はじめに
近藤 格
国立がん研究センター研究所希少がん研究分野
本特集の目的は,わが国における臨床プロテオミクスの現状を俯瞰し,本研究分野の可能性と限界を医学研究に携わる方々に理解していただくことである.そのために,疾患研究の専門家のみならず,機器分析,タンパク質生化学,細胞生物学などさまざまな立場から臨床プロテオミクスに携わる研究者にご執筆をお願いした.
“臨床プロテオミクス”とは,臨床に役立つ成果を最終的にめざして行うプロテオミクスだと考えている.臨床検体を用いて行うプロテオミクスが,すなわち臨床プロテオミクスというわけではない.研究のゴールをどこに設定しているか,が本質である.したがって,臨床検体を用いていなくても長期的なゴールを臨床応用にみすえているプロテオミクスも広義には臨床プロテオミクスに含めることができると考えている.
臨床プロテオミクスは今世紀に入り大きく発展した.プロテオームを解明することで疾患の本態が解明され,臨床に役立つ成果が得られるであろうという期待を背景としてプロテオーム研究に膨大な研究費が投下され,技術開発が劇的に進んだ.創薬標的探索,バイオマーカー開発といった,疾患研究のキーワードを目にしないプロテオミクスの学会はなかったといっても過言ではないであろう.たくさんの臨床検体を対象に,できるだけたくさんのタンパク質を定量的に網羅的に再現性よく測定する,という難題に挑むために開発された技術は枚挙にいとまがない.“臨床”という言葉が冠されなければ,プロテオミクスのいまはなかったのではないであろうか.
一方,臨床に役立つ成果が期待されつつ発展してきた臨床プロテオミクスは,その成果が問われる厳しい時期にきている.たとえば,プロテオミクスの技術を用いたバイオマーカー開発は盛んに行われ数多くの論文が出たが,FDAで承認されたものはわずか1件しかない.同様に,プロテオミクスから候補として同定された創薬シーズは実にたくさんあるが,実際に臨床試験に至ったものは数えるほどしかない.したがって,いままでと同じような視点で臨床プロテオミクスを継続することに将来性があるのかどうか,真摯に考えないといけないであろう.
わが国で行われる臨床プロテオミクスが,臨床に役立つ成果を得るという最終ゴールへの過程においてどのあたりに位置するのかを,本特集を読むことでイメージしていただければ幸いである.
近藤 格
国立がん研究センター研究所希少がん研究分野
本特集の目的は,わが国における臨床プロテオミクスの現状を俯瞰し,本研究分野の可能性と限界を医学研究に携わる方々に理解していただくことである.そのために,疾患研究の専門家のみならず,機器分析,タンパク質生化学,細胞生物学などさまざまな立場から臨床プロテオミクスに携わる研究者にご執筆をお願いした.
“臨床プロテオミクス”とは,臨床に役立つ成果を最終的にめざして行うプロテオミクスだと考えている.臨床検体を用いて行うプロテオミクスが,すなわち臨床プロテオミクスというわけではない.研究のゴールをどこに設定しているか,が本質である.したがって,臨床検体を用いていなくても長期的なゴールを臨床応用にみすえているプロテオミクスも広義には臨床プロテオミクスに含めることができると考えている.
臨床プロテオミクスは今世紀に入り大きく発展した.プロテオームを解明することで疾患の本態が解明され,臨床に役立つ成果が得られるであろうという期待を背景としてプロテオーム研究に膨大な研究費が投下され,技術開発が劇的に進んだ.創薬標的探索,バイオマーカー開発といった,疾患研究のキーワードを目にしないプロテオミクスの学会はなかったといっても過言ではないであろう.たくさんの臨床検体を対象に,できるだけたくさんのタンパク質を定量的に網羅的に再現性よく測定する,という難題に挑むために開発された技術は枚挙にいとまがない.“臨床”という言葉が冠されなければ,プロテオミクスのいまはなかったのではないであろうか.
一方,臨床に役立つ成果が期待されつつ発展してきた臨床プロテオミクスは,その成果が問われる厳しい時期にきている.たとえば,プロテオミクスの技術を用いたバイオマーカー開発は盛んに行われ数多くの論文が出たが,FDAで承認されたものはわずか1件しかない.同様に,プロテオミクスから候補として同定された創薬シーズは実にたくさんあるが,実際に臨床試験に至ったものは数えるほどしかない.したがって,いままでと同じような視点で臨床プロテオミクスを継続することに将来性があるのかどうか,真摯に考えないといけないであろう.
わが国で行われる臨床プロテオミクスが,臨床に役立つ成果を得るという最終ゴールへの過程においてどのあたりに位置するのかを,本特集を読むことでイメージしていただければ幸いである.
