はじめに
西口修平
兵庫医科大学肝疾患センター
肝硬変は慢性肝疾患の終末像であり,予後不良で非可逆的な疾患と考えられてきた.予後不良とは,すくなくともその疾患の平均余命が一般人のそれを大幅に下まわり,短命でなければならない.著者らの施設の肝硬変患者の平均年齢はいまや70歳であり,10年前当時60歳であった患者のその後10年の生存率は90%を上まわった.平成14年(2002)の簡易生命表のデータによると,60歳の一般人の10年生存の予測は男性が83%,女性が94%であったことを考え合わせると,もはや肝硬変は予後不良の疾患とはいえない.この特集のタイトルにある“肝硬変死の根絶”も夢物語ではなく,実臨床において達成すべき現実的な目標といえる.
肝硬変の予後改善に貢献した治療法の進歩は,まずは消化管出血に対する内視鏡治療が確立されたことであり,つぎに肝硬変の成因に対する有効な治療が可能となったことである.C型慢性肝疾患のインターフェロン(IFN)著効例において,全死亡,肝臓関連死ともに健常人と同等のレベルまで改善することは,わが国からはじめて発信された.さらに,ウイルス学的著効(SVR)例において偽小葉の消失が報告され,肝硬変の“非可逆性”も怪しくなっている.これは従来からの定説の崩壊である.新しい概念の理解を求めて,昨年のアメリカ肝臓学会(2011)におけるポストグラジュエートコースも“Cirrhosis:Current Challenge and Future Direction”をメインテーマに取り上げた.
今後,解決すべき点として,(1)肝硬変の成因に対する制御の普遍化,(2)成因が制御できた症例に残存する問題点の解決,の2つがあげられる.前者は抗ウイルス療法の有効性の向上により,近い将来達成可能である.後者は残存する線維化,肝細胞の遺伝子異常や代謝異常に対する治療法の確立となる.このように,肝硬変死の根絶のためには,成因に対する治療だけでは不十分であり,肝硬変特有の代謝異常や遺伝子異常に対する有効な治療を見出し,総合的な治療戦略を立て対処することが求められている.
西口修平
兵庫医科大学肝疾患センター
肝硬変は慢性肝疾患の終末像であり,予後不良で非可逆的な疾患と考えられてきた.予後不良とは,すくなくともその疾患の平均余命が一般人のそれを大幅に下まわり,短命でなければならない.著者らの施設の肝硬変患者の平均年齢はいまや70歳であり,10年前当時60歳であった患者のその後10年の生存率は90%を上まわった.平成14年(2002)の簡易生命表のデータによると,60歳の一般人の10年生存の予測は男性が83%,女性が94%であったことを考え合わせると,もはや肝硬変は予後不良の疾患とはいえない.この特集のタイトルにある“肝硬変死の根絶”も夢物語ではなく,実臨床において達成すべき現実的な目標といえる.
肝硬変の予後改善に貢献した治療法の進歩は,まずは消化管出血に対する内視鏡治療が確立されたことであり,つぎに肝硬変の成因に対する有効な治療が可能となったことである.C型慢性肝疾患のインターフェロン(IFN)著効例において,全死亡,肝臓関連死ともに健常人と同等のレベルまで改善することは,わが国からはじめて発信された.さらに,ウイルス学的著効(SVR)例において偽小葉の消失が報告され,肝硬変の“非可逆性”も怪しくなっている.これは従来からの定説の崩壊である.新しい概念の理解を求めて,昨年のアメリカ肝臓学会(2011)におけるポストグラジュエートコースも“Cirrhosis:Current Challenge and Future Direction”をメインテーマに取り上げた.
今後,解決すべき点として,(1)肝硬変の成因に対する制御の普遍化,(2)成因が制御できた症例に残存する問題点の解決,の2つがあげられる.前者は抗ウイルス療法の有効性の向上により,近い将来達成可能である.後者は残存する線維化,肝細胞の遺伝子異常や代謝異常に対する治療法の確立となる.このように,肝硬変死の根絶のためには,成因に対する治療だけでは不十分であり,肝硬変特有の代謝異常や遺伝子異常に対する有効な治療を見出し,総合的な治療戦略を立て対処することが求められている.
