第4版の序文
学生教育の現場から離れて教科書の再版を執筆することは難しい.このたびの第4版は新潟リハビリテーション大学の非常勤講師の立場から書き進められたことは幸運なことであった.
第1章の「社会リハビリテーション」の中に,障害者の能力を最大限発揮し,適性に応じて働く機会があれば,自立生活あるいは共生社会の現実的な一歩になると思い,「障害者雇用促進法」について少し触れた.第2章では2022(令和4)年に実施された「生活のしづらさなどに関する調査」結果が2024(令和6)年5月に発表されたことから,障害者に関する統計数値をこれに準拠した.さらにHIV感染症になぜ社会リハビリテーションが必要かと,2030年終息目標にふれた.第5章の「歩行練習」の中で,ロボットスーツHALについて言及した.第6章のライフステージにおける障害特性の中で,遺伝的に規定されている「気質」に対して,乳幼児期の環境によって形成される行動特性を恣意的に「気性」と定義した.学術的に不適切であるが,これは「三つ子の魂百まで」という内容を軽い気持ちで表現しただけである.第7章の「アルツハイマー型認知症」のところで,アミロイドβを除去する「レカネマブ」と「ドナネマブ」について言及した.第9章の脊髄損傷では,2018年の外傷性脊髄損傷の疫学調査結果を記載した.1990年代の疫学と比べて,高齢社会を反映して全く異なった報告になっている.またASIAの神経学的評価表の最新版を掲載した.第10章の神経筋疾患では,不治の病とされていた筋萎縮性側索硬化症に対して遺伝子治療薬の「トフェルセン」,脊髄性筋萎縮症に対して「リスジプラム」が保険薬として承認あるいは承認申請がなされており,希望の光が見えてきた.第11章の運動器疾患では,実は骨リモデリングで骨細胞が骨芽細胞と破骨細胞を制御していることに触れた.関節リウマチの項目では,長年見慣れていた白鳥の首や,ボタン穴変形が手指伸筋腱皮下断裂による可能性が高いことを書き加えた.第14章の肢体不自由児では,これまでアテトイド型脳性麻痺(CP)という用語を使ってきた.米国ではathetoidで別名dyskinetic CPが一般的な術語である.これはCPの不随意運動はアテトーゼ,ジストニア,ヒョレアの組合せであるということに基づいている.しかし学会や国家試験ではアテトーゼ型が定着していることから,本書ではこの用語に統一した.二分脊椎の胎児脊髄髄膜瘤手術についても一言加えた.第16章の担がん患者では,化学療法の進歩である免疫チェックポイント阻害薬,分子標的薬,がんゲノム医療について簡単に記述した.第18章の災害医学では,2023(令和5)年に災害関連死の統計が内閣府から発表されたので,これを付け加えた.
老眼もあり今回はPDFソフトを使い初稿を拡大してチェックした.訂正線,挿入線,検索語の下線,さらに執筆・校正文章と入り乱れる原稿を,小口真司氏が丁寧に編集してくださり,深く感謝いたします.
2024年9月 栢森良二
第3版の序文
この度「学生のためにリハビリテーション医学概論」の第3版を出版することができた.これもひとえに本書を使って講義をされている先生方のご支援のお陰である.2015年に第2版を出版してから5年経過した.今回の主な改訂点は筆者が帝京平成大学で行っている講義内容に近い形にして,理学・作業療法士,言語聴覚士,看護師,特別支援学校教諭,認定心理師を目指す学生が国家試験の準備ができるような教科書を目指した.索引の用語を和文,欧文ともに充実させることで,索引を容易にできるように心がけた.
