はじめに
―「ARDSのすべて」改訂にあたって―
ALI/ARDSの発症頻度についての,最近のアメリカの報告では,人口十万人あたりALIが78.9人,ARDSが58.7人と言われ,それらの死亡率を約50%とすれば,アメリカでは年間,約13万人が死亡している.わが国での十分な統計がないが,アメリカの数字をそのまま当てはめれば,ALI/ARDSの死亡者は,年間5万人以上となる.これは,肺癌の死亡者数6万2,000人とほぼ同等である.肺癌に対しては,その対策に膨大な研究努力がなされ,国家的にも莫大な予算が投入されている.その成果もあって,肺癌治療は確実に進歩してきている.一方で,ARDSについては,とくにわが国では,肺癌に比較して,十分な研究努力や財政的投入がなされているとは言い難い.ARDSは予後不良な病態であり,有効性が確立した治療法もないし,救命できるかどうかは,運を天に任せるしかないといった状況のまま,ここ40年大きな進歩はみられていない.1980年代のステロイド大量投与に関するRCTが失敗に終わって以降,ステロイドの使用は否定されたままである.しかし,実臨床では,効果が明確でないものの他に方法もないためステロイドを使用している医師が非常に多い.このような状況を打開するためには,肺癌と同等に国民の健康の脅威となっているARDSを解決すべき,かつ解決しうる問題と考え対処する努力を総力を尽くして行うしかないと思われる.
本書は,一般に理解しにくいと考えられているALI/ARDSの診療・研究に少しでもお役に立てればという思いで,“診療・研究のリファレンスブック”として2004年に発行された「ARDSのすべて」の増補改訂版である.幸いにして前版は,内科,外科,麻酔科,集中治療科,小児科などすべての領域の先生方に大変好評いただき増刷となったが,その後新しい知見も多く加わったので,改訂の要望も多くいただいたため,このたび「最新ARDSのすべて」というタイトルで改訂版を企画・編集させていただいた.前版に追加して新規論文を多数収載し,また前版の論文は全面改訂あるいは新知見を加えていただき,さらなる内容の充実を図った.
ARDSの診療においては,まだまだ,その定義や原因疾患などに関するたくさんの混乱や問題点があり,臨床医の理解を難しくしているし,確立したエビデンスの少ない領域であるが,本書がARDSの診療あるいは研究におけるリファレンスブックとしてさらに活用され,少しでもお役に立てれば幸いである.
2010年9月
石井芳樹(獨協医科大学呼吸器・アレルギー内科)
―「ARDSのすべて」改訂にあたって―
ALI/ARDSの発症頻度についての,最近のアメリカの報告では,人口十万人あたりALIが78.9人,ARDSが58.7人と言われ,それらの死亡率を約50%とすれば,アメリカでは年間,約13万人が死亡している.わが国での十分な統計がないが,アメリカの数字をそのまま当てはめれば,ALI/ARDSの死亡者は,年間5万人以上となる.これは,肺癌の死亡者数6万2,000人とほぼ同等である.肺癌に対しては,その対策に膨大な研究努力がなされ,国家的にも莫大な予算が投入されている.その成果もあって,肺癌治療は確実に進歩してきている.一方で,ARDSについては,とくにわが国では,肺癌に比較して,十分な研究努力や財政的投入がなされているとは言い難い.ARDSは予後不良な病態であり,有効性が確立した治療法もないし,救命できるかどうかは,運を天に任せるしかないといった状況のまま,ここ40年大きな進歩はみられていない.1980年代のステロイド大量投与に関するRCTが失敗に終わって以降,ステロイドの使用は否定されたままである.しかし,実臨床では,効果が明確でないものの他に方法もないためステロイドを使用している医師が非常に多い.このような状況を打開するためには,肺癌と同等に国民の健康の脅威となっているARDSを解決すべき,かつ解決しうる問題と考え対処する努力を総力を尽くして行うしかないと思われる.
本書は,一般に理解しにくいと考えられているALI/ARDSの診療・研究に少しでもお役に立てればという思いで,“診療・研究のリファレンスブック”として2004年に発行された「ARDSのすべて」の増補改訂版である.幸いにして前版は,内科,外科,麻酔科,集中治療科,小児科などすべての領域の先生方に大変好評いただき増刷となったが,その後新しい知見も多く加わったので,改訂の要望も多くいただいたため,このたび「最新ARDSのすべて」というタイトルで改訂版を企画・編集させていただいた.前版に追加して新規論文を多数収載し,また前版の論文は全面改訂あるいは新知見を加えていただき,さらなる内容の充実を図った.
ARDSの診療においては,まだまだ,その定義や原因疾患などに関するたくさんの混乱や問題点があり,臨床医の理解を難しくしているし,確立したエビデンスの少ない領域であるが,本書がARDSの診療あるいは研究におけるリファレンスブックとしてさらに活用され,少しでもお役に立てれば幸いである.