はじめに(西口修平)
序論
1.肝硬変死の根絶をめざした総合的な治療戦略(西口修平)
・死亡原因
・成因と将来予測
・抗ウイルス治療
・栄養療法
病態の理解
2.肝線維化の機序とその制御(元山宏行・河田則文)
・線維化に対する肝星細胞とmyofibroblastの役割
・肝線維化の発症・進展
・肝線維化の可逆性
・肝線維化の制御と治療
3.門脈圧亢進症とNO・エンドセリン(有井滋樹・野口典男)
・肝類洞内皮細胞の役割
・内臓血流と全身血行動態
・Nitric oxide(NO)
・エンドセリン(ET)
・NO,ET-1と門脈血流――著者らの研究より
4.ミトコンドリア障害・酸化ストレスからみた肝発癌機構(仁科惣治・日野啓輔)
・HCVコア蛋白と酸化ストレス
・酸化ストレス増強因子としてのHCVによる鉄・脂質代謝異常
5.肝再生の仕組みに関する新知見―増殖を求め続ける肝細胞と負の制御(鈴木淳史)
・肝障害後のSnailの分解が肝細胞の増殖を誘導する
・肝障害後のGSK-3βの増加がSnailの分解を誘導する
・GSK-3β依存的なSnailの分解は液性因子による刺激の結果として生じる
・肝臓の再生機序に関するあらたな概念の提唱
診断と病期把握
6.肝硬変の診断法と重症度分類(原 直樹・他)
・肝硬変の身体所見
・生化学的検査
・重症度分類
7.画像検査を用いた新しい線維化診断法(飯島尋子)
・超音波組織弾性イメージング
・肝線維化診断の有用性
・血液検査データとVs値の比較
8.肝疾患進展のリスク因子とその対策(岩佐元雄・竹井謙之)
・NAFLDにおける肝病変進展と肝発癌
・ALDにおける肝病変進展
・C型肝炎における肝病変進展と肝発癌
合併症対策
9.門脈圧亢進症に対するIVRの進歩――B-RTO,PSEを中心に(廣田省三・山本 聡)
・門亢症に対するIVR治療の原理
・閉鎖治療系のIVR技術
・減圧治療系のIVR技術
10.血小板減少C型慢性肝炎に対するインターフェロン療法――腹腔鏡下脾摘術後のPEG IFN-α+RBV併用療法導入の功罪(林 純・古庄憲浩)
・PEG IFN-α+RBV併用療法の対象
・腹腔鏡下脾摘術
・脾摘の効果
・脾摘術後のPEG IFN-α+RBV併用療法の成績
・C型慢性肝炎例に対するPEG IFN-α+RBV併用療法を目的とした腹腔鏡下脾摘術の功罪
11.肝性脳症・高アンモニア血症に対する亜鉛補充療法――慢性肝疾患における亜鉛の意義(片山和宏)
・亜鉛代謝と肝硬変における亜鉛の意義
・亜鉛補充療法
12.腹水の治療と特発性細菌性腹膜炎に対する新規診断法――“菌のみえない”感染症へのアプローチ(榎本平之・西口修平)
・肝硬変に起因する腹水の治療
・難治性腹水の治療
・特発性細菌性腹膜炎(SBP)の診断と治療
・特発性細菌性腹膜炎に対する新規診断アプローチ
原疾患の治療
13.栄養評価に基づいた食事運動療法(羽生大記・林 史和)
・肝硬変患者の栄養評価
・肝硬変患者の食事療法
14.分岐鎖アミノ酸による予後改善と肝発癌予防――肥満を合併した肝硬変(清水雅仁・他)
・肝硬変患者の栄養代謝異常とBCAA製剤による予後改善
・肥満と慢性肝疾患および肝発癌
・BCAAによる肥満に関連した肝発癌の抑制
15.B型肝硬変に対する抗ウイルス療法(田中榮司)
・B型肝硬変の治療目標
・核酸アナログ薬治療による長期合併症の抑制
・代償性および非代償性肝硬変症例での治療効果
・肝発癌抑制効果
16.C型肝硬変に対する抗ウイルス療法――C型肝硬変からの肝発癌防止をめざして(泉 並木)
・肝硬変におけるウイルス排除をめざした治療
・血小板低下に対する脾摘の効果
・SVRをめざしたペグIFNとリバビリン併用治療
・代償性肝硬変に対するペグIFN-α単独投与による肝発癌防止効果
・C型肝硬変例に対する通常型IFN-αあるいはβ型IFN投与による肝発癌防止効果
17.肝移植の適応と移植後の抗ウイルス療法(上田佳秀)
・肝移植の適応
・肝移植後のB型肝炎ウイルス対策
・肝移植後のC型肝炎ウイルス対策
18.自己骨髄細胞投与による肝修復再生療法(高見太郎・坂井田 功)
・基礎研究―マウス骨髄細胞投与肝硬変モデル(GFP/CCl4モデル)
・臨床研究―肝硬変症に対する自己骨髄細胞投与療法(ABMi療法)
19.血管内皮前駆細胞移植による肝再生治療――基礎研究から臨床研究へ(中村 徹・佐田通夫)
・ラットEPCによる肝再生治療
・CD34陽性細胞移植による肝再生治療
サイドメモ目次
・門脈圧
・In situ hybridization
・プローブ(probe)
・間接カロリーメーター
・鉄代謝
・鉄の吸収効率
・血中HBV-DNA量
・肝線維化