第1章「リハビリテーションの理念」ではリハビリテーション(以下,リハとする)の4つの側面の中で,社会生活力を高める社会リハの発展,さらに発達障害児のカテゴリーが法制度に位置づけられたことから教育リハの発展を短く概観した.第2章「リハビリテーションの対象と障害者の実態」では,内部障害について解説し,とくに腎不全に伴う透析導入適応の基準,指定難病の項目を書き加えた.第3章「障害の階層とアプローチ」では,WHOの3つのファミリー,2019年5月から導入されている国際疾患分類ICD-11について記述した.国際障害分類(ICIDH)で使われてきた能力低下,社会的不利の用語を国際生活機能分類(ICF)で用いられている活動制限,参加制約の用語と併記したり,変更したりした.これは個別な障害者を対象としている,生物医学的リハでは病気から始まる階層性のあるICIDHは捨て去ることはできないためである.一方,社会,教育,職業リハビリテーションの観点から障害をみて,社会参加を促進するICFも重要である.リハ医療に携わる者には,ICIDHとICFは対立しているが,互いに排除するものではない.両者の考え方の根本を理解する必要がある.第4章「リハビリテーション評価学」には改訂日本版デンバー式発達スクリーニング検査,遠城寺式乳幼児分析的発達検査の2つを加えた.第5章「リハビリテーション治療学」にリンパ浮腫,認知行動療法を加え,第7章として「高齢者のリハビリテーション」を新たに加え,健康寿命,サルコペニア,フレイルなどを解説した.第9章「脊髄損傷のリハビリテーション」では国試に最も頻出されるC6脊髄損傷患者のADLのプッシュアップ,ベッドへの移乗,除圧,装具について記述した.第10章「神経筋疾患のリハビリテーション」には自律神経の機能と分類と脳の神経伝達物質を加えた.従来,発達障害の中にあった肢体不自由児のリハを第14章「肢体不自由児のリハビリテーション」として独立させた.また,改正発達障害者支援法の成立に伴い,発達障害者の定義が明確になったことから,第15章に「発達障害児・者のリハビリテーション」を設けた.第16章「担がん患者のリハビリテーション」では,成人がんばかりでなく,小児がん,AYA世代のがん,さらにがんサバイバーシップについて付け加えた.第17章には五大疾患の1つになった「精神障害の基礎事項」を,第18章には「災害医学とリハビリテーション」を新たに設けた.トリアージ,START法,一次救命処置,心理的応急処置について簡単に記述した.
第3版ではMみなみ氏が,盛りだくさんの内容を要領よく編集してくださり,本書があまりかさ張らないようになったことに,深謝したい.
2020年1月 栢森良二
第2版の序文
本書を使って講義をしてくださっている先生方から,本書の記述に誤りがあるとの指摘を頂いた.診療報酬の改定があり,理学療法,作業療法,言語療法の1単位あたりの保険点数は年々変化している.さらに障害者に関する人口構成,障害者数,死亡率の経時的変化などがあり,第2版へ改訂することを医歯薬出版にお願いした.
筆者は2014(平成26)年3月に帝京大学医学部リハビリテーション科を定年退職し,4月から帝京平成大学健康メディカル学部に移った.医学生の教育から,リハビリテーション関連職である理学療法士,作業療法士,言語聴覚士をはじめ,社会福祉士,鍼灸師,柔道整復師,臨床心理士,管理栄養士,看護師を目指す学生たちの教育にシフトした.実際に講義をして,リハビリテーション医学はもちろんのこと,神経学,運動器学などの各論を少し充実し,画像診断や地域リハビリテーションの一部を加える必要があると感じ,第2版に書き加えている.
少子高齢化社会においてリハビリテーション医学・医療はますます重要になっている.リハビリテーション施策の基礎になっている資料が,厚生労働省からの各種の委員会や調査報告書として出ている.これらの資料は,同時にリハビリテーション医学・医療の学術的な基礎資料となっていることから,インターネットによる資料を多用した.それらを含め本書では最新の内容に更新している.第2章の「リハビリテーションの対象と障害者の実態」では,従来5年おきに実施していた障害者の実態調査は2011(平成23)年には実施できず,身体障害者手帳所持者数からの調査になっている.さらに第7番目の内部障害である肝臓機能障害が加わっている.第4章の「リハビリテーション評価学」では,小脳機能障害,感覚障害,さらに身体障害者手帳診断書・意見書,障害高齢者の日常生活自立度判定基準,介護保険の主治医意見書を加えた.第5章の「リハビリテーション治療学」では,心不全のNYHA分類,誤嚥性肺炎,3つの介護施設と高齢者の住まいについて書き加えた.第6章の「ライフステージにおける障害特性」では,サリドマイド胎芽症,乳児揺さぶられ症候群,自殺死亡の最多年齢層,死因年次推移,正常圧水頭症,高齢者の寝たきりの原因,高齢者の虐待の項目を付け加えた.第7章の「脳損傷のリハビリテーション」では,SPECTの項目を付け加えた.第8章の「脊髄損傷のリハビリテーション」では脊髄ショックの項目を付け加えた.第9章の「神経筋疾患のリハビリテーション」では,マシャド・ジョセフ病のびっくり眼,筋力低下のダイアグラム,糖尿病ニューロパチー,シャルコー・マリー・トゥース病,手根管症候群,ギラン・バレー症候群の項目を付け加えた.第10章の「運動器疾患のリハビリテーション」では,骨代謝,骨粗鬆症の薬物療法,関節の構造,発育性股関節形成不全,ペルテス病の項目を付け加えた.第11章の「心肺疾患のリハビリテーション」では,狭心症の病態,下肢慢性動脈閉塞症,動脈血ガス圧(Torr)について付け加えた.
