やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

特集 口腔の全体像とリハビリテーション栄養
企画主旨
 編集委員 藤本篤士
 この世に生を受けてから毎日普通に,そして難なく行っている口腔からの栄養摂取は,人間のQOLやADL,生きる喜びを支える要である.しかし生を終えようとするころには,口腔が原因となり,毎日が苦痛でQOLやADL,生きる意欲をどんどんと喪失させてしまうようなことが多い現実もある.さらに本人の意思に反し医学的な理由で経口栄養を断念して生きている方もたくさんいる.若くしてさまざまな疾患でこのような状況となった患者と向き合う医療者は,対応に苦慮し,ときには無力さを感じてしまう場面も少なくないのではないだろうか.
 精力的に活動し生きるためにしっかりと栄養摂取するという人間の基本的な生活を護り,またそのような生活を失ってしまった人が人生を取り戻すためには,まず栄養の入り口である口腔の全体像を知ることが第一に必要なことであろう.しかし口腔はわれわれも毎日毎食使っているにもかかわらず,いざアプローチしようとすると二の足を踏んでしまうようなブラックボックスである.口腔のトラブルに対しては自分ができること,やるべきことをしっかりと実行すること,そしてできないことは他の人に頼ること,これらを適切に判断するための知識が必要となる.
 国の政策としても高齢者の自立支援・重度化防止のために「“栄養““リハビリテーション”“口腔管理”の三位一体」の連携強化の重要性がうたわれ,この考え方は令和3年度介護報酬改定で導入された.さらに令和5年6月に経済財政運営と改革の基本方針『骨太の方針2023』が閣議決定され,社会保障分野における経済・財政一体改革の強化・推進の項目に,「健康寿命を延伸し,高齢者の労働参加を拡大するためにも,健康づくり,予防・重度化予防を強化し,(中略)エビデンスに基づく保健事業を推進する.リハビリテーション,栄養管理及び口腔管理の連携・推進を図る」との記載がある.これを受けて令和6年度の診療報酬・介護報酬の同時改定に向けて,診療報酬改定にもこの三位一体の評価が俎上に上げられているようである.
 そこで本特集では,多職種向けに基本的な内容も含めて口腔の全体像を解説する.セクション1では「口腔保清」をテーマとして,むし歯や歯周病,口腔ケアの基本的考え方,現場でのアセスメント方法,口腔ケアに使用する器具や使用方法などを解説する.セクション2では「口腔機能」に焦点を当て,まず欠損補綴を中心に現代の進んだ歯科治療方法や歯科材料の解説,そして摂食嚥下機能の概略や診断方法,治療方法や対応方法,さらには口腔機能低下の予防方法を概説する.セクション3では「口腔とリハビリテーション」「口腔と栄養」をテーマに解説したうえで,「口腔とリハビリテーション栄養」について考える機会となるように構成した.
 栄養の入り口となる口腔に興味をもち,成書などで詳細を学ぶ端緒となれば幸いである.
特集 口腔の全体像とリハビリテーション栄養
 企画主旨
 【口腔保清】
  (1)口腔ケア,むし歯,歯周病の基本的考え方(藤本篤士)
  (2)口腔のアセスメントの実際(白石 愛)
  (3)口腔ケアの実際(藤原千尋)
 【口腔機能】
  (1)口腔の形態回復の現状(會田英紀)
  (2)摂食嚥下機能の概論(津田豪太)
  (3)摂食嚥下障害のアセスメント,診断(國枝顕二郎 大野友久)
  (4)摂食嚥下障害の治療方法,対応方法について(金沢英哲)
  (5)摂食嚥下障害の予防(飯田貴俊)
 【口腔とリハビリテーション栄養】
  (1)口腔とリハビリテーション(高畠英昭)
  (2)口腔と栄養(糸田昌隆)

連載
【リハ栄養研究の勘所(7)】
 症例報告の取り組み方(久保田隆文)

リハビリテーション栄養論文紹介(12)
 (小瀬英司)

ポジションペーパー 呼吸サルコペニア 4学会合同ポジションペーパー(二次出版)
 (佐藤 晋 宮崎慎二郎・他)

症例報告 多職種チームアプローチで3食経口摂取を獲得できた遷延性意識障害による重度嚥下障害例─コロナ禍における家族のかかわり─
 (中村友紀 吉村芳弘・他)

 日本リハビリテーション栄養学会 入会のすすめ
 日本リハビリテーション栄養学会誌投稿規定
 次号予告