やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

編者序
 進展する高齢化社会のなかでは,健康保険の見直し,医療保険の負担増,高齢者の新たな医療負担など,医療分野においても数々の課題が取りざたされている.そうした社会情勢のもと,東洋療法は,治療医学としての範疇にとどまることなく,健康意識の高まりから注目される予防医学においても,また,日本のみならず世界的にも期待が寄せられている統合医療においても,非常に大きな役割を果たせるものと考えられる.
 そして,今後ますますの社会貢献を果たし,あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師の活躍の場が広がっていくためには,多様化するニーズに対応していける豊かな知識と技術を備えた医療人の養成が求められている.
 本学校協会では,時代のニーズに応え得る,優れたあん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師の養成に努めていくため,教育の重要な基礎となる標準教科書の充実に取り組むとともに,教員の資質向上はもとより学術の振興を図る各種事業を通じて,学校教育の質と東洋医学の更なる向上に力を傾注し邁進してきたところである.
 一方,近年の規制緩和の影響などにより,予想を遥かに上回る勢いで養成施設の新増設が相次ぎ,こうした急激な施設の増加は,教育の質の低下が懸念される状況を招き,国民の健康に携わる医療人の質を如何に担保し得るかが問われようとしている.大学など様々な教育分野においても,質の保証が求められている現在,常に現状の問題点を把握し,時代に合った改善をめざして取り組み続けていくことが肝要であろう.
 こうした現況をふまえ,ここに改訂教科書を刊行する運びと相成り,本学校協会刊行の標準教科書によって各養成施設での教育がより一層充実され,卒業後,国民医療の一端を担われる学生諸氏の方々が,国民のニーズに応えられる医療人として活躍されることを心から願うしだいである.
 末筆ながら,執筆者をはじめ教材研究部教科書委員会のご尽力と各会員校のご協力に深く感謝を申し上げるものである.
 2008年1月
 社団法人 東洋療法学校協会
 会長 谷口和久

第3版著者の序
 リハビリテーションは,最近では本当によく使われる言葉になってきた.たとえば運動機能の回復という意味では,しばしばスポーツ選手のことが話題になる.また重病を負った人が社会復帰や社会参加をなしとげるという過程のなかで,本人の努力や心理面の変化,そして社会の支援を含む広い意味をもった言葉として,度々登場する.
 リハビリテーションは本当に広い分野から成り立っている.しかし,医療的なサポートはその中核をなすものであり,その意味では,医療に携わるものがリハビリテーション医学・医療について正しい知識をもつことは大切なことであり,逆にそのことにより,自分の専門性が高まり,広い見識と教養を育むこともできる.
 今回の改訂では,社会の変化や,生活の価値観の変化に応じて,進歩するリハビリテーションに少しでも対応できるよう配慮した.
 全体の構成は3章からなり,第I章が「リハビリテーションの理念と方法」であり,これまでと同じだが,第II章を「各疾患のリハビリテーション」とし各論を配置し連続性をもたせた.そして,第III章を「運動の仕組み」とし,リハビリテーション理解のための必要最小限の解剖学と運動学の解説とした.
 内容は,臨床医学教科書と整合性をもたせ,筋力テストについては,本書で詳しく解説した.また,リハビリテーションの重要分野である理学療法・作業療法,言語療法についてできるだけ体系的に整理した.そして近年重要性を増している作業療法の解説を増やしたこと,リハビリテーションニーズの増加しつつある呼吸器や心疾患,またパーキンソン病や高齢者のリハビリテーションや地域リハビリテーションについても記述を加え,または強化した.さらに実際に遭遇することの多いスポーツ障害についても,簡単ではあるが解説した.
 リハビリテーションの普及とともに,教科書に求められる内容は,次第に質量ともに膨らんでくるのはやむをえない.またリハビリテーションを教授していただく先生方の要望も増大している.まだまだ不十分な箇所もあると思われるが,学生の興味を引きつつ,この教科書をうまく利用していただけることを願っている.
 リハビリテーションの理念と知識・技術は,障害者の社会参加を援助し,豊かな社会つくりに役立つ体系であることが魅力である.この点が,リハビリテーションに長く関わってきた著者としての思いであり,その真髄を少しでも汲み取っていただければと思う.
 なお,今回の改訂について,社団法人東洋療法学校協会関係者の皆様に多大なるご助言とご協力をいただき,厚く御礼申し上げたい.