初版編集者の齋藤和博氏の突然の訃報に接し,改訂作業は頓挫すると思われた.小口真司氏がこの状況から救って頂き,第2版の出版までこぎ着けたことに,深謝したい.
2014年12月 栢森良二
序文
本書はリハビリテーション医学を初めて学ぼうとする人々を対象としている.すなわち医学生,看護学生,理学療法士,作業療法士,あるいは言語聴覚士をめざしている人々,社会福祉を学んでいる人々,臨床心理士をめざしている人々などである.
リハビリテーション医学の教科書は,内科学や外科学と同様に膨大な分量に及んできている.しかも余りに専門的内容のために,臨床経験がないとその内容は無味乾燥で,通読することが難しくなっている.本書はリハビリテーション医学を系統的に理解できる基礎的な教科書をめざしたものである.
リハビリテーション医学・医療が対象としている障害者は,医学の発展にともなって,複数の併存疾患をもつ高齢者や,難病を抱える人々が多くなり,社会的に自立生活を営むことが一層困難になっている.これらの障害者に立ち向かうために求められる要素は,第1に障害者復権の哲学,第2に社会復帰をめざす目標,さらに第3に,その「目標」を実現するためのリハビリテーション技術である.また具体的にリハビリテーション医療者に求められる知識は,病気に対する集学的アプローチと障害者に対する評価や治療アプローチである.また広範な社会福祉に関する知識も必要になる.
本書の総論部分は,第1章「リハビリテーション医学の理念と3つの源流」,第2〜3章は「リハビリテーションの対象と障害者の実態,障害の階層とアプローチ」,第4〜5章では「評価学,治療学」などから構成されている.また第6章に「ライフステージにおける障害特性」を総論として加えた.総論に多くの紙面を割いた.各論は第7〜13章で,「脳損傷」「脊髄損傷」「神経筋疾患」「運動器疾患」「心肺疾患」「発達障害」「担がん患者のリハビリテーション」から構成されており,これらの記述は最小限にとどめた.また,医師国家試験に医学英語が出題されるようになったことから,できるだけリハビリテーション医学用語に英語併記を行った.
帝京大学医学部,看護学校,医療技術学部,早稲田大学第2文学部や文化構想学部,新潟医療福祉大学,国立障害者リハビリテーションセンター学院で,著者が実際に学生に講義した内容を教科書としてまとめたものである.また多くの内容は著者自身がリハビリテーション研修医,あるいは専門医初期(20〜30年前)に勉学したメモを基にしている.このために引用および参考文献を失念し,欠落が多い.これらの文献著者の先生に陳謝し,ここに引用させていただくことを深謝したいと思います.
本書がリハビリテーション医学の理念と技術,障害者の理解に少しでも役立てば著者の望外の喜びである.
本書執筆に際して労をとっていただいた医歯薬出版の齋藤和博氏に,この場を借りて感謝したい.
2011年3月 栢森良二
学生教育の現場から離れて教科書の再版を執筆することは難しい.このたびの第4版は新潟リハビリテーション大学の非常勤講師の立場から書き進められたことは幸運なことであった.
