やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

発刊にあたって
 2006年の第1回(京都府)に引き続き,第2回JSAM鍼灸国際シンポジウムを開催することができました.第1回鍼灸国際シンポジウムでは「エビデンスに基づく鍼灸治療の現状」をテーマに,主に変形性膝関節症について活発な議論が行われましたが,今回は,第58回全日本鍼灸学会埼玉大会のサテライトシンポジウムとして,「腰痛症に対する鍼灸治療効果のエビデンスの現状」をテーマに開催いたしました.WFAS(世界鍼灸学会連合会)のご後援とともに,厚生労働省,鍼灸医療推進研究会構成の4団体(社団法人日本鍼灸師会,社団法人全日本鍼灸マッサージ師会,社団法人東洋療法学校協会,本学会),財団法人東洋療法研修試験財団をはじめとして,鍼灸教育機関ならびに関連機関の方々など,多くの皆様の多大なご協力,ご尽力に心からの感謝を申し上げます.また,シンポジウムに参加された皆様にもお礼申し上げます.
 今回も,前回同様,鍼灸治療のエビデンス研究において中心的な役割を果たしている欧米そしてアジアの研究者ならびに日本の研究者を招聘させていただき,充実したシンポジウムが開催できました.ここにその成果が発表されることに,心から感謝申し上げます.
 鍼灸医療は「エコ医療」です.すなわち,エコロジカル(環境に優しい)であり,エコノミー(経済効果が高い)ということです.これからの世界で求められている,新しい医療システムの再構築にも大いに貢献することが期待されています.そのエビデンスの研究は重要課題です.本書が,そのことにも貢献できることは,学会にとりましてもこの上ない喜びであり,多くの皆様にご高覧いただけることを心から期待しております.
 社団法人全日本鍼灸学会会長 後藤修司

