やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第5版への監訳者の序
 この序文を書いているのは,令和2(2020)年2月である.『モーターコントロール』(日本語版の初版)が出版されたのは1999年11月であるため,最初の日本語版の出版は,いまから20年以上前ということになる.
 20年以上にわたり出版されてきた『モーターコントロール』であるが,このたび第5版を出版するに当たって,報告しなければならないことがある.それは,大変残念なことであるが,初版から第4版まで私とともに訳者および監訳者として『モーターコントロール』の出版にかかわってこられた高橋明先生が事情により訳者・監訳者の立場を離れたことである.
 原著『Motor Control』を翻訳することになったきっかけについては初版の序で触れたと記憶しているが,そこで触れたように,当時,“臨床動的立位分析研究会“というクローズドな研究会での議論の中で,訳者の一人である新小田幸一先生が原著を紹介したことにある.その後,「翻訳書を作りたい」と言い出したのは私であったが,翻訳に責任をもつ監訳者に医学の深い知識が必要なのは明らかであった.その点で私の医学的知識は十分でなく,当時交流があり脳神経外科出身であった“いわてリハビリテーションセンター”の高橋先生に協力をお願いし,初版から第4版までの翻訳が可能となったのである.医学の深い知識が必要であることは,第5版に関しても変わるわけでなく,高橋先生に代わる監訳者を見つける必要があった.その結果,新小田先生の意見も伺い,蜂須賀先生に引き継いでいただくこととなり,今回の第5版の出版が実現したのである.
 さて,原著の内容について初版から今回の第5版までを振り返ると,著者の積極的な姿勢が改めて目に付く.初版を見たときに感じたショックは元より,改訂の頻度,改訂のたびに増える引用文献の数,そして改訂ごとに追加される新たなコーナーである.
 第5版では新たに“拡大知識箱“というコーナーが加わったが,これは本文で扱われている中心的な課題を理解する助けとなる理論的背景や技術的背景について解説したものである.また,“実習”はこれまでもあったコーナーだが,これは章の内容に即した実験的・演習的テーマをまとめたものであり,本書を使って運動について学んでいる学生への“宿題“である.読者の中には教員の皆様も多いと推測するが,“実習”は先生方が使用する教科書としての価値を高めていると考える.
 このように本書は,人間の“運動制御“にかかわっている研究者,教員,そして大学院生や学部生という立場の異なる方々に広く役に立つ“科学書”である.読者の皆様が本書を踏み台として,それぞれの立場で自らの独自な道を見つけていくことを祈っている.
 2020年2月
 田中 繁

 本書は,Anne Shumway-CookとMarjorie H.Woollacottの2名が執筆した『Motor Control』という運動制御に関する原著第5版を,12名で分担して翻訳したものです.原著の特徴は,神経解剖や神経生理学の基礎知識や臨床的に重要なポイントを簡潔に解説し,最新の研究も加え,読者が臨床的な課題に対処できるように噛み砕いて記載していることです.神経科学者が臨床的な課題を知りたいときや,運動制御に関与する医師,看護師,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士,臨床心理士,その他の専門職種が神経科学的な根拠や理論,あるいは運動制御機構を知りたいときに,是非一読をお勧めします.
 第1版日本語版の出版は,監訳者代表である田中繁氏が“臨床動的立位分析研究会”という専門家の集まりで,立位時の動揺に対する視覚の影響を調べる研究を紹介した際,新小田幸一氏(前広島大学教授)がそれによく似た実験をアメリカの研究者がしていると指摘し,原著『Motor Control』の存在を教えてくれたことがきっかけとのことでした.そこで田中氏と高橋明氏が監訳者となり,1999年11月に『モーターコントロール』(原著第1版日本語版)が出版されました.その頃,私は産業医科大学リハビリテーション医学の助教授をしており,歩行に関する章を原著で読んだ記憶があり,『モーターコントロール』をリハビリテーション医学講座の医局図書として購入しました.
 今回,第5版日本語版の出版にあたり,監訳者が高橋氏から私に交代することになりました.高橋氏は脳神経外科が専門で,岩手医科大学医学部講師,いわてリハビリテーションセンター副センター長,センター長,その後理事長に就任されています.脳神経およびリハビリテーションの専門家ですので,医師の立場から運動制御の理論,神経解剖や生理学,神経学的機能障害に関する章を担当され,日本語らしい上手な翻訳をされました.この度,私が高橋氏の後任として監訳に参加することになったのは,新小田氏からの依頼でした.新小田氏は2001年3月まで産業医科大学病院リハビリテーション部に勤務しており,信頼のおける仲間の一人でした.2018年1月頃,広島大学新小田教授より「高橋氏の後任を探している」との電話があり,その後,代表監訳者の田中氏から『Motor Control』翻訳で脈々と引き継いできた信念をお聞きし,感銘して翻訳に参加することにしました.私が直接翻訳したのは僅か3章ですが,神経解剖・生理学から現場の臨床課題へと橋渡しをする重要で実践的な教科書であることを実感しました.
 最後に,私の翻訳に協力してくれた九州栄養福祉大学理学療法科木村美子教授に感謝します.
 蜂須賀研二


第4版への監訳者の序
 本書の初版が発行されたのは1999年11月(原著は1995年),第2版は2004年6月(同2001年),そして前版である第3版が出版されたのは2009年6月(同2007年)であった.第3版の序において書いたが,翻訳をしていて感じるのはなんといっても原著者のパワーである.著者と直接お会いしたことはないし,まして近くにいたわけではないが,原著を読んでいると著者2人のパワーを感じるのである.
 そのパワーまで翻訳できれば,読者の皆さんに対する責任を訳者として100%果たしたことになるが,それは望むべくもない.しかし,そのパワーの一端が読者の目に直接触れる1つは引用文献の数であろう.研究者にとっては,極端な書き方をすると,この引用文献だけでも教科書としての価値があるとさえいえるのではないだろうか.もちろんこれは“パワー”の表面的な一部に過ぎないことではあるが.
 これまでの版の副題について触れてみたい.今回,第4版の原著序文を訳していて気がついたことであるが,初版から第4版に至るまでに副題が微妙に変わってきている.初版と第2版では“Theory and Practical Applications“(日本語版“運動制御の理論と臨床応用”),第3版では“Translating Research into Clinical Practice“(日本語版“運動制御の理論から臨床実践へ”),そして第4版は第3版と同じで“Translating Research into Clinical Practice“となった.つまり,第2版から第3版への移行に伴って副題に変更があり,Theory→Translating Researchに,Practical Application→Clinical Practiceに変わっている.いまから考えると,これらの副題の変化は,それぞれの版の内容を反映する重要なものであったのに,翻訳ではそれを十分に意識してこなかった.これについてはお詫びするが,今回は議論をした結果“研究室から臨床実践へ”となった.この副題なら,第4版(および第3版)の内容を十分に反映しているものと考えている.
