監訳の序
軟部組織リリース(soft tissue release:STR)の概念や治療が紹介されるまで筋膜の病的変化や外傷による損傷の治療は,医師による治療(注射や投薬)を主体とし,補助的手段としてマッサージが施されていた.
本書におけるSTRとは,筋を覆う筋膜および軟部組織の機能不全や,筋の不均衡による多くの損傷に対処する治療テクニックである.
筆者は,スポーツに関する学位とマッサージ資格を有する卓越した臨床経験のあるセラピストである.筆者自身はスポーツにより股関節を損傷した体験と臨床経験を活かして,STRに関する評価および動的治療テクニックの効率的な方法を科学的に立証研究し,“根拠に基づく医療”(Evidence-Based Medicine:EBM)としてSTRテクニックを提供した.
STRは,患者の動きと協働した運動を治療手技として組み合わせることによって,筆者の損傷した股関節を回復させ,再びスポーツ人生および専門家としての人生に復帰することを可能にしたのである.
本書は原著第3版から見やすい鮮明なカラーとなり,理論と関係するテクニックを例示するために多くの写真と図を掲載した.容易に理解できるように平易な表現で説明しており,読者の理解を助けるように工夫されている.
以上のような理由から,STRの評価と治療テクニックは,これから勉強しようとする初学者のみならず臨床のセラピストにとってもよい指針となり,参考書となるだろう.
本書が上梓されるまで翻訳くださった弓岡光徳先生はじめ諸先生方のご苦労と,完成までお付き合いいただいた医歯薬出版編集部の皆様のご協力に,深甚の謝意を表する次第である.
2019年3月
武田 功
序文
軟部組織リリース(soft tissue release:STR)は,20年前に自分自身の損傷の治療に役立った,動的な適応範囲が広いマッサージテクニックである.
スポーツは常に私の人生の情熱であった.そして,スポーツ・マッサージロンドン校(London School of Sports Massage:LSSM)において,スポーツに関する研究で学位をとり,マッサージセラピストの資格を得た後は,スポーツは私の趣味であり,職業になった.教育を受けたマッサージテクニックと専門技術を使用することで,私はスポーツ損傷の予防的効果だけでなく,治療に関しても良好な成果を上げることができた.仕事は順風満帆だったが,私は1992年の末に股関節に損傷を受けてスポーツをすることができなくなった.私は損傷によって,走ることができなくなった.
そこで,私は異なったテクニックを使用するさまざまな専門家にあたってみた.生体力学的評価では何も問題が見つからなかったので,装具は処方されなかった.カイロプラクターは硬くて動かない仙腸関節に取り組み,理学療法士は「中殿筋コンパートメント症候群」という正確な診断を行った.これらはすべて正確で有益な評価であった.しかし,私はまだ走ることができなかった.中殿筋の筋力増強運動と同様に,深いストロークを使用したあらゆるマッサージを行っても,状態が悪化した.そして,ついに私は高度なマッサージ治療に関するコースを行っている米国のマッサージセラピストに出会った.彼は私のそばで大腿筋膜張筋(TFL)に非常に強く肘を当てて,股関節を動かすように求めた.3年間も適切に走ることができなかったのに,症状はほぼ瞬間的に改善した.私はそれを維持し,問題の再発を最小限にするために,さらなる治療と特定の再教育的なエクササイズを必要としたが,その日からほとんど痛みを感じなくなった.
私の専門家としての人生およびスポーツ人生は,ともに新しい道に踏み出した.STR―運動と治療手技(マニピュレーション)の組み合わせ―によって,私はスポーツ人生を取り戻し,専門家としての人生を新しい進路に向けた.軟部組織に対する詳細で正確な技術的研究は,しばしば理学療法の失われた環とされる.マッサージテクニックはすべての損傷に対する答えではないが,重要な治療法である.軽度の軟部組織機能障害と筋の不均衡による多くの損傷は,正しいマッサージによって修復することができる.
経験豊かなマッサージセラピストならば,問題の領域を見つけ,解決法を探すのは自然な流れであるため,同様に作用する多数の方法を見つけているだろう.本書では,過去21年の間の私の経験に基づき,効果的なテクニックを概説している.STRは,従来のマッサージテクニックを排除することを目的としてはいない.マッサージ治療の経験は,STRを良好に実施するための基礎となる.つまり,患者の動きと協力を得ることが,熟練したセラピストになるために必要とされる.