はじめに(近藤 格)
プロテオーム解析による疾患研究
1.次世代DIAショットガン解析およびプロテオジェノミックス―肺癌サブタイプの臨床プロテオーム解析を出発点として
(西村俊秀)
・肺癌サブタイプに関する診断バイオマーカー(Dx)探索
・MS-Based次世代臨床プロテオミクス
2.プロテオーム解析を利用した臨床細菌検査
(野村文夫)
・質量分析技術の臨床応用の概観
・MALDI-TOF MSによる細菌の迅速同定
3.プロテオミクス,グライコミクス,そしてグライコプロテオミクスの時代へ
(成松 久)
・糖タンパク質の基本的概念
・プロテオミクス,グライコミクスからグライコプロテオミクスへの進展
・糖鎖バイオマーカー開発のための残された大きな課題
・糖鎖科学データベースの開発
4.腎疾患のプロテオーム解析
(山本 格)
・腎臓病とその治療
・腎のプロテオミクス研究
・糸球体障害の研究
・尿プロテオミクス
・求められる腎臓病の新しい尿中バイオマーカー
・腎障害の尿中バイオマーカー探索の新戦略
5.プロテオーム解析を基盤とした融合的オミクス解析による脳神経系腫瘍の解析
(小林大樹・荒木令江)
・融合プロテオミクス
・融合プロテオミクスによる神経線維腫症1型(NF1)病態モデル細胞における神経分化異常に関わるシグナル分子群の抽出例
・NF1病態モデル細胞内における腫瘍形成にかかわるシグナル分子群の抽出
・結論
6.肉腫のプロテオーム解析
(近藤 格・川井 章)
・肉腫におけるプロテオーム解析
・肉腫のプロテオーム解析の展望
7.疾患抗体マーカーの開発
(日和佐隆樹)
・癌抗原のスクリーニング方法1:SEREX/発現クローニング
・血清抗体のスクリーニング方法2:プロテインアレイ
・血清抗体の二次スクリーニング1:ELISA
・食道癌抗原の同定
・血清抗体の二次スクリーニング2:AlphaLISA
・健常人血清のなかにも存在する自己抗体
・動脈硬化抗体マーカーの同定
・抗体マーカーの特性
8.リウマチ性疾患のプロテオーム解析
(黒川真奈絵・浅野孝太)
・関節リウマチ
・全身性エリテマトーデス・混合性結合組織病
・Behcet病
・顕微鏡的多発血管炎
疾患研究に応用されるプロテオーム解析
9.疾患研究における翻訳後修飾のプロテオーム解析
(木村鮎子・平野 久)
・翻訳後修飾プロテオーム解析技術の概要
・リン酸化プロテオーム解析
・質量分析装置を用いたMRM法によるリン酸化タンパク質の検証
・リン酸化プロテオーム解析技術の応用例
・翻訳後修飾タンパク質解析技術の開発
10.定量的プロテオミクス技術の疾病診断への応用
(朝長 毅・他)
・大腸癌のバイオマーカー探索と検証
・Alzheimer病血中サロゲートマーカーAPL1βの定量系の確立
・おわりに:質量分析計の臨床検査への応用
11.エクソソームのプロテオーム解析によるバイオマーカー開発
(植田幸嗣)
・エクソソームの特性
・エクソソームとがん
・探索的プロテオーム解析のためのエクソソーム精製法
・イムノアッセイによるエクソソームバイオマーカーの検証法
・体外診断用医療機器への応用をめざした最先端テクノロジー開発
12.臨床材料を用いたアレイ基盤プロテオミクスを用いた創薬標的・バイオマーカーの開発
(小林 信・他)
・プロテインマイクロアレイ法
・血液バイオマーカー迅速検証プラットフォームホームとして血漿マイクロアレイの意義
・バイオマーカー臨床性能検証に向けた臨床検体バイオバンクの構築
13.プロテオーム解析システム2DICALを用いたバイオマーカー開発
(尾野雅哉)
・ショットガンプロテオミクス解析手法としての2DICAL
・血漿バイオマーカー
・組織を用いたバイオマーカーの探索
・2DICALの応用
14.血清バイオマーカー開発のためのサンプル調製
(小寺義男)
・血清タンパク質を対象とした前処理法
・組織,細胞から漏出したバイオマーカーを探索するために
15.アガロース二次元電気泳動法の疾患プロテオミクスへの応用
(大石正道)
・アガロース2-DEを用いた疾患診断用マーカーの探索
・アガロース2-DEを用いた酸化傷害タンパク質の検出
・糖尿病モデルラットにおけるアガロース2-DEを用いた糖化タンパク質の解析
16.逆相タンパクアレイ技術のがん研究への応用
(西塚 哲)
・逆相タンパクアレイ技術の開発
・探索的バイオマーカーの同定