2010年9月
石井芳樹(獨協医科大学呼吸器・アレルギー内科)
はじめに──「ARDSのすべて」改訂にあたって(石井芳樹)
第1章 ARDSの概念と定義
1 ARDSの概念と定義(金沢 実)
第2章 ARDSの疫学
2 ARDSの疫学(津島健司・久保惠嗣)
第3章 ARDSの病態生理
3 ARDSの病理(福田 悠)
4 ARDSとエンドトキシン(田坂定智)
5 ALI/ARDSとサイトカイン(中野 泰・藤島清太郎)
6 ARDSとアポトーシス(桑野和善)
7 ARDSと活性酸素(石井幸雄・菊池教大)
8 ARDSと一酸化窒素(栂 博久)
9 ALI/ARDSの病態における好中球エラスターゼの役割(石井芳樹)
10 ARDSとアラキドン酸代謝産物(長瀬隆英)
11 ARDSと好中球(青柴和徹)
12 ARDSにおけるリンパ球(NKT細胞)の役割(青柳哲史)
13 ARDS発症における肺胞マクロファージの役割(岩ア吉伸)
14 ARDSと血管透過性(黄 英文)
15 ALI/ARDSと肺胞水分クリアランス(佐久間 勉)
16 ARDSとサーファクタント(佐田 誠)
17 ARDSと血管凝固異常(田口 修・ガバザ・エステバン)
18 ARDSに伴う肺循環障害(巽 浩一郎)
19 外科侵襲後のALI/ARDSに伴う多臓器不全の病態(小野 聡・他)
20 ALI/ARDSと肺の線維化(武政聡浩・石井芳樹)
第4章 ARDSの基礎疾患
21 ARDS発症の基礎となる原因と病態――SIRSの概念(村田厚夫)
22 敗血症に伴うARDS(宮川博司・他)
23 肺炎とARDS(佐野彰彦・河合 伸)
24 インフルエンザと急性呼吸不全(今井由美子)
25 手術侵襲に伴うARDS(小竹良文・武田純三)
26 外傷とARDS(杉木大輔・池上敬一)
27 重症急性膵炎におけるALI/ARDS(廣田昌彦・他)
28 輸血とARDS(TRALI)(岡崎 仁)
29 胃酸吸引とARDS(ア尾秀彰)
30 脂肪塞栓症候群(上田康晴・山本保博)
31 人工呼吸起因肺傷害(今中秀光)
32 化学物質吸入による急性肺水腫(布宮 伸)
33 溺水によるARDS──肺サーファクタント蛋白,KL-6からみた病態と治療(今泉 均・升田好樹)
34 神経原性肺水腫と神経性肺血管透過性調節(西脇公俊・島田康弘)
35 高地肺水腫(花岡正幸)
36 虚血─再灌流肺障害(星川 康・近藤 丘)
37 高濃度酸素による肺損傷(坂東政司)
38 パラコートによる肺損傷(篠崎正博)
39 小児におけるARDS(中川 聡)
40 ARDSの疾患感受性遺伝子とエピジェネティック制御──あらたな治療法開発に向けて(石井 誠・山口佳寿博)
第5章 ARDSの診断
41 ARDSの診断と重症度判定(新井正康・相馬一亥)
42 ARDSの画像診断(一門和哉)
43 ARDSの呼吸機能(山田芳嗣)
44 ALI/ARDSの循環動態のモニタリング──肺経由動脈熱希釈法(PiCCO systems)による血管内容量,血管壁透過性の評価(平 泰彦・明石勝也)
45 ARDSの鑑別診断(小倉高志・沼田万里)
46 ARDSの病態把握のための生化学的マーカー(遠藤重厚・他)
第6章 ARDSの治療
【ARDSの呼吸管理】
47 急性肺損傷の人工呼吸管理(天谷文昌・橋本 悟)
48 新しい人工呼吸法:APRVとHFOV(小谷 透)
49 肺理学療法──腹臥位換気を中心に(尾ア孝平)
50 液体換気法(Liquid ventilation)(中川 聡)
51 重症ARDSに対するECMOを併用した治療戦略(篠崎広一郎・織田成人)
52 人工呼吸器関連肺炎──予防・診断・治療(福家伸夫)
53 ARDSにおけるNPPV(近藤康博・谷口博之)
【血液浄化法】
54 PMMA膜hemofilterを用いた持続的血液濾過透析(PMMA-CHDF)(松田兼一・平澤博之)
55 PMX-DHP療法(津島健司・小泉知展)
【NO吸入療法】
56 一酸化窒素吸入療法(岡元和文)
【薬物療法】
57 ALI/ARDSに対するステロイド療法(石井芳樹)
58 好中球エラスターゼ阻害薬(遠藤重厚・鈴木 泰)
59 抗凝固薬剤による急性肺傷害の新しい治療戦略(岡嶋研二)
60 サーファクタント補充療法(尾原秀史・他)
61 その他の薬物療法(長谷川直樹)
【支持療法】
62 栄養サポート(長谷部正晴)
63 輸液管理(星 邦彦・斎藤浩二)
64 敗血症ガイドラインに照らした敗血症治療の方向性(松田直之)
65 救命救急領域における感染制御──抗菌薬の適正使用をめざして(佐々木淳一)
【将来の治療】
66 ARDSへのあらたなアプローチ法と遺伝子治療の今後の展望(岩坂日出男)
67 再生医療・細胞治療の可能性(久保裕司)
第7章 ARDSの予後
68 ARDSの予後と予後予測因子(小林弘祐)
69 ARDSからの生還者にみられる後遺症(宮下晃一・石崎武志)
サイドメモ
ARDSとAIPの位置づけ
抗エンドトキシン療法
SIRS,CARS,MARSの概念
細胞死
QTL解析
NOの吸入療法
NKT細胞と肺炎球菌感染症
敗血症性ARDSとNO
ARDSとVEGF
ARDSとSP-Bの遺伝子異常
NO吸入療法
活性化プロテインC
PARs(proteinase-activated receptors)
SIRSで重症患者の重症度を予測しうるか?
