やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 小野裕之
 静岡県立静岡がんセンター内視鏡科
 かつて消化管の早期がんの治療は,開胸・開腹外科手術の独擅場であった.やがて1980年代にEMR,ERHSEといった内視鏡粘膜切除術が開発され,早期がんのごく一部ではあったが,われわれ消化器内科医,内視鏡医は治療にもかかわることができる喜びを知りはじめた.
 胃切除を行う外科手術に比べ,局所治療である内視鏡切除は後遺症がほとんどない,患者にとって明らかにQOLを高く保てる治療であり,内視鏡治療に携わる医師は内視鏡治療の適応を拡大したいと願っていた.しかし,一方で技術的な壁に突きあたっており,小さな病変の切除にとどまっていた.
 Break throughしたのは1990年代後半であった.国立がんセンター中央病院(当時)内視鏡グループはITナイフを開発し,粘膜下層を剥離して切除するESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)を報告した.その後,全国の有志により多くの高周波ナイフが開発され,ESDは発展してきた.ESDでは,従来の粘膜切除術では不可能であった大きな病変や瘢痕のある病変も切除可能となり,技術的な壁は突き崩され,その適応は大きく広がった.
 適応が広がるとともに,狭窄・出血・穿孔などの偶発症の頻度も増えたが,その対処法についても大きく進歩している.
 現在ではESDの手技を応用・派生した治療が数多く開発されている.腹腔鏡手術とコラボレーションしてGISTを切除するLECSや,ESD+外科的センチネルリンパ節切除,ロボット支援手術など,新しい治療の開発が進んでいる.外科と内科の垣根が低くなり,根治性を担保しつつ,より低侵襲な治療をめざして消化器診療に携わる外科医・内科医が一体となって日常診療および研究開発を行い,日々進歩を続ける大きな潮流のなかにいる.
 本特集で,「ここまでできるようになった」「こんなことが将来できるようになる」という執筆陣の熱い想いを汲み取っていただければ幸いである.
 はじめに(小野裕之)
内視鏡治療の新しい風
 1.内視鏡治療における鎮静の最前線(河野 真・後藤田卓志)
  ・鎮静(sedation)の定義
  ・鎮静時の偶発症
  ・鎮静時の留意点
  ・わが国におけるガイドラインと現状
  ・鎮静薬の選択と世界的な動向
  ・鎮静・鎮痛薬剤各論
 2.粘膜下層剥離法の最前線(樺 俊介・他)
  ・内視鏡から独立したcounter traction
  ・重力・体位変換の活用
  ・CO2送気装置
  ・粘膜下局注剤
  ・新しい粘膜下層剥離器具
 3.治療内視鏡用triangulationプラットフォームと内視鏡ロボット技術(樺 俊介・他)
  ・ESDの簡便化をめざしたtissue counter traction device
  ・Triangulationプラットフォームとは?
  ・その他
  ・現状の課題と今後の展望
食道内視鏡治療の最前線
 4.食道ESDの現状と将来展望(小山恒男・高橋亜紀子)
  ・適応の変化
  ・追加治療の必要性
  ・EMRとESDの使い分け
  ・ESDのコツ
  ・偶発症への対処
  ・ESDの予後
  ・残された問題点と将来展望
 5.広範な食道癌に対する内視鏡切除後の狭窄予防―ステロイド療法の有用性と限界(石原 立)
  ・ステロイドと食道狭窄
  ・食道癌に対する内視鏡切除後の狭窄とステロイドの投与
  ・主要なステロイド投与法における成績の比較
  ・当科におけるステロイド投与法の実際と効果
  ・治療の危険性
  ・今後の展開
 6.狭窄に対する内視鏡治療:食道ステント(矢野友規)
  ・悪性狭窄に対する食道ステント
  ・放射線治療前後悪性狭窄に対する食道ステント
  ・良性狭窄に対する食道ステント
  ・新しい食道ステント
