やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第3版の序文
 10年前に「PT・OT・STのためのリハビリテーション栄養」を,5年前にその第2版を医歯薬出版株式会社から出版させていただきました.5年前の時点で,リハビリテーション栄養という言葉や考え方,コンセプトは,リハビリテーションと栄養にかかわる医療者に浸透していました.一方,臨床での具体的なリハビリテーション栄養の実践や診療報酬での評価,診療ガイドライン作成を含めた臨床研究は不十分でした.しかし,この5年間で,リハビリテーション栄養の実践,診療報酬,臨床研究に改善を認めました.5年間の変化を反映する必要があると考えて今回,第3版を出版させていただくことになりました.
 主な変更点は,第2章と第3章です.質の高いリハビリテーション栄養を実践するためのマネジメントサイクルとして,リハビリテーション栄養ケアプロセスを開発し,第2章で詳しく解説しています.リハビリテーション栄養ケアプロセスは臨床でまだあまり取り入れられていませんが,質の高い臨床実践に極めて有用なツールです.従来の栄養ケアマネジメントやリハビリテーション栄養ケアマネジメントから卒業して,リハビリテーション栄養ケアプロセスを活用して成果を出してもらいたいと思います.
 第3章は,「サルコペニアと摂食嚥下障害 4学会合同ポジションペーパー」と,「リハビリテーション栄養診療ガイドライン2018年版」をベースとしました.4学会合同ポジションペーパーの作成には,日本摂食嚥下リハビリテーション学会,日本サルコペニア・フレイル学会,日本嚥下医学会とともに日本リハビリテーション栄養学会も関与しました.サルコペニアの摂食嚥下障害という学術領域と臨床実践の発展に,日本リハビリテーション栄養学会も貢献できました.リハビリテーション栄養診療ガイドラインは,日本リハビリテーション栄養学会が作成して2018年に第1版を公開しました.次回は2023年に第2版を公開予定です.少ないながらもリハビリテーション栄養のエビデンスが存在することは確かですので,臨床で活用していただきたいと思います.
 2017年に日本リハビリテーション栄養研究会を発展させる形で,一般社団法人日本リハビリテーション栄養学会を設立しました(https://sites.google.com/site/jsrhnt/home).年に2回,充実した内容の学会誌を発行しています.現在の有料会員は約800人,2019年に福岡で開催した第9回学術集会の参加者は約1,240人と,発展を続けています.2020年には新型コロナウイルス感染の影響を考慮して,会員向けにリハビリテーション栄養オンラインサロンを開始しました.リハビリテーション栄養の臨床,研究,教育をさらに発展させるためには,より多くの会員が必要です.本書を手にとられた方はぜひ日本リハビリテーション栄養学会に入会して,リハビリテーション栄養のさらなる発展に貢献してください.
 最後に医歯薬出版株式会社の小口真司さんには,第3版の出版というご提案をいただき,今回も大変お世話になりました.心よりお礼申し上げます.
 2020年9月
 若林秀隆


第2版の序文
 5年前に『PT・OT・STのためのリハビリテーション栄養』を医歯薬出版株式会社から出版させていただきました.その当時,リハビリテーションと栄養のつながりは,嚥下調整食を除くとごくわずかしかありませんでした.リハビリテーションの学会に行くと栄養の発表はほぼ皆無,栄養の学会に行くとリハビリテーションの発表はほぼ皆無という状況でした.ほとんどの医療人がリハビリテーションと栄養を完全に分けていました.そこでリハビリテーションにおける栄養の大切さを伝えたいという思いで,『PT・OT・STのためのリハビリテーション栄養』を執筆しました.結果として多くの反響をいただき今回,第2版を出版させていただくことになりました.
 主な変更点は,本文とコラムにリハビリテーション栄養の最新情報を含めたことと,4章構成であったものを3章構成にしたことです.地域連携は,地域一体型NSTからリハビリテーション栄養サマリーの紹介にしました.サルコペニアの定義が変わり,サルコペニアの摂食嚥下障害というコンセプトができました.