第1章の「社会リハビリテーション」の中に,障害者の能力を最大限発揮し,適性に応じて働く機会があれば,自立生活あるいは共生社会の現実的な一歩になると思い,「障害者雇用促進法」について少し触れた.第2章では2022(令和4)年に実施された「生活のしづらさなどに関する調査」結果が2024(令和6)年5月に発表されたことから,障害者に関する統計数値をこれに準拠した.さらにHIV感染症になぜ社会リハビリテーションが必要かと,2030年終息目標にふれた.第5章の「歩行練習」の中で,ロボットスーツHALについて言及した.第6章のライフステージにおける障害特性の中で,遺伝的に規定されている「気質」に対して,乳幼児期の環境によって形成される行動特性を恣意的に「気性」と定義した.学術的に不適切であるが,これは「三つ子の魂百まで」という内容を軽い気持ちで表現しただけである.第7章の「アルツハイマー型認知症」のところで,アミロイドβを除去する「レカネマブ」と「ドナネマブ」について言及した.第9章の脊髄損傷では,2018年の外傷性脊髄損傷の疫学調査結果を記載した.1990年代の疫学と比べて,高齢社会を反映して全く異なった報告になっている.またASIAの神経学的評価表の最新版を掲載した.第10章の神経筋疾患では,不治の病とされていた筋萎縮性側索硬化症に対して遺伝子治療薬の「トフェルセン」,脊髄性筋萎縮症に対して「リスジプラム」が保険薬として承認あるいは承認申請がなされており,希望の光が見えてきた.第11章の運動器疾患では,実は骨リモデリングで骨細胞が骨芽細胞と破骨細胞を制御していることに触れた.関節リウマチの項目では,長年見慣れていた白鳥の首や,ボタン穴変形が手指伸筋腱皮下断裂による可能性が高いことを書き加えた.第14章の肢体不自由児では,これまでアテトイド型脳性麻痺(CP)という用語を使ってきた.米国ではathetoidで別名dyskinetic CPが一般的な術語である.これはCPの不随意運動はアテトーゼ,ジストニア,ヒョレアの組合せであるということに基づいている.しかし学会や国家試験ではアテトーゼ型が定着していることから,本書ではこの用語に統一した.二分脊椎の胎児脊髄髄膜瘤手術についても一言加えた.第16章の担がん患者では,化学療法の進歩である免疫チェックポイント阻害薬,分子標的薬,がんゲノム医療について簡単に記述した.第18章の災害医学では,2023(令和5)年に災害関連死の統計が内閣府から発表されたので,これを付け加えた.
老眼もあり今回はPDFソフトを使い初稿を拡大してチェックした.訂正線,挿入線,検索語の下線,さらに執筆・校正文章と入り乱れる原稿を,小口真司氏が丁寧に編集してくださり,深く感謝いたします.
2024年9月 栢森良二
第3版の序文
この度「学生のためにリハビリテーション医学概論」の第3版を出版することができた.これもひとえに本書を使って講義をされている先生方のご支援のお陰である.2015年に第2版を出版してから5年経過した.今回の主な改訂点は筆者が帝京平成大学で行っている講義内容に近い形にして,理学・作業療法士,言語聴覚士,看護師,特別支援学校教諭,認定心理師を目指す学生が国家試験の準備ができるような教科書を目指した.索引の用語を和文,欧文ともに充実させることで,索引を容易にできるように心がけた.
第1章「リハビリテーションの理念」ではリハビリテーション(以下,リハとする)の4つの側面の中で,社会生活力を高める社会リハの発展,さらに発達障害児のカテゴリーが法制度に位置づけられたことから教育リハの発展を短く概観した.第2章「リハビリテーションの対象と障害者の実態」では,内部障害について解説し,とくに腎不全に伴う透析導入適応の基準,指定難病の項目を書き加えた.第3章「障害の階層とアプローチ」では,WHOの3つのファミリー,2019年5月から導入されている国際疾患分類ICD-11について記述した.国際障害分類(ICIDH)で使われてきた能力低下,社会的不利の用語を国際生活機能分類(ICF)で用いられている活動制限,参加制約の用語と併記したり,変更したりした.これは個別な障害者を対象としている,生物医学的リハでは病気から始まる階層性のあるICIDHは捨て去ることはできないためである.一方,社会,教育,職業リハビリテーションの観点から障害をみて,社会参加を促進するICFも重要である.リハ医療に携わる者には,ICIDHとICFは対立しているが,互いに排除するものではない.両者の考え方の根本を理解する必要がある.第4章「リハビリテーション評価学」には改訂日本版デンバー式発達スクリーニング検査,遠城寺式乳幼児分析的発達検査の2つを加えた.第5章「リハビリテーション治療学」にリンパ浮腫,認知行動療法を加え,第7章として「高齢者のリハビリテーション」を新たに加え,健康寿命,サルコペニア,フレイルなどを解説した.第9章「脊髄損傷のリハビリテーション」では国試に最も頻出されるC6脊髄損傷患者のADLのプッシュアップ,ベッドへの移乗,除圧,装具について記述した.第10章「神経筋疾患のリハビリテーション」には自律神経の機能と分類と脳の神経伝達物質を加えた.従来,発達障害の中にあった肢体不自由児のリハを第14章「肢体不自由児のリハビリテーション」として独立させた.また,改正発達障害者支援法の成立に伴い,発達障害者の定義が明確になったことから,第15章に「発達障害児・者のリハビリテーション」を設けた.第16章「担がん患者のリハビリテーション」では,成人がんばかりでなく,小児がん,AYA世代のがん,さらにがんサバイバーシップについて付け加えた.第17章には五大疾患の1つになった「精神障害の基礎事項」を,第18章には「災害医学とリハビリテーション」を新たに設けた.トリアージ,START法,一次救命処置,心理的応急処置について簡単に記述した.
