やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 宮坂信之
 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科膠原病・リウマチ内科学
 現在,関節リウマチ(RA)の治療のパラダイムが革命的に変わりつつある.パラダイムシフトとよばれるゆえんである.これは炎症性サイトカインを治療標的とした生物学的製剤の導入によるところが大きい.欧米ではすでに抗TNF-α抗体としてインフリキシマブとアダリムマブが,そして可溶性TNF-αレセプターとしてエタネルセプトが,IL-1レセプターアンタゴニストとしてアナキンラがRAの治療に承認されている.さらに最近になって,TNF阻害薬抵抗例に対して,Tリンパ球機能阻害薬であるアバタセプト(CTLA4-Ig),Bリンパ球阻害薬であるリツキシマブ(抗CD20モノクローナル抗体)が承認されている.これに対して,わが国では2003年8月にインフリキシマブが,2005年3月にエタネルセプトがようやく承認・発売され,2008年(平成20年)度にはアダリムマブ,トシリズマブ(抗IL-6レセプター抗体)などもつぎつぎと承認されることが期待されている.
 これまでの関節リウマチの治療目標は,(1)疼痛の緩和,(2)関節機能の維持・改善,(3)日常労作(ADL)の改善などであった.しかし,生物学的製剤の導入により関節破壊の防止が可能となり,完全寛解への導入が夢ではなくなった.さらに最近では,生物学的製剤を治療開始早期より用いることで,寛解導入率が飛躍的に改善しつつある.このような時期をwindow of opportunityとよび,その早期からの積極的な治療が推奨されている.
 しかしその一方で,肺炎,結核,ニューモシスチス肺炎などの感染症をはじめとする重篤な副作用も臨床上問題となっている.わが国は結核の多発国である点,またニューモシスチス肺炎はわが国特有の有害事象である点などより,わが国独自の対策確立が求められている.
 生物学的製剤のもうひとつの問題点はコストである.はたして早期より積極的に生物学的製剤を開始することがcost effectiveかどうかの医療経済学的検討も今後行われる必要があろう.
 はじめに(宮坂信之)
第1章 進歩する標準治療
 1.COX-2インヒビターの有用性とその問題点(崎芳成)
  ・RA治療におけるNSAIDsの位置づけとCOX-2インヒビター
  ・わが国におけるCOX-2インヒビターの現状
  ・COX-2インヒビターの有用性と問題点
  ・おわりに
 2.メトトレキサートの適応と適正用量(鈴木康夫・齋藤榮子)
  ・RAにおける適応
  ・適正用量
 3.わが国におけるレフルノミドの副作用の特殊性(今村愉子・山田秀裕)
  ・レフルノミド肺障害の実態
  ・レフルノミド関連肺障害が提起した問題
  ・レフルノミド関連肺障害事件から得られる教訓
  ・おわりに
 4.エビデンスをもとにした関節リウマチに対するステロイド治療(三村俊英)
  ・早期関節リウマチに対する副腎皮質ステロイド薬治療
  ・関節リウマチに対する実際のステロイド治療
  ・おわりに
 5.わが国における関節リウマチ患者の合併症と予後―NinJaデータベースからの解析:結核・悪性疾患・死因(當間重人・金子敦史)
  ・NinJaとは
  ・RAと結核
  ・RAと悪性疾患
  ・生物学的製剤は悪性新生物を誘発する?
  ・RAと死因
  ・おわりに
 6.関節リウマチのオーダーメイド治療(鎌谷直之・谷口敦夫)
  ・関節リウマチ治療の現状と問題点
  ・抗リウマチ薬のゲノム薬理学
  ・個別化医療とその条件
  ・他の研究者による報告
  ・オーダーメイド医療の展望
第2章 生物学的製剤の適応
 7.わが国における生物学的製剤使用ガイドライン(小池竜司)
  ・生物学的製剤使用ガイドライン策定の経緯
  ・本ガイドラインのねらい
  ・ガイドラインの概略
  ・おわりに
 8.インフリキシマブの適応と使い方(小関由美・山中 寿)
  ・インフリキシマブの適応
  ・投与方法
  ・使用状況・有効性の評価
  ・副作用・副作用出現時の対応
  ・効果減弱例・無効例の対応
  ・問題点・今後の展望
 9.エタネルセプトの適応と使い方(川合眞一)
  ・薬理作用
  ・薬物動態
  ・臨床効果
  ・有害反応
  ・投与法・併用療法
  ・おわりに
 10.生物学的製剤の使い分けと切り換え(山村昌弘)
  ・INFとETAの免疫薬理学的作用の違い
  ・INFとETAの臨床効果および副作用の違い
  ・TNF阻害薬の使い分け
  ・TNF阻害薬の切り換え
  ・TNF-α阻害薬以外の生物学的製剤への切り換え
  ・おわりに
 11.生物学的製剤使用時の手術療法の適応と注意点(桃原茂樹)
  ・生物学的製剤使用時の手術療法の適応
  ・感染および創傷治癒におけるTNFの役割の基礎的研究
  ・周術期における生物学的製剤と手術療法
  ・インフリキシマブの自己血輸血の際の血中濃度
  ・使用ガイドライン
  ・周術期間中のRA活動性の再燃
  ・おわりに
第3章 生物学的製剤の副作用と対策
 12.生物学的製剤使用時の肺炎および結核の合併頻度とその対策(渡辺 彰)
  ・インフリキシマブ市販後全例調査における肺合併症の発生状況
  ・インフリキシマブの調査における細菌性肺炎の合併頻度と対処法
  ・インフリキシマブの調査における間質性肺炎の合併頻度と対処法