 原著第4版の特徴はなんといってもDVDが付いたことである.その日本語版への対応については出版社および監訳者の間で議論がもたれ,その結果,日本語の字幕を付けることとなった.字幕については,科学的な映像ゆえに,内容を表現している映像と字幕と一致することが重要となる.そのことを重視しつつ,日本語としての不自然さを生じないようにするという困難な仕事となった.結果は必ずしも目標を達成しているとはいいがたいが,合格点は取れたと考えている.今後の改訂時には,さらにこの対応関係を中心に良いものにしていく所存である.
 今回の日本語版では新たな試みとして“略語一覧“を掲載した.一例を示すと,本文では“日常生活活動(ADL)”と日本語と略語のみを記載しているが,“略語一覧“では“ADL:activities of daily living:日常生活活動”と“日常生活活動:activities of daily living:ADL”と2通りにしてフルスペルを掲載している.他の翻訳書を読む場合や英語論文を書く場合などにお役立ていただければ幸いである.
 最後に,この第4版および以前の版を購入いただいた皆様に感謝をしたい.これは著者(訳者)としては当然であるが,漏れ聞こえてくる皆様からの声が翻訳への力を与えてくれているからである.逆に皆様へお願いしたいこともある.それは,この翻訳を踏み台にして,ぜひ日本独自の新しい研究へと進んでほしいことである.「(『モーターコントロール』を基にして)運動制御についての新たな研究が出てきたそうだ」,そのような声の聞こえる日を待ち望んでいる.
 2013年7月
 田中 繁

 原著初版が上梓されたのは1995年.その日本語版が発刊されたのは1999年11月であった.そしてこのたび第4版がリリースされることになった.この間,この領域におけるさまざまな発展と進歩には目を見張るものがある.そしていま現在もさらにいっそう大きく華ひらこうとしている.
 これには,先人先達の築かれた厖大な遺産をベースにして,コンピュータとコンピュータ・サイエンスの発達に伴うCTやMRI,PET,三次元動作解析装置,光トポグラフィなど多彩な画期的検査機器の興隆が“ハードウェア“としてあるにしても,本書を通じて斯界の後輩を教導したという点で,つまり“ソフトウェア”として著者お2人の力は限りなく大きいと感じているのは私たち訳者だけではないと思う.
 わかりにくい事象をなんとか簡明に,それもその事象を解き明かした当のご本人たちの言質をドキュメンタルに引用し,援護論も反論も懐疑論も同様に,膨大な資料の山から的確に引用・例示して,おのおのの事項の概念の確立から整理までの時系列を科学的に,あたかもそのときどきの,その学会場に座って講演や討論に耳を傾けているかのように話を進めていくというお2人の先生の手法は,十余年経ったいまなお新鮮で,本書に独特の味わいを醸し出しているように思う.
 お2人はまた,読者の理解を深めるため,版を重ねるごとに工夫を加えてもこられた.論述を整え,内容を更新されるだけではなく,読者のより積極的な参加を促そうとするためであろうか,第2版からは実習のコラムを設けられた.これによって初版の放っていた壮大なレビューという香りに教科書としてのテイストが加わってきた.今回の第4版からはさらにDVDが付属するようになって,読者はより短時間で,各疾患や病態の特徴,患者さんに対応するうえでの勘所を把握しやすくなっている.
 2013年7月
 高橋 明


第3版への監訳者の序
 本書の原著初版本を手にしたときの衝撃から十余年が過ぎ,ここに第3版がリリースされることになった.原著者であるA.Shumway-Cook先生とM.Woollacott先生とが,本書を著すことによって試みようとしたものは初版以来の“序”に明確に記されている.神経科学と運動制御分野における諸研究の爆発的な広がりによって生じつつあった臨床的実践と研究とのギャップを,研究の成果を臨床的実践の場にフィードバックすることによって埋めようとする臨床家の努力になんとか応えようとするものであった.この試みは,本書が発売されて以来,わが国はもとより世界中で多くの読者を得たことからひとまず達成されたように思われる.
 実際,身体の不自由をなんとか少しでも克服したいと日夜努力している方々を支援しているわれわれ臨床の現場には,“ヒトはなぜ動くのか“というような根源的疑問から,“この異常運動はなぜ生じるのか”,また“この状況を克服するにはどうすればいいのか”という具体的ノウハウの希求にいたるまで,さまざまなレベルの多様な疑問や課題が,ときには巨大な壁となっていくつもそそり立っている.この広大な運動制御という暗黒大陸に先人たちはどう挑み,どのような経緯でどのようなルートを残してくださったのか.本書はまずこれを中心に数々の多様な切り口を理論という形で紹介し,論点とともに限界もまた提示する.そして解剖学的生理学的に解明されつつある運動制御機構を,諸研究を織り込みながらざっとレビューし,各論を解説していくことで中核の課題のみならず類似の臨床課題にも対応できるようにガイダンスを進めていく.
 本書を貫く最も大切なコンセプトは,第1章に記された『「科学が事実を用いて構築されているのは,家が石を用いて造られているようなものである.しかし,石の集積が家ではない以上に事実の集積は科学ではない」…青写真が石の積み重ねを家とするための構造を提供するように,理論は事実に意味を付与する(Miller,1988)』との,J.H.ポアンカレの言葉を引用したミラー先生の言葉ではないだろうか.1つ1つの研究が,運動制御という巨大な命題のどこに位置し,どのような意義をもつのか.そしてそれが日常臨床におけるどの事象の,どの課題を解決するカギとなっているのか.こうした意味で神経科学的運動制御の領域は初めて,本書といういわば歴史書,あるいは鳥瞰図を手にしたことになる.
 第3版では,本書を教科書や大事典,あるいは入門の書として用いている多くの読者に対して,より利便性を増強してある.最先端の研究領域の訳語については,極力斯界で流通している日本語を選ぶというのが訳出方針ではあったが,日進月歩の研究領域では学術用語がそのまま流通していることが多々ある.こうしたものについては無理をせず,そのまま用いたことをお許し願いたい.いずれ最新の知見や周辺諸技術をup to dateに盛り込んでいく両先生の学識の深さとエネルギーには,ただただ頭が下がるのみであるし,理論の臨床実践についても,ついつい試みてしまうように,よりいっそう工夫されていることに読者は驚かれることであろう.