第3版ではMみなみ氏が,盛りだくさんの内容を要領よく編集してくださり,本書があまりかさ張らないようになったことに,深謝したい.
2020年1月 栢森良二
第2版の序文
本書を使って講義をしてくださっている先生方から,本書の記述に誤りがあるとの指摘を頂いた.診療報酬の改定があり,理学療法,作業療法,言語療法の1単位あたりの保険点数は年々変化している.さらに障害者に関する人口構成,障害者数,死亡率の経時的変化などがあり,第2版へ改訂することを医歯薬出版にお願いした.
筆者は2014(平成26)年3月に帝京大学医学部リハビリテーション科を定年退職し,4月から帝京平成大学健康メディカル学部に移った.医学生の教育から,リハビリテーション関連職である理学療法士,作業療法士,言語聴覚士をはじめ,社会福祉士,鍼灸師,柔道整復師,臨床心理士,管理栄養士,看護師を目指す学生たちの教育にシフトした.実際に講義をして,リハビリテーション医学はもちろんのこと,神経学,運動器学などの各論を少し充実し,画像診断や地域リハビリテーションの一部を加える必要があると感じ,第2版に書き加えている.
少子高齢化社会においてリハビリテーション医学・医療はますます重要になっている.リハビリテーション施策の基礎になっている資料が,厚生労働省からの各種の委員会や調査報告書として出ている.これらの資料は,同時にリハビリテーション医学・医療の学術的な基礎資料となっていることから,インターネットによる資料を多用した.それらを含め本書では最新の内容に更新している.第2章の「リハビリテーションの対象と障害者の実態」では,従来5年おきに実施していた障害者の実態調査は2011(平成23)年には実施できず,身体障害者手帳所持者数からの調査になっている.さらに第7番目の内部障害である肝臓機能障害が加わっている.第4章の「リハビリテーション評価学」では,小脳機能障害,感覚障害,さらに身体障害者手帳診断書・意見書,障害高齢者の日常生活自立度判定基準,介護保険の主治医意見書を加えた.第5章の「リハビリテーション治療学」では,心不全のNYHA分類,誤嚥性肺炎,3つの介護施設と高齢者の住まいについて書き加えた.第6章の「ライフステージにおける障害特性」では,サリドマイド胎芽症,乳児揺さぶられ症候群,自殺死亡の最多年齢層,死因年次推移,正常圧水頭症,高齢者の寝たきりの原因,高齢者の虐待の項目を付け加えた.第7章の「脳損傷のリハビリテーション」では,SPECTの項目を付け加えた.第8章の「脊髄損傷のリハビリテーション」では脊髄ショックの項目を付け加えた.第9章の「神経筋疾患のリハビリテーション」では,マシャド・ジョセフ病のびっくり眼,筋力低下のダイアグラム,糖尿病ニューロパチー,シャルコー・マリー・トゥース病,手根管症候群,ギラン・バレー症候群の項目を付け加えた.第10章の「運動器疾患のリハビリテーション」では,骨代謝,骨粗鬆症の薬物療法,関節の構造,発育性股関節形成不全,ペルテス病の項目を付け加えた.第11章の「心肺疾患のリハビリテーション」では,狭心症の病態,下肢慢性動脈閉塞症,動脈血ガス圧(Torr)について付け加えた.
初版編集者の齋藤和博氏の突然の訃報に接し,改訂作業は頓挫すると思われた.小口真司氏がこの状況から救って頂き,第2版の出版までこぎ着けたことに,深謝したい.
