やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに―旧くて新しい疾患,脳卒中の研究・診療の最近のトピックス
 篠原幸人
 国家公務員共済組合連合会・立川病院
 わが国は欧米とは異なり,各臓器別疾患の死亡率ではいぜんとして脳卒中が第1位である.この“卒中”という言葉は,万葉集の書かれた西暦760年ごろにすでに日本の文書にみられるから,まことに歴史の長い疾患といわざるをえない.この文字が伝来したと考えられる中国や,あるいは韓国でも,脳卒中はいまでも臓器別疾患では最大の死亡率を示す.
 この脳卒中も近年は病型頻度にも大きな変化がみられる.また,新しい手法による基礎研究の進歩,診断技術の向上,急性期死亡率の著明な減少,日本独自のストロークスケールやガイドラインとその落とし穴,承認治療薬の欧米との相違やわが国独特の専門医制度など,その変遷や進歩,問題点,トピックスには枚挙の暇がない.
 そのすべてを本特集で取り上げることは不可能であるが,もっとも重要かつ進歩の著しいトピックスを中心に,各分野で最適な著者の人選を試みた.また各著者には,脳卒中の非専門医にも十分理解できる平易な表現で,かつご自身の意見を加味して解説されるようお願いしてある.
 基礎研究の現況と将来展望の章では,エダラボン・スタチン治療で注目を浴びた脳卒中におけるフリーラジカルと高脂血症の問題,現状ではけっして満足な効果とはいえないため新薬の開発が期待される抗血小板薬・抗凝固薬,脳卒中や痴呆性疾患の発症に関係深い高感度 CRPと遺伝子,近未来的に期待できる脳移植などを取り上げた.
 臨床の最前線としては,最近大規模に行われわが国脳卒中の現況を明らかにした脳卒中データベースと,その診断の依りどころとなった MRI・MRA,超音波診断のトピックスを取り上げ,さらに2004年に公開された脳卒中治療ガイドラインの問題点とその後の進歩,第三者による評価,そして現在および今後の問題点として,SCUを含む診療体制の問題,t-PAに代表されるわが国未承認薬(t-PAは2005年10月承認)をどう解決するか,今後が期待される血管内手術,そして世界にも類をみない脳卒中専門医制度の問題なども取り上げた.
 項目が多いだけ,各著者は簡潔にまとめられ,読者にも読みやすい企画になると考えている.
はじめに―旧くて新しい疾患,脳卒中の研究・診療の最近のトピックス(篠原幸人)
第1章 基礎研究の現状と将来展望
 1.フリーラジカルと脳卒中治療(Free radicals and stroke therapy)(阿部康二)
  ・活性酸素・フリーラジカルと脳虚血
  ・フリーラジカルスカベンジャーと脳保護療法
  ・脳保護療法による脳梗塞治療の新しい潮流
  ・フリーラジカル消去薬による脳血行再開療法治療枠拡大の可能性
 2.高脂血症と脳卒中―スタチンによる脂質低下療法は脳梗塞を予防するか(Hyperlipidemia as a risk factor for stroke)(北川一夫)
  ・臨床疫学的研究から裏づけられる高脂血症と脳卒中との関連
  ・頭蓋灌流血管の動脈硬化と高脂血症との関連
  ・高脂血症治療,とくにスタチン治療による脳卒中発症抑制効果
 3.新しい抗血小板薬,抗凝固薬―アスピリン,ワルファリン,ヘパリンとの違い(New anti-platelet drugs,anticoagulant drug)(横山健次・池田康夫)
  ・抗血小板薬
  ・抗凝固薬
  ・おわりに
 4.炎症,とくに高感度 CRPと脳卒中(Inflammation,high-sensitivity C-reactive protein and stroke)(高橋若生)
  ・脳卒中の発症予知因子としての CRP
  ・CRPと動脈硬化性病変の関係
  ・動脈硬化における炎症のメカニズム
  ・おわりに
 5.遺伝子異常と脳卒中(Genetics of stroke)(野川 茂)
  ・虚血性脳卒中をきたす遺伝性疾患
  ・頭蓋内出血をきたす遺伝性疾患
  ・おわりに
 6.細胞移植と脳卒中(Cell transplantation and stroke)(宝金清博・本望 修)
  ・脳卒中治療の展開と停滞
  ・細胞移植と神経再生
  ・脳梗塞の細胞療法
第2章 疫学と診断の現況―臨床の最前線
 7.最新の本邦脳卒中の傾向―脳卒中データバンクより(Recent stroke in Japan―from Japanese Stroke Databank)(小林祥泰)
  ・脳卒中データバンクとは
  ・脳卒中の病型別頻度および危険因子
  ・脳卒中発症超早期入院例の病型別分布
  ・脳卒中病型別にみた年代別頻度
  ・心房細動の頻度とその危険因子
  ・心房細動と抗血栓療法
  ・おわりに
 8.脳卒中の画像診断―最近の進歩(Recent advance in stroke imaging)(興梠征典)
  ・急性期脳梗塞
  ・脳動脈瘤の画像診断
  ・頸部内頸動脈の画像診断
 9.脳卒中の超音波診断―超音波検査の進め方とトピックス(Ultrasonographic evaluation of stroke)(矢坂正弘)
  ・脳血管障害急性期における超音波検査の進め方
  ・脳血管障害診療における超音波検査の進歩
第3章 治療ガイドライン―今後の展望
 10.脳卒中の一次予防―ガイドライン改定に向けて(Primary prevention of stroke)(内山真一郎)
  ・高血圧
  ・糖尿病
  ・高脂血症
  ・心房細動
