まえがき
　最近の医療は都市集中型がより顕著となり，地方では医師不足から公立病院が閉鎖されるなどのニュースに愕然としている．このような医療政策を1日も早く改めてほしいものである．
　『鍼灸の挑戦』（松田博公著）の中で“灸療”の漁師町として西海町─お灸の里が紹介されている．愛媛県立中央病院　東洋医学研究所の先生方が月1回健康講座やお灸の普及のために西海町に出向いて，本人，家族，友達同士でお灸ができるように指導されている．
　四国は弘法大師の灸などで，土地柄として灸になじみがあったとはいえ，大変な労力を注いで人々の健康管理とお灸の普及をしておられる．医療費削減の点からも大きな貢献をされたと敬意を表する次第である．われわれは昭和55年ごろ，ある無医村に新卒の鍼灸師を10名ほど連れてボランティアに行った．このことがご縁となり，先方の要望もあり，以後大学の臨床教育に取り入れ毎月2回，鍼灸治療を継続してきた結果，町長さんが卒業式に来られて，「お蔭様で町の国民健康保険が黒字になり，大助かりです．有難うございました」とお礼を述べられて驚いた．現段階では，これら東洋医学の特徴が医療政策に生かされていないのは甚だ残念である．患者は苦痛を一時も早く除いてほしいものである．したがって東西医療の併用ができる医療制度が望ましいと常々考えている．統合医療が叫ばれる中，鍼灸師がもっと灸療法の普及活動にも努力すべきである．
　私は最近ある団体でお灸の講演をしたことがある．その縁で，医療相談，治療のアドバイスや実際に灸治療を施している．その結果がよく，症状が改善されて喜ばれている．また，施灸により自分自身の健康管理ができて，鍼灸師になってよかったと心から思っている．
　本書は，灸療法の入門書として初学者のために記したものである．鍼灸師を養成する学校教育の中で灸療法に関する教育の割合は少なく，教科書の記載も極めて少ない．特に臨床については，鍼治療の添え物的であるのは誠に残念で，灸療法の良さを普及しなければと思い立った．
　すべての人々の健康維持増進のために，簡便でしかも安全・安価であり，家庭でできる治療法として灸に勝るものはないと確信している．ただし灸療法は熱い，灸痕が残るという短所がある．
　本書の目的の1つは新入学生の灸実技テキストとして，また灸臨床に使えるようにと，私自身の体験や患者さんの治療を通して得たものを，活字に残しておくことは意義があると考え奮起した．新学期の授業に間に合うように急いだので十分に推敲できていないが，読者のご意見を聞かせていただいて，改訂版に生かす所存である．
　灸療法の特徴は，何よりも免疫力を高めるのに自然で簡単なよい方法である．特に白血球の動態に大きく関与するので，免疫力増強との関わりを学生諸君はご理解いただき，また学生でない方も是非お試しいただきたいと願って止まない．
　最後に，原稿の最終段階で献身的にお手伝いを頂いた松熊秀明講師，写真撮影では中村昌弘講師，ツボの記載では田村美恵先生のご協力に対し衷心より深謝いたします．

　2009年3月
　著者