 2009年5月
 高橋 明

 まず多くの読者の方々に謝らなければならないと考えている.それは,原著第3版が出版されてからこの翻訳書ができるまでたいへん長い時間がかかってしまったことである.翻訳第2版はすでに完売と聞いたので,おそらく少なからぬ購入希望者に「もう少しで第3版が出版されますのでお待ちください」などという説明があったのではないかと推測する.第2版のときにもそうであったが,今回の遅れも私の責任が大きい.読者のみならず,監訳の同志(?)である高橋明先生,そして他の訳者の方々,さらには出版社の皆様にも迷惑をかけてしまった.
 第3版の情報を得たのは2006年8月頃であった.まず驚いたのは,初版,第2版,第3版と速いスピードで改訂が進んでいることであった.初版を見たときには「これはすごい」と直感したが,その後の改訂を見ていると著者たちのパワーに驚かされる.改訂ごとに新たな引用文献が加わってきたことはもちろん,新たな試みも行われてきた.今回の改訂では“評価手段“と“実習の解答”が加えられ,第2版で“表“として扱われていたものが“評価手段”と“表“に分けられるなど,およそ四分の一が修正されたり加わったりした.この翻訳書を教科書として使っている教員の方々がいると聞いているが,“実習の解答”はそのような皆様にとって大いに役立つものであろう.
 翻訳するわれわれも原著の意欲的な態度に対応すべく努力してきた.第3版に対する基本姿勢は翻訳第2版を修正するのではなく“新たな訳“としたことである.とはいっても訳語などをまったく変えたわけではないが,原著の微妙なニュアンスに注意深く配慮し訳語に修正を加えるように努力した.注意深くチェックをした結果,ごく一部ではあったが第2版には原著との微妙な食い違いのあることもわかり,それらは積極的に修正した.訳語については,これまでもそうであったが,可能な限り1対1となるように心がけた.その結果は“索引”に現れていると思う.
 内容についても具体的に触れてみたいと考えていたのだが,現時点では難しいというのが結論である.私は訳者として自分の翻訳した章は10回近く,また監訳者として担当した章は数回,その他の章でも1,2回原文あるいは訳文に目を通した.それでも,内容について私の解釈を加えるには至っていない.内容を十分に理解し自分のものとするためには,初めてこの本を読む皆様と一緒になり“読者“として勉強を開始しなければならない.第2版に関しては地域的であったが一度,数回の勉強会を開いた.この第3版に関しては,勉強会をさらに進め地域を越えて展開できればと考えている.それだけ深い内容をもった本である.この本からモーターコントロールとその周辺に関する“知識”,“臨床の道筋“,“先行研究情報”,“研究テーマ“,“実験計画”などについて学ぼうではありませんか.
 2009年5月
 田中 繁


第2版への推薦の辞
 どのような事業(プロジェクト)でも,社会的貢献が歴史的に評価されうるものであれば,投資が有意義であったと断言できるであろう.美濃部都政のもと,わが国で初めて65歳以上の人口層を対象として設立発足した養育院付属病院(現在の老人医療センター),Half-Way-House,Day Care,Day Hospital,ナーシングホーム等は,現在全国的に展開されている老健施設,リハビリテーションを中心とした総合的医療を25年以上前に先取りしていたことが明白である.同時に,東洋で初めての東京都老人総合研究所も発足し,そのなかにリハビリテーション医学部が部として存在し,運動研究室,障害研究室,言語聴覚研究室をスタートさせたことは,日本で初めてリハビリテーション専門の研究費がつけられた研究施設が開設され,研究職としてAllied Medical職種に門戸が開かれるチャンスとなった.
 たまたま,日本人で初めて米国のリハビリテーション専門医の上級試験に合格し,専門医学術アカデミーの正式なFellowに推挙されていたので,都議会の特別承認を受けて,都政はじまって以来,最年少の主幹参事:部長として養育院付属病院のリハビリテーション部と研究所のリハビリテーション医学部の責任者としての責務を負わされることになった.特に研究所はいろいろな職種で熱意があり,将来性のある方に集まっていただきたいと願い,特に工学系でリハビリテーションに関心を示された田中 繁氏は第一候補者であった.ところが,在学中に学生運動に参加した人物は東京都では採用不可との冷たい反応で,ここは私なりに賭けに出る決心をした.すなわち,田中氏を研究員として採用するか,どなたか私の代わりに病院と研究所のリハビリテーションを担当される方を探すか,どちらかご判断下さいと美濃部知事に直訴をした.結局,都議会の文教厚生委員会の特別議題となり,役所らしく私がすべて責任を持ちますと一筆差し入れることで決着した.当時多忙であったため,研究所の方に親友のコペンハーゲン大学整形外科教授のBentEbskov博士,PTの教師のためのパリ大学エミエンヌ大学院院長のEric Viel博士に顧問として来日していただき,研究所のスタッフの研究の方法論,研究の展開などについてご指導をいただけたのは幸せであった.ここで育った方々が,全国で臨床,研究,教育の分野で教授職でご活躍である.今回,この“Motor Control”の主監訳者として労をとられた田中 繁教授も,見事な成果をあげられて現在に至られたのは大慶で,これ以上の喜びはない.
 今般,“Motor Control――Theory and Practical Applications”の日本語版を分担で訳されて,医歯薬出版株式会社より世に問うことになったのは素晴らしい企画である.というのは,この本はリハビリテーションに関与する多くの医療職にとり必携と断言できるほど,内容が最高で豊富な情報を提供しているからである.
 リハビリテーション医学そのもののCoreになる学問が障害学といわれているが,現実には何を勉強すればよいのか具体的ではない.通常,何かまとまった勉強をしようとする場合,神経生理,機能解剖,運動制御,脳の病理,機能回復の過程などに関連のある本を山のように積み上げて,必要に応じて必要な項目をそれぞれの教本より取り出して目を通すことになる.
 この“Motor Control”は,理論的な枠組みより取りかかり,運動制御に関して現在までに受容されている説を議論し,運動学習,機能回復から臨床応用までを導入部としていろいろなヒントを提供している.
 第II部では,姿勢とバランスを広範囲にわたって取り上げ,特に加齢と姿勢バランスを議論しているのがユニークである.付録としてあげられている姿勢制御の評価表は,その着眼点といい治療につなげる分析のデータ採取としても大変臨床面で役に立つ.
