やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 堀江 稔
 滋賀医科大学呼吸循環器内科学教室
 最近10年ばかりの間に,われわれの不整脈に関する理解は飛躍的に進歩した.これには,コンピュータサイエンス,医用工学,心臓電気生理学や分子生物学・遺伝学など多くの生命科学の参加がおおいに寄与している.たとえば,目の前に起こっている不整脈を可視化することができる多電極マッピングやオプティカルマッピング法,さらに臨床の場ではelectroanatomical mapping(CARTO system)も広く利用されるようなった.このように集積されてきた情報を踏まえて生体シミュレーションが不整脈研究に応用されるようになり,医学分野のバイオシステムが展開されつつある.モデルのなかには,細胞内のミトコンドリア代謝や,これに伴う細胞内ATPレベルを組み込んだKyoto modelなども出現している.
 一方,イオンチャネルやその修飾蛋白は心臓の興奮・伝導や収縮をつかさどる心筋の活動電位を形成するが,これらの蛋白をコードする遺伝子群の変異や単一塩基多型のためにイオンチャネルなどの機能障害が起こり,家族性QT延長症候群をはじめとする多くの不整脈が発症することが明らかとなってきた.これらの疾患はイオンチャネル病と総称される.Brugada症候群,家族性洞不全症候群,家族性心房細動,カテコールアミン誘発性多形性心室頻拍,QT短縮症候群など多くの疾患が含まれる.さらに,不整脈源性右室心筋症のように心筋症とのボーダーライン上にある病態も明らかとなってきた.
 さらに,心不全治療に対しても電気生理的なアプローチが試みられ再同期療法が行われるようになり,また,トランスレーショナル医学の対象として心房細動や心室細動の臨床研究が盛んになっている.
 本特集号では近年このように急展開している不整脈研究について,それぞれの第一線で活躍中の研究者からご紹介いただく.
 はじめに(堀江 稔)
第1章 不整脈研究の最先端
 1.オプティカルマッピングによる心臓興奮伝播計測―高輝度発光ダイオードと高速度デジタルビデオカメラを使用する高時間・空間分解能オプティカルマッピング(佐久間一郎)
  ・オプティカルマッピングの原理
  ・測定システム
  ・計測例
  ・おわりに
 2.共焦点顕微鏡による不整脈源性カルシウム動態の解析(田中秀央・高松哲郎)
  ・心筋の興奮・収縮におけるカルシウムハンドリング
  ・カルシウム螢光指示薬と共焦点顕微鏡を用いた心筋細胞カルシウム動態の解析
  ・単離心筋細胞のカルシウム波
  ・摘出灌流心におけるカルシウム波
  ・虚血傷害に伴うカルシウム動態異常
  ・おわりに
 3.Kyotoモデル―心筋細胞の包括的数理モデル(皿井伸明・野間昭典)
  ・生体ダイナミクスの理解には数理モデルが必要
  ・生体機能シミュレータプログラミング
  ・心筋細胞モデルの歴史
  ・Kyotoモデル
  ・チャネル病メカニズムの考察
 4.生体シミュレーションの不整脈研究への応用(芦原貴司)
  ・心房細動のシミュレーション
  ・遺伝性不整脈のシミュレーション
  ・局所ペーシング刺激による心筋反応のシミュレーション
  ・フィールドショックによる心筋反応のシミュレーション
  ・機械的刺激による心筋反応のシミュレーション
  ・低エネルギー除細動への挑戦
  ・国内外の研究事情と今後の展望
第2章 遺伝子異常と不整脈
 5.イオンチャネル病としての不整脈―遺伝子変異と遺伝子多型(清水 渉)
  ・先天性 QT延長症候群
  ・後天性 QT延長症候群
  ・Brugada症候群
  ・進行性心臓伝導欠損(PCCD,Lenegre病)
  ・カテコールアミン感受性多形性心室頻拍(CPVT)
  ・催不整脈性右室心筋症
  ・家族性心房細動
  ・QT短縮症候群
  ・遺伝子多型の重要性
 6.Brugada症候群の最新知見(新 博次)
  ・Brugada症候群の診断
  ・Brugada症候群の予後
  ・ハイリスク症例とは
  ・Brugada症候群の治療
