やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 本書を手に取っていただきありがとうございます.本書は小児領域の理学療法について解説しています.養成校での講義内容を想定しておりますので,15回の講義に対応するように15章にまとめています.小児理学療法は,理学療法の中でも基本的分野の一つと言って良いと思います.将来,成人を対象とする領域へ進むとしても,小児理学療法について理解することは,成人対象の理学療法プログラム立案において,多くの示唆を得るものと考えております.これは,小児理学療法は,ヒトが自由な運動を獲得するまでの詳細な過程と,その支援方法を支柱とする理論および技術体系だからです.運動機能を,低いレベルから高度なものへ構築していくという意味において,リハビリテーションそのものとも言えます.このことから,卒業後に,小児領域以外で活躍する皆様にも,役に立つ内容であると確信しています.
 ところで,小児理学療法は他の分野と比較して,わかりにくい,あるいは介入方法をイメージしにくい,といったご意見を聞くことがあります.小児理学療法は他の分野と異なり,失われた機能の再獲得ではなく,獲得以前の未熟な状態から,さまざまな介入により機能の向上,運動発達を促そうとするものです.小児理学療法のわかりにくさは,発達過程の詳細な理解なしでは習得できないという点にあると思われます.
 また,他の側面として,養成校における講義において,実際の理学療法対象児をイメージしにくいという点があると思われます.成人領域の理学療法では,学生同士で実習することも可能です.しかし,成人が1歳児のモデルとして演じることは不可能です.臨床実習に参加するまで,対象児に触れることはない場合がほとんどです.
 本書では,初めて小児理学療法を学ぶ方でも理解しやすいこと,運動発達の過程が詳細に解説されていること,そして実際の理学療法対象児のイメージを明確に伝えられること,これらの点に重きを置いて編集いたしました.
 本書の特徴としては,本文以外に「ここが重要」「つながる知識」など多くの側注を加えました.授業中に感じる疑問は,こうした解説を活用することで理解につながると思います.各章の最後には「アクティブラーニングのヒント」「演習課題」を加えました.章ごとにこれらを利用し,知識を整理することができます.そして,41本の動画が視聴可能となっています.正常発達,障害児の運動,理学療法介入方法などの動画は,小児理学療法のイメージ構築に大きく役立つと考えます.
 本書の持つさまざまな特色は,小児理学療法を学ぶ上で,大いに役立つものと考えます.卒業後も,本書を本棚の片隅においていただき,時おり見返していただけますと幸いです.
 2023年4月
 新田 收
 序文(新田 收)
 動画の視聴方法について
1章 運動発達の概要
 (新田 收)
 身体の形成
  1.発達
  2.身体の変化
  3.骨の分類
  4.化骨の過程
  5.大泉門
  6.関節軟骨・滑膜
  7.筋の構造
  8.筋の分類
  9.筋の発生
 運動発達
  1.姿勢制御の発達過程
  2.クローズドループ制御による運動
  3.オープンループ制御による運動
  4.姿勢反射
  5.姿勢反射の分類
  6.姿勢反射における刺激と反応
  7.粗大運動発達
  8.歩行獲得後の運動発達
  9.ボールキック動作の5パターン
  10.上肢機能の発達
  11.リーチの発達
  12.握りとつまみの発達
  13.操作の発達
  14.道具の握り方
  15.粗大運動と巧緻運動
2章 認知・行動のメカニズム
 (新田 收)
 感覚の発達
  1.感覚の分類
  2.知覚の過程
  3.運動感覚
  4.発達過程
  5.感覚受容器の成熟
  6.脳の変化
  7.平衡感覚
 運動模倣の発達
  1.運動イメージ
  2.運動イメージ構築過程
  3.運動に関連する脳活動の流れ
  4.遠心性コピー
  5.動作模倣
  6.運動学習
 空間認知の発達
  1.空間認知
  2.空間認知の発達
 認知の発達
  1.認知
  2.認知の発達
 摂食嚥下の発達
  1.成熟嚥下
  2.哺乳(乳児嚥下)
  3.哺乳・摂食にかかわる原始反射
  4.摂食機能の発達
  5.離乳初期の口の動き
