やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第2版への序文
 初版は,著者らが10年がかりで,臨床に携わっておられる先生や育っていく学生に,いかに臨床に役立つ本にするかを目標に,編集を行ってきた.初版発行以来,本書が多くの先生方や学校教育の参考書として活用されていることで,著者らの経験を踏まえた内容が臨床に役立ち,かつ教材として活用する趣旨が伝わっているものと思われる.
 さて,今回,第2版を出版するにあたり,日常の臨床における治療にも変遷が見られ,初版の内容では十分な活用ができないのではないかということで再吟味した.その結果,鍼灸治療でより多く取り扱う疾患・症候に絞った方が見やすく,活用頻度が高くなると考え,改訂にあたった.
 鍼灸治療は未病医学とも言われ,患者の健康増進・予防,そして病状の苦痛の訴えに対して,診察を行い,病態を把握して,その患者に最も適した治療方法を選択して,患者のニーズに応えるのが鍼灸師の使命で,内容的にはそれに対応できるように絞り込んだ.
 とくに,鍼灸師は患者の訴えを聞いて,即,東洋医学的な証を立てる先生が多く,教育の場においてもその傾向がうかがえる.これでは重篤な疾患を見過ごしたり,手遅れになったりする危険性がある.近代医療の中では,その訴えがどのような病態から発生しているかを把握した後に,治療に際しては東洋医学的な観点から施術するのがよい.また,初診で病態把握が十分できない場合は,治療をしながら経過の推移の状況で,病態を推測することが大切である.
 著者が体験した1症例を紹介する.60歳の男性で,縄跳びをしたときに腰がギクッとなり,痛みを訴えて来院した.診療ではとくに異常所見がなかったので,腰椎捻挫として2回治療した.3回目の来院時,治療後,痛みは消失するが,数時間後には再発するという.そこで再度診察したが,とくに変わった所見は得られなかったため,専門医に行くよう指示した.その後,来院がなく,3カ月後に「先生の指示で病院へ行くと,MRI検査の結果“結核性骨髄炎”と診断され,即日入院したが,2カ月後に亡くなりました.ただ,早期に病名がわかり十分な看病ができたので感謝しています」と奥様からお礼を言われ,びっくりした.同時に,医療人として,判断が適切であったと思うとうれしかった.
 この症例からも,病態把握と,経過観察がいかに大切であるかである.基礎的な知識を認知しておくことが重要である.
 臨床経験の積み重ねにより,病態把握に違いが出るが,本書では,効果のよい症状,効果のよくない症状を掲げているので,とくに後者の症状を訴える場合は,十分な診察・検査をすることが望まれる.もしも不明な場合は治療効果の推移で判断し,変化が見られないときには症状軽減に固執することなく,専門医に早期に送ることを勧める.
 改訂第2版の編集にあたっては初版以上に,初学者の学習への配慮,ならびに臨床家の治療の現場で役立つように,より一層力を入れた.
 PartIは「診療の手引き」として,現在使用されている検査,診療の心得,診察の進め方,鍼灸師が行える治療上必要な検査法や治療概論などをまとめた.
 PartIIは,「疾患別にみた診察のポイント」として,あまり取り扱わない疾患は除外して,臨床でよく扱う疾患,症状別の診察法,鍼灸治療の適否を解説するとともに,鍼灸の治療ポイントを見やすい図示に代えたことが,本書の特徴を示している.とくに各疾患,症状別の配穴をそれぞれ色分けすることにより,治療ポイントが一目で把握できる.また,刺入方向や施灸の方法によって治療効果に影響が及ぶため,可能なかぎり図示して視覚的にとらえやすくし,解説を加えた.
 PartIIIは,鍼灸治療による副作用や過誤について,その予防法,対処の方法を記述した.
 本書が,さらに多くの先生方や学生諸君の臨床治療に役立ち,活用頻度が多くなり,患者さんの苦痛除去の手引書になれば,幸甚である.
