やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第2版の序文
 2020年4月に改正「理学療法士作業療法士学校養成施設指定規則」が施行された.この久方振りの指定規則改正では,より質の高い理学療法士を輩出するため,保健・医療・福祉に関する制度の理解,組織運営に関する管理・マネジメント能力を養うとともに,理学療法倫理・教育についても理解を深めることが求められることになった.それらの内容を包含する科目名として「理学療法管理学」が新設され,職場管理,理学療法士教育,職業倫理が必須化された.本指定規則施行に先立ち,理学療法管理学の教材として奈良 勲編著者代表のもとに『理学療法管理学』が発刊された(2018年12月).そして,今回の改訂では編著者代表を筆者が務めることになった.
 今回の指定規則改正に基づき国家試験出題基準においては,職業倫理(コンプライアンス,法令遵守,プロフェッショナリズム,行動規範),職場管理(情報管理,多職種連携,安全管理,労務管理,人事考課,労働衛生管理),教育(理学療法士教育の歴史,学習内容,キャリア支援,生涯学習,教育学),法規・関連制度(社会保険制度,医療保険,介護保険等)が定められている.従来,リハビリテーション概論や理学療法概論の講義で教授されていた項目より幅広い内容が求められるようになった.
 第2版の改訂にあたっては,改正された指定規則,2024年版国家試験出題基準に則し,さらに地域施設実習の内容から地域活動のマネジメントを加えて,章立てを次のように構成した.第1章 管理・マネジメントの概観,第2章 職業倫理,第3章 組織とマネジメント,第4章 職場管理,第5章 理学療法業務のマネジメント,第6章 教育・キャリアのマネジメント,第7章 理学療法管理と教育学,第8章 地域活動のマネジメント,第9章 関連制度の9章立てとした.
 本書は,理学療法士を目指す学生に管理・マネジメントとは何かを教授するものであり,マネジメント能力・コミュニケーション能力を高めるためには,各領域で用いられる専門用語を正しく理解でき,話し・伝えることができることを重視した.編集にあたり,執筆者に担当領域での重要語句の解説をお願いし,本文欄外にサイドメモとして加えた.
 なお,本書では初版同様,引用文献,法律用語で使用されている「訓練・障害・障害者」を除き,「障害」は「障がい」,また,国際生活機能分類(ICF)に準じた用語,「臨床実習指導者」は「臨床実習教育者」等を引き続き使用していることを付記しておく.
 2024年11月
 編著者代表 橋元 隆


初版の序文
 日本において理学療法学教育が3年制各種学校として開始されたのは,1963年である.当初の指定規則(カリキュラム)は,科目ごとに時間数で定められており,その後,6回改正されてきた.1999年には教育の規制緩和の一環として「大綱化」と称し,時間数から単位制度になった.これは教育制度間の垣根を超えて,専修学校から大学への編入や大学院への進学に際して,互換性をもたせることに資することであった.それから19年ぶりとなる2018年10月に,「理学療法士作業療法士学校養成施設指定規則」(カリキュラム)が新たに改正され,2020年4月から施行される.これは,前回の改正の意図を踏まえながらも,理学療法士に求められる資質のさらなる向上を目的にしている.
 前回のカリキュラムの総単位数は93であり,基礎分野14,専門基礎分野26,専門分野53(うち臨床実習18単位)であった.今回の改定で総単位数は101となり,基礎専門14,専門基礎分野30,専門分野57(うち臨床実習20単位)となった.専門分野のなかに「理学療法管理学」が2単位追加され,専門基礎分野の科目のなかで予防に関連しても教授されることになった.現在の大学では124単位以上が卒業要件であるが,3年間の教育で101単位を履修するためには,各期に16.8単位の履修が必要になり,教育活動は極めて苛酷な状況になろう.なお,2019年度には新たに4年制「専門職大学」が設置される予定であり,その成果が期待される.
 本書を発刊する意図は,新たな科目として加わった「理学療法管理学」の教材として,初学者が学習しておく必要のある事項を考慮して整理することである.これまでも理学療法管理に関する知識は,「理学療法概論」のなかで教授されていた.しかし,本書では,狭義の「管理」だけではなく,その概念と方法論とを広義に理解・認識することで,将来的に理学療法士として,それぞれの現場で活動する際にも活かされることに配慮した.さらに,理学療法学教育に関連した事項も含めたのは,専門分野では教育水準が基盤となって学術や職能の発展につながるからである.