  6.離乳中期の口の動き
  7.離乳後期の口の動き
 言語の発達
  1.構音のための機構
  2.構音の発達
  3.構音の置き換え
  4.言語の発達
 日常生活活動の発達
  1.排泄の発達
  2.更衣の発達
3章 発達にかかわる評価
 (儀間裕貴)
 Brazelton新生児行動評価(NBAS)
  1.概要
  2.対象・適応
  3.方法
  4.解釈
 PrechtlのGMs観察法
  1.概要
  2.対象・適応
  3.方法
  4.解釈
 Dubowitzの新生児神経学的評価法
  1.概要
  2.対象・適応
  3.方法
  4.解釈
 新版K式発達検査2001年版
  1.概要
  2.対象・適応
  3.方法
  4.解釈
 デンバー発達判定法(DENVERII)
  1.概要
  2.対象・適応
  3.方法
  4.解釈
 遠城寺式乳幼児分析的発達検査
  1.概要
  2.対象・適応
  3.方法
  4.解釈
 粗大運動能力尺度(GMFM)
  1.概要
  2.対象・適応
  3.方法
  4.解釈
 粗大運動能力分類システム(GMFCS)
  1.概要
  2.対象・適応
  3.方法
  4.解釈
 こどものための機能的自立度評価法(WeeFIM)
  1.概要
  2.対象・適応
  3.方法
  4.解釈
 子どもの能力低下評価法(PEDI)
  1.概要
  2.対象・適応
  3.方法
  4.解釈
4章 脳性麻痺概説
 (新田 收)
 脳性麻痺の定義と発症率
  1.日本における定義
  2.国際ワークショップにおける定義
  3.脳性麻痺の発症率
 脳性麻痺の発症原因
  1.発症原因の概要
  2.近年特徴的とされる発症原因
  3.脳室周囲白質軟化症(PVL)
  4.ビリルビン脳症
  5.生理的黄疸(新生児黄疸)
  6.早産児における慢性ビリルビン脳症発生機序
  7.ビリルビン脳症における臨床症状
 脳性麻痺の分類
  1.麻痺分類と発生頻度
  2.麻痺による分類(生理学的分類)
  3.部位による分類
  4.痙直型脳性麻痺
  5.痙直型脳性麻痺の分類
  6.アテトーゼ型(ジスキネジア型)脳性麻痺
  7.アテトーゼ型脳性麻痺の原因
  8.失調型脳性麻痺
 脳性麻痺の経年的変化
  1.痙直型脳性麻痺の経年的変化
  2.脊柱側弯の進行
  3.風に吹かれた変形
  4.アテトーゼ型脳性麻痺の経年的変化
  5.アテトーゼ型脳性麻痺の加齢による二次障害
5章 脳性麻痺の理学療法(1)
 (新田 收)
 評価
  1.運動発達
  2.姿勢反射検査
  3.動作分析
  4.障害構造
 プログラム立案
  1.ゴール設定
  2.心身機能に対するアプローチ
  3.日常生活動作に対するアプローチ
 年齢とプログラムの変更
 脳性麻痺に対する基本的理学療法
  1.ポジショニング
  2.抱き方
  3.マッサージ
  4.ストレッチ
  5.立ち直り反応の獲得過程
 GMFCSレベルVに対するプログラム
  1.重症度の定義
  2.関節可動域制限に対するプログラム
  3.頭部コントロールに対するプログラム
  4.寝返りに対するプログラム
  5.日常生活活動に対するプログラム
 GMFCSレベルIVに対するプログラム
  1.重症度の定義
  2.基本的理学療法
  3.腹這い移動・四つ這い移動に対するプログラム
  4.座位保持に対するプログラム
  5.起立に対するプログラム
  6.歩行に対するプログラム
  7.日常生活活動に対するプログラム
 GMFCSレベルIIIに対するプログラム
  1.重症度の定義
  2.基本的理学療法
  3.歩行までのプログラム
  4.片麻痺に対するプログラム
  5.両麻痺に対するプログラム
  6.アテトーゼ型に対するプログラム
 GMFCSレベルIIに対するプログラム
  1.重症度の定義
  2.基本的理学療法
  3.片麻痺に対するプログラム
  4.両麻痺に対するプログラム
 GMFCSレベルIに対するプログラム
  1.重症度の定義
  2.基本的理学療法
  3.動的バランスに対するプログラム
  4.協調運動に対するプログラム
  5.運動イメージに対するプログラム
6章 脳性麻痺の理学療法(2)
 (楠本泰士)
 痙縮治療の位置づけ