  ・インフリキシマブの調査において併発した結核の特徴
  ・インフリキシマブの導入による結核の増加と予防対応策の効果
  ・結核予防対応策の適応と実際
  ・おわりに
 13.生物学的製剤使用時にみられるニューモシスチス肺炎―早期診断へのアプローチと治療指針(駒野有希子・針谷正祥)
  ・TNF阻害薬使用中PCP発症メカニズム
  ・TNF阻害薬使用中のPCP発症頻度
  ・わが国の症例集積研究結果
  ・PCPの早期診断
  ・PCPの治療
  ・おわりに
 14.関節リウマチにおけるリンパ腫発生の要因―疾患活動性か薬剤か(北村 登・武井正美)
  ・RAの疾患活動性とリンパ腫発生
  ・EBウイルスとの関連性とリンパ腫発生
  ・薬剤の副作用によるとリンパ腫発生
  ・おわりに
第4章 生物学的製剤の最新エビデンス
 15.生物学的製剤使用関節リウマチ患者登録システムによるエビデンスの構築(針谷正祥)
  ・生物学的製剤と観察研究
  ・欧米におけるRA患者登録システム
  ・わが国におけるRA患者登録システム
  ・おわりに
 16.インフリキシマブの有効性予測―テーラーメイド医療へ(関口直哉・竹内 勤)
  ・インフリキシマブ
  ・インフリキシマブの課題
  ・有効性予測
  ・おわりに
 17.トシリズマブの有効性と炎症制御における利点―関節リウマチにおけるIL-6阻害治療の利点(西本憲弘)
  ・IL-6のRAの病態における役割
  ・トシリズマブの特徴
  ・トシリズマブの臨床効果と安全性
  ・トシリズマブによるIL-6阻害治療の利点
  ・おわりに
 18.アダリムマブの欧米におけるエビデンス(岩永 希・川上 純・江口勝美)
  ・アダリムマブの特徴
  ・有効性
  ・安全性
  ・おわりに
 19.アバタセプトの欧米におけるエビデンス(坪井洋人・後藤大輔・住田孝之)
  ・RAにおけるT細胞の役割
  ・T細胞の活性化とCTLA4の機能
  ・アバタセプト(CTLA4-Ig)の構造と作用
  ・アバタセプト(CTLA4-Ig)の臨床試験の結果
  ・日本におけるアバタセプトの治験
  ・おわりに
 20.リツキシマブの欧米におけるエビデンス(田中良哉)
  ・B細胞に対する抗CD20抗体の臨床応用
  ・MTX抵抗性RAに対するDANCER試験
  ・TNF阻害療法抵抗性RAに対するREFLEX試験
  ・抗CD20抗体の問題点
  ・リツキシマブ以外のB細胞を標的としたRAの治療応用
  ・リツキシマブの結果がもたらすもの―ベッドサイドからベンチへのトランスレーション
  ・おわりに
 21.あらたな生物学的製剤―抗RANKL抗体など(赤真秀人)
  ・RANK/RANKL/OPG系の同定と生理的機能
  ・骨関節疾患における治療的アプローチとしてのRANKL阻害
  ・RANKL阻害によるRA治療の可能性
  ・その他のサイトカイン(IL-15 など)阻害によるRA治療の可能性
  ・おわりに
 22.生物学的製剤によって関節破壊防止は可能か―MRIを用いた評価(鈴木 豪・住田孝之)
  ・RA患者でのMRI所見
  ・MRIを用いたRA活動性評価
  ・臨床的には寛解でもMRIでは活動性病変が認められる
  ・生物学的製剤使用患者でのMRI
  ・おわりに
 付.AYUMI Glossary of Terms
 23.リウマチ専門医をめざす医師にとっての生物学的製剤の基礎知識(駒野有希子・渡部香織・長坂憲治・谷口 顕・萩山裕之)
  ・キメラ抗体
  ・HACA(human anti-chimeric antibodies)
  ・可溶性レセプター
  ・投与部位反応(injection site reactions)
  ・投与時反応(infusion reaction)
  ・自己注射
  ・アメリカリウマチ学会リウマチ診療ガイドライン
  ・Window of opportunity
  ・完全寛解とは
  ・薬剤中止寛解
  ・Sharp score(van der Heidje-modified Sharp score)
  ・ACR20
  ・ACR-N AUC
  ・DAS28
  ・EULARの改善基準
  ・SF-36(MOS Short-Form 36-Item Health Survey)
  ・HAQ(health assessment questionnaire)
  ・REAL研究(Registry of Japanese Rheumatoid Arthritis Patients on Biologics for Long-term Safety)
  ・SECURE研究(Safety of Biologics in Japanese Patients with Rheumatoid Arthritis in the Long Term)
  ・BSRBR(British Society for Rheumatology Biologics Register)

 ・サイドメモ目次
  葉酸代謝とMTX薬物動態
  COBRA trial
  網羅的ゲノム関連解析
  アメリカFDAによる妊娠危険度分類
  生物学的製剤の周術期における休薬期間
  多変量解析
  トシリズマブ使用時の感染症ではCRPが増加しないことが多い
  生物学的製剤の分類
  ACRコアセットとACR20,ACR50,ACR70
  Disease activity score in 28 joints(DAS28)
  コンパクトMRI
  生物学的製剤