やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第3版 まえがき
 この「運動学ノート」は,既刊の『PT・OT基礎から学ぶ』シリーズの「解剖学ノート」「生理学ノート」の姉妹編として2002年7月に第1版を発刊いたしました.そしてこの3冊のノートシリーズは,養成校に入学してきた新1年生たちに「PT・OT学生のための基礎医学ノート」として常に手元に置いて愛読されています.
 「運動学ノート」は2016年12月に第2版を発刊し,7年が経過しました.この間にPT・OTの国家試験出題基準が改訂され,国家試験に出題される問題も少しずつ変化しています.それはリハビリテーション医療福祉の対象が昭和世代の「労働災害」や「交通災害」などから,平成令和世代の「老人医療・高齢障害」や「内部障害」などへと変化してきているからです.
 この「ノートシリーズ」のコンセプトは初版でも述べたように,国家試験に対処できるレベルの知識の整理に役立つことです.今回第3版を発刊するにあたり,これまでの国家試験問題を再分析し,各章の内容を見直して,各章に配置している「演習問題」を最新の国家試験問題に入れ替えました.また新たに「高齢者の姿勢や歩行障害」の項目も増やしました.学生諸氏が自分自身の身体で運動を「イメージ」できるようにするため,できる限り簡単な「イラスト」をたくさん用いて「言葉=イメージ」に結び付くようにしました.頭の中に記憶として残るのは「文字」ではなく「イメージ」だからです.その意味から,この第3版は「令和6年版の国家試験出題基準」に変更後のこれからに必ず役立つ「運動学ノート」になると思います.
 直近10年間の国家試験問題を時系列に分析してみると「運動学」のみならず,すべての領域において確実に難易度は上がってきています.これは国家試験受験直前の数か月で対応できるものではありません.入学してきた1年次から真剣に授業に臨み,授業後には自宅で復習を繰り返し,特に基礎医学(解剖学,生理学,運動学)では「イラスト」を何度も何度も繰り返し描く,これらのことを在学中にしっかり行うことで学習内容が身についていきます.その“繰り返し学習”を実践するためにもこの「運動学ノート」を副教材として用いていただきたいと思います.
 今回の「運動学ノート」では新しく中島晃徳先生に加わっていただきました.中島晃徳先生は大学および大学院卒業後に今後のリハビリテーション医療・福祉の教育に携わる目的で「理学療法士免許」ならびに「言語聴覚士免許」の取得をされました.そして現在は,「一般社団法人日本医療教育協会(国試塾リハビリアカデミー)」において「理学療法士」および「言語聴覚士」の浪人生たちの国家試験受験指導をされています.浪人生たちを指導する中で,彼らに何が不足しているのか,どのように指導すれば彼らは学習できるのかを追及され,新しい学習方法の指導を行っています.今回,中島晃徳先生のご意見を伺いながら,改訂することができました.全国の「理学療法士」「作業療法士」を目指す学生さんには日々の学習や国家試験対策のために,この「運動学ノート」を擦り切れるくらいまで使っていただき,今後のリハビリテーション医療福祉業界の担い手として育っていただきたいと心から願っております.
 最後に,第3版改訂にあたり編集・校正に快くご協力いただいた医歯薬出版株式会社編集部の皆様に深く感謝申し上げます.
 2023年11月
 中島雅美
 中島晃徳


第1版 まえがき
 『PT・OT基礎から学ぶノート』シリーズも,“解剖学ノート”“生理学ノート”に次いで,ついに“運動学ノート”を出版することになりました.このノートシリーズは,理学療法士・作業療法士,またその他のパラメディカルスタッフを目指す学生諸氏のための自主学習ノートとして作成したものです.
 “解剖学”も“生理学”も「医学の基礎の土台となる学問」といわれており,医学の道を目指すあらゆる分野の学生諸氏にとっては必ず修得しなければならない学問です.“解剖学”は「基礎医学の王」であり,人体という生物を細胞の分野まで分解してその人体組織の構造を専門的に学ぶ学問です.また“生理学”は「基礎医学の女王」ともいわれ,解剖学により分解された人体組織がどのように働いて人間が生きているのかを専門的に学ぶ学問です.
