やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 小児鍼(しょうにしん,しょうにはり)は,日本を起源とし,昭和時代までは関西,特に大阪を中心に盛んに行われていた治療法である.毫鍼のように体内へ刺鍼せず,皮膚刺激による治療であるため,衛生面での問題も少ない,安心・安全で,患児にとっても心地よい治療法であることから,日本鍼灸を代表する治療法の一つとして,世界に大いにアピールできるものであると確信している.
 小児鍼は簡便な治療法であるが,全国的に普及していないのは,少子化や核家族化,啓蒙不足などの問題だけではない.小児鍼の実態調査の結果,卒前・卒後での知識・技術の不足によって,近年,小児鍼ができない鍼灸師が増えていることも原因の一つであることがわかった.
 そこで,実践方法に加えて,鍼灸師が自信を持って小児鍼ができるようになることを本書の目的の一つとして内容を検討した.もちろん,技術の習得には日々の努力が必要であるが,技術力アップのヒントが本書には随所に盛られている.
 また,技術習得のベースとして小児鍼の歴史的背景,小児の成長発達や西洋医学的診察,さらに子育て論や保護者への対応の仕方など,小児に関するあらゆる分野からのアプローチを惜しげもなく披露し,小児鍼では類を見ない書物になったと自負している.
 鍼灸師のみならず,保育士,コメディカルスタッフ等,小児にかかわる方々にも小児鍼を理解していただけるよう解説したつもりである.
 本書には,大師流小児はりの谷岡賢徳氏のモットーである「子どもの笑顔のために」のように,子どもたちを愛し,子どもたちがすくすく育つことを切望する小児鍼を実践する先生方の熱意が込められている.それを感じとって,より多くの方々に小児鍼が実践されることを願っている.
 本書の作成にあたり親身にさまざまなアドバイスをしていただいた医歯薬出版株式会社,ならびに編集の竹内大さんに深甚なる謝意を表します.
 2012年5月吉日
 森ノ宮医療大学
 日本臨床鍼灸懇話会会長
 尾ア朋文
 口絵 小児鍼の基本/小児鍼の診察法と実際
 序
 はじめに
I 皮膚と心の身体心理学
 1 現代の子育てを問う
  1.子どもを取り巻く環境の変化
   1)家族の変化 2)子どもの遊びの変化
  2.子どもの心身のおかしさ
 2 皮膚と心の身体心理学
  1.身体からの子育て
   1)身体から心を変える―身体心理学 2)頭育て,心育て,体育て 3)他者の心を理解するミラーニューロン
  2.心の発達と皮膚
   1)皮膚と脳の関係 2)皮膚感覚と心の関係
 3 身体接触とオキシトシン
  1.オキシトシンの役割
   1)「闘争か逃走か」反応 2)「安らぎと結びつき」反応 3)子どもに触れる母親へのメリット
  2.身体接触の神経機能
   1)C触覚線維の役割 2)自律神経の役割
 4 現代に甦らせる癒しの技
  1.伝統にみる癒しの技
  2.鍼灸,按摩,マッサージ
  文献
II 小児の成長・発達,疾病の診察・治療
 1 小児の成長と特徴
  1.生物としてのヒトの特徴
  2.小児の成長と環境の関わり
   1)ヒトの子は栄養だけでは育たない 2)健康な成長のために必要なもの 3)成長と発育の基本的原則
  3.成長に関わる基本的事項
   1)生下時の状態 2)発育時期による呼称 3)身体的発育 4)運動および行動の発達 5)性格および情緒の発達
  4.成長のひずみとして現れる疾患
 2 小児患者の西洋医学的診療
  1.西洋医学と東洋医学
  2.西洋医学的(身体医学的)診療とは
  3.小児の診療
   1)小児診療の特殊性 2)小児の診察 3)各種検査の実施 4)小児疾患の治療(現状と展望を含めて)
  文献
III 小児鍼の概論・方法,その歴史
 1 小児鍼の概論・方法
  1.小児鍼の概要
   1)小児鍼の適応・不適応 2)小児鍼の種類と手技 3)小児鍼の実際,やり方と姿勢 4)刺激量と治療間隔
  2.子どものルーチンな診察法
   1)顎下リンパ節・扁桃部の腫脹と圧痛 2)体温計測 3)胸部聴診
  3.小児鍼とプライマリ・ケア,保護者対応,治療時間の短さ
   1)小児科領域(総合診療)である 2)保護者対応の重要性 3)短時間で治療効果が明瞭
  4.小児鍼の治効理論
  まとめ
  参考文献
 2 小児鍼の前史とその歴史
  1.平安期から明治期まで
   1)前哨期 2)萌芽期 3)形成期 4)確立期 5)定着期
  2.大正期から現在まで
   1)第1次流行期 2)第2次流行期 3)第3次流行期
  おわりに