序論
1.肝硬変死の根絶をめざした総合的な治療戦略(西口修平)
・死亡原因
・成因と将来予測
・抗ウイルス治療
・栄養療法
病態の理解
2.肝線維化の機序とその制御(元山宏行・河田則文)
・線維化に対する肝星細胞とmyofibroblastの役割
・肝線維化の発症・進展
・肝線維化の可逆性
・肝線維化の制御と治療
3.門脈圧亢進症とNO・エンドセリン(有井滋樹・野口典男)
・肝類洞内皮細胞の役割
・内臓血流と全身血行動態
・Nitric oxide(NO)
・エンドセリン(ET)
・NO,ET-1と門脈血流――著者らの研究より
4.ミトコンドリア障害・酸化ストレスからみた肝発癌機構(仁科惣治・日野啓輔)
・HCVコア蛋白と酸化ストレス
・酸化ストレス増強因子としてのHCVによる鉄・脂質代謝異常
5.肝再生の仕組みに関する新知見―増殖を求め続ける肝細胞と負の制御(鈴木淳史)
・肝障害後のSnailの分解が肝細胞の増殖を誘導する
・肝障害後のGSK-3βの増加がSnailの分解を誘導する
・GSK-3β依存的なSnailの分解は液性因子による刺激の結果として生じる
・肝臓の再生機序に関するあらたな概念の提唱
診断と病期把握
6.肝硬変の診断法と重症度分類(原 直樹・他)
・肝硬変の身体所見
・生化学的検査
・重症度分類
7.画像検査を用いた新しい線維化診断法(飯島尋子)
・超音波組織弾性イメージング
・肝線維化診断の有用性
・血液検査データとVs値の比較
8.肝疾患進展のリスク因子とその対策(岩佐元雄・竹井謙之)
・NAFLDにおける肝病変進展と肝発癌
・ALDにおける肝病変進展
・C型肝炎における肝病変進展と肝発癌
合併症対策
9.門脈圧亢進症に対するIVRの進歩――B-RTO,PSEを中心に(廣田省三・山本 聡)
・門亢症に対するIVR治療の原理
・閉鎖治療系のIVR技術
・減圧治療系のIVR技術
10.血小板減少C型慢性肝炎に対するインターフェロン療法――腹腔鏡下脾摘術後のPEG IFN-α+RBV併用療法導入の功罪(林 純・古庄憲浩)
・PEG IFN-α+RBV併用療法の対象
・腹腔鏡下脾摘術
・脾摘の効果
・脾摘術後のPEG IFN-α+RBV併用療法の成績
・C型慢性肝炎例に対するPEG IFN-α+RBV併用療法を目的とした腹腔鏡下脾摘術の功罪
11.肝性脳症・高アンモニア血症に対する亜鉛補充療法――慢性肝疾患における亜鉛の意義(片山和宏)
・亜鉛代謝と肝硬変における亜鉛の意義
・亜鉛補充療法
12.腹水の治療と特発性細菌性腹膜炎に対する新規診断法――“菌のみえない”感染症へのアプローチ(榎本平之・西口修平)
・肝硬変に起因する腹水の治療
・難治性腹水の治療
・特発性細菌性腹膜炎(SBP)の診断と治療
・特発性細菌性腹膜炎に対する新規診断アプローチ
原疾患の治療
13.栄養評価に基づいた食事運動療法(羽生大記・林 史和)
・肝硬変患者の栄養評価
・肝硬変患者の食事療法
14.分岐鎖アミノ酸による予後改善と肝発癌予防――肥満を合併した肝硬変(清水雅仁・他)
・肝硬変患者の栄養代謝異常とBCAA製剤による予後改善
・肥満と慢性肝疾患および肝発癌
・BCAAによる肥満に関連した肝発癌の抑制
15.B型肝硬変に対する抗ウイルス療法(田中榮司)
・B型肝硬変の治療目標
・核酸アナログ薬治療による長期合併症の抑制
・代償性および非代償性肝硬変症例での治療効果
・肝発癌抑制効果
16.C型肝硬変に対する抗ウイルス療法――C型肝硬変からの肝発癌防止をめざして(泉 並木)
・肝硬変におけるウイルス排除をめざした治療
・血小板低下に対する脾摘の効果
・SVRをめざしたペグIFNとリバビリン併用治療
・代償性肝硬変に対するペグIFN-α単独投与による肝発癌防止効果
・C型肝硬変例に対する通常型IFN-αあるいはβ型IFN投与による肝発癌防止効果
17.肝移植の適応と移植後の抗ウイルス療法(上田佳秀)
・肝移植の適応
・肝移植後のB型肝炎ウイルス対策
・肝移植後のC型肝炎ウイルス対策
18.自己骨髄細胞投与による肝修復再生療法(高見太郎・坂井田 功)
・基礎研究―マウス骨髄細胞投与肝硬変モデル(GFP/CCl4モデル)
・臨床研究―肝硬変症に対する自己骨髄細胞投与療法(ABMi療法)
19.血管内皮前駆細胞移植による肝再生治療――基礎研究から臨床研究へ(中村 徹・佐田通夫)
・ラットEPCによる肝再生治療
・CD34陽性細胞移植による肝再生治療
サイドメモ目次
・門脈圧
・In situ hybridization
・プローブ(probe)
・間接カロリーメーター
・鉄代謝
・鉄の吸収効率
・血中HBV-DNA量
・肝線維化








