やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 摂食嚥下障害(食べ物を口に入れてのみ込むことの障害)は,食べることの楽しみを損ない,また,気管に入った食べ物などが引き起こす肺炎や食べ物が気管を塞いでしまう窒息は命にかかわります.
 しかし,摂食嚥下における問題点と対処方法をご一緒に考え実践することで,上手に食べることができ,栄養が十分に摂れて元気になれば,肺炎や窒息を予防できることも少なくありません.
 関西労災病院神経内科では,そのような患者さんによりよい摂食嚥下医療を提供することを目指してきましたが,ポイントを絞ってわかりやすく伝えることが,いかにむずかしいかも実感しています.患者さん・ご家族に理解してもらえにくいと,お伝えしたことが食事場面で活かせず,食事を楽しんでもらえないことになります.一方,話し言葉による説明だけではなく,実際に文字や写真・図を見てご説明すると,より理解が深まることを,日頃の診療で多く経験します.
 本書では,当院の摂食嚥下医療にかかわってきたスタッフが,患者さんに伝えたいコツや技,理解していただきたいポイントを55 項目挙げ,わかりやすく解説しました.摂食嚥下医療をより多くの患者さんにご理解いただく一助として,お使いいただけましたら幸いです.
 本書により患者さん・ご家族のご理解が少しでも深まり,安全に楽しく食事をしていただくことを祈っております.
 2019年4月
 関西労災病院 嚥下チーム一同


推薦の辞
 日本の高齢化率は非常に高く,当院のような高度急性期医療を担う病院でも高齢の患者様が入院される率は高く,脳血管障害などに対する「摂食嚥下障害」の治療と予防はますます必要になっています.さらに,今後の日本を考えますと,高齢者の健康寿命を延ばし生活のQOLを高めるためにも,「摂食嚥下障害」に対する予防の普及は重要です.
 しかし,摂食嚥下機能はかなり複雑であり,専門にされていない医療職の方にとってはその治療はかなり難しく,実際の治療は言語療法士などにお任せすることが多いのですが,「摂食嚥下医療」はトータルケアであり多くの医療職がその治療にかかわる必要があります.当院では野ア園子先生などの「摂食嚥下障害」を専門とされる神経内科の先生がおられこともあり,リハビリテーション専門医,言語聴覚士,管理栄養士,歯科衛生士,認定看護師,NST専門療法士などの多くの医療職がチームを組み「摂食嚥下障害」に対応しています.当院では治療と予防が必要な患者様に良質な「摂食嚥下医療」を提供することを目指していますが,そのためには患者様とご家族の皆様にその治療内容をご理解いただくことが大切です.ただ,摂食嚥下機能は複雑で,言葉による説明では十分に理解いただけないこともあり,図や写真などを使って丁寧に説明する必要があります.ただ,適当な資材が今まであまり多くありませんでしたので,当院の「摂食嚥下医療」にかかわってこられたスタッフが,患者様やご家族に伝えたいコツや技,理解していただきたいポイントをわかりやすく解説する本書を出版されました.
 本書は図や写真が多く,専門でない方にもご理解いただけるように丁寧に説明をされており,非専門家の方でもご理解いただけます.また,実際の食事指導など実践的に書かれており,さまざまな職種の皆様に利用しやすくなっています.本書は医師・歯科医師・医療職・介護職の皆様が患者様やご家族の説明時にご利用いただくだけではなく,患者様やそのご家族がお読みいただいてもご理解いただける部分も多く,ご利用いただけると思います.
 今後の日本の高齢社会を考えますと,高齢者の方によりよい生活を維持し生活を楽しんでいただくことは非常に重要であり,「摂食嚥下障害」に対する対策はわが国における最も必要な医療課題と考えます.ぜひ,多くの皆様に本書をご利用いただき,高齢者の生活の質を高めていただければ幸いです.
 2019 年4 月
 独立行政法人労働者健康安全機構
 関西労災病院院長
 林 紀夫
 序文
 推薦の辞
 本書の使い方
第1章 嚥下のメカニズムを知ろう
 どうやって食べていますか?〜摂食嚥下のメカニズム
 摂食嚥下にはこんなにたくさんの筋肉を使います
 咽頭(のど)に残った食べ物は気管に入りやすい
 ムセはないけど誤嚥?食べてないけど誤嚥?!
 呼吸と嚥下の深い関係
第2章 嚥下障害のみつけかた
 一人暮らしの落とし穴
 嚥下造影・嚥下内視鏡検査は家族も必見!
 ただの風邪?長引く微熱は誤嚥かも
 食べるのが遅すぎるのは何か理由があるのかも
第3章 上手な栄養のとり方
 食べ物で足りないときは栄養剤が効果的
 栄養は生きるための活力源
 胃ろうからの水分補給で注意すること
 おいしそうは嚥下の味方,好きなものこそ調理を工夫して
第4章 食べる環境を整えよう
 食事の自立を目指した介助
 食べたい気持ちがあるのかを本人に確認していますか
 「おいしい?」と聞きたいけれど,ちょっと待って!
 声を聞いてちゃんとのめているか確認しましょう
 食べるときはテレビを消そう
 ながら食べをしていませんか
 介護は体力,家族も栄養をしっかりとりましょう
第5章 お口のチェックは食生活の基本
 入れ歯を使っておいしく安全に
 誤嚥の原因はお口の中の汚れから
 食べる前にお口の準備も忘れずに
 食べたら磨こう,歯も舌も
 もうひと噛みで寿命が延びる?!
第6章 食べ方のコツを知ろう
 食べ物を詰めすぎないで!のどに詰まりやすい食物を知っておこう
 ペットボトルをそのままのんでいませんか
 のどの通りをよくする交互嚥下とは
 起きたてや夕方は気をつけて
 食べた後にも「ごっくん」をしよう
 食べてもしんどいときは短時間で切り上げよう
 “ゴホン”と咳ができますか
 ごっくんした後のお口の中を確認しよう
 麺類は丸のみなのを知っていますか?
 早食いさんはご注意を
 お粥はホントに食べやすいの?
 手軽にできる嚥下食の知恵
 トロミ剤ってなあに?
 トロミのつけすぎに注意
第7章 食べるときの工夫とは
 使いやすい食具で自立を目指す〜スプーンの選び方
 使いやすい食具で自立を目指す〜箸やコップの選び方
 スプーンの山盛りはお口が困る
 手と足をつけて食べやすく!
 深く座ってよい姿勢
 あごを引いてよい嚥下
第8章 嚥下力を高めるには
 えっ,チューブをのむ訓練?!
 毎日食事前に体操を
 おしゃべりで誤嚥を予防しよう
 栄養と筋力をつけて誤嚥を予防しよう
 介助者の方ができるお口のリハビリテーション
第9章 薬と嚥下の関係とは
 お薬は食事より手ごわい!簡易懸濁法をご存知ですか?
 摂食嚥下障害を引き起こす薬の副作用に注意
第10章 万が一に備えて
 災害時の食支援〜災害への備え
 災害時の食支援〜避難生活を支援するための工夫
 のどに詰まったら!

 付録