やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 南都伸介
 大阪大学大学院医学系研究科先進心血管治療学
 ステントは,バルーンによる血管形成術(POBA)後の急性冠閉塞からのbail out deviceとしておおいにその威力を発揮し,冠動脈形成術(PCI)術者にたいへん気に入られた.慢性期の再狭窄も,POBAの半分近くにまで減じる効果も有した.しかし,ステント挿入後も再狭窄をきたす症例が約2割存在し,ステント治療後に再狭窄をきたす症例の再PCIの成績は不良であった.POBA後の再狭窄機序は多くの研究から,急性期の血管リコイル,慢性期の陰性リモデリングと,血管平滑筋細胞の増殖によることが解明された.ステントは前二者に対して有効であるが,平滑筋細胞の増殖は抑制できないし,むしろステントの存在が細胞増殖を促す可能性が大である.
 経口内服薬によって,ステント治療後の再発を抑える多くの試みが行われた.有効だとされた薬剤はあったものの,その効果は大きなものではなかった.そもそもケロイドのような局所的反応を全身投与によって抑制することに無理があり,反応局所での薬剤投与(local drug delivery:LDD)がもっとも有効であることは自明の理であった.ステントがLDDの役目を果たす時代が到来した.ステントにポリマーをコーティングし,平滑筋の増殖を抑止する薬剤をポリマーから徐々に放出させ,再狭窄を劇的に低下させることができたのである.このステントを薬剤溶出性ステント(drug-eluting stent:DES)と称する.
 はじめに(南都伸介)
薬剤溶出性ステント(DES)を理解するための基礎知識
 1.バルーン血管形成術の基本原理とその問題点―急性冠閉塞と慢性期の再狭窄(南都伸介)
  ・バルーンカテーテルとは
  ・バルーン血管形成術による冠動脈病変拡張機序
  ・ステントが解決したバルーン血管形成術の問題点
  ・バルーン血管形成術の適応とその後の変遷
 2.DESがなぜPCIに必要であったのか(中村正人)
  ・PCIの歴史
 3.DESの基本構造(挽地 裕・野出孝一)
  ・薬剤と薬剤デリバリーシステム
  ・ステントプラットフォームの特徴と限界
各種薬剤溶出性ステント(DES)の概要とエビデンス
 4.シロリムス溶出性ステント(SES)の構成と臨床成績のエビデンス(上妻 謙)
  ・SES(Cypher(R))の基本構造
  ・シロリムス
  ・SESのエビデンス
 5.パクリタキセル溶出性ステント(PES)(山脇理弘・村松俊哉)
  ・薬物の特徴と作用機序
  ・薬剤塗布とプラットフォーム
  ・臨床試験成績
 6.ゾタロリムス溶出性ステント(ZES)(園田信成)
  ・ゾタロリムス溶出性ステント(ZES)の概要
  ・大規模臨床試験から得られたエビデンス
  ・リアルワールドの治療成績とわが国での治療成績
 7.エベロリムス溶出性ステント(EES)(阿古潤哉)
  ・XIENCE Vステントの基本構造
  ・エベロリムス溶出性ステント(EES)のエビデンス
  ・EESの将来
 8.次世代薬剤溶出性ステントBiolimus eluting stentの可能性(本田英彦)
  ・薬剤BiolimusA9
  ・ポリマー
  ・ステントデザイン
  ・バイオリムス溶出性ステントの概要と現況
  ・STEALTH Trialの概要
  ・LEADERS Trialの概要
  ・NOBORI Studyの概要
  ・日本におけるバイオリムス溶出性ステントの現況
  ・DESの安全性と今後の課題
薬剤溶出性ステント(DES)の適応と治療成績
 9.DESの導入によりPCIの適応は変わったか?(横井宏佳)
  ・安定狭心症に対する治療目標
  ・狭心症改善のためのPCIの適応
  ・予後改善(死亡,心筋梗塞)のための PCIの適応
 10.DES時代の冠動脈疾患に対する血行再建法―PCI vs.CABG(中川義久)
  ・BARI試験
  ・ARTS-I試験
  ・ARTS-II試験
  ・SYNTAX試験
  ・無作為比較試験に内在する問題点
  ・虚血性心疾患の治療の目的は何か
  ・臨床への応用ポイント
 11.わが国におけるDESの成績―j-Cypherレジストリーから(田村俊寛・木村 剛)
  ・j-Cypherレジストリーとは
  ・j-Cypherレジストリーの成績
 12.主幹部病変に対するDES治療のエビデンス(中村 淳)
  ・LMT病変に対してDESを使用したPCIは妥当であるか
  ・LMT分岐部病変に対してはどう考えるか
  ・LMT分岐部病変に対してどのステント手技をしたらよいのか
  ・LMT病変に対するDESを用いたPCIはCABGにとってかわれるのか?