 7.Brugada症候群の実験モデル(森田 宏・大江 透ほか)
  ・薬剤によるBrugada症候群モデル
  ・右室流出路局所の冷却によるBrugada症候群モデル
  ・コンピュータモデル
  ・Brugada症候群の実験モデルの実例
  ・ヒト心臓での知見
 8.無症候性Brugada症候群のわが国における疫学と治療法(鎌倉史郎)
  ・無症候性Brugada症候群の疫学
  ・日本人のBrugada症候群の予後
  ・Brugada症候群の予後予測因子
  ・無症候性Brugada症候群の治療方針
 9.心筋Naチャネル病(蒔田直昌・筒井裕之)
  ・QT延長症候群
  ・Brugada症候群
  ・家族性心臓ブロック
  ・心房停止
 10.Kチャネル病(吉田秀忠)
  ・心臓Kチャネルの基本機能
  ・機能喪失による心筋Kチャネル病の病態メカニズム
  ・機能獲得遺伝子変異によるKチャネル病の病態メカニズム
 11.不整脈源性右室心筋症と遺伝子異常―ARVCと遺伝子変異(萩原誠久・梶本克也・笠貫 宏)
  ・ARVCの疫学
  ・ARVCの成因
  ・ARVCの診断
  ・ARVCの治療
  ・ARVCの予後
  ・おわりに
 12.胎児期,小児期の遺伝性不整脈における問題点とその対策(吉永正夫)
  ・QT延長症候群
  ・カテコールアミン誘発性多形性心室頻拍
第3章 心不全の心臓再同期療法
 13.心臓再同期療法の理論的根拠:responderとnonresponder(松田直樹・笠貫 宏)
  ・心室同期不全とは
  ・CRTの有効性の機序
  ・CRTの患者選択
 14.心臓再同期療法の実際―適応と手技(瀬尾由広・青沼和隆)
  ・適応基準と適応症例の選択
  ・手技
  ・合併症
  ・CRT急性効果の判定
  ・心房細動合併例に対するCRT
  ・CRT植込み後の管理
  ・おわりに
第4章 心房細動
 15.心房細動研究の最新知見―アップストリームを見つめる時代の夜明け(加藤武史・山下武志)
  ・スタチンは心房細動を抑制するか
  ・遺伝病としての心房細動
  ・心房細動細動患者の心房にはなぜ血栓ができるのか
  ・おわりに
 16.心房細動の薬物治療(藤木 明)
  ・心房細動におけるリモデリング
  ・心房リモデリングに対するL型およびT型Ca拮抗薬の効果
  ・アミオダロン
  ・ベプリジル
  ・IKur遮断薬
  ・レニン-アンジオテンシン系阻害薬
  ・おわりに
 17.心房細動のカテーテルアブレーション(高橋 淳)
  ・肺静脈開口部アブレーション
  ・心房細動基質へのアブレーション
  ・おわりに
 18.心房細動の外科的治療(末田泰二郎)
  ・MazeIII手術
  ・Maze手術の改変術式(小坂井法)
  ・左房Maze手術
  ・MazeIV手術
  ・自験例の術後Af消失率と遠隔成績
第5章 心室細動
 19.薬物による心室スパイラル・リエントリーの制御―高分解能光学マッピング実験による解析(児玉逸雄・本荘晴朗)
  ・心室筋二次元灌流標本
  ・心室頻拍の誘発とスパイラル・リエントリー
  ・Naチャネル遮断薬の効果
  ・Caチャネル遮断薬の効果
  ・Kチャネル遮断薬の効果
  ・アミオダロンの効果
  ・スパイラル制御による心室細動防止薬
 20.心室細動に対するカテーテルアブレーション(野上昭彦)
  ・特発性VF
  ・陳旧性心筋梗塞における反復性VF
  ・Brugada症候群
  ・自験例のVFアブレーション結果
  ・おわりに
 21.心室頻拍・心室細動・心臓突然死に対するデバイス治療(伊藤 誠)
  ・ICDの二次予防効果を検討した大規模臨床試験
  ・二次予防としてICDの有効性が期待される症例
  ・ICDの一次予防効果
  ・心臓再同期療法(CRT)
  ・心臓突然死・VT/VFに対するリスク評価
 ・サイドメモ目次
  プログラミング
  Edeiken pattern
  TypeI,II,III心電図
  遺伝性不整脈
  3点ペーシング法
  心房細動とコネキシン
  スパイラル・リエントリー