・左室緻密化障害(LVNC)
【器質的心疾患合併心停止発作】
 7.完全血行再建とelectrical storm―慢性完全閉塞病変への血行再建のpitfall(黒木健志・青沼和隆)
  ・症例 ・血行再建後の心室性不整脈の予測因子
  ・本症例のVF発症の機序に関する考察
 8.心臓サルコイドーシス合併心停止発作(草野研吾)
  ・心臓サルコイドーシスの病態 ・心室性不整脈
  ・房室ブロック(AV block)
 9.不整脈原性右室心筋症に伴う心停止発作(池主雅臣)
  ・ARVCの病態と臨床像 ・遺伝的背景
  ・臨床症状 ・診断基準
  ・有用な検査 ・治療の実際
 10.突然死のリスク同定検査を識る(池田隆徳)
  ・左室駆出率 ・心拍変動指標
  ・電気生理学的検査 ・心拍タービュランス(HRT)
  ・心室レイトポテンシャル ・QT計測指標とQT/RR関係指標
  ・T波オルタナンス
 11.院外突然死蘇生を識る―抗不整脈薬が予後に及ぼす影響(網野真理)
  ・アミオダロンの効果検証 ・アミオダロン初回投与量は何mgが適当か
  ・ニフェカラント vs. リドカイン ・SOS-KANTO 2012 study
  ・ニフェカラント vs. アミオダロン
心房細動を識る・治す
 12.メタボリック症候群・炎症・酸化ストレスと心房細動(橋尚彦)
  ・炎症,血中CRPと心房細動
  ・メタボリック症候群(MS)・肥満と心房細動の疫学
  ・MS・肥満と心房細動―レプチンの関与
  ・酸化ストレスと心房細動―慢性腎臓病モデルでの検討
  ・脾と心房細動―インターロイキン10 の関与
  ・血糖変動と心房細動
  ・今後の展望
 13.心房細動に対するあらたなアップストリーム治療(村越伸行)
  ・アップストリーム治療の現状
 14.心房細動の遺伝的リスク(古川哲史)
  ・心房細動の遺伝性 ・心房細動のGWAS
  ・全ゲノム関連解析(GWAS) ・心房細動の個別化医療の可能性は?
 15.心房細動における脳梗塞のリスク評価とNOAC療法の実際(矢坂正弘)
  ・NVAFにおける脳梗塞発症のリスク評価方法
  ・抗凝固療法中の大出血発症のリスク評価方法
  ・抗凝固療法の実際
 16.発作性心房細動アブレーション―バルーンカテーテルによる新時代アブレーション(熊谷浩一郎)
  ・バルーンカテーテルの特徴 ・クライオバルーンアブレーションの成績
  ・バルーンアブレーションの適応 ・バルーンアブレーションの今後の展望
  ・バルーンアブレーションの実際の手技
【長期持続性心房細動の治療戦略】
 17.心房細動アブレーションにおける肺静脈隔離術の意義(宮ア晋介)
  ・心房細動アブレーションにおける肺静脈隔離術の歴史
  ・発作性心房細動アブレーションにおける肺静脈隔離術
  ・持続性心房細動における肺静脈隔離術
 18.線状アブレーション(松尾征一郎)
  ・線状アブレーション法の背景
  ・線状焼灼部位における完全伝導ブロックの必要性
  ・持続性心房細動に対する肺静脈隔離術のみでの治療
 19.DFアブレーション―周波数解析による心房細動基質の同定とアブレーション治療への応用(熊谷浩司)
  ・心房細動アブレーションの現況 ・DFアブレーションの急性期効果と長期成績
  ・心房細動の周波数解析 ・現在のDFアブレーション
  ・DFアブレーション ・心外膜脂肪組織とDF
  ・肺静脈隔離前後の心房細動基質の比較
 20.長期持続性心房細動に対するGPPVI based approach(山城 荒平)
  ・長期持続性心房細動の心房細動基質
  ・心臓自律神経とは
  ・自律神経が興奮すると心房細動になるメカニズム
  ・GPの同定法
  ・GPアブレーション+肺静脈前庭部隔離術
  ・右心房のGP
  ・自律神経節アブレーション後の反応
  ・HFS guide GPアブレーションのメリットとデメリット
 21.ローターアブレーション―持続性心房細動に対する新しい治療戦略(福井 暁・土谷 健)
  ・ローターとは?
  ・心房リモデリング部位とローター
  ・実験的ローターと位相マップ
  ・FIRM(Focal impulse and rotor mapping)
  ・CardioInsightTM
  ・E×TRa Mapping
  ・ローターマップおよびローターアブレーションの問題点

 サイドメモ
  メキシレチン負荷テスト
  「ESC guideline 2015」での植込み型除細動器(ICD)の適応
  Brugada症候群における心室細動(VF)基質に対する心外膜アブレーション
  Pace mappingとactivation mapping
  三次元マッピングシステム
  心臓サルコイドーシス
  植込み型除細動器(ICD)の保険適用
  全心電学的指標の解析
  リドカイン,ニフェカラント,アミオダロンの薬理作用
  アミオダロンの副作用
  レプチン
  インドキシル硫酸
  個別化医療の象徴的な例
  NOACという呼称
  抗凝固薬の中和薬
  ホットバルーンとクライオバルーン
  可変式シースの有用性
  ローター(rotor)とdriver