 現在ではリハビリテーション栄養という言葉と考え方が,リハビリテーションと栄養にかかわる医療人にかなり浸透しました.リハビリテーションの学会に行くと栄養の発表が増え,栄養の学会に行くとリハビリテーションの発表が増えました.リハビリテーション栄養に関する書籍は約10冊になりました.2011年に設立した日本リハビリテーション栄養研究会(https://sites.google.com/site/rehabnutrition/)の会員数は,4,000人を超えました.リハビリテーションと栄養を同時に考えることの必要性が,認識されつつあります.
 今後,リハビリテーション栄養をさらに発展させるためには,実践と研究の両立が必要です.リハビリテーション栄養というコンセプトは浸透しました.しかし,リハビリテーション栄養の実践の浸透は不十分です.回復期リハビリテーション病院や高度急性期病院だけでなく,地域包括ケア病棟,介護老人保健施設など高齢者・障害者施設,在宅での実践の普及が,次の5年の重要課題です.
 リハビリテーション栄養のガイドライン作成も,次の5年の重要課題です.ガイドラインを作成するには,リハビリテーション栄養の研究を多くの医療人が行い,エビデンスを構築することが必要です.そのため日本リハビリテーション栄養研究会では,臨床研究を学習する機会としてリハビリテーション栄養研究デザイン学習会を企画しています.会員限定企画ですので,興味のある方はぜひ日本リハビリテーション栄養研究会にご入会ください.
 リハビリテーション栄養に関する原点の書籍が,『PT・OT・STのためのリハビリテーション栄養』です.私の人生を変えた書籍といっても過言ではありません.なぜリハビリテーション栄養が大切かを,より多くの医療人に知っていただく第2版になれば幸いです.
 最後に医歯薬出版株式会社の小口真司さんには,第2版の出版というご提案をいただき,今回も大変お世話になりました.心よりお礼申し上げます.
 2015年4月
 若林秀隆


第1版の序文
 以前の私は,PT・OT・STを行っている患者さんの栄養状態は良好で,臨床栄養管理は適切だと思い込んでいました.機能評価と予後予測の際にも,栄養のことは全く考えていませんでした.しかし,不適切な臨床栄養管理などのために餓死した患者さんを何人もみてきました.餓死寸前の患者さんに必要なものは,訓練ではなく栄養です.この経験からリハビリテーション(以下リハ)科医師とPT・OT・STは,栄養状態を含めて全人的に評価して,それに見合った訓練を実施しなければいけないと痛感しました.
 私は前医で栄養サポートチーム(NST)を立ち上げました.NSTで回診する患者さんの多くはすでにPT・OT・STを行っていて,リハとNSTが協働して初めて,ADLやQOLが改善する患者さんを経験しました.自分が考えていた予後予測以上に改善していく患者さんをみて,栄養ケアなくしてリハなし,リハなくして栄養ケアなしと確信しています.
 現在,NSTのメンバーにPT・OT・STがいることは少ないです.経口摂取にかかわる摂食・嚥下リハを除くと,リハとNSTの連携が良好ともいえません.低栄養状態で不適切な臨床栄養管理が行われている患者さんに,安易にレジスタンストレーニングを行うPT・OT・STがいます.そんな状況に思い悩んでいたときに,PT・OT・ST向けの栄養の本がないのでつくってくださいとSTに頼まれました.そこで医歯薬出版に相談したところ,制作していただけることになりました.
 栄養ケアプランの立案は比較的難しいですが,栄養状態の基本的な評価は難しくありません.PT・OT・STなら誰でも習得できます.栄養評価を自分で行えるようになると,栄養障害の患者さんの多さを実感できます.栄養状態によって訓練内容を変更する必要があるため,栄養状態はバイタルサインの1つです.より多くのPT・OT・STが栄養状態を評価できるようになり,NSTに参画して成果を出してほしいと思います.本書がその一助になれば幸いです.
