やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 中山俊憲(写真左) 湊 長博(写真右)
 千葉大学大学院医学研究院免疫発生学,京都大学大学院医学研究科免疫細胞生物学
 今回は“最新免疫研究Update―免疫システム研究から免疫疾患の病態制御・治療へ“というテーマで,アグレッシブに活躍している若手の研究者の方を中心に,ここ2〜3年の最先端の研究成果をご紹介いただいた.副題にあるように“疾患の病態制御・治療”の方向性をめざした研究を中心に企画した関係で,純粋に学問的な研究は今回の企画では除いた.また,NKT細胞とTh17細胞については,最近,本誌で特集を上梓したので〔4月12日号(225巻2号),7月26日号(226巻4号)〕,今回は焦点を当てていない.
 免疫研究も個々の免疫現象を担う遺伝子・分子の発見や機能研究の時代から,最近はシステムとしての免疫が分子,遺伝子の語彙で語れる時代になってきた.さまざまな機能細胞集団や分子群が相互作用をしており,その相互作用にかかわる分子群の巧妙な調節機構が明らかになってきている.これらを制御することができれば,これまで難病といわれ根治治療法のなかった癌や自己免疫疾患,アレルギーなどの免疫関連疾患の治療コンセプトが樹立できる.免疫学者が提唱したいくつかの治療コンセプトは,すでに臨床研究や先進医療,標準治療として社会に還元されている.平成19年度(2007)から,特定領域研究“免疫系自己-形成・識別とその異常:Immunological Self-Recognition and its Disorders“(領域代表:湊 長博)がはじまり,本年度からは公募研究もスタートしている.ここでも“免疫制御をめざす新戦略”研究が強力に推進されている.今回の企画が“免疫システム研究から免疫疾患の病態制御・治療へ”という免疫学研究のひとつの大きな方向性を伝え,我こそはと思う若手研究者の基礎免疫学研究,治療学研究への誘いになればと願っている.
 (中山俊憲,企画者を代表して)
 はじめに(中山俊憲・湊 長博)
自己応答性の制御と自己免疫疾患治療
 1.制御性T細胞の機能調節と治療への応用―基礎研究の成果と今後の展望(小野昌弘)
  ・制御性T細胞による免疫制御
  ・ヒトにおける制御性T細胞
  ・制御性T細胞の治療応用への可能性
  ・制御性T細胞の治療応用へ向けた基礎研究
 2.Foxp3+Tregによる自己免疫制御(堀 昌平)
  ・自己免疫寛容におけるFoxp3+Tregの役割
  ・Tregの発生・分化メカニズム
  ・Treg分化と機能発現におけるFoxp3の役割
  ・Foxp3+Tregによる免疫抑制機構
 3.セマフォリンと多発性硬化症(熊ノ郷 淳)
  ・セマフォリンの研究背景
  ・クラス4型セマフォリンと多発性硬化症
  ・クラス6型セマフォリン受容体と多発性硬化症
  ・クラス7型セマフォリン(Sema7A)と多発性硬化症
 4.関節リウマチの疾患関連遺伝子(山本一彦)
  ・関節リウマチ(RA)における遺伝要因
  ・RAと主要組織適合遺伝子複合体HLA
  ・RAにおける非HLA遺伝子解析の現状
  ・PADI4遺伝子とRA
  ・抗シトルリン化蛋白抗体の臨床的意義
  ・FCRL3遺伝子と自己免疫疾患
  ・疾患関連遺伝子の民族での違いと臨床上の重要性
粘膜免疫制御
 5.粘膜免疫制御による免疫疾患治療―アレルギーからワクチンまで(岡田和也・清野 宏)
  ・粘膜免疫のユニーク性
  ・アレルギーと粘膜免疫
  ・粘膜ワクチン―ワクチンの新世代
 6.腸管粘膜におけるTH17細胞の分化誘導機構(新 幸二・竹田 潔)
  ・腸管免疫系と常在菌の役割
  ・TH17細胞の分化機構
  ・腸管における樹状細胞によるTH17細胞の誘導
 7.腸管粘膜樹状細胞によるIgAクラススイッチ制御―腸内常在菌の役割(手塚裕之・他)
  ・腸管粘膜樹状細胞サブセット
  ・腸管粘膜におけるIgA生産誘導機構
  ・IgAクラススイッチ誘導機構
  ・腸内常在菌による腸管粘膜樹状細胞の機能修飾
  ・腸管粘膜における一酸化窒素の生理的役割
がん
 8.癌の免疫監視―白血病自然発症モデルの研究から(湊 長博)
  ・古くて新しい免疫課題
  ・自然発癌モデルマウスでの宿主応答研究
  ・慢性白血病と獲得免疫機能
  ・“免疫老化“による白血病発症と,白血病発症による“免疫抑制”
  ・癌治療と免疫干渉
 9.免疫系ヒト化マウスモデルを用いた白血病幹細胞研究(石川文彦)
  ・ヒト造血幹細胞を用いた免疫再構築
  ・白血病幹細胞を用いた病態再現
  ・白血病幹細胞の再発における役割
 10.抗体カクテル療法によるがん治療(竹田和由)
  ・抗DR5抗体
