やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

普及版の発刊に寄せて
 『図解 スポーツ鍼灸臨床マニュアル』(2003年発刊)は,ほとんどのスポーツ傷害を網羅するとともに,病態を把握,理解するために必要な知識と鍼灸師にできる診察の方法および治療法について記述しました.
 スポーツ傷害といっても普段の動作や労働作業での痛みなどによる障害の発症機序とも共通することが多くスポーツ以外の原因による障害の理解と臨床にもお役立ていただけます.したがって本書は日常臨床のベッドサイドでもご活用いただける必携の書となるものと思います.
 執筆にあたっては,鍼灸教育をうけている学生さんに理解しやすい内容にすることはもとより,実地臨床に携わっておられる臨床家の方々にも臨床の場で活用していただけるように工夫しております.幸い,発刊以来多くの方々にお買い求めいただきご好評を得て参りました.
 この度,さらに多くの学生さんおよび臨床家の皆さんにお求めいただけるよう判型の変更,一部目次の見直しを行い普及版として新装し,刊行する運びとなりました.
 この機会に本書をご購読いただき,スポーツ領域の鍼灸の学習や臨床に広くご活用いただければ幸甚に存じます.
 最後に,普及版の出版にあたりご協力,ご尽力をいただきました医歯薬出版の竹内 大氏をはじめスタッフの方々に深く感謝申し上げます.
 2008年3月
 明治鍼灸大学教授 松本 勅