 平成19年10月
 著者一同
 第2版への序文
 序文
 序論
PartI/診療の手引き
 A.診療の心構え
  臨床の本質
  診療室は神聖な場所
  「患者を診る」ということが基本
 B.診療の進め方
  1.診察
  2.望診
  3.聞診
  4.問診
 C.カルテ記載のしかた
  1.カルテをつける意義
  2.カルテの記載事項
 D.鍼灸師が行える治療上必要な検査
  1.身体測定
  2.知覚検査
  3.反射検査
  4.運動機能検査
   (1) 日常生活動作(ADL)の検査
   (2) 関節可動域(ROM;range of motion)の検査
   (3) 筋肉の検査
   (4) その他の特殊な運動機能検査法
   (5) 徒手検査法
 E.症候概論(症候の見方・考え方)
  1.問診・主訴からみた診察のポイント
   (1)首が痛い
   (2)肩が痛い
   (3)首にぐりぐり
   (4)背中が痛む
   (5)腰が痛む
   (6)手足の異常
   (7)関節が痛い
   (8)肛門が痛い
   (9)肛門が痒い
   (10)肛門からの出血
   (11)吐き気とめまい
   (12)吐き気と頭痛
   (13)吐き気と発熱
   (14)腹部痛
   (15)背部や一側の肩こり
   (16)動悸
   (17)胸が痛む
   (18)のどが痛む
   (19)声がかすれる(嗄声)
 F.治療概論(治療方法)
  1.鍼灸にはどんな効果があるか
   (1)伝統的鍼灸術とは
   (2)ツボ
   (3)鍼灸術の効果
   (4)鍼術
   (5)灸術
  2.良導絡自律神経調整療法
  3.電気鍼
   (1)概要
   (2)電気鍼
   (3)直流電気鍼(EAP)
  4.電気治療
   (1)低周波治療
   (2)低周波置鍼療法
   (3)低周波ツボ表面電極療法
   (4)干渉低周波治療
   (5)電気灸
   (6)レーザー光線療法
   (7)遠赤外線治療器
   (8)マイクロ波(極超短波)治療器
   (9)超音波
   (10)音楽療法
  5.皮内鍼
  6.小児鍼
   (1)概要
   (2)治療
   (3)適応症
   (4)禁忌
  7.脈診(経絡治療)
  8.治療器具の消毒・滅菌
   (1)器具の消毒,滅菌の手順
   (2)滅菌・洗浄器具
PartII/疾患別にみた診療のポイント
 A.神経系疾患
  1.中枢神経系疾患
   1 脳疾患
    1.髄膜炎 2.脳出血 3.脳梗塞 4.クモ膜下出血 5.脳炎 6.脳腫瘍 7.脳虚血(脳貧血) 8.脳充血 9.パーキンソン症候群 10.その他の脳疾患
  2.末梢神経系疾患
   1 神経炎
    1.単神経炎 2.多発性神経炎
   2 神経痛
    1.三叉神経痛 2.後頭神経痛 3.腕神経叢神経痛 4.肋間神経痛 5.腰神経叢神経痛 6.坐骨神経痛
   3 運動麻痺疾患
    1.肩背部の麻痺 2.上肢の麻痺 3.下肢の麻痺 4.顔面神経麻痺
   4 痙攣性疾患
    1.顔面痙攣 2.横隔膜痙攣 3.腓腹筋痙攣(転筋,こむら返り)
  3.自律神経疾患
   1 自律神経失調症
   2 レイノー病
  4.その他の症状
   1 頭痛
    1.片頭痛 2.筋収縮性(緊張性)頭痛 3.群発性頭痛(ヒスタミン性頭痛) 4.神経性頭痛
   2 不眠症
 B.運動器系疾患
  1.関節系疾患
   1 関節炎
