やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 理学療法士の養成校が増加するなかで,実践的な知識や最新の研究知見を含んだ質の高い中枢神経系理学療法学のテキストが増えてきています.一方で,学生の多くは,1〜2学年の講義で学んだ基礎同士を統合できない,発症後のリハビリテーションの流れ(急性期・回復期・生活期・再発予防)とそれに関わる理学療法の役割がイメージできないなど,習得した知識を次のステージへと発展させることへの課題を抱えています.
 臨床を経験するなかでは,患者の症状や病態,動作との関連などの評価,予後予測と統合解釈などの理解を深めることはできますが,学生にこれを求めるのは困難です.しかし,理学療法士養成の立場として,何とかこれらの困難に応えられるような教育を行いたい考え,本書『最新理学療法学講座 中枢神経系理学療法学』の発刊に至りました.
 本書は,中枢神経系理学療法学への苦手意識を払拭できる構成になっています.臨床に出るにあたり,学生として身につけておきたい基礎知識を30章に細分化し,わかりやすくまとめました.各章には演習課題を設けており,学んだ基礎知識を臨床に結び付けることができるようになっています.また,サイドメモとして「ここが重要」,「臨床では」,「国家試験に出る」などを挿入することで,臨床実習から国家試験対策まで対応できる内容としました.
 また,一時的ではなく長期にわたるリハビリテーションをイメージできる構成としています.中枢神経系の障害を呈した人は,運動麻痺,感覚障害,バランス障害,疼痛,高次脳機能障害などにより日常生活活動が障害され,発症前とは全く異なる人生を歩んでいくことになります.理学療法士が主に関わるイメージの病院でのリハビリテーションは,急性期から回復期における3〜6カ月間というわずかな期間に限られます.重要なのは,ここからスタートとなる生活期のリハビリテーションです.病院でのリハビリテーションの期間に,「自宅へ復帰した後に,どのように生活し,生きていくか」をイメージできることが不可欠です.本書では中枢神経系理学療法の領域だけでなく,地域理学療法を専門とする幅広い経験を有する先生方に関わっていただくことで,生活期をリアルに感じ取れる内容となっています.
 中枢神経系理学療法学の発展には,臨床的な視点と学術的な視点の両立が不可欠です.そこで,本書では当該領域の将来的発展も見据えたエッセンスを凝縮するとともに,理学療法の最前線で臨床を実践し,さらに研究を両立している諸先生方に執筆いただきました.第一線で活躍される先生方の叡智を結集した本書が中枢神経系理学療法学を学ぶ読者の興味と意欲を高めることで,臨床能力と研究能力を両立する理学療法士が増えることを願っています.
 さいごに本書の発刊にあたり,最後まで粘り強くご支援いただいた医歯薬出版の編集部諸氏,執筆を快く受けてくださった著者の先生方に深謝申し上げます.
 2022年11月
 山口智史,山田 実
 序文(山口智史,山田 実)
 序章 中枢神経系理学療法の役割と目的(山口智史)
I 中枢神経系理学療法の基礎知識
 1章 中枢神経系理学療法の概要(井上靖悟)
  リハビリテーションに関わる名称の位置づけ
  急性期,回復期,生活期のリハビリテーションの流れ
  廃用症候群の理解
  各病期におけるリハビリテーションのポイント
 2章 神経機能解剖・画像と病態(1)─中枢神経系─(阿部浩明)
  大脳の構造と機能
  脳の機能解剖とその役割
  脳画像から把握する脳解剖
  脳画像から把握する脳卒中の病態
 3章 神経機能解剖・画像と病態(2)─脳神経,脳室,脳血管,神経線維束─(阿部浩明)
  脳神経の構造・機能・障害
  脳室の解剖とその障害
  脳血管の走行と灌流領域
  神経線維束の走行
 4章 基礎医学知識(診断)と臨床症状(久保田雅史)
  脳卒中
  頭部外傷
  脳腫瘍
  パーキンソン病
  筋萎縮性側索硬化症
  脊髄小脳変性症
 5章 リスクマネジメントの知識(1)(五十嵐千秋)
  意識レベル
  血圧
  心拍数と脈拍数
  呼吸
  一次救命処置
 6章 リスクマネジメントの知識(2)(五十嵐千秋)
  脳卒中
  脳腫瘍
  筋萎縮性側索硬化症
  パーキンソン病
 7章 合併症の知識(久保田雅史)
  発熱
  消化管出血
  肺炎
  尿路感染症
  深部静脈血栓症,肺塞栓症
  褥瘡,関節拘縮
  痙攣,てんかん
  疼痛(筋骨格系,神経障害性疼痛)
  抑うつ,不穏,せん妄
  低栄養
II 中枢神経疾患の理学療法
 8章 病態・臨床症状と評価(1)─知識と基本評価─(松田雅弘)
  中枢神経疾患の運動障害
  中枢神経疾患の感覚障害
  中枢神経疾患の疼痛
  中枢神経麻痺の姿勢バランス障害
  中枢神経疾患の歩行障害
 9章 病態・臨床症状と評価(2)─動作分析1─(荒川武士)