推薦のことば
 この度,(社)全日本鍼灸学会主催の第2回国際シンポジウムの成果が,『エビデンスに基づく腰痛症の鍼灸医学』として刊行されましたことを心よりお慶び申し上げます.
 今回の国際シンポジウムは,前回の「変形性膝関節症」に続き,鍼灸臨床において最も患者数が多いとされている「腰痛症」に対する鍼の臨床研究をテーマに,これに携わる世界の研究者を招聘して行われたものです.シンポジウムでは,腰痛症に対する日本,中国,韓国の伝統的な診断法と鍼治療の紹介,大規模臨床試験によって得られた鍼の効果と安全性に関する最新のエビデンスとその系統的レビューの結果,さらには鍼の臨床試験で大きな問題となっているシャム鍼についての紹介や議論が展開されるなど,盛りだくさんの内容でした.その貴重な成果が,ここに日本語で刊行されましたことは誠に大きな喜びとするところであります.
 本書は,腰痛症に対する鍼治療の有効性についての最新のエビデンスを提供するものであり,その内容は,世界のトップレベルの研究者の手による貴重な研究成果となっています.一般に,鍼の臨床試験に関する学術論文は,その内容が難解なものになりがちですが,本書においては前号と同様,シンポジウムの成果をできるだけ多くの医療関係者や学生諸氏に知ってもらいたいという(社)全日本鍼灸学会の先生方の情熱と努力によって,分かりやすい内容になっています.
 本書にみられるように,腰痛症に対する鍼治療の有効性と安全性については,すでに十分なエビデンスがあるように思われます.これらをいかに国民の健康に活かしていくかは,私たち鍼灸に携わるすべての関係者に課せられた重要なテーマであります.
 本協会といたしましても,エビデンスに基づく臨床効果が,「変形性膝関節症」に続き「腰痛症」においても明確にされ,書籍として出版されましたことは,わが国の鍼灸医学教育を発展させる上で極めて有意義なことと考えます.
 鍼灸の研究者のみならず,教育に従事する先生方,また鍼灸を学ぶ学生諸氏にとって,世界の鍼研究の現状を知り,エビデンスのもつ意味を理解する上で本書の果たす役割は極めて大きなものであり,一人でも多くの人にご一読願いたく,ここに推薦いたします.
 社団法人東洋療法学校協会会長 杉山誠一
  発刊にあたって
  推薦のことば
 Introduction 腰痛と鍼灸治療
  1.腰部の構造と機能
   1)腰椎機能単位 2)腰部の筋 3)腰椎周囲の神経支配
  2.腰椎機能単位の変性過程
  3.変性過程に伴う疾患(症状)の出現
  4.腰部の診察
  5.腰痛に対する鍼灸治療
   1)傍脊柱部への鍼灸治療 2)椎間関節刺鍼 3)傍脊柱部以外の腰部筋群への鍼灸治療 4)全身への鍼灸治療
  6.いわゆる腰痛症に対する鍼灸治療
  7.腰痛の評価
  主な専門用語の解説
 Chapter1 腰痛をめぐる諸問題
  1.腰痛とは
   1)腰痛の定義 2)腰痛の自然史 3)腰痛の有病率と地域社会にもたらす損失
  2.腰痛の原因・診断・治療
   1)腰痛の原因 2)腰痛の診断:病歴と診察 3)腰痛の検査 4)治療へのアプローチ 5)鍼治療を含む保存的治療
PART1 中国,韓国,日本における腰痛治療法の紹介
 Chapter2 中国における腰痛に対する鍼灸治療
  1.鍼灸治療における腰痛の診断
  2.急性腰痛とその治療
  3.慢性腰痛とその治療
 Chapter3 韓国における腰痛に対する鍼治療
  1.東洋医学における腰の定義
  2.東洋医学における腰痛
   1)病因 2)分類
  3.腰痛に対する鍼灸の応用
   1)鍼 2)患者の姿勢 3)経穴の選択 4)鍼の方法 5)鍼感 6)治療の持続時間と回数
  4.結論
 Chapter4 日本における腰痛に対する鍼治療
  1.日本における鍼の治療方式と理論
  2.日本における腰痛に対する鍼治療
  3.鍼の臨床試験
  4.考察
PART2 腰痛に対するRCTの現状
 Chapter5 腰痛に対するドイツ鍼臨床試験(GERAC)
  1.対象と方法
   1)被験者 2)介入 3)真の鍼治療 4)シャム鍼治療 5)標準治療 6)患者とのコミュニケーションと治療の隠蔽 7)評価項目 8)ランダム化とマスキング 9)統計解析
  2.結果
  3.考察
  4.結論
 Chapter6 腰痛患者に対する鍼治療の有効性と効果
  1.方法
   1)鍼治療の実用的臨床試験 2)鍼治療のランダム化比較試験
  2.結果
   1)鍼治療の有用性の研究―鍼治療の実用的臨床試験 2)鍼治療の有効性の研究―鍼治療のランダム化比較試験
  3.考察
  4.結論
 Chapter7 腰痛に対する鍼治療の臨床試験
  1.背景
   1)鍼治療の有用性に取り組むための5つの問題 2)本研究のねらい
  2.方法
  3.結果
  4.結論
   1)二重マスキング・プラセボ対照薬物試験の視点から 2)伝統的東アジア鍼灸の視点から 3)全機性医学の視点から
 Chapter8 中国における腰椎症に対する鍼灸研究成果
  1.臨床研究の種類と質
  2.腰椎症に対する鍼灸治療
   1)治療穴 2)臨床評価
  3.今後の課題
 Chapter9 慢性腰痛に対する鍼治療の系統的レビュー
  1.CBRGにおける系統的レビュー:ガイドラインの改訂方法
  2.腰痛に対する鍼灸コクランレビュー
  3.結果
  4.考察
 Chapter10 鍼臨床試験の難しさ
  1.鍼臨床研究方法論の発展
  2.ドイツ大規模鍼臨床試験の教訓
PART3 シャム鍼について
 Chapter11 鍼臨床試験におけるシャム鍼効果の生理学的基礎について
  1.シャム鍼による感覚受容器の反応
  2.考察
 Chapter12 皮膚に刺入しないシャム鍼
  1.プラセボ鍼
   1)Streitberger鍼 2)Parkシャム鍼と他の手技
  2.ランダム化比較試験
  3.考察
 Chapter13 二重マスク法(術者と患者へのマスキング)を可能にした鍼
  1.方法
   1)実験の被験者 2)二重マスク鍼の構造 3)実験デザイン 4)データ解析
  2.結果
  3.考察
   1)術者マスキングの効果 2)患者マスキングの効果

 索引