好中球のpriming
ヘモビジランス(輸血監視体制)
Aspiration pneumonitisとaspiration pneumonia
Two-hit(second attack)理論
臨床的分類
化学兵器
肺サーファクタント蛋白とKL-6
高地肺水腫と急性高山病スコア
ARDS患者の長期予後
ベッドサイドにおける換気力学指標の測定法
CT画像による肺の局所含気状態の解析
Permissive hypercapnia
プラトー圧/側副換気経路/チューブ補償/Critical illness polyneuropathy
ECMO(extracorporeal membrane oxygenation)
血漿膠質浸透圧(colloid osmotic pressure:COP)
パルスアーク放電プラズマを利用したINO装置
カプサイシン感受性知覚神経
Early mediatorとlate mediator
免疫調整経腸栄養剤(IMD)
酸素供給量と酸素消費量
抗菌薬のdeescalation
救命救急領域における感染症有病率
グラム染色とERにおける髄膜炎の診断
熱ショック蛋白質とHsp47
マウスMSCの腫瘍化
NOの吸入はARDS治療に役立たない?
Critical illness polyneuropathy
第1章 ARDSの概念と定義
1 ARDSの概念と定義(金沢 実)
第2章 ARDSの疫学
2 ARDSの疫学(津島健司・久保惠嗣)
第3章 ARDSの病態生理
3 ARDSの病理(福田 悠)
4 ARDSとエンドトキシン(田坂定智)
5 ALI/ARDSとサイトカイン(中野 泰・藤島清太郎)
6 ARDSとアポトーシス(桑野和善)
7 ARDSと活性酸素(石井幸雄・菊池教大)
8 ARDSと一酸化窒素(栂 博久)
9 ALI/ARDSの病態における好中球エラスターゼの役割(石井芳樹)
10 ARDSとアラキドン酸代謝産物(長瀬隆英)
11 ARDSと好中球(青柴和徹)
12 ARDSにおけるリンパ球(NKT細胞)の役割(青柳哲史)
13 ARDS発症における肺胞マクロファージの役割(岩ア吉伸)
14 ARDSと血管透過性(黄 英文)
15 ALI/ARDSと肺胞水分クリアランス(佐久間 勉)
16 ARDSとサーファクタント(佐田 誠)
17 ARDSと血管凝固異常(田口 修・ガバザ・エステバン)
18 ARDSに伴う肺循環障害(巽 浩一郎)
19 外科侵襲後のALI/ARDSに伴う多臓器不全の病態(小野 聡・他)
20 ALI/ARDSと肺の線維化(武政聡浩・石井芳樹)
第4章 ARDSの基礎疾患
21 ARDS発症の基礎となる原因と病態――SIRSの概念(村田厚夫)
22 敗血症に伴うARDS(宮川博司・他)
23 肺炎とARDS(佐野彰彦・河合 伸)
24 インフルエンザと急性呼吸不全(今井由美子)
25 手術侵襲に伴うARDS(小竹良文・武田純三)
26 外傷とARDS(杉木大輔・池上敬一)
27 重症急性膵炎におけるALI/ARDS(廣田昌彦・他)
28 輸血とARDS(TRALI)(岡崎 仁)
29 胃酸吸引とARDS(ア尾秀彰)
30 脂肪塞栓症候群(上田康晴・山本保博)
31 人工呼吸起因肺傷害(今中秀光)
32 化学物質吸入による急性肺水腫(布宮 伸)
33 溺水によるARDS──肺サーファクタント蛋白,KL-6からみた病態と治療(今泉 均・升田好樹)
34 神経原性肺水腫と神経性肺血管透過性調節(西脇公俊・島田康弘)
35 高地肺水腫(花岡正幸)
36 虚血─再灌流肺障害(星川 康・近藤 丘)
37 高濃度酸素による肺損傷(坂東政司)
38 パラコートによる肺損傷(篠崎正博)
39 小児におけるARDS(中川 聡)
40 ARDSの疾患感受性遺伝子とエピジェネティック制御──あらたな治療法開発に向けて(石井 誠・山口佳寿博)
第5章 ARDSの診断
41 ARDSの診断と重症度判定(新井正康・相馬一亥)