 服薬
  1.服薬の概要
  2.服薬前後の理学療法評価と介入
 ボツリヌス療法
  1.ボツリヌス療法の概要
  2.ボツリヌス療法前後の理学療法評価と介入
 選択的脊髄後根切除術(SDR)
  1.SDRの概要
  2.SDR前後の理学療法評価と介入
 バクロフェン髄注療法(ITB療法)
  1.ITB療法の概要
  2.ITB前後の理学療法評価と介入
 整形外科的手術
  1.整形外科的手術の概要
  2.股関節OSSCS
  3.膝関節授動術
  4.足関節OSSCS
  5.肩関節OSSCS,肘関節OSSCS
  6.整形外科的手術前後の理学療法評価と介入
 側弯に対する理学療法
  1.モビライゼーションとストレッチ
  2.装具療法
  3.シーティング
  4.ボツリヌス療法
  5.整形外科的手術
7章 脳性麻痺の理学療法(3)
 (米津 亮)
 福祉用具の位置づけ
 福祉用具の種類とその導入
  1.移動補助具
  2.下肢装具
  3.姿勢保持装置
8章 ライフサイクルに応じて必要とされるアプローチ,在宅でのアプローチ
 (松田雅弘)
 ライフサイクルに応じて必要とされるアプローチ
  1.新生児期
  2.乳幼児期
  3.学齢期
  4.青年期
 障害児(者)への行政サービス
  1.障害児の行政サービスの概要
  2.障害児に対する行政サービス
 学校教育
  1.就学前の支援
  2.特別支援学校
  3.特別支援級
  4.自立活動での理学療法士の取り組み
 地域・通所事業(デイサービス)
  1.児童発達支援
  2.放課後等デイサービス
  3.児童発達支援体制
  4.18歳以降の地域での通所支援体制
 訪問リハビリテーション
 就労サービス
  1.障害者の雇用の支援
  2.就労支援とリハビリテーション
 多職種での療育
  1.医師(小児科,内科,整形外科など)
  2.看護師
  3.作業療法士
  4.言語聴覚士
  5.義肢装具士(PO)・工房(エンジニア)
  6.公認心理師
  7.保育士・社会福祉士・介護福祉士
  8.教師
 制度の変遷
  障害児の療育の理念と変遷
9章 早産児・低出生体重児に対する理学療法
 (横山美佐子)
 新生児集中治療室と早産児・低出生体重児の現状
 新生児医療に関する用語
  新生児に関する一般的用語
 新生児の分類とそれに関する用語
  1.出生体重による分類
  2.在胎期間による分類
  3.臨床所見からの分類
  4.在胎週数と出生体重の両者からの分類
 早産児・低出生体重児の特徴
  1.新生児の特徴(早産児・低出生体重児を含む)
  2.早産児・低出生体重児の特徴
 脳と神経・呼吸器・循環器・運動器・感覚の胎児・新生児発達について
  1.脳と神経の発達
  2.呼吸器の発達
  3.循環器の発達
  4.自律神経系の発達
  5.運動器の発達
  6.感覚の発達
 早産児・低出生体重児によくみられる疾患
  1.中枢性疾患
  2.呼吸障害
 新生児に将来的に予想されるリスク
 早産児のケア
  1.ディベロップメンタルケア
  2.Alsの新生児個別発達ケア評価プログラム
  3.カンガルーケア
 早産児・低出生体重児に対する理学療法
  1.リスク管理
  2.ポジショニング
  3.呼吸理学療法
  4.哺乳指導
  5.運動発達の促進
  6.家族支援(子どもの状態の共通認識と子育てしやすい工夫)
  7.フォローアップ
  8.早期療育について
10章 重症心身障害児に対する理学療法
 (堀本佳誉)
 重症心身障害の概要
  1.定義
  2.原因
  3.全体的な障害像
  4.感覚機能の障害
  5.筋・骨格系の障害
  6.呼吸機能障害
  7.摂食嚥下機能障害
 大島の分類
 横地分類
 超重症児スコア
 画像評価
 重複障害に対する評価
  1.コミュニケーションの取り方
  2.ランドマークの触診
  3.感覚検査
  4.筋緊張検査
  5.形態測定
  6.関節可動域
  7.姿勢・動作観察
  8.呼吸機能評価
  9.摂食嚥下機能評価
  10.日常生活動作評価
 重複障害に対する理学療法
  1.考え方
  2.関節可動域の維持,改善
  3.ポジショニング
  4.呼吸理学療法
  5.摂食嚥下機能に対する介入
