序
柔道整復師として「医療人としての質を確保(quality assurance)」することは非常に重要である.
平成27(2015)年12月11日から平成28(2016)年9月16日の間,厚生労働省において5回にわたる柔道整復師学校養成施設カリキュラム等改善検討会が開催され,国民の信頼と期待に応える質の高い柔道整復師を養成するためのカリキュラム,臨床実習の在り方などを検討した.その結果,平成30(2018)年4月入学の柔道整復師養成施設学生から新しいカリキュラム(99単位2,750時間以上)が実施され,「柔道整復術適応の臨床的判定(医用画像の理解を含む)」「高齢者の外傷予防」「競技者の外傷予防」などとともに,本書が扱う「社会保障制度」「職業倫理」も新設された.
また,臨床実習も4単位(45時間×4)と大幅に増える.以前のカリキュラムにおける臨床実習は,柔道整復師養成施設付属接骨院内で行い,外部での臨床実習は認められていなかった.単位も1単位(15〜45時間)であった.
今回のカリキュラム改定で臨床実習の時間数と内容を見直した背景には,多くの養成施設付属接骨院は患者数も外傷性の臨床例も少ないということがある.そのため,柔道整復術の適応,柔道整復療養費の支給申請に係る現場での手順や支給申請内容の理解が難しいということから,より多くの施術所での臨床実習が行われることとなった.
このようにして,新カリキュラムでは学生の時から「医療経済」「柔道整復療養費受領委任の取扱い」などを養成施設と柔道整復の現場で学び,医療人としての質を確保(quality assurance)していくことを目指している.接骨院内での事故や事件が起こらないような対策を講じることも重要なことである.
さて,本書はこのような新カリキュラムの目的に合わせて編集された.
新カリキュラム「社会保障制度」(1単位15時間)の目的は,「柔道整復師は開業することが可能であり医療費等の医療経済を含む社会保障制度を理解すること」にある.また,「職業倫理」(1単位15時間)は,「免許取得後すぐに開業する者も一定数いる」ために設けられた.
これらを踏まえ,第1章「わが国の社会保障」では,「社会保障」「社会保険制度」「医療保険制度」について解説いただいている.柔道整復師にも関係の深い社会保障制度の基本を学ぶとともに,わが国における医療保険制度や医療経済の現状に関する知識を深めてほしい.第3章の「職業倫理」では「医療従事者の職業倫理」「柔道整復師に必要な基本的倫理観と患者への対応」「柔道整復師の社会的責任と対応」等をさまざまなケースをあげて学習する内容となっている.実際に柔道整復師として働く姿を想像しながら,事故や事件を起こさないためにどのような対応が望ましいか考えながら学生同士で議論してもらいたい.第2章では「柔道整復師業務における療養費」について現状に則して解説した.柔道整復療養費の支給申請がどのようなものか,臨床実習に出た際の一助となれば幸いである.
最後になるが,学生の皆さんには,インフォームド・コンセント(informed consent:説明と同意)や患者中心の医療(patient-centered approach)についても柔道整復医療の現場をみて,柔道整復師の立場,患者の立場双方からのリスクのマネジメントができる人材として成長することを期待したい.
2019年2月
著者を代表して 長尾 淳彦
柔道整復師として「医療人としての質を確保(quality assurance)」することは非常に重要である.
平成27(2015)年12月11日から平成28(2016)年9月16日の間,厚生労働省において5回にわたる柔道整復師学校養成施設カリキュラム等改善検討会が開催され,国民の信頼と期待に応える質の高い柔道整復師を養成するためのカリキュラム,臨床実習の在り方などを検討した.その結果,平成30(2018)年4月入学の柔道整復師養成施設学生から新しいカリキュラム(99単位2,750時間以上)が実施され,「柔道整復術適応の臨床的判定(医用画像の理解を含む)」「高齢者の外傷予防」「競技者の外傷予防」などとともに,本書が扱う「社会保障制度」「職業倫理」も新設された.
また,臨床実習も4単位(45時間×4)と大幅に増える.以前のカリキュラムにおける臨床実習は,柔道整復師養成施設付属接骨院内で行い,外部での臨床実習は認められていなかった.単位も1単位(15〜45時間)であった.
