やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

編者序
 我が国では,世界でも類を見ないほどのスピードで超高齢社会が進み,2020年には高齢者割合が人口の29%強となることが予想されております.このことは,当然,様々な慢性疾患を抱える方が増え,特に運動器を中心とした障害,機能低下を有する状況が拡大することを意味します.従って,今後の医療においてリハビリテーション医学の占める割合は今まで以上に大きくなると考えられます.また,介護が必要となる方々も増加しますし,在宅での医療の重要性もさらに高まっていくものと思量します.
 このような背景のもと,あはき師が今日的な医療,福祉の課題である現場において幅広く活躍すべき人材として登用されていくことも十分予想されます.また,リハビリテーション医学は,単に身体的回復ばかりではなく生活,社会参加,職業復帰さらには心理的側面まででき得る限り最大の回復を図ることを目的としており,国民の健康の維持向上を図るために必要となるすべての医療並びに福祉関連職種の活動上,避けては通れない分野でもあります.即ち,あはき師を目指す学生諸氏においては,リハビリテーション医学の基礎と臨床に関する知識,技術をしっかりと身につけていく事が肝要であります.
 そのような意味において,この度,『リハビリテーション医学第4版』が刊行されますことは,まさに時宜を得たものであり,本書は日進月歩のリハビリテーション医学のエッセンスを凝縮した内容となっております.また,改訂にあたりましては,会員校からの要望を考慮していただくと同時にリハビリテーションの実際に関わる記述の充実も図っていただきました.ご執筆いただいた各位に深甚なる感謝を申し上げるとともに改訂作業から出版に至るまでご尽力いただいた医歯薬出版株式会社ならびに関係各位の皆様にも厚く御礼を申し上げる次第です.
 最後に,あはき師を目指す学生諸氏が,本書を大いに活用され幅広い知識を身につけていただく事を祈念申し上げ,編者の序とさせていただきます.
 2014年1月
 公益社団法人東洋療法学校協会
 会長 坂本 歩


第4版著者の序
 医療は多くの専門職種によって支えられている.リハビリテーション医療もその例外ではない.患者の運動機能や日常生活活動の能力の障害を回復に導き,社会・環境への適応を促進するには,本人・家族を含めた多くの人々の知恵と努力が必要である.その中で,疼痛の緩和は最も重要な課題の一つであり,患者の痛みを取り除くことは医学の究極の目標であるともいわれている.ただし,ここでいう痛みは個人の苦悩を含む広い概念である.
 リハビリテーション医療が多職種に支えられていると同時に,様々な専門領域にリハビリテーション医学が活用されている.身体運動の原理,および運動障害や疼痛の治療手技に関する知識は,健康増進や疾病予防,さらにスポーツや宇宙医学にも活用されている. ところで医療現場では,病気ではなく人をみることが大切である.障害のある状況を多様な健康状態のひとつと捉え,かつその人の個別的な状況をふまえて社会参加を支援することも重要な専門技術といえる.リハビリテーション医学における障害学はその技術の学問的枠組である.
 以上は,本書第1版から第3版までの著者である土肥信之先生が,第1版と第3版の序に書かれたことと本質的に同じであり,本書の基本理念が引継がれていることを意味する.その理念のもと,第4版は新規2名のリハビリテーション科医師によって執筆された.とくに関勝氏により,本書の第2章,すなわち各疾患のリハビリテーションがより充実したことを,共著者として嬉しく思う.
 第4版には,これまで本書を支持して下さった多くの方々からの貴重なご意見が反映されている.その際,オーソドックスかつ専門的でありながら,端的で平易という,本書の特長を保つよう配慮した.今後もご批判を頂けることを願っている.
 なお,今回の改訂について,社団法人東洋療法学校協会関係者の皆様に多大なるご助言とご協力を頂いた.ここに深く感謝申し上げる次第である.また,末筆ながら,本書を世に出し,リハビリテーション医学の教育と普及に貢献された土肥信之先生に最大限の敬意と感謝の気持ちを捧げたい.
 2015年1月
 著者代表 出江紳一


第3版著者の序
 リハビリテーションは,最近では本当によく使われる言葉になってきた.たとえば運動機能の回復という意味では,しばしばスポーツ選手のことが話題になる.また重病を負った人が社会復帰や社会参加をなしとげるという過程のなかで,本人の努力や心理面の変化,そして社会の支援を含む広い意味をもった言葉として,度々登場する.
 リハビリテーションは本当に広い分野から成り立っている.しかし,医療的なサポートはその中核をなすものであり,その意味では,医療に携わるものがリハビリテーション医学・医療について正しい知識をもつことは大切なことであり,逆にそのことにより,自分の専門性が高まり,広い見識と教養を育むこともできる.