2014年12月 栢森良二
序文
本書はリハビリテーション医学を初めて学ぼうとする人々を対象としている.すなわち医学生,看護学生,理学療法士,作業療法士,あるいは言語聴覚士をめざしている人々,社会福祉を学んでいる人々,臨床心理士をめざしている人々などである.
リハビリテーション医学の教科書は,内科学や外科学と同様に膨大な分量に及んできている.しかも余りに専門的内容のために,臨床経験がないとその内容は無味乾燥で,通読することが難しくなっている.本書はリハビリテーション医学を系統的に理解できる基礎的な教科書をめざしたものである.
リハビリテーション医学・医療が対象としている障害者は,医学の発展にともなって,複数の併存疾患をもつ高齢者や,難病を抱える人々が多くなり,社会的に自立生活を営むことが一層困難になっている.これらの障害者に立ち向かうために求められる要素は,第1に障害者復権の哲学,第2に社会復帰をめざす目標,さらに第3に,その「目標」を実現するためのリハビリテーション技術である.また具体的にリハビリテーション医療者に求められる知識は,病気に対する集学的アプローチと障害者に対する評価や治療アプローチである.また広範な社会福祉に関する知識も必要になる.
本書の総論部分は,第1章「リハビリテーション医学の理念と3つの源流」,第2〜3章は「リハビリテーションの対象と障害者の実態,障害の階層とアプローチ」,第4〜5章では「評価学,治療学」などから構成されている.また第6章に「ライフステージにおける障害特性」を総論として加えた.総論に多くの紙面を割いた.各論は第7〜13章で,「脳損傷」「脊髄損傷」「神経筋疾患」「運動器疾患」「心肺疾患」「発達障害」「担がん患者のリハビリテーション」から構成されており,これらの記述は最小限にとどめた.また,医師国家試験に医学英語が出題されるようになったことから,できるだけリハビリテーション医学用語に英語併記を行った.
帝京大学医学部,看護学校,医療技術学部,早稲田大学第2文学部や文化構想学部,新潟医療福祉大学,国立障害者リハビリテーションセンター学院で,著者が実際に学生に講義した内容を教科書としてまとめたものである.また多くの内容は著者自身がリハビリテーション研修医,あるいは専門医初期(20〜30年前)に勉学したメモを基にしている.このために引用および参考文献を失念し,欠落が多い.これらの文献著者の先生に陳謝し,ここに引用させていただくことを深謝したいと思います.
本書がリハビリテーション医学の理念と技術,障害者の理解に少しでも役立てば著者の望外の喜びである.
本書執筆に際して労をとっていただいた医歯薬出版の齋藤和博氏に,この場を借りて感謝したい.
2011年3月 栢森良二
第1章 リハビリテーションの理念
1 リハビリテーションという言葉
2 リハビリテーションの定義
3 リハビリテーションの成立過程
4 障害者の復権とその源泉
5 ノーマライゼーション
6 自立生活運動
7 ユニバーサルデザイン
8 社会リハビリテーションの発展
9 教育リハビリテーションの発展
第2章 リハビリテーションの対象と障害者の実態
1 医学的リハビリテーションの対象
2 リハビリテーション医学の対象
3 リハビリテーション医学と生物学的医学
4 障害児・者の実態
5 身体障害児・者の内訳
第3章 障害の階層とアプローチ
1 WHOの3つのファミリー
2 ICIDHからICFへ
3 ICFの分類項目
4 障害へのアプローチ
5 ICFによるアプローチ
6 病気と障害の相違
第4章 リハビリテーション評価学
1 障害の評価
2 身体計測
3 運動学
4 身体所見
5 運動機能
6 感覚障害
7 小児の運動発達
8 高次脳機能障害
9 ADLの評価
10 認知症の評価
11 電気生理学検査
第5章 リハビリテーション治療学
1 心理的アプローチ
2 廃用症候群
3 関節拘縮
4 筋力強化
5 全身運動
6 歩行練習
7 認知行動療法
8 リスク管理
9 リハビリテーションの流れと目標
第6章 ライフステージにおける障害特性
1 ライフサイクル
2 障害児の特性