私のSTRへの最初のかかわりは,LSSMから始まった.そして,私のSTRに関する専門知識は,自分自身の経験と他のセラピストとの連携を通して発展した.本書の目的は,損傷を診断することではなく,単に軟部組織を評価して治療する効率的な方法を提供することである.
2012年5月
Mary Sanderson
軟部組織リリース(soft tissue release:STR)の概念や治療が紹介されるまで筋膜の病的変化や外傷による損傷の治療は,医師による治療(注射や投薬)を主体とし,補助的手段としてマッサージが施されていた.
本書におけるSTRとは,筋を覆う筋膜および軟部組織の機能不全や,筋の不均衡による多くの損傷に対処する治療テクニックである.
筆者は,スポーツに関する学位とマッサージ資格を有する卓越した臨床経験のあるセラピストである.筆者自身はスポーツにより股関節を損傷した体験と臨床経験を活かして,STRに関する評価および動的治療テクニックの効率的な方法を科学的に立証研究し,“根拠に基づく医療”(Evidence-Based Medicine:EBM)としてSTRテクニックを提供した.
STRは,患者の動きと協働した運動を治療手技として組み合わせることによって,筆者の損傷した股関節を回復させ,再びスポーツ人生および専門家としての人生に復帰することを可能にしたのである.
本書は原著第3版から見やすい鮮明なカラーとなり,理論と関係するテクニックを例示するために多くの写真と図を掲載した.容易に理解できるように平易な表現で説明しており,読者の理解を助けるように工夫されている.
以上のような理由から,STRの評価と治療テクニックは,これから勉強しようとする初学者のみならず臨床のセラピストにとってもよい指針となり,参考書となるだろう.
本書が上梓されるまで翻訳くださった弓岡光徳先生はじめ諸先生方のご苦労と,完成までお付き合いいただいた医歯薬出版編集部の皆様のご協力に,深甚の謝意を表する次第である.
2019年3月
武田 功
序文
軟部組織リリース(soft tissue release:STR)は,20年前に自分自身の損傷の治療に役立った,動的な適応範囲が広いマッサージテクニックである.
スポーツは常に私の人生の情熱であった.そして,スポーツ・マッサージロンドン校(London School of Sports Massage:LSSM)において,スポーツに関する研究で学位をとり,マッサージセラピストの資格を得た後は,スポーツは私の趣味であり,職業になった.教育を受けたマッサージテクニックと専門技術を使用することで,私はスポーツ損傷の予防的効果だけでなく,治療に関しても良好な成果を上げることができた.仕事は順風満帆だったが,私は1992年の末に股関節に損傷を受けてスポーツをすることができなくなった.私は損傷によって,走ることができなくなった.
そこで,私は異なったテクニックを使用するさまざまな専門家にあたってみた.生体力学的評価では何も問題が見つからなかったので,装具は処方されなかった.カイロプラクターは硬くて動かない仙腸関節に取り組み,理学療法士は「中殿筋コンパートメント症候群」という正確な診断を行った.これらはすべて正確で有益な評価であった.しかし,私はまだ走ることができなかった.中殿筋の筋力増強運動と同様に,深いストロークを使用したあらゆるマッサージを行っても,状態が悪化した.そして,ついに私は高度なマッサージ治療に関するコースを行っている米国のマッサージセラピストに出会った.彼は私のそばで大腿筋膜張筋(TFL)に非常に強く肘を当てて,股関節を動かすように求めた.3年間も適切に走ることができなかったのに,症状はほぼ瞬間的に改善した.私はそれを維持し,問題の再発を最小限にするために,さらなる治療と特定の再教育的なエクササイズを必要としたが,その日からほとんど痛みを感じなくなった.
私の専門家としての人生およびスポーツ人生は,ともに新しい道に踏み出した.STR―運動と治療手技(マニピュレーション)の組み合わせ―によって,私はスポーツ人生を取り戻し,専門家としての人生を新しい進路に向けた.軟部組織に対する詳細で正確な技術的研究は,しばしば理学療法の失われた環とされる.マッサージテクニックはすべての損傷に対する答えではないが,重要な治療法である.軽度の軟部組織機能障害と筋の不均衡による多くの損傷は,正しいマッサージによって修復することができる.