 なお,本書では引用文献,法律用語などを除き,「訓練・障害・障害者」の使用を控え国際生活機能分類(ICF)に準じた用語を使用していることを付記しておく.
 2018年11月
 編著者代表 奈良 勲
第1章 管理・マネジメントの概観─理学療法士の視座から─
 1 理学療法士を取り巻く状況(奈良 勲)
  (1)理学療法士の法律と定義および国際生活機能分類
  (2)理学療法士と管理・マネジメント
  (3)健康の定義
 2 理学療法士と管理・マネジメント(奈良 勲)
  (1)管理の類似用語の意味と概念
  (2)マネジメントの哲学的原則
  (3)仕事の哲学
  (4)理学療法士の使命
第2章 職業倫理
 1 職業倫理とコンプライアンス(法令遵守)(大峯三郎)
  (1)医療における倫理観とその背景
  (2)専門職に求められる時代に即した倫理観
  (3)理学療法士に求められる倫理観(道徳観)
  (4)理学療法士の臨床研究における倫理観(ヘルシンキ宣言と利益相反)
  (5)コンプライアンス(法令遵守)
  (6)インフォームドコンセントと自己決定権
 2 職業倫理とプロフェッショナリズム,プロフェッション(大峯三郎)
  (1)プロフェッショナリズムの概念の成立とその背景
  (2)プロフェッショナリズムの定義
  (3)プロフェッションの概念と定義
  (4)理学療法士の専門性
 3 行動規範とハラスメント
  (1)「規範」とは?(橋精一郎)
  (2)ハラスメント(橋精一郎)
  (3)ハラスメント対策(橋精一郎)
  (4)哲学・倫理学的思考のポイント(堀 寛史)
第3章 組織とマネジメント
 1 組織とは(橋元 隆・友田秀紀)
  (1)組織とは
  (2)組織構造の種類
 2 組織マネジメント ―ヒト・モノ・経済性の管理―(橋元 隆・友田秀紀)
  (1)組織マネジメント(1):ヒトの管理
  (2)組織マネジメント(2):モノの管理
  (3)組織マネジメント(3):経済性の管理
 3 理学療法士組織とマネジメント
  (1)公益社団法人日本理学療法士協会(JPTA)の活動と関連団体との連携(白石 浩)
  (2)国際的な理学療法士組織(内山 靖)
 4 病院組織のマネジメントと理学療法士の役割(友田秀紀・橋元 隆)
  (1)病院組織とは
  (2)医療機能の分化とチーム医療
  (3)理学療法士の役割と部門間連携
 5 理学療法部門のマネジメント(友田秀紀・橋元 隆)
  (1)良好な人間関係を築くために
  (2)労務管理
第4章 職場管理
 1 情報のマネジメント(坂崎浩一)
  (1)診療記録
  (2)書類管理
  (3)個人情報保護
  (4)情報セキュリティ
 2 多職種連携のマネジメント―基本と実践例(院内)(立丸允啓・小泉幸毅)
  (1)多(他)職種連携とは
  (2)チーム医療における理学療法士の役割
  (3)多職種連携を支えるコミュニケーション業務
  (4)他職種との業務調整
  (5)他職種とのコンフリクトマネジメント
 3 労働衛生のマネジメント(立丸允啓・友田秀紀・小泉幸毅)
  (1)労働衛生とは
  (2)健康管理
  (3)環境管理
  (4)作業管理
 4 セルフマネジメント(橋元 隆)
  (1)セルフマネジメントの必要性
  (2)時間の管理
  (3)ストレスの管理
  (4)感情のコントロール
  (5)健康の管理
第5章 理学療法業務のマネジメント
 1 医療におけるリスクマネジメント(廣滋恵一)
  (1)医療安全
  (2)インシデントとアクシデント
 2 理学療法におけるリスクマネジメント(廣滋恵一)
  (1)患者安全とリスクマネジメント
  (2)理学療法関連のアクシデント事例
  (3)理学療法関連のインシデント(ヒヤリハット)事例
  (4)人的ミス(ヒューマンエラー)の予防対策
 3 感染対策とマネジメント(廣滋恵一)
  (1)医療関連感染(院内感染)
  (2)感染経路
  (3)標準予防策(standard precaution)
  (4)個人防護具(personal protective equipment:PPE)
  (5)手指衛生
 4 機器・設備のマネジメント(廣滋恵一)
  (1)病棟・リハビリテーション室の安全性