 では“運動学”はというと「医学と物理学の架け橋」といわれている学問で,医学の中の独立した学問体系ではなく,人間の運動をみる一つの立場としての応用の学問といえるものです.人間の運動は,人間が地球上に存在するかぎり常に重力という力学的現象の影響を受けています.ですから単に解剖学的要素や生理学的要素だけで人間の運動を分析することは困難です.人間は人間として特徴的な運動をしている動物であり,その人間は人間としての運動に障害をきたすと,一人で自立した生活が困難になってしまいます.そういう意味において医学の分野で“運動学”は,やはり「基礎医学分野の学問」としてとらえられているのです.ですから「基礎医学」を学ぶ学生の中でも,特に運動障害を対象とする医療従事者の医師や理学療法士や作業療法士をめざす学生には“運動学”は特に必須の学問になるのです.先ほども述べたように“運動学”は「基礎医学」ではありますが,“物理学”の応用の上に成り立っている「基礎医学」です.ですから“運動学”を学ぼうとしている学生が“運動学”を最も難解な「基礎医学」と思っている理由の一つには,この“物理学”に原因があるのだと思います.かく言う私も実は学生時代に“運動学”を苦手としていた一人ですので学生の気持ちがたいへんよくわかります.
 特に近年では社会的要請に応えて,理学療法士・作業療法士の養成校は年々増加傾向にありますが,そこで学んでいる学生が養成校を受験する際の入学試験で“物理学”を受験せずに入学したり,また高等学校のカリキュラムで“物理学”を選択していなかったりという現状が,“運動学=苦手”意識に拍車をかけているようなのです.でも先ほど述べたように“運動学”は,理学療法士・作業療法士にとっては必ず制覇しなければならない大変重要な「基礎医学」ですから,苦手意識を克服し,積極的に得意科目にしていかなければなりません.
 そこで今回,この“運動学ノート”の内容を以下のことに重点をおいて編集を行いました.物理学(特に力学)の基礎知識に関する章を第1章に設けて運動学を学ぶうえで必要な“物理学”を理解できるようにする.できるだけ多くの絵や図などを用いてイメージ化を図る.付録として筋の作用と神経支配の表を作成する.重要点は自分で書き込めるように空欄を設ける.各章毎の演習問題に実際に出題された過去の国家試験問題を使用する.基礎問題や演習問題の解答・解説をできるだけ詳しく図説化して理解しやすいようにする,等々です.また,特に人間の特徴としてあげられる“歩行運動”に関する章で,臨床運動学的内容としての“異常歩行”を取り上げました.これに関しては基礎医学の範囲を逸脱していますので,1年生のレベルでは非常に難易度が高いと思われます.しかし,国家試験を見据えた運動学としては知っておくべき内容だと思いますので,高学年や臨床実習,国家試験対策の時期に学習していただければ幸です.
 “解剖学ノート”“生理学ノート”と同様にこの“運動学ノート”も,学校での講義の予習や復習に,定期試験前の知識の整理に,そして国家試験前の準備対策としての学習に活用していただければと願っています.そうして「私の得意科目は運動学です」と言える理学療法士・作業療法士になっていただきたいと願っております.
 また,本書を作成するにあたり,国内外の著名な解剖学書や運動学書,また基礎物理学書を参考にいたしました.それらの書名を巻末に引用文献,参考文献として掲げさせていただきました.学生諸氏には是非これらの文献にも一度目を通していただくことをお勧めいたします.また,参考にさせていただいた本の著者の先生方にはこの書面を借りて心より御礼申し上げます.
 最後に本書の出版にあたり並々ならぬご助力・ご協力をいただいた医歯薬出版株式会社編集担当者の方々に心より感謝申し上げます.
