やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 約20年ぶりに改正された「理学療法士作業療法士学校養成施設指定規則」では,臨床実習に関して「訪問または通所リハビリテーションに関する実習を1単位以上行うこと」との規定が追加されました.このことは,地域での理学療法の需要が増大し,卒前修学および臨床実習の充実が重視されていることを意味するものと考えられます.
 2020年には日本地域理学療法学会から「地域理学療法学」の定義が初めて示され,「地域理学療法学とは,動作や活動への多面的な働きかけにより人々が地域でのくらしを主体的につくりあげられるよう探究する学問」と記されています.人々の“動作“と“活動”を専門的な立場から捉えて,主体性を重視しつつ多面的に働きかけていくための知識や技術の習得が必要となります.地域療法学では対象者への個別の直接的な支援のみならず,間接的に貢献することも社会から求められます.言い換えると,陰で支える裏方役に徹することも役割となるでしょう.そのため,いわゆる“ハンズオフスキル”の習得が必要となります.
 また,実践においては,諸々の制度に準拠することが多いため,これらの制度が改正される度に対応する必要があります.一方で,これらの制度変化に左右されない,人々の“動作“と“活動”をあらゆる角度から捉えて多面的な支援を提案するための軸となる臨床思考が必要と考えます.地域理学療法学は,未確立な発展途上の領域と言えるかもしれませんが,確固たる手順書がないが故の面白さや奥深さ,理学療法による可能性の拡がりを感じることも少なくないと確信しています.
 本書では,地域理学療法に必要な制度のほか,評価手法や介入方法など,地域での実臨床を意識した項目を取り入れました.特に,訪問・通所・入所系のサービス種別ならびに疾患別によるそれぞれの軸からの地域理学療法が思考できるように構成しました.これらの項目の学修は,訪問または通所リハビリテーションに関する臨床実習に備えるうえでも有用な内容であると考えます.
 また,「アクティブ・ラーニング」を効果的に進めるための課題を各章で設定しました.主体的に考える力をもった人材は,受動的な教育の場では育成することができません.教員と学生が意思疎通を図って切磋琢磨し,相互に刺激を与えながら知的に成長する場を創り,学生が主体的に問題を発見し解を見いだしていく能動的学修(アクティブ・ラーニング)が必要であるとされています.
 本書が知識や技術の習得を目指す受動的な学びにとどまらず,地域で活躍でき,主体的に考える臨床思考力をもった人材を育む一助となることを願っています.
 最後に,本書の発刊にあたり,丁寧かつ真摯にご支援いただいた医歯薬出版の編集部諸氏,執筆をお引き受けくださった著者の方々に深く感謝の意を表します.
 2021年1月
 編者代表 牧迫飛雄馬
 序文(牧迫飛雄馬)
1 地域における理学療法士の役割
 (阿部 勉)
 わが国の社会保障制度
 地域理学療法と理学療法士の役割
2 介護保険制度の理解
 (小林聖美)
 対象者(介護保険の被保険者)の理解
 申請からサービス利用までの流れ
 保険給付(サービス)の理解
 区分支給限度額の理解
 介護保険制度利用例
3 地域理学療法に求められる医学的管理
 (平野康之)
 疾病(障害)像の変遷とリスク管理の重要性
 地域理学療法におけるリスク管理と情報収集
 リスク管理に必要な評価(検査)技術と機器
 地域理学療法の実践において知っておくべき医療処置
 地域理学療法におけるリスク管理の実践的活用
4 地域での理学療法評価
 (吉松竜貴)
 地域理学療法における評価の特徴
 「活動」の評価におけるポイント
 「参加」の評価におけるポイント
 地域理学療法評価のイメージ
5 サービス種別にみる地域理学療法の実際〈訪問理学療法〉
 (大沼 剛)
 訪問リハビリテーションサービスの提供元とその対象
 訪問リハビリテーションの特殊性
 訪問理学療法における目標設定
 訪問理学療法の実習において求められること
 利用者宅で測定可能な臨床評価
6 サービス種別にみる地域理学療法の実際〈通所系サービス〉
 (林 悠太)
 通所リハビリテーションと通所介護の概要
 制度の変遷からみた通所サービスの特徴
 通所リハビリテーション・通所介護における理学療法士の役割
 通所系サービスの実習において求められること
7 サービス種別にみる地域理学療法の実際〈入所系サービス〉
 (橋立博幸)
 入所系サービスの位置づけと高齢者が住まう主な施設または住居で提供されるサービス
 入所系サービスにおける理学療法の全般的な概要
 介護老人保健施設における理学療法の実際
 特別養護老人ホームにおける理学療法の実際
 有料老人ホームおよびサービス付き高齢者向け住宅における理学療法の実際
8 疾患別にみる地域理学療法の特異性〈中枢神経疾患〉
 (木山良二)
 在宅高齢者に多い中枢神経疾患
  1.脳卒中
  2.パーキンソン病
 在宅における理学療法の考え方
 理学療法評価
  1.脳卒中
  2.パーキンソン病
 目標設定の考え方
 理学療法の実際
 住環境の整備・ADL指導
9 疾患別にみる地域理学療法の特異性〈運動器疾患〉
 (飛山義憲)
 在宅高齢者に多い運動器疾患
 理学療法評価
 目標設定の考え方
 理学療法の実際
 理学療法介入のエビデンス
10 疾患別にみる地域理学療法の特異性〈循環器疾患〉
 (内山 覚)
 在宅高齢者に多い循環器疾患
 理学療法評価
 目標設定の考え方
 理学療法の実際
11 疾患別にみる地域理学療法の特異性〈がん〉
 (原 毅)
 日本人が多く罹患するがん疾患
 理学療法評価
 目標設定の考え方
 理学療法の実際
 がんサバイバーに対する理学療法介入
12 生活環境の整備
 (西條富美代)
 在宅生活における生活環境
 生活環境整備:物的要因
 事例からみる環境整備の方法
 生活環境整備における注意点
13 理学療法士による街づくり
 (阿久澤直樹)
 「街づくり」について
 地域支援事業と住民主体による介護予防
 理学療法士と「街づくり」
 「街づくり」にかかわる理学療法に必要な知識と心構え
14 小児領域の地域理学療法
 (楠本泰士)
 在宅に多い小児疾患
 理学療法評価
 目標設定の考え方
 理学療法介入
 制度の活用に向けて
15 地域における理学療法研究
 (石垣智也,尾川達也)
 地域理学療法におけるエビデンス構築の必要性
 地域における理学療法研究の展開に向けて
 事例報告の方法論

 索引