 13.急性心筋梗塞に対するDES治療のエビデンス(佐藤 洋)
  ・現在のACS治療におけるステントの役割
  ・ACSのステント治療はBMSかDESか
  ・日本のデータとDES適応の考え方
薬剤溶出性ステント(DES)留置後の新生内膜
 14.DES留置後の新生内膜評価における血管内超音波の有用性と限界(世良英子)
  ・IVUSによる新生内膜の評価
  ・DES留置後の新生内膜増殖抑制効果
  ・IVUSの解像度の限界
  ・DES留置後の新生内膜増殖の規定因子
  ・DES時代のIVUSの役割
 15.血管内視鏡研究より明らかとなったDESの問題点と課題―DES留置後の血管内視鏡所見(粟田政樹・南都伸介)
  ・BMS留置後の内視鏡所見
  ・Cypher(R)ステント(sirolimus-eluting stent:SES)留置後の血管内視鏡所見
  ・Endeavor(R)ステント(zotarolimus-eluting stent:ZES)留置後の血管内視鏡所見
  ・TAXUS Express2(R)ステント(paclitaxel-eluting stent:PES)留置後の血管内視鏡所見
  ・血管内視鏡所見から遅発性ステント血栓症の危険性を予測できるか
  ・DES留置後の抗血小板療法はいつまで継続すべきか
  ・血管内視鏡所見に基づく至適DES留置法
  ・次世代DESの課題
 16.DES留置後の慢性期評価―光干渉断層映像法による検討(志手淳也)
  ・シロリムス溶出性ステント(SES)留置後のOCT所見
  ・パクリタクセル溶出性ステント(PES)留置後の所見
  ・ゾタロリムス溶出性ステント(ZES)留置後の所見
  ・DESの新生内膜組織性状評価
 17.DES留置後の血管壁反応の病理像(井上勝美)
  ・Cypherステント留置後の冠動脈病理像の経時的変化―BMSとの比較において
  ・Cypherステント留置後における遅発性ステント血栓症の病理像
  ・DES留置部における慢性炎症反応の重要性
  ・病理からみたDES晩期血栓症のその他の発生原因
ステント血栓症
 18.ステント血栓症とは?(小谷順一)
  ・冠動脈内の血栓症
  ・PCI後にみられる血栓症
  ・ステント留置後の血栓症
  ・ステント留置後にみられる晩期血栓症
  ・DES時代における超晩期血栓症
  ・ARC分類とその問題点
 19.抗血小板薬の薬理作用(西川政勝・西村有起)
  ・各種抗血小板剤
  ・血小板活性化シグナルを阻害する薬物
  ・血小板の抑制性シグナルを促進する薬物
 20.DES留置症例における抗血小板療法―血栓症と出血リスクのバランス(塚原健吾・木村一雄)
  ・DES留置後のステント血栓症
  ・日本人におけるステント血栓症
  ・チクロピジンとクロピドグレル
  ・ステント血栓症と抗血小板療法
  ・出血性合併症の重要性
  ・ワルファリンとの併用療法
 21.DES留置症例における外科的治療の際の注意点―Tokai Protocol(戸田恵理・伊苅裕二)
  ・Tokai Protocol
  ・Heparin bridging method
薬剤溶出性ステント(DES)の展望
 22.DESの展望(中谷大作・本多康浩)
  ・ステント基盤
  ・薬剤搭載法
  ・薬剤

 ・サイドメモ目次
  冠動脈ステントの登場
  DESの光と影
  再狭窄の定義
  標的病変再血行再建術(TLR)
  ステント不完全圧着の臨床的意義
  冠動脈形成術後の血管修復過程
  光干渉断層映像(OCT)
  ステント留置部における炎症反応と新生内膜増殖
  Cypherステントと冠動脈中膜壊死
  クロピドグレル不応症
  血小板機能検査