   2 関節症(変形性関節症)
   3 膝部痛
   4 股関節疾患
   5 肩関節痛
   6 五十肩(b痛性肩拘縮症)
   7 上腕二頭筋長頭腱腱鞘炎
   8 腱板炎
   9 烏口突起炎
   10 滑液包炎
   11 関節上腕サ帯障害
   12 肩甲上神経絞扼障害
   13 捻挫
   14 脱臼
  2.骨膜および骨疾患
   1 骨疾患
  3.筋および腱疾患
   1 腱鞘炎
   2 肉離れ
   3 打撲傷(挫傷)
   4 テニス肘・野球肘
   5 アキレス腱部の痛み
   6 ガングリオン(結節腫・節腫)
   7 寝違い(落枕)
   8 肩凝り(痃癖)
  4.形態異常
   1 斜頸
   2 先天性股関節脱臼
  5.外傷その他の症候群
   1 腰椎椎間板ヘルニア
   2 急性腰痛症(いわゆるぎっくり腰)
   3 慢性腰痛症
   4 腰下肢痛
   5 頸椎椎間板ヘルニア
   6 頸肩腕症候群
    1.頸椎症 2.胸郭出口症候群
   7 むち打ち症(外傷性頸部症候群)
 C.消化器系疾患
  1.口腔疾患
   1 口角炎
   2 口内炎
   3 歯の痛み
   4 舌の痛み
   5 耳下腺炎(流行性耳下腺炎)
  2.食道疾患
   1 食道炎,食道痙攣,食道癌
    1.食道炎 2.食道痙攣 3.食道癌
  3.胃疾患
   1 胃潰瘍
   2 急性胃炎
   3 慢性胃炎
   4 胃下垂症
   5 神経性胃炎
   6 胃酸過多症(過酸症)
   7 その他の胃疾患
    1.胃酸減少症(低酸症) 2.胃拡張 3.胃痙攣 4.胃癌
  4.腸疾患
   1 急性・慢性腸炎,潰瘍性大腸炎
    1.急性腸炎 2.慢性腸炎 3.潰瘍性大腸炎 4.急性・慢性腸炎,潰瘍性大腸炎の症状・治療
   2 腸神経症
   3 十二指腸潰瘍
   4 過敏性大腸症候群(過敏性腸管症候群,機能性腸疾患,刺激結腸,過敏結腸)
   5 虫垂炎
   6 痔疾患
    1.痔核 2.脱肛 3.裂肛 4.肛門周囲炎と痔瘻
  5.肝臓・胆嚢疾患
   1 肝臓疾患
    1.急性肝炎 2.慢性肝炎 3.肝硬変
   2 胆嚢疾患
    1.胆石症 2.胆嚢炎 3.胆道ジスキネジー(胆道機能不全)
  6.膵臓疾患
   1 急性膵炎,慢性膵炎
    1.急性膵炎 2.慢性膵炎 3.膵炎の治療
  7.その他の疾患
   1 腹痛
   2 食あたり(食中毒,食品中毒)
   3 食欲(食思)不振
   4 胸やけ,あい気
    1.胸やけ(そう雑) 2.あい気(噫気,げっぷ,おくび)
   5 嘔気(悪心)・嘔吐
   6 排便異常
    1.便秘 2.下痢
   7 下血・血便
 D.呼吸器系疾患
  1.上気道疾患
   1 風邪症候群
   2 鼻炎
   3 扁挑炎,その他の疾患
    1.扁挑炎 2.扁挑肥大症 3.アデノイド(腺様増殖症・咽頭扁挑肥大症) 4.咽頭炎・喉頭炎
  2.気管・気管支疾患
   1 気管支炎
    1.急性気管支炎 2.慢性気管支炎
   2 気管支喘息,気管支拡張症
    1.気管支喘息 2.気管支拡張症
  3.肺疾患
   1 肺炎,肺結核,肺気腫
  4.その他の症状
   1 口臭
   2 鼻閉・鼻汁
   3 のどが痛む
   4 咳・痰
   5 嗄声
    喉頭癌
 E.循環器および血液疾患
  1.循環器疾患
   1 心臓疾患
