やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第2版の序
 第1版の『動作のメカニズムがよくわかる 実践!動作分析』は2016年に発行されました.臨床で頻繁に観察する課題である起き上がり動作,立ち上がり動作,歩行動作の「正常動作」を運動学,運動力学の視点からやさしく説明し,臨床家はもちろんのこと,臨床実習に参加する学生の参考書として,あるいは臨床実習指導者の指導の補助として使用されるなど多くの読者から支持されました.
 今回の改訂では,第1版の文章では読者に伝えきれなかった箇所について動画を提供することにより,読者により深い理解を促すことを期待して構成されました.具体的には,第3章から6章では正常な各種基本動作の動画が,第7章では実際の患者の動作を示す動画が,web上で合計112本提供されています.臨床で動作分析を実践するにあたり,動作全体を通して不安定な局面と程度はいつなのか? その動作方法では実用性を有しているのか? などの運動のタイミング,リズム,患者の努力の程度などの重要な内容も動画で確認できます.これは現在ある動作分析学の教材の域を超えた内容といえるでしょう.
 動作分析のスキル向上を考えた場合,正常動作や逸脱動作の知識を踏まえた後,逸脱動作を見破る力,見抜く力,いわゆる洞察力を養わなければなりません.動作観察の洞察力を養う方法としては,読者のペースで,何度も何度も症例の動画を見ることが有効です.先述したように,静止画では観察できない不安定の程度,運動のタイミング,リズムが正常とはちょっと違うことなどを動画から感じ取ることから始め,さらにどこの関節の動きが逸脱しているのかなど一つひとつチェックしていきましょう.本書で提供している症例動画は,整形疾患,スポーツ障害,脳血管障害,神経筋疾患と多岐にわたり,病期も急性期や回復期など豊富です.臨床実習で実際の患者を動作観察したときに,読者は本書で逸脱動作の現象を見抜く目が養われていることを再確認できるでしょう.
 患者の動作を的確に観察できる力が備われば,臨床実習でスムーズに臨床推論を展開できるでしょう.7章の症例動画では,治療介入の視点で基本動作や動作課題を設定し,その動作内容(動作間の共通した逸脱動作,逸脱動作が生じる共通点,動作実用性を向上させる条件など)を丁寧に解説しています.読者は症例動画でみられる動作障害や逸脱動作の内容を,執筆者の的確な力学的および神経生理学的な解釈を備えて勉強することで,動作障害の問題点を見出すまでの思考過程,つまり仮説-演繹戦略(hypothetical-deductive strategy)による問題解決能力を高められるでしょう.
 監修・編集にあたりできるだけ読みやすさを心がけました.もし不適切な用語がありましたらご教授いただければ幸いです.最後に,ご多忙のところ,監修・編集者のいろいろなお願いにご協力いただいた著者の先生方,および,出版の労をいとわずにご尽力くださった医歯薬出版株式会社編集部担当者に深謝いたします.
 2020年8月
 監修 上杉雅之
 編著 西守 隆


第1版の序
 動作分析に関する書籍はいくつか見受けられますが,その内容は各動作の関節運動を説明するだけ,数値が記載されているだけのものも多く,理学療法士・作業療法士養成校の学生にとって使いやすいテキストは少ないように思います.また,残念なことに動作時の関節角度の数値を丸暗記しても,臨床での動作観察・分析における洞察力を高めることは難しいでしょう.それは,動作観察・分析の洞察力の向上には正常動作の理解が必要ですが,動作で生じる関節運動では,速度や距離などさまざまな要因によって関節角度が変化するからです.
 さらに,異常動作(逸脱動作)は,動作時に機能すべき筋や関節運動が機能しない機能不全(impairment)と,その機能不全の程度を弱めようとする代償運動(compensation)に区別されます.患者の動作ではその両者が複雑に組み合わさり,同時期に多数の身体体節が動くため,身体のどこに着眼すべきか判断することを難しくしているようです.
