序文
リハビリテーション専門職である理学療法士・作業療法士が,なぜ「予防」を学ぶ必要があるのでしょうか.元来,rehabilitation(リハビリテーション)のre(リ)には,疾病や外傷などによって生じた障害を再び元の状態へと「回復」させるという意味があります.一方,「予防」は障害を発生させないことが目標となります.つまり,予防とリハビリテーションは対極に位置しており,両者を学ぶことに違和感を覚える方も多いのではないでしょうか.
わが国で,理学療法士法および作業療法士法が施行されたのは1965年,その翌年の1966年に日本の理学療法士・作業療法士が誕生しました.その後,日本の高齢者人口は約6倍へと増加し,当時では予想しえなかったようなレベルにまで医療技術が進歩することとなりました.このような社会の急速な変化に伴い,理学療法士・作業療法士に求められる役割・知識・技術も大きく変化することになります.そのなかで,特に変化が著しかったのが「回復」だけでなく「予防」を重視する考え方です.
これまで,理学療法士・作業療法士は体系的に予防を学ぶ機会が少なく,手探りの状態で予防を実践してきました.リハビリテーションで培ってきた障害の回復という専門性を基盤に,将来的に起こりうる障害をイメージしながら予防策を講じることができるという,理学療法士・作業療法士ならではの新たな予防戦略を見い出しました.この戦略は各方面からも評価されることとなり,現在では各予防領域においてリハビリテーション専門職の活躍が期待されるようになりました.このような背景を受け,2020年の養成施設指定規則改正において,理学療法士・作業療法士養成校における予防教育が義務づけられることになります.つまり,理学療法士・作業療法士を目指すうえで,「回復」だけでなく「予防」を適切に学ぶことが重視されることとなりました.
本書は,理学療法士・作業療法士を志す学生の皆さんに特化した「予防」を学ぶテキストです.一次から三次予防という基本的な概念の整理に始まり,運動・栄養・環境という主要な側面からの予防,さらには介護予防や産業分野での障害予防,感染予防まで幅広い情報を整理しました.特に初学者でも理解しやすいように,用語解説や重要ポイントをわかりやすく示すとともに,実際の予防現場の臨場感を味わえるように,事例紹介やコラムで様々な分野における「予防」を紹介しています.
最後に,理学療法士・作業療法士の根幹はあくまでリハビリテーションです.その体系的な知識を基盤に,予防活動を展開することを忘れないでいただきたいと思います.本書での学びがきっかけとなり,将来予防分野で活躍する理学療法士・作業療法士が誕生することを期待して.
2024年10月
編者を代表して
筑波大学人間系教授 山田 実
リハビリテーション専門職である理学療法士・作業療法士が,なぜ「予防」を学ぶ必要があるのでしょうか.元来,rehabilitation(リハビリテーション)のre(リ)には,疾病や外傷などによって生じた障害を再び元の状態へと「回復」させるという意味があります.一方,「予防」は障害を発生させないことが目標となります.つまり,予防とリハビリテーションは対極に位置しており,両者を学ぶことに違和感を覚える方も多いのではないでしょうか.
わが国で,理学療法士法および作業療法士法が施行されたのは1965年,その翌年の1966年に日本の理学療法士・作業療法士が誕生しました.その後,日本の高齢者人口は約6倍へと増加し,当時では予想しえなかったようなレベルにまで医療技術が進歩することとなりました.このような社会の急速な変化に伴い,理学療法士・作業療法士に求められる役割・知識・技術も大きく変化することになります.そのなかで,特に変化が著しかったのが「回復」だけでなく「予防」を重視する考え方です.
これまで,理学療法士・作業療法士は体系的に予防を学ぶ機会が少なく,手探りの状態で予防を実践してきました.リハビリテーションで培ってきた障害の回復という専門性を基盤に,将来的に起こりうる障害をイメージしながら予防策を講じることができるという,理学療法士・作業療法士ならではの新たな予防戦略を見い出しました.この戦略は各方面からも評価されることとなり,現在では各予防領域においてリハビリテーション専門職の活躍が期待されるようになりました.このような背景を受け,2020年の養成施設指定規則改正において,理学療法士・作業療法士養成校における予防教育が義務づけられることになります.つまり,理学療法士・作業療法士を目指すうえで,「回復」だけでなく「予防」を適切に学ぶことが重視されることとなりました.
本書は,理学療法士・作業療法士を志す学生の皆さんに特化した「予防」を学ぶテキストです.一次から三次予防という基本的な概念の整理に始まり,運動・栄養・環境という主要な側面からの予防,さらには介護予防や産業分野での障害予防,感染予防まで幅広い情報を整理しました.特に初学者でも理解しやすいように,用語解説や重要ポイントをわかりやすく示すとともに,実際の予防現場の臨場感を味わえるように,事例紹介やコラムで様々な分野における「予防」を紹介しています.
