やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 吉峰俊樹 川人光男
 大阪大学大学院医学系研究科脳神経外科,株式会社国際電気通信基礎技術研究所,脳情報通信総合研究所
 Brain-machine interface(BMI)とは“脳と機械の間で直接信号をやりとりしてヒトの神経機能を代行,補完する技術“である.脳信号を復号化(デコーディング,暗号解読)して外部機器に伝え,これらを“考えるだけ”で操作したり,外部機器で感知した信号を符号化(コーディング)して脳に伝え,“感覚器や感覚神経を介さず”に感覚を得るなどして種々の疾患,外傷により失われた身体機能を代行,補完することが期待されている.
 かつては幻想か空想でしかなかったこのような技術が実現可能であると確信され,研究に火がついたのはたかだか10 年あまり前である.しかし,その後の北アメリカ,日本,ヨーロッパ各国における研究の進歩には目をみはるものがあり,一部の技術は実用化され,さらに大きな技術の実用化が間近に迫っている.
 BMIは一部実用化されたとはいえ,理論的にも技術的にもまだ初期の段階にあり,基本的概念さえこれから変容,拡大される可能性もある.そして,そのさきには,医学,科学と社会にかかわる大きな未来が広がっている.この時期に本連載がはじまる意義は大きい.
 BMIは基礎および臨床神経科学,ならびに各種の情報科学や工学を含む広大な世界に育つものである.本連載ではそれぞれのエッセンスを計18 回にわたって紹介する.
 はじめに(吉峰俊樹・川人光男)
総論
1.Brain-machine interface(BMI)概観
 (吉峰俊樹)
 ・BMI研究の火付け役:ChapinとNicolelis
 ・BMIの種類と具体例
 ・BMIで扱う脳信号とその処理方法
 ・BMI研究の現状
 ・BMIに必要な要素技術
 ・BMIの未来展望
各論
2.BMIの神経生理学
 (伊佐 正)
 ・多自由度の情報抽出
 ・機能的電気刺激法
 ・感覚のフィードバック
 ・将来展望
3.脳の信号を解読する技術:脳情報デコーディング
 (神谷之康)
 ・デコーディングの方法
 ・デコード情報の利用
 ・視覚情報の解読
4.頭皮脳波を用いた非侵襲BMI
 (牛場潤一)
 ・ブレイン・マシン・インターフェースとは?
 ・麻痺肢の機能を代行する運動出力型BMI
 ・麻痺肢の機能回復を誘導する運動出力型BMI
5.NIRS-EEGを用いた非侵襲BMI
 (井上芳浩)
 ・出力型BMIの構成要素
 ・非侵襲式計測
 ・マルチモダリティ
 ・NIRS-EEGシステム
 ・BMIリハビリテーション
6.BMIニューロリハビリテーション―片麻痺上肢に対するあらたな治療戦略
 (里宇明元)
 ・脳卒中の機能予後
 ・HANDS療法
 ・BMIニューロリハ
 ・上肢麻痺の治療戦略
 ・臨床応用に向けて
7.皮質脳波を用いた低侵襲BMI
 (平田雅之)
 ・高侵襲BMI
 ・低侵襲BMI:皮質脳波
 ・Support vector machineを用いた運動内容推定
 ・ロボットアームのリアルタイム制御
 ・ワイヤレス体内埋込装置の開発
 ・重症ALS患者を対象とした有線でのBMI臨床研究
8.オンデマンド型脳深部刺激(DBS)装置の開発
 (片山容一)
 ・現在のDBSシステム
 ・現在のDBSのための定位脳手術
 ・オンデマンド型DBSの必要性
 ・フィードバック制御とフィードフォワード制御
 ・携帯可能なオンデマンド型DBS装置
 ・携帯可能なオンデマンド型DBS装置の応用
 ・オンデマンド型DBS装置の将来
9.中枢聴覚路刺激による聴力再建
 (関 要次郎)
 ・基本構造
 ・手術適応
 ・手術アプローチ
 ・手術成績
 ・将来の展望:ABI深部電極と中脳刺激
10.視覚BMI
 (神田寛行・不二門 尚)
 ・視覚障害
 ・人工視覚システム
 ・人工網膜
 ・人工網膜の3つの方式
 ・人工網膜の臨床研究の現状
11.認知型ブレイン・マシン・インターフェイス
 (加藤君子・長谷川 功)
 ・高次脳機能へのアプローチ
 ・大脳視覚連合野
 ・ECoGによる皮質脳波の記録
 ・BMI動作原理の解明
 ・認知型BMIの今後の展望
12.脊髄神経回路への人工神経接続による随意運動機能の再建
 (西村幸男)
 ・神経損傷後に残存している神経回路網
 ・人工神経接続
 ・人工皮質脊髄路
13.BMIによるインターネット制御
 (橋本泰成)
 ・インターネットの活用
 ・インターネットとBMIをつなぐ仮想世界
 ・BMIの概要と臨床応用
 ・長期使用による脳波のパターン変化
14.ブレイン-マシン・インターフェイス(BMI)による環境制御
 (神作憲司)
 ・BMIによるワープロ・環境制御
 ・患者・障害者による試用
 ・今後の展望
15.ロボティクスによる上肢運動機能再建のためのBMI
 (森下壮一郎・横井浩史)
 ・ワイヤ牽引駆動型電動義手
 ・BMIによる上腕電動義手の制御
 ・遅れ時間および触覚フィードバックの脳活動への影響
16.BMIについての倫理的・社会的問題の概要―脳神経倫理学における議論から
 (礒部太一・佐倉 統)
 ・脳神経倫理学の背景と概要
 ・BMIについての倫理的・社会的問題
 ・脳神経科学コミュニティ内での役割と意義・今後の展望
17.デコーディッドニューロフィードバック法などのBMIの今後の展望
 (川人光男)
 ・BMIの3本の柱
 ・BMIを支えるシステム神経科学の基礎研究
 ・脳プロ課題Aのまとめ
 ・デコーディングとニューロフィードバック
 ・デコーディッドニューロフィードバック
 ・自発脳活動と精神疾患バイオマーカー
 ・精神・神経疾患の革新的治療法

 サイドメモ目次
  ブレイン・マシーン・インターフェース
  BMIに関する国際会議
  BMIとBCI
  ニューロフィードバック
  サポートベクターマシン(SVM)
  わが国におけるDBSの歴史
  初期の中枢刺激による聴覚再現
  ロボティクスの観点からのBMI設計