42 ARDSの画像診断(一門和哉)
43 ARDSの呼吸機能(山田芳嗣)
44 ALI/ARDSの循環動態のモニタリング──肺経由動脈熱希釈法(PiCCO systems)による血管内容量,血管壁透過性の評価(平 泰彦・明石勝也)
45 ARDSの鑑別診断(小倉高志・沼田万里)
46 ARDSの病態把握のための生化学的マーカー(遠藤重厚・他)
第6章 ARDSの治療
【ARDSの呼吸管理】
47 急性肺損傷の人工呼吸管理(天谷文昌・橋本 悟)
48 新しい人工呼吸法:APRVとHFOV(小谷 透)
49 肺理学療法──腹臥位換気を中心に(尾ア孝平)
50 液体換気法(Liquid ventilation)(中川 聡)
51 重症ARDSに対するECMOを併用した治療戦略(篠崎広一郎・織田成人)
52 人工呼吸器関連肺炎──予防・診断・治療(福家伸夫)
53 ARDSにおけるNPPV(近藤康博・谷口博之)
【血液浄化法】
54 PMMA膜hemofilterを用いた持続的血液濾過透析(PMMA-CHDF)(松田兼一・平澤博之)
55 PMX-DHP療法(津島健司・小泉知展)
【NO吸入療法】
56 一酸化窒素吸入療法(岡元和文)
【薬物療法】
57 ALI/ARDSに対するステロイド療法(石井芳樹)
58 好中球エラスターゼ阻害薬(遠藤重厚・鈴木 泰)
59 抗凝固薬剤による急性肺傷害の新しい治療戦略(岡嶋研二)
60 サーファクタント補充療法(尾原秀史・他)
61 その他の薬物療法(長谷川直樹)
【支持療法】
62 栄養サポート(長谷部正晴)
63 輸液管理(星 邦彦・斎藤浩二)
64 敗血症ガイドラインに照らした敗血症治療の方向性(松田直之)
65 救命救急領域における感染制御──抗菌薬の適正使用をめざして(佐々木淳一)
【将来の治療】
66 ARDSへのあらたなアプローチ法と遺伝子治療の今後の展望(岩坂日出男)
67 再生医療・細胞治療の可能性(久保裕司)
第7章 ARDSの予後
68 ARDSの予後と予後予測因子(小林弘祐)
69 ARDSからの生還者にみられる後遺症(宮下晃一・石崎武志)
サイドメモ
ARDSとAIPの位置づけ
抗エンドトキシン療法
SIRS,CARS,MARSの概念
細胞死
QTL解析
NOの吸入療法
NKT細胞と肺炎球菌感染症
敗血症性ARDSとNO
ARDSとVEGF
ARDSとSP-Bの遺伝子異常
NO吸入療法
活性化プロテインC
PARs(proteinase-activated receptors)
SIRSで重症患者の重症度を予測しうるか?
好中球のpriming
ヘモビジランス(輸血監視体制)
Aspiration pneumonitisとaspiration pneumonia
Two-hit(second attack)理論
臨床的分類
化学兵器
肺サーファクタント蛋白とKL-6
高地肺水腫と急性高山病スコア
ARDS患者の長期予後
ベッドサイドにおける換気力学指標の測定法
CT画像による肺の局所含気状態の解析
Permissive hypercapnia
プラトー圧/側副換気経路/チューブ補償/Critical illness polyneuropathy
ECMO(extracorporeal membrane oxygenation)
血漿膠質浸透圧(colloid osmotic pressure:COP)
パルスアーク放電プラズマを利用したINO装置
カプサイシン感受性知覚神経
Early mediatorとlate mediator
免疫調整経腸栄養剤(IMD)
酸素供給量と酸素消費量
抗菌薬のdeescalation
救命救急領域における感染症有病率
グラム染色とERにおける髄膜炎の診断
熱ショック蛋白質とHsp47
マウスMSCの腫瘍化
NOの吸入はARDS治療に役立たない?
Critical illness polyneuropathy