 本書の主な対象はPT・OT・STですが,管理栄養士,薬剤師,看護師,臨床検査技師などリハ関連職種以外の方々は,リハ栄養の基本を学習できます.臨床栄養管理の目標の1つは,蛋白異化を少なくして蛋白同化を促すことです.筋蛋白の増加には,レジスタンストレーニングの併用が必要です.体重が増えても筋肉ではなく脂肪が増えてしまっては,ADLやQOLはあまり改善しません.NSTとリハの適切な連携で,ADLやQOLがより向上することを理解していただければ幸いです.
 振り返ってみるとNSTを通じて多くの医療人と患者さんに出会い,多くのことを学ばせていただきました.皆様との出会いがなければ,私は今でも栄養を知らずに不適切な訓練を処方するリハ科医師だったはずです.本当にありがとうございました.今後もともに学び成長したいと考えています.
 最後に医歯薬出版株式会社の担当の方には,執筆や編集で大変お世話になりました.心よりお礼申し上げます.
 2010年1月
 若林秀隆
Chapter 1 リハビリテーションと栄養
 1 リハビリテーションと栄養
  なぜリハビリテーションに栄養が必要か
  リハビリテーション栄養の新しい定義
  訓練効果を高める栄養
 2 低栄養時の代謝
  同化と異化
  5大栄養素の基本
  低栄養の分類
 3 運動栄養学とリハビリテーション
  サルコペニア
  栄養と運動のタイミング
  筋力を高める栄養
  持久力を高める栄養
 4 リハビリテーション栄養チームにおけるPT・OT・STの役割
  リハビリテーション栄養チーム
  NSTとリハビリテーションの関連
  チーム形態の種類
  PT・OT・STの役割
  リハビリテーション栄養の実践
 COLUMN
  日本リハビリテーション栄養学会と臨床研究
  リハビリテーション栄養を海外に
  プレハビリテーション
  サルコペニアの学会
  リハビリテーション栄養指導士
  在宅リハビリテーション栄養
Chapter 2 リハビリテーション栄養ケアプロセス
 1 リハビリテーション栄養ケアプロセスとは
  マネジメント
  セルフマネジメント
  栄養ケアマネジメント
  栄養ケアプロセス
  リハビリテーション栄養ケアプロセス
 2 リハビリテーション栄養アセスメント・診断推論
  ICF
  ICF-Dietetics
  フレイル
  栄養評価
  身体計測
  検査値
  摂食嚥下機能評価
  リハビリテーションの種類・内容・時間
  エネルギー消費量
  エネルギー摂取量
  診断推論
 3 リハビリテーション栄養診断
  低栄養・低栄養のリスク状態
  過栄養・過栄養のリスク状態
  栄養素の不足状態
  栄養素の過剰状態
  栄養素の摂取不足・栄養素摂取不足の予測
  栄養素の摂取過剰・栄養素摂取過剰の予測
 4 リハビリテーション栄養ゴール設定
  SMARTなゴール
  栄養改善を目指したゴール設定の可否
  栄養改善のゴール設定方法
  リハビリテーションのゴール設定
 5 リハビリテーション栄養介入
  リハビリテーションからみた栄養管理
  栄養からみたリハビリテーション
 6 リハビリテーション栄養モニタリング
  リハビリテーション栄養モニタリングの項目
  リハビリテーション栄養モニタリングの頻度・期間
  モニタリングからアセスメント・診断推論へ
 COLUMN
  リハビリテーション栄養とEBRN
  あなたの栄養足りていますか
  サルコペニア肥満
  サプリメントとリハビリテーション
  神経性食思不振症とリハビリテーション栄養
  リハビリテーション栄養ポケットガイド
  リハビリテーション訓練室に管理栄養士の専任を
  ERASとESSENSE
Chapter 3 主な疾患のリハビリテーション栄養
  1 サルコペニアの摂食嚥下障害
  2 脳卒中
  3 大腿骨近位部骨折
  4 急性疾患(廃用症候群)
  5 がん
 COLUMN
  TMT-Rehabilitation研修会
  リハビリテーション薬剤
  Refeeding症候群
  脳性麻痺とリハビリテーション栄養

 さらに自己学習したいPT・OT・STのための推奨サイトと推奨図書
 索引