  ・抗補助刺激分子受容体抗体によるがん治療
  ・抗体カクテルによる包括的免疫療法
アレルギー制御
 11.メモリーTh2細胞を標的としたアレルギー性気道炎症の制御―メモリーTh2細胞とアレルギー性炎症(山下政克・中山俊憲)
  ・GATA3によるTh2細胞分化の誘導
  ・MLLによるメモリーTh2細胞機能の維持
  ・ポリコーム群遺伝子Bmi1によるメモリーTh2細胞数の維持
  ・メモリーTh2細胞機能抑制を介したアレルギー性気道炎症の制御
 12.慢性アレルギー炎症ならびにアナフィラキシーにおける好塩基球のあらたな役割(烏山 一)
  ・好塩基球は,IgEではなくIgGを介するアナフィラキシーショックを誘導する
  ・好塩基球は慢性アレルギー炎症の引き金をひくイニシエター細胞として機能する
 13.IL-18で誘導されるユニークなアレルギー性炎症―実験的気管支喘息とアトピー性皮膚炎(中西憲司)
  ・IL-18による気管支喘息の誘導
  ・IL-18で誘導されるアトピー性皮膚炎
 14.CD4陽性T細胞におけるIL-21産生制御機構(須藤 明・中島裕史)
  ・自己免疫疾患とIL-21
  ・ヘルパーT細胞分化とIL-21
  ・IL-21産生CD4陽性T細胞の分化機構
  ・濾胞ヘルパーT細胞とIL-21
 15.サイトカインシグナルによるヘルパーT細胞の分化制御―Th17とiTregを中心に(吉村昭彦・杉山由紀)
  ・新しいヘルパーT細胞の分類
  ・Th17とは
  ・Th17を誘導するサイトカインとシグナル
  ・iTreg
  ・Foxp3によるRORγtの抑制
  ・Th17とiTreg分化の制御
  ・ヒトTh17
感染症
 16.DNAワクチンのあらたな免疫学的作用機序(青枝大貴・他)
  ・ワクチンの歴史
  ・DNAワクチンとは
  ・DNAワクチンの基本的なしくみ
  ・DNAワクチンのアドバンテージ
  ・自然免疫反応とワクチンの免疫原性
  ・DNAワクチンの内在性アジュバント効果
 17.ペア型レセプターPILRαと単純ヘルペスウイルス感染(佐藤毅史・荒瀬 尚)
  ・HSV-1感染細胞におけるPILRα会合分子の同定
  ・PILRαはgBに特異的に会合する
  ・PILRαトランスフェクタントはHSV-1感染感受性になる
  ・PILRα-gBの会合は膜融合に関与している
  ・モノサイトへの感染においてもgBとPILRαの会合が必須である
 18.樹状細胞における核酸系免疫アジュバント認識機構とその病理的意義(矢野貴公・改正恒康)
  ・形質細胞様樹状細胞特異的に発現しているTLR7とTLR9
  ・TLR3を発現する通常樹状細胞
  ・TLR7,9と自己免疫疾患
免疫研究の新戦略
 19.人工リンパ節の構築と応用―あらたな免疫賦活・制御装置の開発に向けて(渡邊 武)
  ・免疫監視機構と二次リンパ組織
  ・リンパ節組織の構築
  ・人工リンパ節の免疫機能
  ・なぜ人工リンパ節,リンパ装置の構築をめざすのか
 20.ES細胞およびiPS細胞を用いた免疫療法―ES細胞およびiPS細胞由来の樹状細胞およびマクロファージによる新規医療技術(千住 覚)
  ・樹状細胞療法における細胞ソースとしてのES細胞の有用性
  ・マウスES細胞からの樹状細胞の作製
  ・遺伝的改変を行ったES細胞由来の樹状細胞による抗腫瘍免疫の誘導
  ・抗原とケモカインを共発現するES-DCを用いた抗腫瘍免疫効果の増強
  ・遺伝子改変ES-DCを用いた免疫応答の抑制的制御
  ・ヒトES細胞からの樹状細胞の作製
  ・HLA classI関連遺伝子の改変によるES細胞に伴う組織適合性解決の試み
  ・iPS細胞を用いる利点と問題点
  ・iPS細胞由来のマクロファージを用いる医療技術の可能性
 ・サイドメモ目次
  多発性硬化症(MS)
  セマフォリンファミリー
  ヘルパーT(Th)細胞
  実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)
  B1B細胞とγδT細胞
  Common mucosal immune system
  ケモカインと組織特異性
  制御性T細胞(regulatory T cell:Treg)
  嗅粘膜と中枢神経
  舌下ワクチンと舌下減感作療法
  粘膜関連リンパ組織(MALT)
  B細胞サブセット
  誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)
  TRAIL
  クロマチンリモデリング
  ポリコーム群遺伝子
  サイトカインのシグナル伝達
  Th/Th2
  自然免疫受容体
  クロスプレゼンテーション
  全身性エリテマトーデス(SLE)
  TAPとβ2ミクログロブリン