・定量生物学への情報供給
・抗がん剤耐性細胞亜集団の解析
・今後の展望
17.PROTOMAP法を用いたプロテオーム解析
(中山 洋・他)
・PROTOMAP法による肝がん組織のプロテオーム解析
・早期再発症例特異的なSTAT1分解物
18.質量顕微鏡を用いた腫瘍組織内の薬物分布情報のイメージング
(新間秀一)
・イメージング質量分析(IMS)概説
・質量顕微鏡
・IMSのワークフローと前処理標準手法の構築
・腫瘍モデル組織における分子標的薬のIMS
・将来展望:タンパク質(抗体医薬品)のイメージングに向けて
・まとめ
19.ペプチドミクス―内因性分泌ペプチドの一斉解析から新規生理活性ペプチドの発見へ
(佐々木一樹)
・生理活性ペプチドの医学への応用
・プロテオーム解析の立場から生理活性ペプチドをながめると
・実際にどのような試料を用い,どのような結果が得られるか
・どのような配列が生理活性ペプチドか
20.抗体プロテオミクス技術を用いた疾患バイオマーカーの開発
(鎌田春彦・他)
・抗体プロテオミクス
・バイオマーカー探索における現状と課題
・ファージ抗体ライブラリを用いた網羅的な抗体作製
・著者ら独自の抗体プロテオミクス技術の実際
21.網羅定量プロテオーム解析(FD-LC-MS/MS法)によるバイオマーカー探索
(今井一洋・一番ヶ瀬智子)
・FD-LC-MS/MS法の概要
・ヒト大腸がん細胞株の細胞内プロテオーム解析
・ヒト乳がん細胞株の細胞内プロテオーム解析
・初代ヒト肝細胞外のプロテオーム解析
サイドメモ
FFPE組織を用いるMS-basedショットガン・プロテオーム解析
ヒト腎・尿プロテオームプロジェクト
尿バンク
iTRAQ
融合プロテオミクス解析のために作成した統合プログラムiPEACH/MANGOによって自動的に解析ファイルを統合する一連の方法
融合プロテオミクスの検証ツールとしての全自動二次元電気泳動Western blotting装置
二次元電気泳動法とショットガン法
SRM/MRM法
iTRAQ法
ショットガンプロテオミクス
タンデムマス
マトリックス
質量顕微鏡
ヒトプロテオームプロジェクト(HPP)
特徴的タンパク質
培養液タンパク質 補遺
プロテオーム解析による疾患研究
1.次世代DIAショットガン解析およびプロテオジェノミックス―肺癌サブタイプの臨床プロテオーム解析を出発点として
(西村俊秀)
・肺癌サブタイプに関する診断バイオマーカー(Dx)探索
・MS-Based次世代臨床プロテオミクス
2.プロテオーム解析を利用した臨床細菌検査
(野村文夫)
・質量分析技術の臨床応用の概観
・MALDI-TOF MSによる細菌の迅速同定
3.プロテオミクス,グライコミクス,そしてグライコプロテオミクスの時代へ
(成松 久)
・糖タンパク質の基本的概念
・プロテオミクス,グライコミクスからグライコプロテオミクスへの進展
・糖鎖バイオマーカー開発のための残された大きな課題
・糖鎖科学データベースの開発
4.腎疾患のプロテオーム解析
(山本 格)
・腎臓病とその治療
・腎のプロテオミクス研究
・糸球体障害の研究
・尿プロテオミクス
・求められる腎臓病の新しい尿中バイオマーカー
・腎障害の尿中バイオマーカー探索の新戦略
5.プロテオーム解析を基盤とした融合的オミクス解析による脳神経系腫瘍の解析
(小林大樹・荒木令江)
・融合プロテオミクス
・融合プロテオミクスによる神経線維腫症1型(NF1)病態モデル細胞における神経分化異常に関わるシグナル分子群の抽出例
・NF1病態モデル細胞内における腫瘍形成にかかわるシグナル分子群の抽出
・結論
6.肉腫のプロテオーム解析
(近藤 格・川井 章)
・肉腫におけるプロテオーム解析
・肉腫のプロテオーム解析の展望
7.疾患抗体マーカーの開発
(日和佐隆樹)
・癌抗原のスクリーニング方法1:SEREX/発現クローニング
・血清抗体のスクリーニング方法2:プロテインアレイ
・血清抗体の二次スクリーニング1:ELISA
・食道癌抗原の同定
・血清抗体の二次スクリーニング2:AlphaLISA
・健常人血清のなかにも存在する自己抗体
・動脈硬化抗体マーカーの同定
・抗体マーカーの特性
8.リウマチ性疾患のプロテオーム解析
(黒川真奈絵・浅野孝太)
・関節リウマチ
・全身性エリテマトーデス・混合性結合組織病
・Behcet病
・顕微鏡的多発血管炎