3 青年期
4 成人期
5 老年期
6 ライフステージにおける障害アプローチ
第7章 高齢者のリハビリテーション
1 平均寿命と健康寿命
2 サルコペニアとフレイル
3 老年症候群
4 要支援と要介護の原因疾患
5 認知症
6 高齢者のリハビリテーションの原則
第8章 脳損傷のリハビリテーション 脳卒中,脳外傷,低酸素脳症との比較
1 脳血管障害
2 脳外傷
3 低酸素脳症
第9章 脊髄損傷のリハビリテーション
1 外傷性脊髄損傷の疫学
2 脊髄損傷の原因
3 脊髄の機能解剖
4 損傷タイプと病態
5 機能障害
6 活動制限
7 アプローチ
第10章 神経筋疾患のリハビリテーション
1 パーキンソン病
2 脊髄小脳変性症
3 筋萎縮性側索硬化症
4 脊髄性筋萎縮症
5 多発性硬化症
6 重症筋無力症と筋無力症候群
7 末梢神経障害
8 自律神経の機能と分類
第11章 運動器疾患のリハビリテーション
1 骨粗鬆症
2 変形性関節症
3 関節リウマチ
4 血友病性関節症
5 発育性股関節形成不全
6 ペルテス病
7 骨形成不全症
8 軟骨無形成症
9 骨折の治療
10 側弯症
11 足関節の捻挫
第12章 呼吸器疾患のリハビリテーション
1 肺炎
2 慢性閉塞性肺疾患
第13章 心血管系のリハビリテーション
1 心不全
2 虚血性心疾患
3 不整脈
4 心臓弁膜症
5 下肢慢性動脈閉塞症
第14章 肢体不自由児のリハビリテーション
1 脳性麻痺
2 筋ジストロフィー
3 二分脊椎
第15章 発達障害児・者のリハビリテーション
1 改正発達障害者支援法
2 自閉症スペクトラム
3 発達学習障害
4 注意欠如・多動性障害
5 トゥレット障害
6 選択性緘黙症
第16章 担がん患者のリハビリテーション
1 がんの部位別罹患数
2 リハビリテーションの特徴
3 がん治療後の障害評価
4 問題点とアプローチ
5 がんサバイバーシップ
第17章 精神障害の基礎事項
1 身体面の症状
2 心理面の症状
3 生活・行動面の変化
4 うつ病
5 双極性障害(躁うつ病)
6 統合失調症
7 パーソナリティ障害
8 神経症と心因反応(ストレス障害)
9 アルコール依存症
10 てんかん
第18章 災害医学とリハビリテーション
1 トリアージ
2 肺血栓塞栓症
3 心理的応急処置
4 被災者に接する7つのポイント
付表:ICF(国際生活機能分類)
索引
MEMO
1-1 Physiatry/Physiatrist
1-2 Baruch委員会とRusk
1-3 星野富弘さんの活躍
1-4 ポリオ
2-1 療育の父─高木憲次
2-2 ポリオ・ワクチンについて
2-3 業務独占と名称独占
2-4 知的障害と精神薄弱について
3-1 健康の定義
5-1 下垂足と尖足について
5-2 球麻痺と仮性球麻痺
5-3 ポリオ後症候群
6-1 サリドマイド胎芽症
8-1 画像診断について
8-2 SPECTについて
8-3 除脳と除皮質肢位
11-1 ビタミンKと出血病
11-2 ビタミンKと抗血液凝固剤
11-3 アトラス
11-4 ルノワールと関節リウマチ
11-5 血友病とラスプーチン
11-6 RiemenbugelとPavlik
11-7 血友病と医原性AIDS
12-1 動脈血ガス圧(Torr)
13-1 ステントについて
13-2 肺塞栓症と下大静脈フィルター
14-1 重症心身障害児
15-1 Downについて
1 リハビリテーションという言葉
2 リハビリテーションの定義
3 リハビリテーションの成立過程
4 障害者の復権とその源泉
5 ノーマライゼーション
6 自立生活運動
7 ユニバーサルデザイン
8 社会リハビリテーションの発展
9 教育リハビリテーションの発展
第2章 リハビリテーションの対象と障害者の実態
1 医学的リハビリテーションの対象
2 リハビリテーション医学の対象
3 リハビリテーション医学と生物学的医学
4 障害児・者の実態
5 身体障害児・者の内訳
第3章 障害の階層とアプローチ
1 WHOの3つのファミリー
2 ICIDHからICFへ
3 ICFの分類項目