 2002年6月
 中島雅美
 中島喜代彦
 第3版まえがき
 第1版まえがき
 本書の使い方
第1章 運動学総論
 1 力学の基礎
  1 生体力学とは
  2 力学の構成
  3 力学で使う単位
  演習問題
 2 身体(運動)の面と軸
  1 肢位(position)
  2 運動の面と軸
 3 加速度・ベクトル・モーメント
  1 各種の物理量
  2 力とベクトル
  3 モーメント
  演習問題
 4 運動の法則
  1 運動の3つの法則
  2 重力加速度と重量
  3 質量・重量・力の単位
 5 仕事と力学的エネルギー
  1 仕事(work)
  2 力学的エネルギー
  演習問題
 6 身体とてこ
  1 てこの種類
  2 てこの釣り合い
  3 関節角度と力の関係
  4 関節運動とてこの種類
  5 てこの種類と力
  6 滑車と輪軸
  演習問題
 7 関節の構造と機能
  1 関節面の形状からみた分類
  演習問題
 8 骨格筋の構造と機能
  1 骨格筋の形状からみた分類
  2 筋収縮のメカニズム
  演習問題
 9 筋収縮 その1
  1 関節運動時の役割からみた筋
  2 筋収縮の様態とその特徴
  3 筋収縮の様態と関節運動との関係
  4 リバースアクション(筋の逆作用)
  演習問題
 10 筋収縮 その2
  1 運動単位(motor unit:MU)
  2 神経支配比
  3 筋張力
  4 筋肥大と筋萎縮
  演習問題
 11 関節の安定性と運動性
  1 関節の安定性(joint stability)
  2 関節の運動性(joint mobility)
  3 関節の安定性と運動性との関係
 12 運動の中枢神経機構
  1 随意運動と反射運動
  2 反射運動
  3 伸張反射
  4 随意運動の中枢機構
  演習問題
 13 運動とエネルギー代謝
  1 ATPの生成過程
  2 代謝当量(代謝率:metabolic equivalents,METs)
  演習問題
 14 運動と呼吸・循環
  1 運動時の呼吸数と換気量
  2 酸素摂取量
  3 無酸素性作業閾値(anaerobic threshold:AT)
  4 運動時の心拍出量
  5 運動時の血圧
  演習問題
第2章 上肢の運動学
 1 上肢の解剖学
  1 上肢の骨格(右上肢前面)
  2 上肢骨のまとめ
  3 上肢の骨(右上肢)
  4 上肢の神経
  5 上肢の血管
  6 上肢の神経と筋・皮膚
  演習問題
 2 上肢帯の運動学
  1 胸鎖関節
  2 鎖骨の可動域
  3 肩鎖関節(右前面)
  4 肩甲胸郭(仮性)関節
  5 上肢帯の運動と筋
  6 肩甲骨の運動分析
  演習問題
 3 肩関節の運動学
  1 肩関節とは
  2 肩甲上腕関節(右前方より)
  3 肩関節の靱帯(右前面)
  4 回旋筋腱板(rotator cuff)
  5 肩関節の運動と筋
  演習問題
 4 肘関節と前腕の運動学
  1 肘関節の構造
  2 肘関節の運動に関与する筋
  3 前腕の関節
  4 橈尺関節の靱帯と前腕骨間膜
  5 前腕の運動に関与する筋
  演習問題
 5 手関節の運動学
  1 手関節の構成
  2 手根管の内部構造
  3 手関節の運動に関与する筋
  演習問題
 6 手の運動学 その1
  1 手を構成する骨と関節
  2 手指の運動と筋
  3 手指の外来筋(または外在筋:筋の起始部が手関節より中枢側にある)
  4 手指の内在筋(または固有筋:筋の起始部が手関節より末梢側にある)
  5 指の屈曲機構
  6 指の伸展機構
  演習問題
 7 手の運動学 その2
  1 手の肢位
  2 手の変形
  演習問題
第3章 下肢の運動学
 1 下肢の解剖学
  1 下肢の骨格(左下肢前面)
  2 下肢骨のまとめ
  3 下肢帯(または骨盤帯)の骨
  4 大腿骨
  5 下腿骨
  6 足部の骨
  7 下肢の神経と動脈