 第III部では,移動および行動の機能を正常と異常の面より取り上げて,いろいろな研究が第三者として中立の立場より論議されている.
 第IV部では,ヒトがヒトであるのは独特の上肢機能を所有しているからであるということを前提にして,上肢の徒手的な巧緻性について,くまなく論議し,前の部で説明された機能の領域の運動機能不全を扱い,最近の文献の分析も加えられている.さらに,ヒトの生涯における変化,加齢現象まで踏み込んでいるのには驚かされる.
 本書は,訳者の努力もさることながら,臨床に従事する者が実践の場に理論を持ち込み理解しやすいように書き上げた本だけに,実にしっかりした内容であり,いままで山のように本を積み上げて勉強しなければ理解できなかった運動制御の正常と異常がこの本1冊でかなりの面までカバーされているので,臨床,教育,さらには研究の分野で応用できるヒントが数限りなく含まれている.リハビリテーション医学に関するあらゆる職種,特に医師,理学療法士,作業療法士には必携の書であり,推薦に大いに値する新刊書である.監訳の労をとられた高橋 明氏,田中 繁氏,および分担で訳を担当された諸氏に心から敬意を表する次第である.
 1999年10月
 米国リハビリテーション専門医
 米国専門医学術アカデミーFellow
 英国ケンブリッジCMMA正会員
 青葉会,大坪会リハビリテーション顧問 荻島 秀男
 (故人)


第2版への監訳者の序
 ある日,田中繁先生から分厚い1冊の洋書を手渡された.この本をどう思うかというのである.まず,目次を見て驚いた.そして,ページをめくっていくとそれは興奮に変わった.われわれが日常,なにげなく行い,職業として診ている「運動」をこれほど包括的あるいは学際的に,ここまで詳細に語る人達がいたのである.しかも膨大な文献を自在に綴り合わせてである.そして,本書を読まれた一人一人がここに紹介された知識をベースに,各自がもっている知識とスキルをさらに深めることができたなら,こんな素敵なことはない.著者はおそらくそう考えたに違いない,このようにも思えた.
 とにかく本書は数多くの魅力に満ちている.その一つは,「運動」を眺める視点の広さもさることながら,関連各領域における古今のキー・コンセプトを紹介し,それらが互いにどのような関連をもち,どのようないきさつで変遷して現在に至ったかに触れていることではないだろうか.これによってわれわれは,そのコンセプトが包含する真の意義と背景を間違いなく知ることができる.
 もう一つはケーススタディや「実技」を巧みに配置していることである.実態から理論,そして実践への論証というスパイラルを重ねることによって,森の奥深く分け入ったがゆえに山容を忘れる,という陥りがちなリスクを見事に回避しているように思う.
 運動に関する脳科学の最新のトピックスの紹介も魅力の一つであろう.これは,このsecond editionでいっそう充実している.最新の科学技術のもとに次々に解き明かされる新知見,読んでなお釈然としないというところがあったなら,そここそが未解決な謎であり,「運動制御研究」の新しいターゲットなのであろう.
 もちろん内容的に十分とはいえない部分もたくさんある.それは,著者らも述べているように,「運動制御」という山の山容を語る,という本書の目的から逸脱してしまうために割愛されている場合もあるし,実際の研究情報の方が本書よりもはるかに進んでしまっている,という場合もあるようである.そんな場合でも本書は,その部分をインターフェイスとしてそれら専門書や諸研究と補完しあい,いっそう読者の知識を深める“古典”として作用するように思われる.
 本書の特性は,ある研究情報の大局的位置を知るための“地図“としても意義がある.さらにまた,著者らが“事典”としても整備工夫していることを汲み,同様の意義をもてるよう訳出するうえで配慮したつもりである.
 最後に,本書に巡り合わせていただき貴重な体験をさせていただいた畏友・田中繁先生,また翻訳を分担していただいた多くの諸賢と諸先達,とくに運動学習領域の用語にお手を煩わせてしまった岩手大学保健体育学科教授の鎌田安久先生,そして同僚に衷心より感謝申し上げたい.内容の膨大な本書を翻訳するにあたって,結果的に多くの人手を必要とした.そのことによって生じる煩雑さを忍耐強く支えていただいた医歯薬出版の編集担当者にも感謝したい.
 2004年4月
 高橋 明

 いよいよ前書きを書くときがきた.というのは,この第2版の翻訳に取りかかったのは2001年6月であった.かれこれ3年近くの時がたってしまったことになる.その間に第3版が出てしまうのではないか,などと心配するような感じである(それほど2人の著者にはパワーを感じる).
 今回は初版では感じなかったプレッシャーがあった.それは,初版の評判がことのほか良く,第2版の翻訳を始めた頃から,「いつ出版されるのか」というような声が聞かれたからでもあった.実はそれ以上に,訳者自身,とくに監訳者,とくに私のなかには,ぜひ初版を超えたい,という意識があった.そして,方針を“内容を誤ることなく,より日本語らしくする”とした.しかし,最初から躓いてしまった.初版の翻訳で少しは翻訳というものに慣れたのだが,それをいかに超えるかを自問し空回りし,けっきょく1年近く手が着かないような状況になってしまった.翻訳者の皆さんはその間も翻訳を続けてくれたのであり,このように出版が遅れてしまったことについては申し訳ないと感じている.
 しかし,とにかく出版に漕ぎつけた.第1に感謝したいのは出版を待っていただいていた読者の皆さんである.今日に近づけば近づくほど,「出版はいつなのか?」という声が増えてきた.これはプレッシャーでもあったが,なんといっても励ましであった.第2には,ここまで遅れたのに一緒になって,より良い翻訳へと努力をしてくれた翻訳者の皆さんである.そして,第3には,故・荻島秀男先生を挙げなければならない.“故”と書かなければならないのは本当に悲しいことである.冥福を祈るとともに,個人として感謝する次第である.