    1.心不全 2.弁膜症 3.狭心症 4.心筋梗塞 5.心筋炎 6.その他 7.治療上の注意
   2 心臓神経症
  2.血管疾患
   1 動脈硬化症
   2 高血圧症
   3 低血圧症
  3.血液疾患
   1 貧血
 F.泌尿器疾患
  1.腎臓および尿路疾患
   1 腎炎,ネフローゼ症候群
   2 腎・尿路の結石
  2.膀胱疾患
   1 膀胱炎
   2 遺尿症
  3.その他の症状
   1 排尿異常
    1.頻尿・残尿感 2.排尿痛 3.排尿困難 4.血尿
 G.生殖器疾患
  1.男性生殖器疾患
   1 勃起障害(陰萎症)
   2 前立腺疾患
    1.前立腺肥大症 2.前立腺炎
  2.産・婦人科疾患
   1 産科疾患
    1.妊娠悪阻(つわり) 2.乳腺炎 3.乳汁分泌不全 4.不妊症 5.分娩異常
   2 婦人科疾患
    1.月経異常 2.子宮筋腫 3.更年期障害 4.子宮の位置異常
 H.内分泌系および新陳代謝
  1.内分泌系疾患
   1 バセドウ病(甲状腺機能亢進症)
   2 その他
    1.粘液水腫(甲状腺機能低下症) 2.尿崩症 3.アジソン病
  2.代謝性疾患
   1 痛風性関節炎
   2 肥満
   3 糖尿病
   4 ビタミン欠乏症
    1.脚気 2.ビタミン障害一覧
 I.アレルギーと膠原病
  1.アレルギー性疾患
   1 アレルギー疾患
   2 アレルギー性結膜炎
   3 アレルギー性鼻炎
   4 じんま疹
  2.膠原病(結合組織病)
   1 膠原病
   2 関節リウマチ
 J.その他の疾患
  1.眼の疾患
   1 眼疾患
   2 角膜炎
   3 麦粒腫(目いぼ,目ばちこ,ものもらい)
   4 結膜炎
   5 眼精疲労
   6 白内障(しろそこひ)
   7 緑内障(あおそこひ)
   8 近視(近眼)
   9 色覚異常
  2.耳の疾患
   1 外耳炎,中耳炎,内耳炎
    1.外耳炎(耳せつ) 2.中耳炎 3.内耳炎 4.耳疾患の治療
   2 メニエール病
   3 めまい(眩暈)
   4 耳鳴
   5 難聴
  3.皮膚疾患
   1 円形脱毛症
   2 帯状疱疹(ヘルペス)
   3 湿疹(皮膚炎)
   4 しもやけ(凍瘡)
   5 ひょう疽
   6 おでき
   7 イボ(疣贅)
   8 水虫(汗疱状白癬)
   9 魚の目(鶏眼)
   10 白なまず(尋常性白斑)
   11 脂肪腫(脂肪瘤)
   12 にきび(面皰・尋常性ざ瘡)
  4.小児疾患
   1 夜驚症
   2 小児夜尿症
   3 疳虫症
   4 異味症(異食症,摂食障害)
   5 消化不良症
   6 脱腸(鼠径ヘルニア)
   7 柑皮症
   8 チック
  5.精神科疾患ほか
   1 神経症
    1.不安神経症 2.解離性障害(転換性解離性障害) 3.神経衰弱 4.心気症 5.書痙
   2 心身症,精神障害
    1.心身症 2.精神障害
 K.その他の症状
  1 冷え症
  2 のぼせ
  3 疲労感と倦怠感(虚労)
  4 乗物酔い(動揺病・加速度病)
PartIII/医療過誤の処置
 医療過誤(事故)について
 1 灸痕の化膿
  参考:刺鍼による化膿
 2 抜鍼後の遺感覚
 3 気胸(刺鍼過誤による)
 4 皮膚膨隆(皮下出血)
 5 抜鍼困難(渋り鍼)
 6 折鍼
 7 脳貧血(刺鍼中の卒倒)

 参考文献
 索引