  動作分析の基本的な捉え方
  動作分析の流れ
  機能障害と代償運動の関係
  問題点の把握
  記録
 10章 病態・臨床症状と評価(3)─動作分析2─(荒川武士)
  動作観察の基本
  寝返り動作
  起き上がり動作
  立ち上がり動作
 11章 中枢神経疾患の理学療法(1)─統合と解釈─(橋容子)
  統合と解釈とは
  理学療法における統合と解釈の位置づけ
  情報収集
  理学療法評価の実施計画
  統合と解釈の実際:活動(日常生活活動)の問題点
  国際障害分類(ICIDH)と国際生活機能分類(ICF)
  統合と解釈の実際(ICF分類)
  病期によるICFの視点の変化
 12章 中枢神経疾患の理学療法(2)─予後予測,目標設定─(橋容子)
  予後予測とは
  理学療法における予後予測
  疾患別の予後予測
  目標設定の実際
 13章 中枢神経疾患の理学療法(3)─レポート作成方法,ケーススタディ─(橋容子)
  レポートやケーススタディの概要
  レポートの構成
  レポートの書き方の実際
  レジュメの作成
  ケーススタディ
 14章 急性期の中枢神経系理学療法(國枝洋太)
  急性期における脳卒中理学療法の特徴
  脳卒中急性期における理学療法のポイント
  急性期における神経変性疾患の特徴
  急性期における多職種連携の重要性
 15章 回復期の中枢神経系理学療法(小川秀幸)
  回復期のリハビリテーション治療とは
  回復期の脳卒中患者の病態と症状
  動作との関連
  回復のエビデンス
  回復期の脳卒中理学療法の流れ
 16章 生活期の中枢神経系理学療法(松田 徹,室井大佑)
  生活期の中枢神経系理学療法の目的と流れ
  生活期リハビリテーションの種類と特徴
  自立支援のための生活期リハビリテーションの実際
  社会資源の活用
 17章 再発予防(金居督之,野添匡史)
  脳卒中の再発率
  脳卒中の再発による弊害
  脳卒中の再発に関わるリスク因子
  脳卒中の発症・再発に関わるライフスタイル因子
  脳卒中の再発予防に対する理学療法の実際
III 疾患・障害別理学療法
 18章 脳卒中の理学療法(井上靖悟)
  脳卒中患者に対する理学療法の概要
  課題指向型トレーニングと運動学習
  課題指向型トレーニングにおける姿勢制御と運動力学的な視点
  課題指向型トレーニングの実際
 19章 パーキンソン病の理学療法(1)─疾患の理解と理学療法評価─(岡田洋平)
  基本的な疾患の捉え方
  疾患の重症度の捉え方
  障害の捉え方
 20章 パーキンソン病の理学療法(2)─理学療法介入─(岡田洋平)
  リハビリテーションの有効性と治療対象
  病期別理学療法
  主な理学療法介入
 21章 脊髄小脳変性症の理学療法(春山幸志郎)
  脊髄小脳変性症とは
  脊髄小脳変性症の障害像
  脊髄小脳変性症に対する理学療法の考え方
  理学療法評価
  理学療法の実際
 22章 運動障害と理学療法(石山大介)
  運動麻痺
  錐体外路症状
  協調運動障害
 23章 感覚障害と理学療法(石山大介)
  感覚障害の種類
  感覚障害の病巣
  感覚の評価
  感覚障害の治療
 24章 バランスと理学療法(國枝洋太)
  バランスの理学療法における基本的な考え方
  バランス能力の評価指標
  バランス能力の改善を目指した理学療法
  特徴的な症状を呈する疾患の理学療法
 25章 疼痛と理学療法(木村鷹介)
  疼痛の分類と基本的な捉え方
  脳卒中患者の肩関節痛
  中枢性疼痛
 26章 高次脳機能障害と理学療法(1)(木村鷹介)
  高次脳機能障害の基本的な捉え方
  基盤的認知機能の障害
   1.意識
   2.注意
   3.記憶
   4.感情
 27章 高次脳機能障害と理学療法(2)(木村鷹介)
  右大脳半球症状
   1.半側空間無視
   2.病態否認
   3.運動維持困難・ペーシング障害
  左大脳半球症状
   1.失語
   2.失行
   3.ゲルストマン症候群
 28章 ADL障害と理学療法(1)(西尾尚倫)
  ADLとは何か
  ADLとICF
  ADL評価の目的
  ADLとQOL
  ADLの評価表
  予後予測の重要性
  能力障害の回復過程
  ADLの予後予測
  時期別におけるADLの考え方
 29章 ADL障害と理学療法(2)(西尾尚倫)
  ADLの各項目をみる必要性
  ADLの各動作
   1.起居動作
   2.座位保持
   3.立ち上がり・着座動作
   4.歩行
   5.車椅子駆動
   6.階段昇降
   7.食事
   8.整容動作
   9.更衣
   10.トイレ動作
   11.入浴動作
 30章 ケーススタディとレポートの作成方法(松田 徹)
  ケーススタディとレポートの作成
  ケーススタディ作成の実際
  ケーススタディの意義

 索引