経験豊かなマッサージセラピストならば,問題の領域を見つけ,解決法を探すのは自然な流れであるため,同様に作用する多数の方法を見つけているだろう.本書では,過去21年の間の私の経験に基づき,効果的なテクニックを概説している.STRは,従来のマッサージテクニックを排除することを目的としてはいない.マッサージ治療の経験は,STRを良好に実施するための基礎となる.つまり,患者の動きと協力を得ることが,熟練したセラピストになるために必要とされる.
私のSTRへの最初のかかわりは,LSSMから始まった.そして,私のSTRに関する専門知識は,自分自身の経験と他のセラピストとの連携を通して発展した.本書の目的は,損傷を診断することではなく,単に軟部組織を評価して治療する効率的な方法を提供することである.
2012年5月
Mary Sanderson
監訳の序
序文
略語
第1章 軟部組織リリース(Soft Tissue Release:STR)の序論
1.軟部組織の機能不全
1 軟部組織
2 過用による損傷
3 結合組織と筋膜
4 急性ならびに亜急性損傷
5 靱帯損傷
6 腱損傷
2.マッサージとSTR
1 マッサージテクニック
2 STRと研究
3 損傷の予防
4 アイシングと激しいトレーニング
5 過用による損傷
6 外傷性損傷
7 不動
8 他の療法と併用したSTR
9 重要な考慮事項
3.軟部組織の評価
1 テクスチャ(Texture:組織の手触り感)
2 炎症
3 筋出力のバランス
第2章 STR―テクニック
1.STRの実施
1 テクニック―「ロックしながら伸張する!」
2 単独でストレッチだけを行うよりもSTRを実施する利点
3 単独で従来のマッサージを行うよりもSTRを実施する利点
2.考慮すべき因子
1 STRの分類
2 圧迫いわゆる「ロック」の実施
3 圧迫の維持
4 ストレッチ
5 柔軟性
6 筋エネルギーテクニック(Muscle Energy Technique:MET)との関連性
7 STR実施中の不快感
3.STRを実施するための身体の使い方
1 STRを実施する際の手段
2 STRを効果的に実施するためのヒント
第3章 下肢
1.骨盤帯
2.股関節
1 股関節伸展
2 大殿筋
3 股関節外旋
4 股関節内旋
5 ハムストリングス
6 股関節屈曲
7 股関節内転
8 股関節外転
9 大腿筋膜張筋と腸脛靱帯
3.膝関節
1 膝関節屈曲
2 膝関節伸展
3 膝関節の問題
4 足関節底屈
5 アキレス腱
6 足関節背屈
7 足部内反
8 足部外転
4.足関節
シンスプリント(脛骨過労性骨膜炎)
5.足部
1 足趾屈曲
2 足趾伸展
3 足趾外転
4 足趾内転
5 足底筋膜炎
第4章 頸部と体幹
1.脊柱
1 体幹伸展
2 体幹側屈
3 体幹回旋
4 体幹の筋膜
5 体幹屈曲
6 腹圧
7 呼気筋
8 吸気筋
9 横隔膜
2.頸部
1 頸部屈曲
2 頸部側屈
3 頸部伸展
4 頸部回旋
5 顎関節(TMJ)
第5章 上肢
1.肩甲帯
1 肩甲帯の後退
2 肩甲帯の挙上
3 肩甲帯の下制
4 肩甲帯の前方突出
2.肩関節
1 肩関節屈曲
2 肩関節伸展
3 肩関節内転
4 肩関節外転
5 肩関節外旋
6 肩関節内旋
7 回旋筋腱板(Rotator Cuff Muscles)
8 肩関節の問題
3.肘関節
1 肘関節屈曲
2 肘関節伸展
3 前腕の回内
4 前腕の回外
4.手関節
1 手関節伸展
2 手関節屈曲
3 手関節外転
4 手関節内転
5.手指
1 手指屈曲
2 手指伸展
3 母指屈曲
4 母指伸展
5 母指外転
6 母指内転
7 母指対立
8 IP関節の同時伸展を伴ったMP関節の屈曲
9 手指外転
10 手指内転
11 手指対立
第6章 スポーツ選手の試合前後の治療
1 試合でのマッサージ
2 試合前のマッサージ
3 ウォームアップ前のマッサージ
4 ウォームアップ後またはウォームアップとしてのマッサージ
5 試合前のマッサージと傷害
6 試合後のマッサージ
7 試合間のマッサージ