 2008年1月
 著者 土肥信之
第I章 リハビリテーション医学の理念と方法
 A.リハビリテーションの概要
  1.リハビリテーションの理念
   1)リハビリテーションとは
   2)ノーマライゼーション
   3)IL(自立生活:independent living)
  2.リハビリテーション医学
   1)医学の体系とリハビリテーション
   2)リハビリテーション医学の沿革
   3)リハビリテーション医学の対象
   4)リハビリテーション医学の構造
  3.障害のとらえ方
   1)健康と障害
   2)WHOによる障害モデルの変遷
  4.リハビリテーションの分野
  5.地域ケアと地域リハビリテーション
   1)地域リハビリテーションの定義
   2)地域リハビリテーションとネットワーク
 B.医学的リハビリテーションの概要
  1.医学的リハビリテーションの概念
   1)リハビリテーションと医学・医療の統合
   2)医療における各時期のリハビリテーション
  2.リハビリテーションチーム
   1)チームアプローチの必要性
   2)チームの構成メンバー
  3.医学的リハビリテーションの方法
   1)医学的リハビリテーションの流れ
   2)アフターケア
   3)社会復帰と職業復帰
 C.障害の評価
  1.心身機能・身体構造の評価
   1)長さと周径の測定
   2)関節可動域テスト
   3)筋力テスト
  2.活動(activity)の評価
   1)日常生活動作の評価
   2)歩行の評価
  3.参加(participation)の評価
   1)参加の意義
   2)環境因子
  4.合併症(廃用症候群)の評価
   1)廃用症候群とは
   2)廃用症候群の症候
  5.運動麻痺の評価
   1)弛緩性麻痺の評価
   2)痙性麻痺の評価
  6.運動年齢テスト(運動発達テスト)
   1)運動発達テストの意義
   2)運動発達評価法
  7.失行失認テスト(高次脳機能評価)
   1)高次脳機能とは
   2)失行と失認
  8.心理的評価
   1)心理テスト
   2)認知症(痴呆)のスクリーニング
   3)障害と心理
  9.摂食・嚥下障害の評価
 D.医学的リハビリテーション
  1.理学療法(physical therapy;PT)
   1)理学療法とは
   2)運動療法の意義
   3)基本的な運動療法
   4)特殊な技術を要する運動療法
   5)応用的な運動療法
   6)運動療法機器
   7)物理療法
  2.作業療法(occupational therapy;OT)
   1)作業療法とは
   2)作業療法の種類
   3)治療に用いられる代表的作業種目とその特徴
   4)作業療法のすすめ方
  3.言語聴覚療法(speech therapy;ST)
   1)失語症
   2)構音障害
   3)言語発達の障害(小児期の言語発達の遅れ)
  4.装具療法と義肢(装具・杖・自助具・車椅子・義肢)
   1)装具
   2)杖(cane,crutch)
   3)自助具
   4)車椅子
   5)義肢
  5.リハビリテーション看護
   1)リハビリテーション看護の意義
   2)リハビリテーション看護の方法
   3)社会復帰への援助
  6.摂食嚥下障害
   1)摂食嚥下のメカニズム
   2)口腔ケア
   3)食材の工夫
   4)摂食・嚥下能力のグレードと対応
  7.ソーシャルワーク
   1)ソーシャルワークとは
   2)面接技術
   3)ケアマネージメント
  8.リハビリテーション工学
第II章 各疾患のリハビリテーション
 A.脳卒中のリハビリテーション
  1.脳卒中とは
  2.評 価
  3.急性期のリハビリテーション
   1)理学療法
   2)作業療法
  4.回復期のリハビリテーション
   1)ベッドサイド訓練から訓練室での訓練へ
   2)理学療法
   3)作業療法
  5.言語治療
  6.リスク管理
  7.ホームプログラムとアフタケア
  8.脳卒中リハビリテーションのゴール
 B.脊髄損傷(四肢麻痺,対麻痺)のリハビリテーション
  1.脊髄損傷とは
  2.脊髄損傷による症状と障害
  3.急性期のリハビリテーション
  4.回復期のリハビリテーション
   1)理学療法
   2)作業療法
   3)移動手段の確保と社会復帰
  5.ケアとリスク管理
 C.切断のリハビリテーション
  1.切断の原因と分類
  2.合併症
  3.リハビリテーション
   1)切断の評価
   2)切断から義肢装着までの流れ
  4.各切断の特徴
  5.アフタケア
 D.小児のリハビリテーション
  1.小児のリハビリテーションの特徴
  2.脳性麻痺のリハビリテーション
   1)定義と分類
   2)治療原則