初版の序
 近年,スポーツ領域において,スポーツ傷害(外傷と障害)の予防,治療およびコンディションの調整を目的に鍼灸治療を利用する者が多くなり,スポーツ人口の増加とともにますます利用者が増加することが予想されています.スポーツ傷害に対する鍼灸の効果に関する報告も鍼灸関係の学会や体力医学会などにおいて増えてきており,鍼灸の新しい分野として注目されてきております.
 このような状況のなかで鍼灸師が対処していくためにはかなりの専門的知識,技能が必要とされるため,日本鍼灸師会も専門領域研修制度を発足させ,スポーツ傷害の鍼灸治療の講習会を全国規模で行ってきました.一方,スポーツ傷害に関する書籍は,スポーツ専門医(スポーツ整形外科医)が書いた専門書がいくつかありますが,内容は医師向きであり,触診を主体として局所の病態を調べ,さらに鍼灸治療のアプローチを行うという鍼灸臨床のための著書はきわめて少ないのが現状であります.したがって,鍼灸師のためにスポーツ傷害全般について平易に記述し,鍼灸師がベッドサイドにおいて臨床に即座に利用できる“鍼灸臨床のための専門書”が必要と考えられます.
 著者は,『現代鍼灸臨床の実際』のなかにおいても主要ないくつかのスポーツ傷害について記述しましたが,スポーツ傷害の鍼灸臨床の専門書としてまとめる必要があると考えていたところに出版社のお勧めもあって出版の運びとなりました.できるだけ全身についてそれぞれの部位の運動と発生する傷害,鍼灸師としての診察法,鍼灸治療および併用療法について編成しました.特に,傷害の部位,組織,病変を理解するためには,痛みなどの症状を起こしている組織が何であるのかを明らかにすることが重要ですが,そのためには局所の機能解剖を理解し,身体の動きによりどの組織が伸ばされ,あるいはどの筋が収縮するのかを十分に理解し,動きに伴う痛みがどの組織から発しているのかを判断できることが必要なため,全身を部位別に分けて機能解剖と運動についての理解が得られやすいように配慮しました.できるだけ平易にと心掛けたつもりですが拙文のため理解し難い所,至らない点も多々あることと危惧している次第です.スポーツ領域の鍼灸臨床に携わっておられる先生方の忌憚のないご意見やご批判および情報をお寄せいただきますようお願いいたします.本書がスポーツ領域の鍼灸臨床に少しでもお役立ていただければ幸甚です.
 最後に,本書の出版にあたりご協力,ご尽力をいただきました医歯薬出版の吉田邦男氏をはじめスタッフの方々に深く感謝申し上げます.
 2003年5月
 明治鍼灸大学教授 松本 勅
 普及版の発刊に寄せて
 初版の序
第1章 総論
 1-スポーツ傷害
 2-軟部組織のスポーツ傷害はどのように起こるのか
 3-部位別の傷害とスポーツの種類
 4-スポーツ傷害と鍼灸
 5-スポーツ傷害の診察上の留意点
 6-スポーツ傷害に対する鍼灸治療
 7-鍼灸以外の方法との併用
第2章 頸部のスポーツ傷害と鍼治療
 1-頸部の運動に関与する頸部脊柱の構造とその傷害
 2-頸椎捻挫
 3-脱臼,脱臼骨折
 4-骨折
 5-頸部椎間板ヘルニア
 6-頸部筋・筋膜症(筋・筋膜性頸部痛)
第3章 肩のスポーツ傷害と鍼治療
 1-肩の運動に関与する関節(肩複合体)とその傷害
 2-肩関節の損傷:捻挫・挫傷,外傷性脱臼・亜脱臼
 3-肩鎖関節の損傷:捻挫・挫傷,脱臼・亜脱臼
 4-胸鎖関節の損傷:捻挫・挫傷,外傷性脱臼・亜脱臼
 5-鎖骨骨折
 6-鎖骨近位骨端線離開
 7-肩関節,胸鎖関節の習慣性脱臼・亜脱臼
 8-肩鎖関節,胸鎖関節の炎症
 9-肩甲骨関節窩後方部の骨棘形成
 10-上腕骨近位骨端線離開
 11-腱板損傷
 12-腱板炎
 13-肩峰下滑液包炎
 14-インピンジメント症候群
 15-上腕二頭筋長頭腱の結節間溝からの脱臼,断裂
 16-上腕二頭筋長頭腱腱鞘炎
 17-烏口突起炎
 18-野球肩
 19-水泳肩
 20-肩の絞扼神経障害
第4章 肘のスポーツ傷害と鍼治療
 1-肘の運動に関与する関節とその傷害
 2-肘関節の損傷:捻挫,脱臼
 3-上腕骨小頭骨折,上腕骨外顆骨折,上腕骨顆上骨折,橈骨頭骨折,肘頭骨折
 4-肘頭の骨端線の離開
 5-内側上顆骨端線の離開
 6-外傷性離断性骨軟骨炎
 7-外傷性肘関節症
 8-テニス肘(上腕骨外側上顆炎,上腕骨内側上顆炎)
 9-野球肘
 10-肘の絞扼神経障害
第5章 手首のスポーツ傷害と鍼治療
 1-手首の運動に関与する関節とその傷害
 2-手首の関節の損傷:捻挫,脱臼
 3-橈骨下端定型骨折
 4-手根骨骨折
 5-手首の腱鞘炎および狭窄性腱鞘炎
 6-月状骨軟化症
第6章 手のスポーツ傷害と鍼治療
 1-手の運動に関与する関節とその傷害
 2-手の関節の損傷:捻挫,脱臼
 3-骨折
 4-腱断裂
 5-狭窄性腱鞘炎
 6-母指球筋の筋・筋膜症(筋・筋膜性疼痛)
 7-ズデック骨萎縮
 8-手の絞扼神経障害
第7章 胸部,背部のスポーツ傷害と鍼治療
 1-胸部,背部の運動に関与する脊柱,胸郭の構造とその傷害
 2-胸部,背部の関節の損傷:捻挫,脱臼
 3-骨折
 4-胸部,背部の筋・筋膜症(筋・筋膜性疼痛)
第8章 腰部,殿部のスポーツ傷害と鍼治療
 1-腰部,殿部の運動に関与する脊柱および骨盤の構造とその傷害
 2-捻挫
 3-骨折,脱臼骨折
 4-腰部椎間板ヘルニア
 5-脊椎分離症,分離・すべり症
 6-腰部,殿部の筋・筋膜症(筋・筋膜性疼痛)
 7-梨状筋症候群
第9章 骨盤,股関節,大腿のスポーツ傷害と鍼治療
 1-股関節の運動に関与する関節,骨盤の構造とその傷害
 2-股関節の損傷:捻挫,脱臼
 3-腸骨棘裂離骨折
 4-坐骨結節裂離骨折
 5-大腿筋の筋・筋膜症(筋・筋膜性疼痛)
 6-大腿前部の打撲,骨化性筋炎
 7-疲労骨折
第10章 膝のスポーツ傷害と鍼治療
 1-膝の運動に関与する関節とその傷害
 2-靭帯損傷
 3-膝蓋骨脱臼・亜脱臼
 4-骨折
 5-半月板損傷・断裂
 6-膝蓋軟骨軟化症
 7-離断性骨軟骨炎
 8-膝蓋靭帯炎(膝蓋腱炎)
 9-オズグッド-シュラッター病
 10-膝蓋下脂肪体の損傷(ホッファ病)
 11-タナ障害
 12-腸脛靭帯炎
 13-鵞足炎
 14-滑液包炎
第11章 下腿のスポーツ傷害と鍼治療
 1-下腿の機能解剖と傷害
 2-脛骨骨幹部骨折
 3-脛骨,腓骨の疲労骨折
 4-アキレス腱断裂
 5-アキレス腱炎およびアキレス腱周囲炎
 6-シンスプリント
 7-テニス脚
 8-コンパートメント症候群
 9-下腿の肉ばなれ
 10-総腓骨神経の損傷あるいは絞扼神経障害
第12章 足首(足関節部)のスポーツ傷害と鍼治療
 1-足首の運動に関与する関節とその傷害
 2-足関節捻挫
 3-骨折
 4-疲労骨折
 5-腓骨筋腱脱臼
 6-アキレス腱滑液包炎,アキレス腱皮下包炎
 7-フットボール足
 8-離断性骨軟骨炎
 9-足関節周囲の腱鞘炎
第13章 足部のスポーツ傷害と鍼治療
 1-足部の運動に関与する関節などの組織とその傷害
 2-捻挫(靭帯損傷)
 3-踵骨骨折
 4-踵骨下部の挫傷
 5-中足骨骨折
 6-中足骨の疲労骨折
 7-距骨下関節炎
 8-踵骨下滑液包炎
 9-踵骨骨端炎
 10-踵骨棘
 11-踵骨下の脂肪組織の疼痛
 12-足底筋膜炎
 13-足の過労および縦アーチの平坦化(扁平足)による疼痛
 14-足の横のアーチの平坦化による中足骨頭部痛
 15-モートン神経腫による足指の痛み
 16-足部の絞扼神経障害

 参考文献
 索引