 今回の改訂では,社会の変化や,生活の価値観の変化に応じて,進歩するリハビリテーションに少しでも対応できるよう配慮した.
 全体の構成は3章からなり,第I章が「リハビリテーションの理念と方法」であり,これまでと同じだが,第II章を「各疾患のリハビリテーション」とし各論を配置し連続性をもたせた.そして,第III章を「運動の仕組み」とし,リハビリテーション理解のための必要最小限の解剖学と運動学の解説とした.
 内容は,臨床医学教科書と整合性をもたせ,筋力テストについては,本書で詳しく解説した.また,リハビリテーションの重要分野である理学療法・作業療法,言語療法についてできるだけ体系的に整理した.そして近年重要性を増している作業療法の解説を増やしたこと,リハビリテーションニーズの増加しつつある呼吸器や心疾患,またパーキンソン病や高齢者のリハビリテーションや地域リハビリテーションについても記述を加え,または強化した.さらに実際に遭遇することの多いスポーツ障害についても,簡単ではあるが解説した.
 リハビリテーションの普及とともに,教科書に求められる内容は,次第に質量ともに膨らんでくるのはやむをえない.またリハビリテーションを教授していただく先生方の要望も増大している.まだまだ不十分な箇所もあると思われるが,学生の興味を引きつつ,この教科書をうまく利用していただけることを願っている.
 リハビリテーションの理念と知識・技術は,障害者の社会参加を援助し,豊かな社会つくりに役立つ体系であることが魅力である.この点が,リハビリテーションに長く関わってきた著者としての思いであり,その真髄を少しでも汲み取っていただければと思う.
 なお,今回の改訂について,社団法人東洋療法学校協会関係者の皆様に多大なるご助言とご協力をいただき,厚く御礼申し上げたい.
 2008年1月
 著者 土肥信之


第1版著者の序
 リハビリテーションとは大変広い意味をもつ言葉である.更生や社会復帰という言葉も思いつくであろうが,これらはリハビリテーションのごく一部をいい表わすにすぎない.適当な言葉がないまま,リハビリテーションというカタカナが定着してしまった.リハビリテーションの真の意味は“人間らしく生きる権利の復活”である.本書に示すリハビリテーション医学は,リハビリテーションを医学的側面から進めるための学問である.
 リハビリテーション医学の基礎のうち,最も大切なものは障害学と運動学であろう.第1章の総論ではリハビリテーション(医学)についての概略を述べ,さらに障害の評価(診断)法と治療法について述べた.評価とは一般医学でいう診断に相当するものであるが,病気の診断ではなく障害の診断が主である場合,評価という言葉が適切であり,広く用いられるようになった.評価には運動器の状態から日常生活動作や心理まで幅広い知識が必要であることを理解してほしい.治療についても同じで,各専門職の治療が必要であることが理解されるべきである.
 第2章は各疾患ごとのリハビリテーションについての具体的内容である.その疾患と障害についてよく知ることが適切な治療とフォローアップにつながる.私達は単に疾患や障害を治療しているのではなく,疾患に悩む人(患者)や障害に困っている人(障害者)を治療していることを忘れてはならない.全人的アプローチともいわれるが,治療は患者と治療者の人格のふれあいである,という気持から治療を出発させるとよい結果につながる.
 第3章はリハビリテーション医学の基礎となる運動学である.障害やその治療のメカニズムを理解するために必要な学問であり,多くのページがさかれている.まず,解剖を理解し,運動のメカニズムを理解することが望まれる.
 リハビリテーションはけっして後療法ではない.人体組織は疾病により,また安静臥床のみでも著しく障害される.運動は人体の機能維持と回復には欠かせないことを念頭におき,正しい指導を必要とする.むろん,運動による危険性を回避する知識(リスク管理とよばれる)も要求される.
 学生諸君は正しいリハビリテーション知識を身につけ,障害をもつ患者のために役立ち,社会に貢献することをめざしてほしい.
 なお,本書の執筆にご協力いただいた国立東名古屋病院付属リハビリテーション学院 米澤久幸,近藤登,渡邊潤子,斎木しゅう子の諸先生方に深謝する.
