やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 この本は,公認心理師を目指している方に向けて「人体の構造と機能及び疾病」について解説したテキストである.公認心理師とは,「保健医療,福祉,教育その他の分野において,心理学に関する専門的知識と技術をもって心理に関する様々な支援を行う者」とされている.疾病を有する患者の心理について相談を受けたり助言したりするのであるから,多岐にわたる疾病についてよく知っておく必要がある.
 本書では,生活習慣病をはじめとする内科疾患,骨折をはじめとする整形外科疾患,うつ病などの精神疾患,脳血管障害などの神経疾患,がん,感染症,さらに難病疾患についての解説がある.人の一生を縦断的にみて,周産期医療,小児の成長発達とそれに伴う疾患,加齢とそれに伴う疾患も述べられている.医学では,病気の原因を治療する方法が最も重視される.しかし,臓器に障害があっても能力低下の軽減を図り,生活機能を高め,社会的な役割を再獲得させるという試みもなされる.それがリハビリテーションである.また,本書では健康やICFの理解についてもふれられている.
 疾病を理解するにも,人体の構造や機能について理解することが必要である.この点でも本書には,様々な身体部位の構造と機能について詳しい説明がある.そもそも心理学は生物学と離れて存在するものではない.脳の病気が,たとえば言語,行為,感情などに障害を与える.心理学の対象は,心の器官の構造や働きと結びついている.本書が生物学的・医学的に,人について深い理解をもたらす一助になることを願っている.
 さて,いろいろな心理学的症状を示している患者の状態を観察し,その状態を分析することが公認心理師の仕事となる.その観察をふまえて,患者本人に助言指導をするのであるが,公認心理師の役割はそれだけではない.その観察が医療関係者に重要な情報をもたらすことにもなる役割をもつ.
 眼前の患者が今日はこれまでとは少し違うなということに心理職の方が気づいたとする.そのとき,医師などの医療関係者がそうした変化に気づいていなかったとしたら,大変有用な情報を医療チームにもたらすことになる.このとき,その観察結果を他の医療者が読んでわかるように,できるだけ正確に記載することも忘れないでいただきたい.筆者は,自身は診察したことがない患者のカルテを見て,その人の診断などを考える作業をすることがある.その患者の病態を理解するうえで,看護師やリハビリテーションスタッフなど医師以外の医療従事者が書いた観察記録が,重要な情報を提供することをしばしば経験する.
 では,そうした観察眼はどうしたら得られるだろうか.ある女優は,電車に乗っているときなどはずっと前に座っている人を観察しているという.またある喜劇俳優は,喫茶店に座って外を通る人を見ていて,通りかかったその人はこういう人だろうと心に思い浮かべることをよくしているという.そしてあるとき,たまたま通ったその人がどういう人かどうしても思い描けず,思わずその人の後をつけて行ったというエピソードをテレビで話していた.こういうことを読者にしなさいということではないが,人と接する仕事をする人には,このくらい人に興味を持ち続けることが必要ではないか.そういう人が臨床の経験を積み重ねていけば,医学の診断や治療にもきっと貢献できる.自身のスキルを磨いて,ぜひ良きプロフェッショナルになっていただきたい.