  6.能動的な運動,移動経験
 医療的ケア
11章 遺伝性疾患(デュシェンヌ型筋ジストロフィーなど)
 (松田雅弘)
 遺伝性疾患と遺伝子の基礎
  1.遺伝性疾患とは
  2.遺伝性疾患における神経筋疾患
 デュシェンヌ型筋ジストロフィー
 デュシェンヌ型筋ジストロフィーの特徴
  年齢別の運動機能の経過
 デュシェンヌ型筋ジストロフィーの評価
 デュシェンヌ型筋ジストロフィーの理学療法
  1.乳幼児期から幼児期前半(0〜5歳頃):最高機能の到達期(stage1)
  2.幼児期後半から学齢期前半(5〜9歳頃):機能後退〜進行期(stage1〜3)
  3.学齢期後半(9〜11歳頃):進行期・歩行可能〜歩行不能(stage3〜5)
  4.学齢期後半から高校生(11〜18歳頃):進行期・移動可能〜移動不能(stage5〜7)
  5.青年・成人期(18歳〜):進行末期・座位不能(stage7〜8)
  6.ポジショニング・シーティング
  7.総合的な支援にあたって
 その他の遺伝性疾患の理学療法
  1.ベッカー型筋ジストロフィー(BMD)
  2.顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSHD)
  3.肢帯型筋ジストロフィー(LGMD)
  4.先天性筋強直性ジストロフィー(CMyD)
  5.福山型先天性筋ジストロフィー(FCMD)
  6.脊髄性筋萎縮症(SMA)
12章 呼吸機能障害に対する理学療法(呼吸理学療法)
 (横山美佐子)
 呼吸機能障害に対する理学療法について
  1.呼吸リハビリテーションとは
  2.呼吸機能障害に対する理学療法
  3.小児における呼吸器系の解剖・生理学的特徴
  4.粗大運動と呼吸器の発達
  5.理学療法の適応となる小児の呼吸機能障害の病態評価
  6.呼吸機能の評価
  7.小児の呼吸機能障害に対する理学療法
  8.呼吸理学療法の中止基準とリスク管理
  9.病期の考え方
  10.管理・疾患別留意点
13章 二分脊椎の理学療法
 (松田雅弘)
 二分脊椎の概説
  二分脊椎の分類
 二分脊椎の特徴
  二分脊椎の障害
 二分脊椎の理学療法評価
 二分脊椎の理学療法
  1.二分脊椎のライフサイクルに合わせた理学療法アプローチ
  2.二分脊椎の特徴別の理学療法アプローチ
14章 ダウン症候群の理学療法
 (松田雅弘)
 ダウン症候群概説
  染色体異常とその原因
 ダウン症候群の特徴
  1.ダウン症候群の特徴的な症状と合併症
  2.ダウン症候群の発育の特徴と支援
  3.ダウン症候群の運動面の変化
  4.ダウン症候群の知的面の変化
 ダウン症候群の評価
  1.ダウン症候群の理学療法評価
  2.ダウン症候群のリスク管理
 ダウン症候群の理学療法
  1.ダウン症候群の理学療法の基本的な取り組み
  2.ダウン症候群の運動発達と理学療法アプローチ
  3.立位・つたい歩きでの運動発達
  4.ダウン症候群の特徴別の理学療法アプローチ
  5.歩行が可能になった後の身体的取り組み
  6.ダウン症候群の社会参加と成人以降
15章 発達性協調運動障害
 (新田 收)
 発達障害概説
  1.発達障害
  2.自閉症スペクトラム障害(ASD)
  3.注意欠如・多動性障害(ADHD)
  4.限局性学習障害(SLD)
  5.発達性協調運動障害(DCD)
 発達性協調運動障害概説
  1.発達性協調運動障害と隣接する疾患
  2.成長過程における発達性協調運動障害
 発達性協調運動障害の特徴
  1.感覚異常
  2.未熟な空間認知
  3.未熟な姿勢制御
  4.関節の弛緩性,扁平足
  5.協調運動障害
  6.未熟な運動イメージ
 発達性協調運動障害の評価法
  1.感覚の評価方法
  2.静的姿勢制御の評価方法
  3.動的姿勢制御の評価方法
  4.基本的協調運動の評価方法
  5.応用的協調運動の評価方法
  6.運動イメージの評価方法
 プログラム立案
  1.感覚に対するプログラム
  2.空間認知に対するプログラム
  3.客観的空間認知プログラム
  4.静的姿勢制御プログラム
  5.動的姿勢制御プログラム
  6.関節の安定性に対するプログラム
  7.協調運動に対するプログラム
  8.運動イメージに対するプログラム

 索引