やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 医歯薬出版社から○×問題でマスター・シリーズの「病理学」編の原稿を依頼されたのは,東京から京都に戻ったばかりの,今から4年前のことである.看護師国家試験をめざす学生を中心として「疾病の成り立ちと病因(病理学)」が理解しやすいように,○×形式の問題を作成し,それに易しい解説を加えるようにと指示された.わが国の病理学は歴史的に,解剖学,生理学,生化学,薬理学,細菌学などと並んで基礎医学の一つであるが,それらの基礎医学と,患者の診断や治療を実践する臨床医学との間を結ぶ架け橋のような役目を果たしてきた.実際にヒトを対象にする人体病理学は臨床医学であり,欧米では内科,外科,小児科,婦人科,耳鼻科などと同等の臨床的な診療科目として扱われており,わが国でも臨床的に病理科として標榜できる日は間近に迫っている.
 病理学の総論(第1章〜第10章)について321題の原稿を書き上げた時に,病理学が扱う疾患は多岐にわたっており,その範囲の広さにも驚いた.そして日進月歩する医学において使用される用語も時代とともに変わっていくことであった.例えば,かつて一般的に「未熟児」と呼ばれた言葉は今日,診断名としては使用されなくなり,「低出生体重児」という国際的に定義された用語に取って代わった.さらに,歴史的な遺物となった「痴呆」という病名は,高齢者の尊厳を欠く表現であるとされ,行政上の用語として「認知症」が採用された.しかし,「認知症」という単語を掲載しているわが国の医学辞典は未だ現れないばかりか,適切な外国語訳も見つからない.
 各論(第11章〜第19章)については筆者が専門とする神経系から原稿を作り始めたが,本書の原稿がすべて完成するのにはさらに時間を要すると感じたので,京都府立医科大学病院病理部の柳澤昭夫教授に協力をお願いした.各論の執筆協力者は前に掲げたように柳澤教授と6名の先生方である.ついに各論511問が集まり,総論を加えると総問題数832問,総頁数216ページの本書が出来上がった.ついに本著「病理学」は○×シリーズの中でも充実した問題数を誇る冊子となって難産の末に誕生した.
 本著が看護師,保健師を目指す学生をはじめ,柔道整復師,あん摩マッサージ指圧師,はり師きゅう師を目指す学生,歯学科,薬学科,臨床検査科,理学療法科,そして医学科の学生にも役立つことを願って止まない.
 最後に,本著の執筆に協力いただいた先生方に感謝し,また企画,校正など数々の助言を頂いた医歯薬出版の竹内大氏および戸田健太郎氏に深謝する.
 2007年7月31日
 執筆者を代表して 田中順一
 序
 本文の特徴と使い方
第1章 疾病の成り立ちと病因(病理学)
 1.疾病とは
 2.疾病の原因
 3.細胞の構造と機能
 4.組織と細胞外物質
第2章 退行性病変
 1.萎縮
 2.変性
 3.壊死
 4.アポトーシス
第3章 代謝障害
 1.脂質代謝異常
 2.糖質代謝異常
 3.蛋白質・アミノ酸代謝異常
 4.核酸代謝異常
 5.色素代謝異常
 6.無機質代謝異常
第4章 循環障害
 1.浮腫(水腫)
 2.充血とうっ血
 3.出血
 4.血栓と塞栓
 5.梗塞
 6.ショック
 7.播種性血管内凝固症候群
 8.高血圧
 9.側副循環
第5章 炎症
 1.炎症の原因
 2.炎症にかかわる細胞
 3.炎症の経過
 4.炎症の種類
 5.炎症の組織反応
第6章 免疫とアレルギー
 1.液性免疫と細胞性免疫
 2.免疫不全
 3.アレルギー反応の型
 4.自己免疫疾患と膠原病
 5.移植と組織適合性
第7章 感染症
 1.感染と発症
 2.宿主の反応
 3.病原体
 4.ウイルス感染症
 5.リケッチア・クラミジア感染症
 6.細菌感染症
 7.スピロヘータ感染症
 8.その他の感染症(真菌,原虫,寄生虫,プリオン)
第8章 腫瘍
 1.腫瘍とは
 2.実質と間質
 3.腫瘍の分類
 4.腫瘍免疫
 5.生体への影響
 6.腫瘍細胞の増殖
 7.腫瘍細胞の悪性度
 8.腫瘍細胞の分化
 9.腫瘍細胞の染色体異常
 10.細胞診
 11.発癌の過程
 12.上皮性腫瘍
 13.非上皮性腫瘍
 14.特別な臓器の腫瘍
 15.混合性腫瘍
 16.年齢と腫瘍発生
第9章 小児疾患
 1.小児病理とは
 2.発育不全
 3.周産期および新生児期の疾患
 4.奇形
 5.先天性代謝異常
 6.小児の炎症
 7.小児腫瘍
第10章 老化と死
 1.ホメオスターシスと老化
 2.主要臓器・組織の老化
 3.脳死と臓器移植
 4.QOLと尊厳死
第11章 循環器系
 1.虚血性心疾患
 2.心不全・心肥大
 3.心筋症・心筋炎
 4.心内膜・弁膜症
 5.先天性心疾患
 6.血管
第12章 造血器系
 1.発生と分化
 2.骨髄(赤血球系)
 3.骨髄(白血球系)
 4.骨髄(血小板系)
 5.リンパ節
 6.脾臓
 7.胸腺
第13章 呼吸器系
 1.構造
 2.新生児の肺疾患および無気肺
 3.肺の循環障害
 4.肺の炎症
 5.塵肺と珪肺
 6.慢性閉塞性肺疾患と拘束性肺疾患
 7.肺癌
 8.胸膜疾患
 9.喉頭疾患
第14章 消化器系
 1.口腔と歯牙
 2.唾液腺
 3.食道
 4.胃
 5.腸管
 6.肝臓
 7.胆と胆道
 8.膵臓
 9.腹膜
第15章 泌尿器系
 1.構造と機能
 2.遺伝性疾患
 3.悪性腫瘍
 4.原発性糸球体病変
 5.全身性疾患に伴う糸球体病変
 6.尿細管間質の障害
 7.移植腎
 8.下部尿路
第16章 生殖器と乳腺
 1.精巣,陰茎,精巣上体
 2.前立腺
 3.卵巣
 4.子宮頸部
 5.子宮内膜
 6.胎盤
 7.乳腺
第17章 神経系
 1.中枢神経系
 2.先天奇形
 3.周産期脳障害
 4.血管障害・外傷
 5.感染症
 6.ウイルス脳炎
 7.髄鞘疾患(脱髄疾患と白質ジストロフィー)
 8.神経変性疾患
 9.栄養障害・中毒・代謝障害
 10.脳腫瘍
 11.末梢神経・筋肉疾患
第18章 内分泌系
 1.内分泌とは
 2.視床下部
 3.下垂体前葉
 4.下垂体後葉
 5.甲状腺
 6.副甲状腺
 7.副腎皮質
 8.副腎髄質
 9.膵ランゲルハンス島
 10.その他
第19章 運動器と皮膚
 1.胸腺腫
 2.骨格筋
 3.骨
 4.骨折
 5.腫瘍性病変
 6.関節
 7.脊柱
 8.軟部腫瘍
 9.皮膚
 
 おもな用語の外国語訳
 索引