 1991年5月
 著者 土肥信之
 (第3版では第2章を第III章に,第3章を第II章として編成を改めた.2008年3月)
第1章 リハビリテーション総説
 A.リハビリテーションと障害(土肥信之,出江紳一)
  1.リハビリテーションを支える基本理念
   1)リハビリテーションとは
   2)ノーマライゼーション
   3)IL(自立生活:independent living)
  2.障害と生活のとらえ方
   1)健康と障害
   2)WHOによる障害モデルの変遷
  3.リハビリテーションの分野
 B.リハビリテーション医学と医療(土肥信之,出江紳一)
  1.リハビリテーション医学の概念
   1)医学の体系とリハビリテーション
   2)リハビリテーション医学の沿革
   3)リハビリテーション医学の対象
   4)リハビリテーション医学を支える基礎・臨床医学など
  2.リハビリテーション医学とチームアプローチ
   1)チームアプローチの必要性
   2)チームの構成メンバー
  3.リハビリテーションの進め方
   1)リハビリテーションと医学の医療への融合
   2)医療各時期のリハビリテーション
   3)医療におけるリハビリテーションの流れ
  4.地域ケアと地域リハビリテーション
   1)地域リハビリテーションの定義
   2)地域リハビリテーションとネットワーク
  5.高齢社会
   1)高齢者の特性
   2)障害高齢者の数
   3)対象疾患
   4)高齢者特有の問題
 C.障害の評価(土肥信之,出江紳一)
  1.心身機能・身体構造の評価
   1)長さと周径の測定
   2)関節可動域テスト(range of motion test;ROM-T)
   3)筋力テスト
  2.活動(activity)の評価
   1)日常生活活動の評価(ADLの評価)
   2)歩行の評価
  3.参加(participation)の評価
   1)参加の意義
   2)環境因子
  4.合併症(廃用症候群)の評価
   1)廃用症候群とは
   2)廃用症候群の症候
   3)サルコペニア(sarcopenia)
  5.運動麻痺の評価
   1)弛緩性麻痺の評価
   2)痙性麻痺の評価
  6.運動年齢テスト(運動発達テスト)
   1)運動発達テストの意義
   2)運動発達評価法
  7.失行失認テスト(高次脳機能評価)
   1)高次脳機能とは
   2)失行と失認
  8.心理的評価
   1)心理テスト
   2)認知症のスクリーニング
   3)障害と心理
  9.摂食嚥下障害の評価
 D.医学的リハビリテーション(土肥信之,関 勝)
  1.理学療法(physical therapy;PT)
   1)理学療法とは
   2)運動療法の意義
   3)基本的な運動療法
   4)特殊な技術を要する運動療法
   5)応用的な運動療法
   6)運動療法機器
   7)物理療法
   8)肺理学療法
  2.作業療法(occupational therapy;OT)
   1)作業療法とは
   2)作業療法の種類
   3)治療に用いる代表的作業種目とその特徴
   4)作業療法のすすめ方
  3.言語聴覚療法(speech therapy;ST)
   1)言語聴覚療法とは
   2)失語症
   3)構音障害
   4)言語発達の障害(小児期の言語発達の遅れ)
   5)摂食嚥下障害
  4.補装具療法(装具・杖・自助具・車椅子・義肢)
   1)装具
   2)杖(cane,crutch)
   3)自助具
   4)車椅子
   5)義肢
  5.リハビリテーション看護
   1)リハビリテーション看護の意義
   2)リハビリテーション看護の方法
   3)社会復帰への援助(ソーシャルワーカーによるソーシャルワーキングを含む)
  6.ソーシャルワーク
   1)ソーシャルワークとは
   2)面接技術
   3)ケアマネジメント
   4)社会復帰への援助アプローチ
  7.リハビリテーション工学
第2章 各疾患のリハビリテーション
 (土肥信之,関 勝)
 A.脳卒中のリハビリテーション
  1.脳卒中とは
  2.評価
  3.急性期のリハビリテーション
   1)理学療法
   2)作業療法
   3)看護アプローチ
   4)早期座位アプローチ(ベッドサイド訓練から訓練室での訓練へ)
  4.回復期(急性期後)のリハビリテーション
   1)理学療法
   2)作業療法
  5.言語治療
  6.リスク管理
  7.ホームプログラムとアフタケア
  8.脳卒中リハビリテーションのゴール
 B.脊髄損傷(四肢麻痺,対麻痺)のリハビリテーション
  1.脊髄損傷とは
  2.脊髄損傷による機能障害
   1)機能障害
  3.急性期のリハビリテーション
  4.回復期のリハビリテーション