第7章 若いスポーツ選手に対するSTR
子どもに対するSTRテクニックの有用性
第8章 妊娠前後に対するSTR
妊娠中や出産後早期におけるSTRの利点
第9章 高齢者に対するSTR
1 高齢のスポーツ選手
2 一般的な老化の問題に対するSTR
3 変形性関節症に対するSTR
第10章 自己治療
付録1 解剖学的運動
付録2 一般的にみられる不良姿勢
参考文献
索引
序文
略語
第1章 軟部組織リリース(Soft Tissue Release:STR)の序論
1.軟部組織の機能不全
1 軟部組織
2 過用による損傷
3 結合組織と筋膜
4 急性ならびに亜急性損傷
5 靱帯損傷
6 腱損傷
2.マッサージとSTR
1 マッサージテクニック
2 STRと研究
3 損傷の予防
4 アイシングと激しいトレーニング
5 過用による損傷
6 外傷性損傷
7 不動
8 他の療法と併用したSTR
9 重要な考慮事項
3.軟部組織の評価
1 テクスチャ(Texture:組織の手触り感)
2 炎症
3 筋出力のバランス
第2章 STR―テクニック
1.STRの実施
1 テクニック―「ロックしながら伸張する!」
2 単独でストレッチだけを行うよりもSTRを実施する利点
3 単独で従来のマッサージを行うよりもSTRを実施する利点
2.考慮すべき因子
1 STRの分類
2 圧迫いわゆる「ロック」の実施
3 圧迫の維持
4 ストレッチ
5 柔軟性
6 筋エネルギーテクニック(Muscle Energy Technique:MET)との関連性
7 STR実施中の不快感
3.STRを実施するための身体の使い方
1 STRを実施する際の手段
2 STRを効果的に実施するためのヒント
第3章 下肢
1.骨盤帯
2.股関節
1 股関節伸展
2 大殿筋
3 股関節外旋
4 股関節内旋
5 ハムストリングス
6 股関節屈曲
7 股関節内転
8 股関節外転
9 大腿筋膜張筋と腸脛靱帯
3.膝関節
1 膝関節屈曲
2 膝関節伸展
3 膝関節の問題
4 足関節底屈
5 アキレス腱
6 足関節背屈
7 足部内反
8 足部外転
4.足関節
シンスプリント(脛骨過労性骨膜炎)
5.足部
1 足趾屈曲
2 足趾伸展
3 足趾外転
4 足趾内転
5 足底筋膜炎
第4章 頸部と体幹
1.脊柱
1 体幹伸展
2 体幹側屈
3 体幹回旋
4 体幹の筋膜
5 体幹屈曲
6 腹圧
7 呼気筋
8 吸気筋
9 横隔膜
2.頸部
1 頸部屈曲
2 頸部側屈
3 頸部伸展
4 頸部回旋
5 顎関節(TMJ)
第5章 上肢
1.肩甲帯
1 肩甲帯の後退
2 肩甲帯の挙上
3 肩甲帯の下制
4 肩甲帯の前方突出
2.肩関節
1 肩関節屈曲
2 肩関節伸展
3 肩関節内転
4 肩関節外転
5 肩関節外旋
6 肩関節内旋
7 回旋筋腱板(Rotator Cuff Muscles)
8 肩関節の問題
3.肘関節
1 肘関節屈曲
2 肘関節伸展
3 前腕の回内
4 前腕の回外
4.手関節
1 手関節伸展
2 手関節屈曲
3 手関節外転
4 手関節内転
5.手指
1 手指屈曲
2 手指伸展
3 母指屈曲
4 母指伸展
5 母指外転
6 母指内転
7 母指対立
8 IP関節の同時伸展を伴ったMP関節の屈曲
9 手指外転
10 手指内転
11 手指対立
第6章 スポーツ選手の試合前後の治療
1 試合でのマッサージ
2 試合前のマッサージ
3 ウォームアップ前のマッサージ
4 ウォームアップ後またはウォームアップとしてのマッサージ
5 試合前のマッサージと傷害
6 試合後のマッサージ
7 試合間のマッサージ
第7章 若いスポーツ選手に対するSTR
子どもに対するSTRテクニックの有用性
第8章 妊娠前後に対するSTR
妊娠中や出産後早期におけるSTRの利点
第9章 高齢者に対するSTR
1 高齢のスポーツ選手
2 一般的な老化の問題に対するSTR
3 変形性関節症に対するSTR
第10章 自己治療
付録1 解剖学的運動
付録2 一般的にみられる不良姿勢
参考文献
索引