  ・喫煙
  ・飲酒
  ・肥満
  ・メタボリックシンドローム
 11.脳梗塞・一過性脳虚血発作の内科的治療の進展のために(Clinical trial and practice of medical treatment for brain infarction)(西丸雄也)
  ・急性期の治療
  ・慢性期の治療
  ・今後の課題
 12.脳出血治療のガイドラインと今後の問題点―ガイドライン改定に向けて(Treatment of intracerebral hemorrhage)(安井信之)
  ・ガイドラインの概要
  ・慢性期脳出血の管理
  ・脳出血の外科治療
  ・ガイドライン改定に向けて
 13.くも膜下出血診療ガイドライン―改訂時の課題(The guideline for aneurysmal subarachnold hemorrhage―current situation and prospects)(藤中俊之・吉峰俊樹)
  ・診断と初期治療
  ・治療法の選択
  ・遅発性脳血管攣縮の治療
  ・おわりに
 14.無症候性脳梗塞と白質病変(Asymptomatic brain infarct and white matter lesions)(奥寺利男・木下良正・鈴木 満)
  ・無症候性脳血管障害とは
  ・無症候性脳梗塞の定義,頻度,診断
  ・無症候性白質病変の定義,頻度,診断
  ・無症候性脳梗塞(ラクナ梗塞)の病態
  ・無症候性大脳白質病変の病態
  ・無症候性脳梗塞(ラクナ梗塞)の予後
  ・無症候性大脳白質病変の予後
  ・無症候性脳梗塞に関するガイドライン
  ・無症候性大脳白質病変に関するガイドライン
 15.未破裂脳動脈瘤―患者にとって真に公平か(Unruptured cerebral anerysm)(松本正人・児玉南海雄)
  ・治療の必要性
  ・治療成績
  ・合併症の予防
  ・今後の問題点
 16.内頸動脈狭窄症とステント(Carotid artery angioplasty and stent placement for the carotid artery stenosis)(井上 敬・小川 彰)
  ・脳卒中治療ガイドライン2004
  ・Carotid and Vertebral Artery Transluminal Angioplasty Study(CAVATAS)
  ・Wallstent臨床試験
  ・単一施設による報告
  ・Stenting and angioplasty with protection in patients at high risk for endarterectomy(SAPPHIRE)
  ・CASの現状
  ・末梢保護デバイス
  ・アメリカインターベンショナル神経放射線学会,アメリカ神経放射線学会,アメリカ IVR学会からの勧告
  ・おわりに
 17.脳卒中治療ガイドラインの評価と今後の方向性(Appraisal and perspective on the new Japanese guidelines for the management of stroke(2004))(永山正雄)
  ・脳卒中治療 GL2004 の外部評価
  ・データベース化と電子媒体化
  ・脳卒中治療 GL改訂時の検討事項
  ・脳卒中治療研究上の問題点
  ・GL策定とプロフェッショナリズム
第4章 本邦脳卒中の今後
 18.脳卒中診療システム―クリティカルパスと病診連携(Stroke management system―critical pathway and inter-hospital cooperation)(橋本洋一郎・渡辺 進)
  ・ブレインアタック
  ・脳卒中医療の問題点
  ・病診連携の推進
  ・急性期医療
  ・リハ専門病院とかかりつけ医
  ・病院完結型と地域完結型
  ・おわりに
 19.本邦未承認脳卒中治療薬の今後(Perspectives of drugs for stroke,which have not yet been approved by the government)(山口武典)
  ・遺伝子組換え組織型プラスミノーゲン・アクティベータ(rt-PA)―アルテプラーゼ(alteplase)
  ・新しいタイプの抗血小板薬―クロピドグレル(clopidogrel)
  ・経口抗トロンビン薬―キシメラガトラン(ximelagatran)
  ・おわりに
 20.脳神経血管内治療の最近の動向と今後(Current evolution of neuroendovascular intervention)(中澤和智・橋本信夫)
  ・頸動脈狭窄病変
  ・急性期脳梗塞
  ・頭蓋内動脈硬化性病変
  ・嚢状脳動脈瘤
  ・おわりに
 21.日本脳卒中学会認定脳卒中専門医の概要(Board certification of stroke management in Japan)(福内靖男)
  ・審査による認定とその現状
  ・試験による認定への移行
  ・認定研修教育施設の認定
  ・厚生労働省告示による“専門医の広告”と本学会専門医
  ・おわりに
・索引
・サイドメモ目次
 脳梗塞の再生医療とフリーラジカル
 不安定プラーク
 CRP
 Notchシグナリング
 若年者脳梗塞
 脳出血の手術法
 脳動脈瘤頸部クリッピング
 脳動脈瘤塞栓術
 NASCET
 ACAS
 SAPPIRE
 ガイドライン(GL)策定とプロフェッショナリズム
 特殊疾患療養病棟
 障害者施設等一般病棟