 手前みそになるが,苦しんだ甲斐あって,満足できる翻訳書になったと感じている.“十分“満足できるとは書けなかったが,読者の皆さんからの批判や意見をいただき,機会があれば“十分満足できる”翻訳書にしていきたい.ぜひ,意見をお寄せいただきたい. 2004年4月
 田中 繁


初版への監訳者の序
 やっと先が見えてきた,というのが本音である.“臨床動的立位分析研究会”というクローズドな研究会がある.私がこの本『Motor Control』を知ったのは,この研究会の一員で訳者の一人にもなってもらった新小田幸一氏による紹介であった.この研究会で,私は立位時の動揺に対する視覚の影響を調べるために,開眼,単純な閉眼,黒く塗りつぶしたゴーグル着用(真っ暗),ヤスリでこすったゴーグル着用(明るさのみがわかる),という条件で行った自分の研究を紹介した.そのとき同時に,ゴーグルを使う前には,頭がスッポリ入るくらいの大きさをもった曇りガラス製の球形の電球カバーを購入し,それで明るさのみがわかるような条件を作ろうとしたという話をした.これを聞いた新小田氏が,それと非常に似た実験を日本製の提灯を使ってアメリカの研究者がやっている,ということを教えてくれたのである.しかも,それを紹介している原著をもっているということであった.後日,その部分のコピーをいただき,書籍の名前を教えてもらった.
 私は早速その本を購入した.ぱらぱらとページを捲る.そのときのショックを私は忘れることはできない.“訳本を出そう“と即座に決心した.しかし本書は,原著のコピーに“Only book which is a bridge over theory and clinical practice”とあるように,基礎的生理学および医学的内容から運動学,そしてPT,OTの治療・訓練手技に至るまでを網羅した内容を含んでいた.私が責任をもてるのは運動学的な内容のみであった.幸いなことに,非常勤研究員となっていた“いわてリハビリテーションセンター”のセンター長であり脳外科出身である高橋 明氏に原著を見ていただいたところ,内容は大変優れていることを知らされ,また快く私と一緒に監訳者の責任を担ってくれるという回答をいただいた.高橋氏と検討の結果,訳者はリハビリテーションセンターのスタッフ,そして私が関係する施設のPT・OTに頼むこととなった.また,幸いなことに,眞野行生氏を中心とした北海道大学スタッフの協力もいただけることとなった.
 もう一つ,当初より決めていたことがある.それは,推薦の言葉をカリエのペインシリーズ翻訳でよく知られている,荻島秀男氏に書いていただきたいことだった.荻島氏は私が仕事に就いた最初の上司であり,この分野での私の立場を作っていただいた恩師である.1997年の暮れに先生のお宅を訪れた.先生とは年賀状のやりとりなどはあったものの,直接お会いするのは何年かぶりである.渋谷駅で降りて喧噪を通り抜けると,数分で信じられないほど静かな住宅地に出る.先生のお宅の前でやや緊張したのが思い出される.先生は,快く推薦の言葉の執筆を引き受けてくれた.すべての準備は整った.
 翻訳開始から1年半が経った今,なんとか著者の思想を汲み入れた翻訳ができたのではないかと考えている.少し,内容に触れたいと思う.私が“一目で惚れた”のには,次のようないくつかの理由がある.
 (1)著者が2名と少ないこと:この本は教科書として書かれた本である.論文集や辞典など以外は,1,2名の少人数で書くべきである.それにより,初めて全体が統一した流れのなかでテーマが展開される.つまり,本に思想が生まれる.日本においてPT・OT向けに作られる教科書もそうありたいと考える.
 (2)引用文献の量:本書の引用文献はのべ1,018論文である.これは2名の著者のパワフルさを如実に物語るものであり,この情報だけでも読者の役に立つであろう.
 (3)記述の客観性:基礎的生理学の研究結果についてはもちろんのこと,これまでに考案されてきた訓練手技や治療法についても特定の考えに傾倒することなく,非常に冷静に記述している.特にボバース法など,議論のある項目についてはぜひ関係者に読んでいただきたい.
 (4)教科書を意識した内容:教科書としては最終学年のため,および大学院や卒後教育のために最適であると考える.すべての章の最後には,章全体をまとめた“要旨“があり,それを一読すれば内容のおおよそがわかり,学ぶものにとっての重要な指針となっている.さらにところどころに“実習課題”および“技術ボックス”という囲み記事があり,座学としてだけでなく実習あるいは演習をも交えて講義を進められ,担当する教員にとって大いに役立つ内容である.
 (5)研究への指針:上記の豊富な引用文献とともに,その結果,何がいまだに研究されていないのかが明確に提示されている.すでに実務に就いている読者のなかには,日常の訓練などで自ら行っている手技やその結果に疑問を抱いている方も少なくないであろう.これは一種の研究疑問になりうるわけであるが,本書を読むことによりすでに解決されている問題であるのか,新たな研究テーマになりうるのかの指針が得られるであろう.
 翻訳の質については,可能なかぎり原文と訳本の単語の一対一対応を目指した.結果的に完全にこれを行うことはできなかったが,かなりの部分で一対一対応に近づけたことは,医歯薬出版編集部および関係スタッフの方々の協力の賜であり,深く感謝する.もちろん,英語と日本語の本質的な相違により一対一にできないところもあったことは言うまでもないが.
 最後に,国際医療福祉大学作業療法学科学生・家本典華,岩崎 隆,北村陽子,佐藤水保子,須田江利子,廣水眞奈美,西山織江,藤原祥貴,三浦慈子,同理学療法学科学生・並木尚雄,渡辺一美の各氏に翻訳の一部を担当していただいたことを付記し,感謝する.訳者一同,本書が読者にとって,真に“役に立つ”一冊となることを祈っている.
 1999年10月
 訳者代表 田中 繁


原著第5版の序
 この数年,根拠に基づく臨床実践への重要性が増しており,その臨床実践の特徴は,運動制御問題に関する評価と治療における専門的な臨床判断を含む最高の研究と患者の選択性が統合されていることである.しかしながら,臨床実践に研究結果を統合することは,言うは易く行うは難しである.神経科学と運動制御の分野における新たな研究が爆発的に発展したため,研究と臨床実践の間にはギャップがますます広がってきている.この本はそのギャップを減じるために,運動制御の領域における最近の研究をレビューし,その研究を最善の臨床実践に翻訳することを模索してきた.
第5版の概観
 第5版の全体的な枠組みに変化はなく,4つの部分に分かれている.「第I部 理論的枠組み」では,運動制御,運動学習,神経学的損傷後の機能回復について最近の理論をレビューしている.運動制御の多様な理論を臨床に移植するための議論があり,それは運動制御と運動学習の生理学的基礎となるものである.この第I部はまた,臨床実践に関する概念的枠組み(第6章)と,運動制御に影響する感覚系,運動系,そして認知系に関する経学的損傷についての章を含んでいる.この最初の部は本書の要点であり基本となる部分であり,その後に姿勢制御とバランス(第II部),移動性(第III部),そして上肢機能(第IV部)などの運動制御課題が続く.