4 障害へのアプローチ
5 ICFによるアプローチ
6 病気と障害の相違
第4章 リハビリテーション評価学
1 障害の評価
2 身体計測
3 運動学
4 身体所見
5 運動機能
6 感覚障害
7 小児の運動発達
8 高次脳機能障害
9 ADLの評価
10 認知症の評価
11 電気生理学検査
第5章 リハビリテーション治療学
1 心理的アプローチ
2 廃用症候群
3 関節拘縮
4 筋力強化
5 全身運動
6 歩行練習
7 認知行動療法
8 リスク管理
9 リハビリテーションの流れと目標
第6章 ライフステージにおける障害特性
1 ライフサイクル
2 障害児の特性
3 青年期
4 成人期
5 老年期
6 ライフステージにおける障害アプローチ
第7章 高齢者のリハビリテーション
1 平均寿命と健康寿命
2 サルコペニアとフレイル
3 老年症候群
4 要支援と要介護の原因疾患
5 認知症
6 高齢者のリハビリテーションの原則
第8章 脳損傷のリハビリテーション 脳卒中,脳外傷,低酸素脳症との比較
1 脳血管障害
2 脳外傷
3 低酸素脳症
第9章 脊髄損傷のリハビリテーション
1 外傷性脊髄損傷の疫学
2 脊髄損傷の原因
3 脊髄の機能解剖
4 損傷タイプと病態
5 機能障害
6 活動制限
7 アプローチ
第10章 神経筋疾患のリハビリテーション
1 パーキンソン病
2 脊髄小脳変性症
3 筋萎縮性側索硬化症
4 脊髄性筋萎縮症
5 多発性硬化症
6 重症筋無力症と筋無力症候群
7 末梢神経障害
8 自律神経の機能と分類
第11章 運動器疾患のリハビリテーション
1 骨粗鬆症
2 変形性関節症
3 関節リウマチ
4 血友病性関節症
5 発育性股関節形成不全
6 ペルテス病
7 骨形成不全症
8 軟骨無形成症
9 骨折の治療
10 側弯症
11 足関節の捻挫
第12章 呼吸器疾患のリハビリテーション
1 肺炎
2 慢性閉塞性肺疾患
第13章 心血管系のリハビリテーション
1 心不全
2 虚血性心疾患
3 不整脈
4 心臓弁膜症
5 下肢慢性動脈閉塞症
第14章 肢体不自由児のリハビリテーション
1 脳性麻痺
2 筋ジストロフィー
3 二分脊椎
第15章 発達障害児・者のリハビリテーション
1 改正発達障害者支援法
2 自閉症スペクトラム
3 発達学習障害
4 注意欠如・多動性障害
5 トゥレット障害
6 選択性緘黙症
第16章 担がん患者のリハビリテーション
1 がんの部位別罹患数
2 リハビリテーションの特徴
3 がん治療後の障害評価
4 問題点とアプローチ
5 がんサバイバーシップ
第17章 精神障害の基礎事項
1 身体面の症状
2 心理面の症状
3 生活・行動面の変化
4 うつ病
5 双極性障害(躁うつ病)
6 統合失調症
7 パーソナリティ障害
8 神経症と心因反応(ストレス障害)
9 アルコール依存症
10 てんかん
第18章 災害医学とリハビリテーション
1 トリアージ
2 肺血栓塞栓症
3 心理的応急処置
4 被災者に接する7つのポイント
付表:ICF(国際生活機能分類)
索引
MEMO
1-1 Physiatry/Physiatrist
1-2 Baruch委員会とRusk
1-3 星野富弘さんの活躍
1-4 ポリオ
2-1 療育の父─高木憲次
2-2 ポリオ・ワクチンについて
2-3 業務独占と名称独占
2-4 知的障害と精神薄弱について
3-1 健康の定義
5-1 下垂足と尖足について
5-2 球麻痺と仮性球麻痺
5-3 ポリオ後症候群
6-1 サリドマイド胎芽症
8-1 画像診断について
8-2 SPECTについて
8-3 除脳と除皮質肢位
11-1 ビタミンKと出血病
11-2 ビタミンKと抗血液凝固剤
11-3 アトラス
11-4 ルノワールと関節リウマチ
11-5 血友病とラスプーチン
11-6 RiemenbugelとPavlik
11-7 血友病と医原性AIDS
12-1 動脈血ガス圧(Torr)
13-1 ステントについて
13-2 肺塞栓症と下大静脈フィルター
14-1 重症心身障害児
15-1 Downについて