   3)脳性麻痺による障害と随伴症状・リスク
   4)脳性麻痺児の評価
   5)リハビリテーションとケア
   6)リスク管理
  3.その他の小児疾患のリハビリテーション
 E.骨関節疾患
  1.いわゆる五十肩
   1)五十肩とは
   2)評価
   3)リハビリテーション
   4)生活指導
  2.腰痛
   1)腰痛とは
   2)評価
   3)リハビリテーション
   4)生活指導
  3.変形性膝関節症
   1)変形性膝関節症とは
   2)評価
   3)リハビリテーション
   4)生活指導
  4.変形性股関節症
   1)変形性股関節症とは
   2)評価
   3)リハビリテーション
   4)生活指導
  5.大腿骨頸部骨折
   1)大腿骨頸部骨折とは
   2)評価
   3)リハビリテーション
   4)生活指導
  6.スポーツ障害
   1)肘の障害
   2)肩の障害
   3)膝の障害
   4)足関節・足部
  7.末梢神経麻痺
   1)末梢神経障害とは
   2)末梢神経障害の原因
   3)評価
   4)治療とリハビリテーション
   5)各末梢神経麻痺の特徴
   6)生活指導
  8.関節リウマチ
   1)関節リウマチとは
   2)評 価
   3)リハビリテーション
   4)生活指導
 F.パーキンソン病
   1)パーキンソン病とは
   2)治療とリハビリテーション
   3)リスク管理とアフターケア
 G.呼吸器疾患のリハビリテーション
  1.慢性閉塞性肺疾患
   1)リハビリテーションの意義
   2)症状
   3)リハビリテーション
   4)リスク管理
  2.拘束性肺疾患のリハビリテーション
   1)神経筋疾患と高位脊髄損傷
   2)胸部手術後のリハビリテーション
 H.心疾患のリハビリテーション
   1)心疾患のリハビリテーションとは
   2)評 価
   3)リハビリテーションとケア
   4)リスク管理
 I.高齢者のリハビリテーション
  1.高齢者の特性
  2.障害高齢者の数
  3.対象疾患
  4.高齢者特有の問題
   1)転倒と骨折
   2)認知症
   3)在宅ケア
第III章 運動のしくみ
 A.運動学の基礎
  1.関節と運動の力学
   1)関節運動とてこ
   2)空間における関節運動
  2.姿勢とその異常
   1)重心と重心線
   2)異常姿勢
  3.運動路と感覚路
   1)運動路
   2)感覚路
  4.反射と随意運動
   1)反射とは
   2)脊髄反射
   3)姿勢反射と立ち直り反射
   4)平衡反応
   5)連合反応と協同運動
   6)随意運動(voluntary movement)
 B.身体各部の機能
  1.脊柱・体幹の機能
   1)脊 椎
   2)脊 柱
   3)椎間板(椎間円板)
   4)脊柱の動きと筋の作用
   5)胸郭の動きと呼吸筋の作用
  2.肩甲帯・肩の機能
   1)肩甲帯・肩とは
   2)肩甲帯・肩の構造
   3)肩甲骨の動きと作用するおもな筋
   4)肩関節の動きと作用するおもな筋
   5)回旋筋腱板
   6)肩甲上腕リズム(上肢帯と肩関節の複合的な動き)
  3.肘と前腕の機能
   1)肘と前腕の構造
   2)肘と前腕の動きと作用するおもな筋
   3)回内・回外運動とADL
  4.手と手指の機能
   1)手関節の骨構造と関節
   2)手関節と手の動きと作用するおもな筋
   3)手のアーチと良肢位
   4)内在筋プラスとマイナス肢位
   5)手の変形
  5.骨盤と股関節の機能
   1)骨盤と股関節の構造
   2)骨盤と股関節の動きと作用するおもな筋
   3)骨盤と股関節の動き
   4)股関節の異常
  6.膝関節の機能
   1)膝関節の構造
   2)膝関節の動きと作用するおもな筋
   3)膝関節の異常
  7.足の機能
   1)足(足関節と足部)の構造
   2)足関節の動きと足に作用するおもな筋
   3)足のアーチと変形
  8.正常歩行と異常歩行
   1)歩行とは
   2)歩行のサイクル
   3)歩行の速度とエネルギー消費
   4)歩行の分析
   5)異常歩行
  9.顔面および頭部の筋
 第III章-付 骨,関節,筋,神経の解剖学と生理学
  1.骨の構造と機能
   1)骨の機能
   2)骨の分類
   3)骨の構造
   4)骨とビタミン,ホルモン
  2.関節の機能と構造
   1)関節の機能
   2)連結による分類
   3)形態による分類
   4)関節の構造
  3.筋肉の構造と機能
   1)筋肉の種類
   2)骨格筋の形状
   3)骨格筋の微細構造
   4)骨格筋の収縮
  4.神経の構造と機能
   1)神経細胞(ニューロン)とシナプスの構造
   2)シナプスの機能の特徴

 索引