 第I〜IV部にある章の構成は以下の基本的な形式に従っている;
 ・各部の最初の章では,正常な制御処理過程に関連する課題について議論している.
 ・2番目と3番目の章では,発達および年齢─関連の問題がそれぞれ説明されている.
 ・4番目の章には異常な機能に関する研究がある.
 ・各部の最後の章では,3つの機能的領域にある問題の評価と治療に関する臨床的戦略について議論しており,またそれらの戦略を支えている研究をレビューしている.
 本書ではいくつかの利用方法が考えられる.第1に,学部学生と大学院生の教科書としての利用が想定されている.それぞれのコースに対する,正常な運動制御,一生にわたる運動発達,理学療法と作業療法におけるリハビリテーションの教科書としてであり,また運動学と運動訓練の科学としても利用可能である.また,本書により,臨床家が「根拠に基づく臨床実践」のための基礎となる研究との結びつきを保つ助けとなることも想定されている.“モーターコントロール:研究室から臨床実践へ”がもつ力は,広範な研究論文の要約があることと,その研究を臨床実践に転移していることである.しかしながら,要約を読むことだけでは,原著の研究論文を徹底的に読むことで得られる洞察に代えることはできない.書籍というものは,正にその本質として,その書籍が出版される前に入手した研究のみを要約しているのであり,臨床家や学生たちにとっては,その後に発表される研究論文を引き続き読み続けることが肝要である.
第5版における変更点
 モーターコントロール第5版には,鍵となる3つの領域,姿勢制御,移動性,上肢機能における最新の研究が掲載されている.基本的な知識を強調することを目的として,より詳細な情報を本文から拡大知識箱に移動した.「実習」は拡張されていて,解答の鍵は各章の末尾に掲載されている.いくつかの症例研究にはビデオが付け加えられ,これには中等度の再発寛解型多発性硬化症,重度脳性麻痺,そして脳卒中患者について中急性期から回復する間の4日目,1か月目,そして6か月目の長期臨床研究が含まれている.また,治療に関するビデオがあり,これには脳卒中1か月目の女性における運動制御問題の治療と,重度脳性麻痺児における体節制御の治療が含まれている.
 学生と教員のためのオンラインの資料
 ビデオは症例研究にかかわり,本書全体に対応しており,the Point(lww,com)に見ることができる.これらは,本書と一緒に使うことを前提とし,学生と教員の両方に役に立つ.とくに,教員のための資料もあり,以下の通りである;
 ・イラスト集
 ・パワーポイントスライド
 ・試験作成具
  学会誌へのリンク
  学生の練習に使う追加的な症例研究
最後に
 “モーターコントロール:研究室から臨床実践へ”第5版では,運動制御に関する最新の理論と研究を,臨床家が臨床実践に組み込めるようにするための枠組みを提供すべく模索している.われわれが期待するさらに重要なことは,本書が運動制御に問題をもつ患者の皆さんの検査と治療に対する,新しくより効果的なアプローチを開拓する跳躍板となることである.
 Anne Shumway-Cook
 Marjorie H.Woollacott
 訳者一覧
 第5版への監訳者の序
 第4版への監訳者の序
 第3版への監訳者の序
 第2版への推薦の辞
 第2版への監訳者の序
 初版への監訳者の序
 献辞
 原著第5版の序
 略語一覧
 日本語訳一覧
第I部 理論的枠組み
 第1章 運動制御:論点と理論(蜂須賀研二)
  はじめに
   運動制御とは何か?
   セラピストはなぜ運動制御について学ばなければならないか?
  運動の本質の理解
   運動制御の根底をなす個体システム
   運動制御の課題制約
   運動制御の環境制約
  運動制御:運動制御の理論
   実行する理論の価値
   反射理論
   階層理論
   運動プログラム理論
   システム理論
   生態学的理論
   どの運動制御理論が最良なのか?
  臨床行為と科学理論の並行した発展
   神経学的リハビリテーション:反射に基づく神経促通法
   課題指向型アプローチ
  症例研究
  要約
  実習の解答
 第2章 運動学習と機能回復(中谷敬明)
  運動学習へのまえがき
  運動学習とは何か?
  運動学習の本質
   運動学習の初期の定義
   運動学習の定義の拡大
   遂行能力(パフォーマンス)と学習との関係
   学習の形式
   長期記憶の基本形式:非宣言的(暗示的)記憶と宣言的(明示的)記憶
  運動学習の理論
   Schmidtのスキーマ理論
   生態学的理論
  運動スキル学習の段階に関する理論
   FittsとPosnerの3段階モデル
   運動学習におけるBernsteinの3段階アプローチ:自由度を習得する
   Gentileの2段階モデル
   運動プログラム形成の段階
  運動学習研究の実践適用
   練習水準
   フィードバック
   練習の条件
  機能回復
   機能回復に関係する概念
   機能回復に貢献する要因
   損傷前の脳保護要因
   損傷後の要因
  要約
  実習の解答
 第3章 運動制御の生理学(蜂須賀研二)
  序論と概要
   運動制御理論と生理学
   脳機能の概観
   ニューロン─CNSの基本単位
  感覚系/知覚系
   体性感覚系
   視覚系
   前庭系
  活動系
   運動皮質
   高次連合領域
   小脳
   大脳基底核
   中脳と脳幹
  要約
 第4章 運動学習と機能回復の生理学的基礎(渡部一郎)
  はじめに
   神経可塑性の定義
   学習と記憶
   学習と記憶の局在
  可塑性と学習
   可塑性と非宣言的(暗示的)学習
   手続き学習(熟練と習慣・慣れ)
   可塑性と宣言的(明示的)学習形式
   暗示的から明示的知識への変化
   明示的記憶から暗示的記憶への変化
   運動学習の複合形式
   スキルの獲得:自動運動へのシフト
   学習形式のまとめ
  損傷後の可塑性と機能回復
   回復の概念
   軸索損傷:神経機能と周辺細胞
   脳機能を損なう初期の一時的現象
   軸索の再生:末梢と中枢神経系での差異
   損傷に対する中枢神経の応答
   機能回復過程における皮質マップの変化
   皮質再構築と神経可塑性を増強する戦略
   脳の損傷における,神経可塑性と機能回復の臨床的意義
  神経可塑性と神経変性疾患
   神経可塑性とパーキンソン病
   PDの神経可塑性と機能回復研究での臨床的関係
  要約
 第5章 運動制御の抑制:神経学的機能障害の概要(蜂須賀研二)