   1)理学療法
   2)作業療法
   3)心理面へのアプローチ
  5.社会復帰期のリハビリテーション
  6.ケアとリスク管理
 C.切断のリハビリテーション
  1.切断の原因と分類
  2.合併症
  3.リハビリテーション
   1)切断の評価
   2)切断から義肢装着までの流れ
  4.各切断の特徴
  5.アフタケア
 D.小児のリハビリテーション
  1.小児のリハビリテーションの特徴
  2.脳性麻痺のリハビリテーション
   1)定義と分類
   2)治療原則
   3)脳性麻痺による障害と随伴症状・リスク
   4)脳性麻痺児の評価
   5)リハビリテーションとケア
   6)リスク管理
  3.その他の小児リハビリテーション
 E.骨関節疾患のリハビリテーション
  1.いわゆる五十肩
   1)五十肩とは
   2)評価
   3)リハビリテーション
   4)生活指導
  2.頸腕障害
   1)頸腕障害とは
   2)評価
   3)リハビリテーション
  3.腰痛
   1)腰痛とは
   2)評価
   3)リハビリテーション
   4)生活指導
  4.変形性膝関節症
   1)変形性膝関節症とは
   2)評価
   3)リハビリテーション
   4)生活指導
  5.変形性股関節症
   1)変形性股関節症とは
   2)評価
   3)リハビリテーション
   4)生活指導
  6.大腿骨頸部骨折
   1)大腿骨頸部骨折とは
   2)評価
   3)リハビリテーション
   4)生活指導
  7.スポーツ傷害
   1)スポーツ外傷(急性外傷)
   2)スポーツ外傷(慢性外傷)
 F.関節リウマチのリハビリテーション
   1)関節リウマチ(rheumatoid arthritis;RA)とは
   2)評価
   3)リハビリテーション
   4)生活指導
 G.末梢神経障害のリハビリテーション
   1)末梢神経障害とは
   2)末梢神経障害の原因と癒着
   3)評価
   4)治療とリハビリテーション
   5)各末梢神経麻痺の特徴
   6)生活指導
 H.パーキンソン病のリハビリテーション
   1)パーキンソン病とは
   2)治療とリハビリテーション
   3)リスク管理とアフタケア
 I.呼吸器疾患のリハビリテーション
   1)リハビリテーションの意義
   2)症状
   3)リハビリテーション
   4)リスク管理
   5)神経筋疾患と高位脊髄損傷について
   6)胸部手術後のリハビリテーション
 J.心疾患のリハビリテーション
   1)心疾患のリハビリテーションとは
   2)評価
   3)リハビリテーションとケア
   4)リスク管理
第3章 運動のしくみ
 A.運動学の基礎(土肥信之,出江紳一)
  1.関節と運動の力学
   1)関節運動とてこ
   2)空間における関節運動
  2.姿勢とその異常
   1)重心と重心線
   2)異常姿勢
  3.運動路と感覚路
   1)運動路
   2)感覚路
  4.反射と随意運動
   1)反射とは
   2)脊髄反射
   3)姿勢反射と立ち直り反射
   4)平衡反応
   5)連合反応と共同運動
   6)随意運動(voluntary movement)
 B.身体各部の機能(土肥信之,関 勝)
  1.脊柱・体幹の機能
   1)脊椎
   2)脊柱
   3)椎間板(椎間円板)
   4)脊柱の動きと筋の作用
   5)胸郭の動きと呼吸筋の作用
  2.肩甲帯・肩の機能
   1)肩甲帯・肩とは
   2)肩甲帯・肩の構造
   3)肩甲骨の動きと作用するおもな筋
   4)肩関節の動きと作用するおもな筋
   5)回旋筋腱板
   6)肩甲上腕リズム(上肢帯と肩関節の複合的な動き)
  3.肘と前腕の機能
   1)肘と前腕の構造
   2)肘と前腕の動きと作用するおもな筋
   3)回内・回外運動とADL
  4.手と手指の機能
   1)手関節の骨構造と関節
   2)手関節と手の動きと作用するおもな筋
   3)手のアーチと良肢位
   4)内在筋プラスとマイナス肢位
   5)手の変形
  5.骨盤と股関節の機能
   1)骨盤と股関節の構造
   2)骨盤と股関節の動きと作用するおもな筋
   3)骨盤と股関節の動き
   4)股関節の異常
  6.膝関節の機能
   1)膝関節の構造
   2)膝関節の動きと作用するおもな筋
   3)膝関節の異常
  7.足の機能
   1)足(足関節と足部)の構造
   2)足関節の動きと足に作用するおもな筋
   3)足のアーチと変形
  8.正常歩行と異常歩行
   1)歩行とは
   2)歩行のサイクル
   3)歩行の速度とエネルギー消費
   4)歩行の分析
   5)異常歩行
  9.顔面および頭部の筋

 索引