  主要文献
IV 小児鍼の実際
 1 疳虫
  1.小児鍼との関わり
  2.大師流小児鍼の特徴
  3.刺激量の指標
  4.小児鍼の実際
   症例1.下痢・頭を壁にぶつける 2.寝つきが悪く,昼寝もしない 3.笑わない 4.特殊な例
  参考文献
 2 扁桃炎
  1.小児鍼を診療に取り入れる
  2.扁桃炎とは
  3.小児鍼治療
   1)接触鍼について 2)小児鍼のディスポーザブル化 3)保護者への説明
  おわりに
  参考文献
 3 鼻炎・中耳炎・副鼻腔炎
  1.小児鍼の体験談
   1)成長痛・抜歯前処理 2)乗物酔い・副鼻腔炎
  2.症例
   1)中耳炎 2)多重障害児
  まとめ
 4 気管支炎・喘息
  1.小児と小児鍼の特徴
  2.気管支炎・喘息の東洋医学的みかた
   1)小児鍼の実際 2)喘息治療の注意点
 5 食思不振・便秘
  1.小児鍼の特徴
   1)施術方法 2)保護者との対応
  2.症状別の施術について
   1)便秘について 2)食思不振について
  3.初診時の注意点
  まとめ
 6 夜尿症
  1.夜尿症の概略
  2.夜尿症の小児鍼
   症例 8歳,女児
  まとめ
 7 アトピー性皮膚炎
  1.アレルギーとアトピー性皮膚炎
  2.子どもの体質改善は小児鍼で
  3.小児鍼でアトピー性皮膚炎を治療
  4.治療の実際
  症例1.3歳児のアトピー性皮膚炎 2.小学生のアトピー性皮膚炎
  まとめ
  参考文献
 8 小児の肩こり
  1.今日にみる小児の肩こり
  2.小児の肩こり治療
  3.治療の実際
   症例1.10歳,男児 2.4歳,男児 3.8歳,女児 4.2歳6カ月,男児
  おわりに
  参考文献
 9 眼精疲労・仮性近視
  1.小児鍼の実際
   1)診察・診断 2)治療・養生
  2.考察
   1)診察・診断 2)治療 3)養生
  おわりに
  参考文献
 10 チック・吃音(現代医学と東洋医学の比較と症例報告)
  東洋医学からみた小児の生理・病理の特徴,診断方法
  1.チック
   1)現代医学での「チック」 2)東洋医学での「チック」
  2.吃音
   1)現代医学での「吃音」 2)東洋医学での「吃音」
  3.チック治療の実際
   症例 6歳,女児
 おわりに
 参考文献
 11 発達障害
  1.症例とその背景
  2.治療の実際
   症例 A君,5歳4カ月
  まとめ
  参考文献
V 小児鍼に対するこれからの展望と,海外での小児鍼
 1 内科・神経内科医の立場から
  1.古くから知られている理論による説明
   1)ヘレン・ケラー 2)タッチング理論(身体言語としての触覚) 3)Magoun,Morruziの脳幹網様体 4)乾布摩擦と免疫
  2.新しい理論による説明
   1)触覚と脳科学 2)HSP(熱ショックタンパク) 3)小児鍼臨床が捉える症例の意味(世代を超えた臨床観察)
  まとめ
  参考文献
 2 臨床鍼灸師の立場から
  1.大師流小児鍼の歴史
  2.小児鍼普及の方程式
  3.外国でも小児鍼は普及する
   1)ドイツでの講習会 2)ドイツでの出版『Sh.nishin』 3)ドイツを越えて
  4.いずこへ向かうか日本鍼灸
  5.小児鍼(と鍼灸)の展望
 3 スキンタッチの立場から
  1.鍼灸を知らない世代へのアプローチ
  2.時代を読み協力者を得る
  3.親子スキンタッチのメリット
   1)学生からベテランまで役割があり,個性を発揮できる 2)地域密着型で新規患者が増える 3)組織や流派を超えての活動が可能 4)リスクマネージメントの重要性
  おわりに
 4 教育現場の立場から
  1.小児鍼の現状
  2.教育現場の立場から
  3.小児鍼の有効性をEBMで立証する必要性
  4.小児鍼の普及について
   1)地域との連携 2)口コミ・大師流小児はり・日本小児はり学会・スキンタッチ 3)ディスポーザブル小児鍼 4)海外での小児鍼
  5.小児鍼の適応症
  6.小児鍼の普及とプラス効果
  まとめ
  参考文献
 5 海外での小児鍼
  1.ドイツにおける小児鍼
   1)ライン・マイン治療院 2)小児鍼治療者の養成 3)身体エネルギーの発達パターン 4)小児鍼の適用範囲 5)斜頸の治療に関する調査 6)共益的な社会参加 7)国際日本伝統医学協会(IGTJM)
  まとめと展望
  2.米国における小児鍼の現状
   1)アメリカ人にとっての小児鍼 2)私と小児鍼 3)米国における小児鍼の今日と今後 4)臨床と小児鍼
  おわりに

 索引