  (2)機器の保守点検・配置
  (3)点検時期による分類
  (4)理学療法関連機器等の保守点検
第6章 教育・キャリアのマネジメント
 1 理学療法士教育の歴史(橋元 隆・石橋敏郎)
  (1)理学療法士教育の歴史的変遷
  (2)理学療法士の量から質への変換
  (3)「理学療法士作業療法士学校養成施設指定規則」改正の概要
 2 理学療法管理学の学習内容(橋元 隆・石橋敏郎)
  (1)なぜ理学療法管理学が必要か
  (2)理学療法の質とは何か
 3 キャリア支援(神戸晃男)
  (1)キャリアデザインの背景
  (2)キャリアとは,語源・定義
  (3)キャリアデザインとビジョン・目標
  (4)アイデンティティ(実己実現)の定義
  (5)キャリア・アンカー
  (6)仕事意識
 4 生涯学習(神戸晃男)
  (1)生涯学習
  (2)理学療法士の臨床教育
  (3)日本理学療法士協会の生涯学習制度(登録・認定・専門理学療法士)
  (4)認定・専門理学療法士の更新
  (5)レジデント制度
 5 キャリアアップの実践
  (1)学会・研修会(今屋 健)
  (2)大学・大学院(立丸允啓)
  (3)留学・国際活動(市川泰朗)
  (4)女性のライフイベントと働き方(神ア良子)
  (5)産業理学療法(藤村昌彦)
  (6)パラスポーツトレーナーとしてのキャリアマネジメント(安田知子)
第7章 理学療法管理と教育学
 1 教育とは(石橋敏郎)
  (1)教育原理の理解
  (2)理学療法士を目指す学習者に対する教育のあり方
  (3)理学療法士を養成する教育者の条件
  (4)理学療法士を目指す学習者に対する理想的な教育
  (5)理学療法士を目指す学習者との理想的な関わり方
 2 教育心理学(石橋敏郎)
  (1)教育過程
  (2)学習理論
  (3)記憶
  (4)動機づけ
 3 教授方法(石橋敏郎)
  (1)理学療法士を目指す学習者に対する効果的な教授方法
  (2)専門職を目指す学習者に対する新たな教授方法
 4 教育評価(石橋敏郎)
  (1)教育評価の主体
  (2)教育評価の内容
  (3)教育評価の目的
  (4)教育評価の方法
  (5)教育評価への心理学的影響
  (6)評価結果の活用
  (7)新しい教育評価方法
  (8)教育者の使命
 5 障がい児教育(奥田憲一)
  (1)特殊教育から特別支援教育への移行
  (2)特別支援教育とは
  (3)特別支援教育と理学療法士
 6 教育管理の課題
  (1)学生のメンタルヘルス・マネジメント(山本大誠)
  (2)学生主体のボランティア活動を介した地域への貢献(木林 勉)
第8章 地域活動のマネジメント
 1 地域包括ケア(平岩和美)
  (1)背景と目的・理念
  (2)方法
  (3)地域課題に対するマネジメント
 2 地域リハビリテーション(平岩和美)
  (1)地域リハビリテーションとは
  (2)対象と評価
 3 地域における多職種連携(平岩和美)
  (1)地域ケア会議
  (2)地域における理学療法士の役割
 4 地域活動の実践
  (1)介護老人保健施設(奈良和美)
  (2)介護老人福祉施設(合田明生)
  (3)通所リハビリテーション・通所介護(横川正美)
  (4)訪問リハビリテーション,訪問介護(重森健太)
  (5)行政の立場から(久保かおり)
  (6)災害時支援のマネジメント(日野敏明)
第9章 理学療法に関連する法律と制度
 1 医療を支える法律・制度の基礎知識(橋元 隆)
  (1)社会保障制度
  (2)医療法
  (3)医療圏
 2 医療保険制度(橋元 隆)
  (1)医療保険とは?
  (2)保険医療機関
  (3)保険診療の流れ
  (4)診療報酬
  (5)施設基準
 3 介護保険制度(橋元 隆)
  (1)制度の概要と対象者
  (2)要介護認定
  (3)介護サービスの種類
  (4)サービス計画と費用負担
  (5)入所サービス
  (6)介護予防・日常生活支援総合事業
  (7)介護保険と理学療法士
 4 理学療法に関連する法律と制度(橋元 隆)
  (1)障害者総合支援法
  (2)身体障害者福祉法
  (3)発達障がい児関連制度
  (4)精神障がい者関連制度
  (5)雇用制度

 参考文献
 索引