  はじめに:運動制御の病態生理学の徴候と症状
  中枢神経病変と関連する機能障害分類
   徴候vs症状
   徴候と症状の陽性vs陰性
   一次的影響vs二次的影響
  活動系の機能障害
   運動野における機能脱落
   皮質下病変に関連する運動機能障害
   二次的筋骨格機能障害
  感覚系の機能障害
   体性感覚障害
   視覚障害
   前庭障害
  高次連合皮質の病理学:空間的および非空間的機能障害
   右半球の空間障害
   右半球の非空間障害
  活動(運動)系における機能障害の臨床的取り扱い
   運動皮質と皮質脊髄路の障害
   小脳と大脳基底核の機能障害の臨床管理
   筋骨格機能障害の臨床的管理
  感覚系機能障害の臨床的管理
   体性感覚機能障害
   視覚的機能障害
   前庭損傷機能障害
  知覚および認知系機能障害の臨床管理
   空間障害:半側無視
   非空間障害
  要約
 第6章 診療のための概念的枠組み(田中麻子)
  はじめに
  診療のための概念的枠組みの要素
   実践モデル
   機能性モデルと能力障害モデル
   仮説指向性診療
   運動制御と学習の理論
   根拠に基づく診療
   概念的枠組みの診療への応用
  検査のための課題指向型アプローチ
   機能的活動と参加に関する検査
   戦略レベルにおける検査
   身体構造と機能障害の検査
  治療的介入のための課題指向型アプローチ
   機能回復と機能代償
  要約
  実習の解答
第II部 姿勢制御
 第7章 正常な姿勢制御(田中 繁)
  はじめに
   姿勢制御の定義
   姿勢制御に関するシステム枠組み
  姿勢制御における運動系
   安定状態バランス
   反応的バランス制御
   先行した(予測的)姿勢制御
  姿勢制御における感覚/知覚系
   安定状態バランスのための感覚入力
   反応的バランスに関する感覚入力
   予測的バランスのための感覚戦略
   姿勢制御における感覚/知覚側面の研究の臨床応用
  姿勢制御における認知系
   姿勢制御の認知的側面に関する研究の臨床応用
  姿勢定位と安定性を制御する神経下位システム
   脊髄の寄与
   脳幹の寄与
   大脳基底核と小脳の寄与
  要約
  実習の解答
 第8章 姿勢制御の発達(谷 浩明)
  はじめに
   姿勢制御と発達
   運動の一里塚と姿勢制御の出現
  姿勢制御の発達の理論
   反射/階層理論
   システム理論
  姿勢制御の発達:システムの視点
   乳児の全体的運動
   頭部制御の出現
   自立座位の出現
   自立立位への移行
   姿勢制御の改善
   姿勢発達における認知系
  要約
 第9章 加齢と姿勢制御(新小田幸一)
  はじめに
   老化を招く要因
   一次的要因と二次的要因の相互作用
   老化の多様性
  不安定性の行動指標
   転倒の定義
   転倒の危険要因
  姿勢制御システムにおける年齢関与の変化
   運動系
   安定状態への変化
   反応的バランス制御における変化
   予測的姿勢制御における変化
  感覚/知覚系における加齢
   個々の感覚系に生じる変化
  認知問題と姿勢制御
  年齢関与の姿勢障害を理解するための症例研究アプローチ
  要約
  実習の解答
 第10章 姿勢制御の異常(新小田幸一)
  はじめに
   神経学的病変を有する人たちの転倒
  運動系における諸問題
   安定した状況でのバランス障害
   反応的バランスの障害
   予測的姿勢制御の障害
  感覚/知覚系の諸問題
   安定した状況でのバランスを侵す感覚の諸問題
   反応的バランスに影響を及ぼす感覚の諸問題
   予測的バランスに影響を及ぼす感覚の諸問題
   姿勢制御に影響を及ぼす知覚の諸問題
   感覚障害に関する研究の臨床的意味合い/知覚と姿勢制御
  認知系における諸問題
   バランスと転倒に対する自己効力感
   姿勢安定性の障害と二重課題の干渉
  姿勢制御不全を理解するための症例研究アプローチ
   Jean JとGenise T:脳血管障害後の姿勢にかかわる諸問題
   Mike M:パーキンソン病における姿勢にかかわる諸問題
   John C:小脳障害における姿勢にかかわる諸問題
   Thomas L:痙直型両麻痺型脳性麻痺の姿勢にかかわる諸問題
   Malachi:重度のアテトイド/痙直型脳性麻痺の姿勢にかかわる諸問題
   Sue:多発性硬化症の姿勢にかかわる諸問題
  要約
 第11章 姿勢制御障害を有する患者の臨床的対処法(新小田幸一)
  はじめに
   バランスリハビリテーションの概念的枠組み
  検査
   安全─最優先事項
   参加に対するバランスの影響の検査
   機能的活動におけるバランスの検査
   バランス戦略の評価
   原因となっている機能障害の検査
  評価:検査結果の解釈
  課題指向型バランスリハビリテーション
   運動系
   感覚系
   認知系
  全体をまとめると
   バランスリハビリテーションに課題指向型アプローチを導入するための研究による根拠
   参加の向上─根拠に基づく転倒予防
  要約
  実習の解答
第III部 移動性機能
 第12章 正常な移動性における制御(田中 繁)
  はじめに
   ICFの枠組みにおける移動性
  運動系と歩行
   移動運動の基本的な要件:前進,姿勢制御,適応
   安定状態の歩行の特性
   歩行の適応:歩行における反応的と予測的バランス制御の寄与
   歩行開始
  歩行のための制御機構
   歩行のための運動パターン発生器
   下行路の作用
   歩行に対する筋骨格の寄与
  感覚系と歩行制御
   体性感覚系
   視覚
   前庭系
  認知系と歩行
   安定状態の歩行中の二重課題能力
   障害物越えにおける二重課題遂行能力
  階段昇降
   階段の昇り
   階段の降り
   感覚経路の変化に対する階段昇降パターンの適応
  歩行以外の移動性
   移乗とベッド上での移動性
  要約
  実習の解答
 第13章 移動性スキルの発達(田中麻子)
  はじめに
  運動系と歩行の発達
   安定状態の歩行の発達
   適応性の発達
   安定状態の歩行パターンの拡大:走行,スキップ,跳躍,疾走
   感覚系
   認知系
  他の移動性スキルの発達
   寝返り運動の発達
   仰臥位から立位動作の発達
  要約
  実習の解答
 第14章 加齢と移動性(田中 繁)
  はじめに
   移動障害:加齢か疾病か?