 本書では,臨床で頻繁に観察する課題である起き上がり動作,立ち上がり動作,歩行動作において,物理的要因の変更によって生じる力学的要求および関節角度変化をやさしく説明し,運動の法則性に関連した理解を促すようにしました.具体的には,動作時の関節可動域障害や筋力低下ごとに,異常動作について時系列変化をイラストで提示しました.そして,機能不全と代償運動をバイオメカニカルな観点から説明し,異常動作の原因となる問題点の推測を促し,読者の皆さんが患者の動作観察・分析の洞察力を高められるように工夫しています.
 さらに,セラピストが立案する治療介入の糸口となるよう,機能不全と代償動作を弁別するための課題設定や,臨床での患者の担当から介入に至るまで,イラストや写真を多く用いて解説しました.きっと,あなたの動作理解を進め,問題となる機能障害の推論へと発展させ,仮説-演繹戦略(hypothetical-deductive strategy)とするための問題解決能力を高めてくれるでしょう.そして,臨床実習等においても苦労しがちな動作分析ですが,本書が読者の皆さんをやさしく支援できると信じています.
 監修・編集にあたり,できるだけ読みやすさを心がけました.もし不適切な用語がありましたらご教授いただければ幸いです.最後に,ご多忙にもかかわらず監修・編集者のいろいろなお願いにご協力いただいた著者の先生方,および出版の労をいとわずにご尽力くださった医歯薬出版株式会社編集部担当者に深謝いたします.
 2016年2月
 監修 上杉雅之
 編著 西守 隆
 執筆者一覧
 第2版の序
 第1版の序
 本書に付属する動画について
第1章 臨床における動作観察に必要な運動力学に関する知識(金井一暁・西守 隆)
 身体重心とその分布
 重心の求め方
 立位の安定性―支持基底面と重心の関係
 立位の安定性―重心の高さとの関係
 床反力ベクトル
 関節トルク
 慣性の法則
 運動量
 力積
第2章 臨床における動作観察・分析の進め方(西守 隆)
 総論:動作分析の目的と着眼点
 逸脱動作および異常動作
 機能不全と代償運動の見分け方……Whyの解明
 姿勢制御
 実行能力の分析……Howの追究
第3章 起き上がり動作(西守 隆)
 起き上がり動作の概要
 起き上がり動作の多様性
 起き上がり動作の連続性と非連続性
 健常成人の起き上がり動作
 高齢者の起き上がり動作の特徴
 片麻痺患者の起き上がり動作の特徴
第4章 立ち上がり動作(西守 隆・金井一暁)
 立ち上がり動作とは
 立ち上がり動作時間
 立ち上がり動作の各相
 立ち上がり動作の戦略
 立ち上がり動作時の体幹・下肢関節運動
 立ち上がり動作の力学的解釈
 立ち上がり動作における逸脱動作
第5章 歩行動作(西守 隆・長谷川 治)
 歩行動作とは
 歩行周期と各相
 歩行動作の時間的指標と空間的指標
 歩行速度とステップ長,ケイデンス
 歩行動作の各相
 歩行動作における関節運動
 歩行動作の力学的な解釈
 歩行動作における逸脱動作
第6章 ホッピング動作(西守 隆)
 ホッピング動作とは
 ホッピング動作の各相
 ホッピングテスト
 ホッピング動作の力学的解釈
 ホッピング動作の逸脱動作
第7章 臨床における動作分析の実際
 1.人工股関節全置換術後における動作分析(大野直紀)
 2.変形性膝関節症における動作分析(甲斐義浩・松井知之)
 3.人工膝関節全置換術後における動作分析(藤野文崇・貴志悠矢)
 4.関節リウマチにおける動作分析(後藤 誠)
 5.膝関節のスポーツ障害における動作分析(田中健一)
 6.脳血管障害による片麻痺における動作分析(藤野文崇)
 7.脳血管障害による片麻痺における動作分析(筒井洋輔・松島哲弥・森本剛史・山本義隆)
 8.脳血管障害による片麻痺における動作分析(堀田知実・M本 学・宮本裕香・餅越竜也)
 9.脳血管障害後廃用症候群における動作分析(高取克彦)
 10.脳血管障害後軽度運動麻痺と変形性関節症の複合例における動作分析(高取克彦)
 11.パーキンソン病における動作分析(梛野浩司)
 12.脊髄小脳変性症における動作分析(丸岡 隆)

 索引