 2019 年4 月
 編者を代表して
 武田克彦
 序文
 序章 心理職に求められる人体の理解と医学知識(武田克彦)
人体の構造と機能編
 1章 人体の構造と機能(小林 靖)
  1.からだの基本
  2.細胞
  3.組織
  4.器官と器官系
  〈1章Q&A〉
 2章 心に関わる統合器官系(小林 靖)
  1.感覚器系
  2.神経系
  3.内分泌系
  〈2章Q&A〉
疾患編
 3章 小児の成長発達と疾患(五石圭司)
  1.小児診療の特殊性
  2.小児の成長と発達
  3.小児に特徴的な疾患と障害
  4.先天性疾患,遺伝性疾患
  〈3章Q&A〉
 4章 加齢と疾患(堀田晴美)
  1.臓器の老化
  2.神経系の老化
  3.加齢による睡眠への影響
  4.内分泌系の老化
  5.骨・関節・筋と運動機能の老化
  6.皮膚と体温調節の老化
  7.見えづらさ,聞こえづらさ
  8.加齢による味覚・嗅覚への影響
  9.心臓と血管の老化
  10.呼吸筋と肺の老化
  11.消化器系の老化
  12.腎臓と尿路系の老化
  13.骨髄・免疫系の老化
  〈4章Q&A〉
 5章 内科疾患の理解(荒木 厚)
  1.生活習慣病
  2.肥満症とメタボリックシンドローム
  3.糖尿病
  4.脂質異常症
  5.腎臓疾患
  6.呼吸器疾患
  7.循環器疾患
  8.肝疾患
  〈5章Q&A〉
 6章 整形外科疾患の理解(篠田裕介)
  1.骨折と捻挫
  2.変形性関節症
  3.脊椎疾患
  4.膠原病・関節リウマチ
  5.骨粗鬆症
  6.ロコモティブシンドローム,サルコペニア,フレイル
  〈6章Q&A〉
 7章 精神疾患の理解(幸田るみ子)
  1.精神疾患の診断分類
  2.主な精神疾患
  〈7章Q&A〉
 8章 神経疾患の理解(岩田 淳)
  1.神経疾患の理解
  2.脳血管障害(脳卒中)
  3.てんかん
  4.認知症
  〈8章Q&A〉
 9章 難病の理解(岩田 淳)
  1.難病の理解
  2.各疾患の理解
  3.難病に起こりやすい心理的問題と支援
  4.難病の認定とケア
  5.介護保険の特定疾病とは
  6.身体障害者の認定
  〈9章Q&A〉
 10章 がんの理解(石木寛人,柳井優子,清水 研)
  1.がんの理解
  2.小児がんの理解と支援
  3.サイコオンコロジー(精神腫瘍学)
  4.緩和ケア
  〈10章Q&A〉
関連医療編
 11章 周産期医療の理解(水本深喜,立花良之)
  1.周産期に関連する医学知識
  2.メンタルヘルスへの周産期特有のリスク
  3.周産期に起こりやすい心理的問題
  4.周産期における心理的問題の早期発見のためのツール
  5.周産期の心理的問題への対応
  〈11章Q&A〉
 12章 感染症の理解と対策(森澤雄司)
  1.主な感染症の基本理解
  2.主な感染症の理解と対応
  3.患者に接する際に実践するべき隔離予防策
  〈12章Q&A〉
 13章 リハビリテーションの理解(中原康雄)
  1.リハビリテーションの定義,目的
  2.リハビリテーションの対象
  3.疾患別のリハビリテーション
  4.チーム医療の一員として
  5.在宅医療と多職種協働
  〈13章Q&A〉
ICF,健康の定義編
 14章 ICFの理解(山田 深)
  1.ICFの考え方
  2.ICFの概念
  3.記述手段としてのICF
  4.ICFの活用
  〈14章Q&A〉
 15章 健康と健康増進の理解(鈴木はる江,朴峠周子)
  1.健康の定義と概念
  2.集団の健康状態を表す指標
  3.疾病の予防と健康の増進
  〈15章Q&A〉

 コラム
  〈5章〉(荒木 厚)
   臓器移植と再生医療
  〈7章〉(幸田るみ子)
   高次脳機能障害とは
  〈10章〉(清水 研)
   終末期ケアの難しさと豊かさ
  〈11章〉(水本深喜,立花良之)
   DOHaD(Developmental Origins of Health and Disease)仮説
   不妊治療
   出生前診断
   特定妊婦,要保護児童,要支援児童の定義
  〈14章〉(山田 深)
   WHO国際統計分類(WHO Family of International Classifications)
  〈15章〉(鈴木はる江,朴峠周子)
   人口静態統計と人口動態統計

 索引