  運動系と歩行
   安定状態の歩行における年齢に伴う変化
   年齢に伴う歩行の適応性における変化:反応的バランスと予測的バランス
   年齢に伴う筋骨格系の制御における変化
   高齢者の歩行変化における疾病の影響
  年齢に伴う感覚系と歩行における変化
   体性感覚
   視力
   前庭系
  年齢に伴う認知システムと歩行における変化
   安定した状態での歩行中の年齢に伴う二重課題遂行能力における変化
   障害物を越えるときの年齢に伴う二重課題遂行能力における変化
   歩行への認知的影響:高齢者における転倒の恐れ
  他の移動性スキルにおける年齢に伴う変化
   歩行開始と後ろ歩き
   階段昇降
   座位からの起立
   ベッドからの起き上がり
   臥位からの立位
  幼児と高齢者の歩行特性の比較:退化仮説の検証
  移動性における年齢に伴う変化を理解するための症例研究アプローチ
  要約
  実習の解答
 第15章 移動性の異常(星 文彦)
  はじめに
   分類体系
  運動系と異常歩行
   麻痺/筋力低下
   痙縮
   選択制御の喪失と異常な協同収縮系の出現
   協調性の問題
   筋骨格系の障害
   歩行適応障害:応答的および予測的バランスコントロール障害の影響
  感覚系と異常歩行
   体性感覚障害
   視覚障害
   前庭障害
   歩行に影響を与える認知機能の問題
  認知系と歩行の障害
   二重課題歩行の障害
  移動領域における参加を制限する要因は何か?
  歩行以外の移動性障害
   歩行開始
   階段昇降
   移乗とベッド上での移動性
  移動性障害を理解するための症例研究
   Jean JとGenise T:脳卒中
   Mike M:パーキンソン病
   John C:変性性小脳損傷
   Sue:多発性硬化症(MS)
   Thomas:脳性麻痺による痙性両麻痺
  要約
 第16章 移動性障害を有する患者の臨床管理(村岡健史)
  はじめに
  検査に関する課題指向型アプローチ
   参加の測定:家庭や地域における状況での移動性遂行能力
   歩行能力の標準測定
   歩行パターンの検査
   機能障害レベルでの評価
   移動性の測定:本当にこれらすべての検査や測定が必要か?
  治療目標設定への移行
   目標設定
  移動運動訓練に対する課題指向型アプローチ
   機能障害レベルでの介入
   戦略レベルでの介入:歩行パターンの改善
   訓練適応:複雑な歩行課題
   参加の改善と移動性障害の減少
  その他の移動性スキルの再訓練
   階段昇降
   移乗とベッド上の移動性
   課題と環境の要求を変化させることの重要性
  要約
  実習の解答
第IV部 リーチ,把握,物品操作
 第17章 正常なリーチ,把握,物品操作(田中麻子)
  はじめに
  運動制御の原則
   フィードフォワードによる運動制御とフィードバックによる運動制御
  標的位置の特定
   目-頭-体幹協調
   目の運動と手の運動の相互作用
  リーチと把握
   リーチと把握の運動学
  リーチと把握の神経制御
   感覚系
   運動系
  把握
   把握パターンの分類
   把握パターンの予測制御:精密握り形成
   把握と挙上課題
  リーチと把握の協調
  リーチと把握の神経制御の一般原則
   運動の不変的特性:運動プログラム
   リーチと把握の反応時間
   フィッツの法則
   神経系はいかにして運動の計画を立てるのか? 筋座標戦略,関節角座標戦略,終点座標戦略
   距離プログラミング理論と位置特定プログラミング理論
  リーチ運動と第二認知課題の遂行能力の干渉
  要約
  実習の解答
 第18章 リーチ,把握,物品操作:生涯を通じての変化(出口弦舞)
  はじめに
  リーチ行動の発達基盤となる原則
   リーチ行動の発達における反射の役割
   リーチ行動:生得的なものか,学習されるものか?
  対象位置の特定:目と頭部の協調
   注視点の移動
   目標物追尾運動
   リーチに関する視覚経路の発達
   目-頭-手の協調性の発達
  リーチと把握
   運動要素
   感覚要素
   把握の発達
   子どもたちは対象物の把握と持ち上げ動作にいつから予測制御を使い始めるのか?
   握力の適応
   移動対象物へのリーチと把握(捕捉)の学習
   認知の要素
  目-手協調の発達における経験の役割
  リーチ課題での反応時間
   フィッツの法則
  高齢者における変化
   リーチ:加齢に伴う変化
   把握:加齢に伴う変化
   リーチ-把握の適応:加齢に伴う変化
   リーチ遂行能力の低下における代償と可逆性
  リーチ,把握,物品操作の年齢に伴う変化を理解するための症例検討
  要約
  実習の解答
 第19章 リーチ,把握,物品操作の異常(小林 毅)
  はじめに
  標的の視覚的捕捉の問題
   視覚の欠損と対象物の視覚的捕捉
  目-頭-手の協調性の問題
  リーチと把握に伴う問題
   リーチの機能障害
   把握に伴う問題
  掌中物品操作に伴う問題
   手放しに伴う問題
  両上肢間の連結と両手課題
   非麻痺側上肢による同側へのリーチと把握
  失行症
  上肢障害を理解するための症例研究アプローチ
   Jean JとGenise T:脳血管障害に伴うリーチと把握の問題
   Mike M:パーキンソン病に伴うリーチと把握の問題
   John C:外傷性小脳病変に伴うリーチと把握の問題
   Thomas:脳性麻痺に伴うリーチと把握の問題
   Malachi:痙性脳性麻痺/重度のジストニアのリーチと把握の問題
   Sue:多発性硬化症のリーチと把握の問題
  要約
 第20章 リーチ,把握,物品操作の障害を有する患者の臨床的管理(下田信明)
  はじめに
  検査
   参加における把握の影響の検査
   機能的活動における把握の検査
   もとにある機能障害に関する検査
  評価:検査結果の解釈
   長期目標
   短期目標
   患者-同定目標
  把持の課題指向型リハビリテーション
   基礎にある機能障害における介入
   感覚運動戦略の介入
   機能的レベルでの介入
   参加の改善
  要約
  実習の解答

 文献
 索引