最後に,理学療法士・作業療法士の根幹はあくまでリハビリテーションです.その体系的な知識を基盤に,予防活動を展開することを忘れないでいただきたいと思います.本書での学びがきっかけとなり,将来予防分野で活躍する理学療法士・作業療法士が誕生することを期待して.
2024年10月
編者を代表して
筑波大学人間系教授 山田 実
序文(山田 実)
1章 予防医学の理解
(萩野 浩,和田 崇)
1 予防医学とは何か
2 一次予防,二次予防,三次予防
1.一次予防
2.二次予防
3.三次予防
3 ハイリスクアプローチ,ポピュレーションアプローチ
1.ハイリスクアプローチ
2.ポピュレーションアプローチ
3.健康日本21
4 理学療法・作業療法における予防の位置づけ
1.理学療法での予防の位置づけ
2.作業療法での予防の位置づけ
3.一次予防,二次予防での理学療法士・作業療法士のかかわり
4.介護予防事業でのかかわり
5.産業保健分野でのかかわり
5 予防と医療費抑制
1.医療費
2.医療費適正化計画
6 介護保険制度と予防
1.介護保険の仕組み
2.介護保険の利用
3.予防給付
mini test
2章 運動による予防
(上村一貴)
1 運動による予防の概要
1.運動・身体活動の目的と意義
2.運動・身体活動の歴史的変遷
3.運動・身体活動に関するリハビリテーション専門職のかかわり
4.運動・身体活動の効果
2 運動による予防のための評価
1.運動・身体活動の評価方法
2.質問紙による評価
3.加速度計による評価
3 運動による疾患・障害予防
1.一次予防
2.二次予防
3.三次予防
4 理学療法・作業療法の役割
mini test
3章 栄養による予防
(井上達朗)
1 栄養による予防の概要
1.栄養による予防の意義
2.栄養による予防の歴史的変遷
3.栄養による予防のリハビリテーション専門職のかかわり
2 栄養による予防のための評価
1.体重・BMI
2.骨格筋量
3.栄養スクリーニングツール
4.身体計測
5.栄養診断
3 栄養による疾患・障害予防
1.一次予防
2.二次予防
3.三次予防
4 理学療法・作業療法の役割
mini test
4章 環境による予防
(久米 裕,小玉鮎人)
1 環境による予防の概要
1.環境による予防の目的と意義
2.環境による予防の歴史的変遷
3.リハビリテーション専門職のかかわりと効果
2 環境による予防のための評価
3 環境による疾患・障害予防
1.一次予防
2.二次予防
3.三次予防
4 理学療法・作業療法の役割
mini test
5章 介護予防
(山田 実)
1 介護予防の概要
1.介護予防の目的と意義
2.介護予防の歴史的変遷
3.介護予防におけるリハビリテーション専門職の役割
2 介護予防の考え方
1.介護予防における目標の捉え方
2.介護予防における効果判定の考え方
3 介護予防の実際
1.介護予防の制度
2.介護予防のカテゴリ
3.介護予防のプログラム
4.介護予防の効果
mini test
6章 職場での予防
(岡部拓大)
1 職場での予防の概要
1.職場での予防の目的と意義
2.職場での予防の歴史的変遷
3.リハビリテーション専門職の役割
2 職場での予防の考え方
1.管理について
2.メンタルヘルス
3.筋骨格系障害
3 職場での予防の実際
1.メンタルヘルス
2.筋骨格系障害の予防
mini test
7章 感染症予防
(松嶋真哉)
1 感染症予防の概要
1.感染症予防の目的と意義
2.感染症予防の歴史的変遷
2 感染症予防の考え方
1.感染症が成立する要因
2.感染症予防の基本
3.予防接種
4.院内感染対策
3 標準予防策の実際
1.手指衛生
2.個人防護具
3.周辺環境整備
4.患者配置
mini test
事例紹介─臨床での予防への取り組み
自治体における予防の取り組み─兵庫県芦屋市と神戸市(永井宏達)
自治体における予防の取り組み─鹿児島県垂水市(田平隆行,牧迫飛雄馬・他)
企業とのかかわり─従業員の健康を守る予防アプローチ(木村圭佑)
生活環境に対する予防アプローチ(久米 裕,小玉鮎人)
Column
薬物による予防(萩野 浩)
予防給付と健康日本21の理解(永井宏達)
他機関・多職種との連携(成田悠哉)
スポーツ外傷・障害の予防(小松 稔)
スポーツ障害における再発予防(大路駿介)
運動器健診(飛山義憲)
認知機能低下における予防(池田由里子)
高齢者の入院関連能力障害の予防(小山真吾)
アパシーにおける予防(下木原 俊)
高齢期うつ病における予防(丸田道雄)