  8 下肢の神経と筋(右大腿前面)
  9 下肢の皮膚感覚
  演習問題
 2 股関節の運動学
  1 股関節の構造(右股関節横断面前方から観察)
  2 股関節の靱帯
  3 股関節に働く筋
  4 股関節の運動と筋
  演習問題
 3 膝関節の運動学
  1 膝関節の構造
  2 膝関節の半月板
  3 膝関節の靱帯
  4 膝関節に働く筋
  5 膝関節の運動と筋
  6 膝関節の動きの特徴
  演習問題
 4 足関節と足部の運動学
  1 足関節と足部の骨と関節
  2 主な関節の特徴
  3 足関節および足部の靱帯
  4 足関節に働く筋
  5 足関節の運動と筋
  6 足趾に働く筋
  7 足趾の運動と筋
  8 足のアーチの構造
  9 足のアーチの特徴
  10 足の変形
  演習問題
第4章 体幹の運動学
 1 体幹の解剖・運動学
  1 体幹を構成する骨格(前面)
  2 脊柱
  3 椎骨
  4 椎間円板
  5 ユニットの役割
  6 椎間関節の関節面の方向
  7 脊柱の可動性
  演習問題
 2 頸部の運動学
  1 頸椎の概要
  2 頸椎の連結と運動
  3 頸部の筋
  4 頭・頸部の運動と筋
  演習問題
 3 胸部の運動学
  1 胸郭
  2 胸郭呼吸運動
  3 呼吸に関与する筋
  4 胸部の動きに関与する筋
  5 胸部の運動と筋
  演習問題
 4 腰部・骨盤の運動学
  1 腰部・骨盤の連結
  2 仙腸関節
  3 矢状面からみた腰椎弯曲と骨盤傾斜との関係
  4 腰部の筋
  5 腰部の運動と筋
  演習問題
第5章 頭部・顔面の運動学
 1 頭蓋骨と顎関節
  1 頭蓋骨を構成する骨とその連結
  2 顎関節
 2 咀嚼
  1 咀嚼とは
  2 顎関節の動き
  3 咀嚼筋と支配神経
 3 表情
  1 表情を作り出すしくみ
  2 機能別表情筋
  3 表情筋の支配神経
 4 眼球運動
  1 外眼筋
  2 外眼筋の作用と支配神経
  演習問題
第6章 姿勢
 1 姿勢と重心との関係
  1 構えと体位
  2 重心と重心線
  3 人体の重心の測定法(直接法)
  4 自然立位時の重心の位置
  5 重心線とアライメント
  演習問題
 2 立位姿勢と姿勢保持
  1 立位姿勢の安定性
  2 立位姿勢の安定のための影響因子
  3 立位保持に働く筋
  4 快適な立位姿勢保持のための3要素
  5 立位姿勢の重心動揺
  6 姿勢の型
  7 姿勢制御
  演習問題
第7章 歩行と走行
 1 歩行周期
  1 歩行とは
  2 歩行周期と関連用語
  3 歩行周期の区分
  4 歩容要素の新しい定義
  演習問題
 2 運動学的歩行分析
  1 歩行時の重心移動
  2 歩行時の体節の回旋
  3 歩行時の下肢関節の角度変化
  4 歩行の決定因子
  5 歩行時の上肢の運動
  演習問題
 3 運動力学的歩行分析
  1 足力と床反力
  2 床反力の3方向の分力
  3 踵接地時の床反力によって生じるトルク
  4 荷重反応期と床反力
  演習問題
 4 歩行時の筋活動
  1 歩行周期からみた筋活動
  2 機能面からみた主な筋活動
  演習問題
 5 小児および高齢者の歩行
  1 小児の起立と歩行(発達段階からみた)
  2 小児の歩行の特徴
  3 高齢者の歩行の特徴
  演習問題
 6 異常歩行
  1 異常歩行の観察
  2 異常歩行とその原因
  3 異常歩行の例
  演習問題
 7 走行
  1 走行と歩行の比較
  2 走行の特徴
  演習問題
第8章 運動学習
 1 学習と記憶
  1 学習(learning)
  2 記憶(memory)
  演習問題
 2 運動技能と学習曲線
  1 運動技能(motor skill)
  2 パフォーマンス(performance)と学習曲線(learning curve)
  演習問題

 付録 筋の作用と神経支配
 文献
 索引