 7.細胞シートによる狭窄に対する内視鏡治療(大木岳志)
  ・内視鏡による培養口腔粘膜上皮細胞シート移植法の開発
  ・再生医療の臨床応用へのハードル
  ・経内視鏡的培養口腔粘膜上皮細胞シート移植の実際
  ・臨床研究の進行状況
  ・再生医療に関する法律
 8.食道癌化学放射線療法後の遺残・再発に対するPDTによる根治的救済治療開発(武藤 学・矢野友規)
  ・食道癌に対する治療
  ・食道癌に対する化学放射線療法後の遺残・再発に対する救済治療
  ・食道癌に対する化学放射線療法後の救済PDT開発
  ・食道癌に対する化学放射線療法後の救済PDTの治療成績
  ・新規PDTによる救済治療開発
  ・タラポルフィンナトリウムPDTの薬事承認をめざして
胃内視鏡治療の最前線
 9.胃ESDと穿孔対処法(五十嵐公洋・小野裕之)
  ・胃ESDの術中穿孔
  ・術中穿孔に対する保存的治療
  ・まれな偶発症としての遅発性穿孔
 10.内視鏡的全層切除術(EFTR)―超低侵襲内視鏡手術の最先端(森 宏仁)
  ・Pure EFTRの解決すべき課題―従来のESDとの違い
 11.腹腔鏡・内視鏡合同胃局所切除(LECS)の応用と進化(比企直樹・布部創也)
  ・腹腔鏡・内視鏡合同胃局所切除(LECS)の手順
 12.非穿孔式内視鏡的胃壁内反切除術(NEWS)―新しい胃癌低侵襲手術確立への挑戦(後藤 修・矢作直久)
  ・低侵襲手術へ向けた2つのアプローチ
  ・NEWSの考案と臨床導入
  ・NEWSとSNNSの融合
  ・NEWSの適応病変と将来展望
小腸内視鏡治療の最前線
 13.小腸内視鏡治療の最前線(矢野智則・山本博徳)
  ・使用機器
  ・止血術
  ・ポリペクトミー,内視鏡下粘膜切除術(EMR)
  ・内視鏡的バルーン拡張術(EBD)
  ・術後再建腸管を有する例の胆膵疾患に対する内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)
大腸内視鏡治療の最前線
 14.大腸EMR(内視鏡的粘膜切除術)の最前線(岡 志郎・田中信治)
  ・EMR手技の実際
  ・拡大観察併用による計画的分割EMR
  ・EMRに伴う偶発症
 15.大腸ESDの最前線(斎藤 豊・他)
  ・大腸ESDの適応
  ・大腸ESDを安全に行う工夫
  ・ESD困難例に対する対応
  ・ESDの当院での成績―合併症含む
  ・海外におけるESDの現状
  ・新規ESDナイフ
  ・ESDの将来
 16.大腸ステント(斉田芳久)
  ・わが国における大腸ステント
  ・悪性狭窄のステント留置術
胆膵内視鏡治療の最前線
 17.膵疾患に対する超音波内視鏡診断の進歩(中井陽介)
  ・EUS画像の進歩―Image-enhanced EUS
  ・膵癌におけるEUS
  ・膵嚢胞性腫瘍におけるEUS
  ・Through-the-needle imaging
  ・今後の展開
 18.超音波内視鏡を用いた胆膵内視鏡治療の進歩(安田一朗・土井晋平)
  ・膵仮性嚢胞ドレナージ
  ・感染性膵壊死に対する内視鏡的治療
  ・胆道ドレナージ
  ・癌性疼痛に対する腹腔神経叢ブロック
  ・Fiducial・小線源埋込み療法
  ・腫瘍性膵嚢胞に対する治療
  ・膵癌に対する局所注入による抗腫瘍療法
  ・膵癌に対するablation療法

 サイドメモ
  プロポフォール症候群(PRIS)
  局注に用いられるステロイド剤の特徴
  温度応答性培養皿
  OTSC(R)(Over The-Scope Clipping)システム
  PGA(polyglycolide acid)シート“ネオベール(R)”
  胃粘膜下腫瘍に対するおもな低侵襲手術
  早期胃癌に対するおもな低侵襲手術
  CROSS(クロス)
  Confocal laser endomicroscopy
  2種類の超音波内視鏡