疾患研究に応用されるプロテオーム解析
9.疾患研究における翻訳後修飾のプロテオーム解析
(木村鮎子・平野 久)
・翻訳後修飾プロテオーム解析技術の概要
・リン酸化プロテオーム解析
・質量分析装置を用いたMRM法によるリン酸化タンパク質の検証
・リン酸化プロテオーム解析技術の応用例
・翻訳後修飾タンパク質解析技術の開発
10.定量的プロテオミクス技術の疾病診断への応用
(朝長 毅・他)
・大腸癌のバイオマーカー探索と検証
・Alzheimer病血中サロゲートマーカーAPL1βの定量系の確立
・おわりに:質量分析計の臨床検査への応用
11.エクソソームのプロテオーム解析によるバイオマーカー開発
(植田幸嗣)
・エクソソームの特性
・エクソソームとがん
・探索的プロテオーム解析のためのエクソソーム精製法
・イムノアッセイによるエクソソームバイオマーカーの検証法
・体外診断用医療機器への応用をめざした最先端テクノロジー開発
12.臨床材料を用いたアレイ基盤プロテオミクスを用いた創薬標的・バイオマーカーの開発
(小林 信・他)
・プロテインマイクロアレイ法
・血液バイオマーカー迅速検証プラットフォームホームとして血漿マイクロアレイの意義
・バイオマーカー臨床性能検証に向けた臨床検体バイオバンクの構築
13.プロテオーム解析システム2DICALを用いたバイオマーカー開発
(尾野雅哉)
・ショットガンプロテオミクス解析手法としての2DICAL
・血漿バイオマーカー
・組織を用いたバイオマーカーの探索
・2DICALの応用
14.血清バイオマーカー開発のためのサンプル調製
(小寺義男)
・血清タンパク質を対象とした前処理法
・組織,細胞から漏出したバイオマーカーを探索するために
15.アガロース二次元電気泳動法の疾患プロテオミクスへの応用
(大石正道)
・アガロース2-DEを用いた疾患診断用マーカーの探索
・アガロース2-DEを用いた酸化傷害タンパク質の検出
・糖尿病モデルラットにおけるアガロース2-DEを用いた糖化タンパク質の解析
16.逆相タンパクアレイ技術のがん研究への応用
(西塚 哲)
・逆相タンパクアレイ技術の開発
・探索的バイオマーカーの同定
・定量生物学への情報供給
・抗がん剤耐性細胞亜集団の解析
・今後の展望
17.PROTOMAP法を用いたプロテオーム解析
(中山 洋・他)
・PROTOMAP法による肝がん組織のプロテオーム解析
・早期再発症例特異的なSTAT1分解物
18.質量顕微鏡を用いた腫瘍組織内の薬物分布情報のイメージング
(新間秀一)
・イメージング質量分析(IMS)概説
・質量顕微鏡
・IMSのワークフローと前処理標準手法の構築
・腫瘍モデル組織における分子標的薬のIMS
・将来展望:タンパク質(抗体医薬品)のイメージングに向けて
・まとめ
19.ペプチドミクス―内因性分泌ペプチドの一斉解析から新規生理活性ペプチドの発見へ
(佐々木一樹)
・生理活性ペプチドの医学への応用
・プロテオーム解析の立場から生理活性ペプチドをながめると
・実際にどのような試料を用い,どのような結果が得られるか
・どのような配列が生理活性ペプチドか
20.抗体プロテオミクス技術を用いた疾患バイオマーカーの開発
(鎌田春彦・他)
・抗体プロテオミクス
・バイオマーカー探索における現状と課題
・ファージ抗体ライブラリを用いた網羅的な抗体作製
・著者ら独自の抗体プロテオミクス技術の実際
21.網羅定量プロテオーム解析(FD-LC-MS/MS法)によるバイオマーカー探索
(今井一洋・一番ヶ瀬智子)
・FD-LC-MS/MS法の概要
・ヒト大腸がん細胞株の細胞内プロテオーム解析
・ヒト乳がん細胞株の細胞内プロテオーム解析
・初代ヒト肝細胞外のプロテオーム解析
サイドメモ
FFPE組織を用いるMS-basedショットガン・プロテオーム解析
ヒト腎・尿プロテオームプロジェクト
尿バンク
iTRAQ
融合プロテオミクス解析のために作成した統合プログラムiPEACH/MANGOによって自動的に解析ファイルを統合する一連の方法
融合プロテオミクスの検証ツールとしての全自動二次元電気泳動Western blotting装置
二次元電気泳動法とショットガン法
SRM/MRM法
iTRAQ法
ショットガンプロテオミクス
タンデムマス
マトリックス
質量顕微鏡
ヒトプロテオームプロジェクト(HPP)
特徴的タンパク質
培養液タンパク質 補遺