人工関節置換術後のフレイル予防(三栖翔吾)
ウィメンズヘルス(森野佐芳梨)
骨折リエゾンサービス(筧 智裕)
パラスポーツにおける予防(大路駿介)
索引
1章 予防医学の理解
(萩野 浩,和田 崇)
1 予防医学とは何か
2 一次予防,二次予防,三次予防
1.一次予防
2.二次予防
3.三次予防
3 ハイリスクアプローチ,ポピュレーションアプローチ
1.ハイリスクアプローチ
2.ポピュレーションアプローチ
3.健康日本21
4 理学療法・作業療法における予防の位置づけ
1.理学療法での予防の位置づけ
2.作業療法での予防の位置づけ
3.一次予防,二次予防での理学療法士・作業療法士のかかわり
4.介護予防事業でのかかわり
5.産業保健分野でのかかわり
5 予防と医療費抑制
1.医療費
2.医療費適正化計画
6 介護保険制度と予防
1.介護保険の仕組み
2.介護保険の利用
3.予防給付
mini test
2章 運動による予防
(上村一貴)
1 運動による予防の概要
1.運動・身体活動の目的と意義
2.運動・身体活動の歴史的変遷
3.運動・身体活動に関するリハビリテーション専門職のかかわり
4.運動・身体活動の効果
2 運動による予防のための評価
1.運動・身体活動の評価方法
2.質問紙による評価
3.加速度計による評価
3 運動による疾患・障害予防
1.一次予防
2.二次予防
3.三次予防
4 理学療法・作業療法の役割
mini test
3章 栄養による予防
(井上達朗)
1 栄養による予防の概要
1.栄養による予防の意義
2.栄養による予防の歴史的変遷
3.栄養による予防のリハビリテーション専門職のかかわり
2 栄養による予防のための評価
1.体重・BMI
2.骨格筋量
3.栄養スクリーニングツール
4.身体計測
5.栄養診断
3 栄養による疾患・障害予防
1.一次予防
2.二次予防
3.三次予防
4 理学療法・作業療法の役割
mini test
4章 環境による予防
(久米 裕,小玉鮎人)
1 環境による予防の概要
1.環境による予防の目的と意義
2.環境による予防の歴史的変遷
3.リハビリテーション専門職のかかわりと効果
2 環境による予防のための評価
3 環境による疾患・障害予防
1.一次予防
2.二次予防
3.三次予防
4 理学療法・作業療法の役割
mini test
5章 介護予防
(山田 実)
1 介護予防の概要
1.介護予防の目的と意義
2.介護予防の歴史的変遷
3.介護予防におけるリハビリテーション専門職の役割
2 介護予防の考え方
1.介護予防における目標の捉え方
2.介護予防における効果判定の考え方
3 介護予防の実際
1.介護予防の制度
2.介護予防のカテゴリ
3.介護予防のプログラム
4.介護予防の効果
mini test
6章 職場での予防
(岡部拓大)
1 職場での予防の概要
1.職場での予防の目的と意義
2.職場での予防の歴史的変遷
3.リハビリテーション専門職の役割
2 職場での予防の考え方
1.管理について
2.メンタルヘルス
3.筋骨格系障害
3 職場での予防の実際
1.メンタルヘルス
2.筋骨格系障害の予防
mini test
7章 感染症予防
(松嶋真哉)
1 感染症予防の概要
1.感染症予防の目的と意義
2.感染症予防の歴史的変遷
2 感染症予防の考え方
1.感染症が成立する要因
2.感染症予防の基本
3.予防接種
4.院内感染対策
3 標準予防策の実際
1.手指衛生
2.個人防護具
3.周辺環境整備
4.患者配置
mini test
事例紹介─臨床での予防への取り組み
自治体における予防の取り組み─兵庫県芦屋市と神戸市(永井宏達)
自治体における予防の取り組み─鹿児島県垂水市(田平隆行,牧迫飛雄馬・他)
企業とのかかわり─従業員の健康を守る予防アプローチ(木村圭佑)
生活環境に対する予防アプローチ(久米 裕,小玉鮎人)
Column
薬物による予防(萩野 浩)
予防給付と健康日本21の理解(永井宏達)
他機関・多職種との連携(成田悠哉)
スポーツ外傷・障害の予防(小松 稔)
スポーツ障害における再発予防(大路駿介)
運動器健診(飛山義憲)
認知機能低下における予防(池田由里子)
高齢者の入院関連能力障害の予防(小山真吾)
アパシーにおける予防(下木原 俊)
高齢期うつ病における予防(丸田道雄)
人工関節置換術後のフレイル予防(三栖翔吾)
ウィメンズヘルス(森野佐芳梨)
骨折リエゾンサービス(筧 智裕)
パラスポーツにおける予防(大路駿介)
索引