今回のカリキュラム改定で臨床実習の時間数と内容を見直した背景には,多くの養成施設付属接骨院は患者数も外傷性の臨床例も少ないということがある.そのため,柔道整復術の適応,柔道整復療養費の支給申請に係る現場での手順や支給申請内容の理解が難しいということから,より多くの施術所での臨床実習が行われることとなった.
このようにして,新カリキュラムでは学生の時から「医療経済」「柔道整復療養費受領委任の取扱い」などを養成施設と柔道整復の現場で学び,医療人としての質を確保(quality assurance)していくことを目指している.接骨院内での事故や事件が起こらないような対策を講じることも重要なことである.
さて,本書はこのような新カリキュラムの目的に合わせて編集された.
新カリキュラム「社会保障制度」(1単位15時間)の目的は,「柔道整復師は開業することが可能であり医療費等の医療経済を含む社会保障制度を理解すること」にある.また,「職業倫理」(1単位15時間)は,「免許取得後すぐに開業する者も一定数いる」ために設けられた.
これらを踏まえ,第1章「わが国の社会保障」では,「社会保障」「社会保険制度」「医療保険制度」について解説いただいている.柔道整復師にも関係の深い社会保障制度の基本を学ぶとともに,わが国における医療保険制度や医療経済の現状に関する知識を深めてほしい.第3章の「職業倫理」では「医療従事者の職業倫理」「柔道整復師に必要な基本的倫理観と患者への対応」「柔道整復師の社会的責任と対応」等をさまざまなケースをあげて学習する内容となっている.実際に柔道整復師として働く姿を想像しながら,事故や事件を起こさないためにどのような対応が望ましいか考えながら学生同士で議論してもらいたい.第2章では「柔道整復師業務における療養費」について現状に則して解説した.柔道整復療養費の支給申請がどのようなものか,臨床実習に出た際の一助となれば幸いである.
最後になるが,学生の皆さんには,インフォームド・コンセント(informed consent:説明と同意)や患者中心の医療(patient-centered approach)についても柔道整復医療の現場をみて,柔道整復師の立場,患者の立場双方からのリスクのマネジメントができる人材として成長することを期待したい.
2019年2月
著者を代表して 長尾 淳彦
序
1 わが国の社会保障
A 社会保障とは
1 社会保障の3つの機能
2 あるべき社会と今後の社会保障
B 社会保険制度とは
1 公的年金の意義
2 公的年金制度の仕組み
a.国民年金と厚生年金
3 介護保険の意義と仕組み
4 社会福祉・公的扶助・公衆衛生の意義と仕組み
C 医療保険制度とは
1 医療保険の目的と意義
a.国民医療費の定義
b.国民医療費の現状
c.保険料率と消費税
2 保険診療の概要
a.3種類の制度
b.保険診療の仕組み
c.2つの審査機関
3 医療保険財政の現状と課題
a.赤字基調の保険者
b.医療費の三面分析
4 診療報酬制度
a.療養の給付
b.診療報酬の2つの“顔”
c.療養費払い
d.最後は「倫理と見識」
2 柔道整復師業務における療養費
A 療養費制度の概要
1 療養費とは
a.現物給付方式と現金給付
b.療養費の支給条件
c.療養費の額
2 柔道整復療養費
a.柔道整復療養費の歴史
b.「受領委任払い」と「償還払い」
c.柔道整復療養費の支給対象
3 柔道整復療養費の推移
4 療養費の算定
a.柔道整復師の施術に係る療養費の料金
b.初検料
c.初検時相談支援料
d.時間外・休日・深夜加算など
e.往療料
f.再検料
g.施術録について
h.一部負担金
B 療養費請求のケーススタディ
a.施術録への記載と支給申請書作成
3 職業倫理
A 医療従事者の職業倫理
1 職業倫理とは
2 医療における従来の倫理観から現代的倫理観への経緯―生命倫理の流れから考える
B 柔道整復師に必要な基本的倫理観と患者への対応
1 患者への説明―インフォームド・コンセントとインフォームド・アセント
2 医療従事者における守秘義務
C 柔道整復師の社会的責任と対応
1 患者への対応I 施術で必ず治せなければならないのか―医療(診療)契約の範囲
2 患者への対応II 施術で患者の状態が悪化してしまったら―医療事故とその対応
3 患者への対応III 患者から暴言・暴行等を受けた場合の対応
4 患者への対応IV 施術料未払いの患者が再来院した場合の対応
D グループ・ディスカッション事例
E 医療における情報と責任
1 患者の個人情報保護―「個人情報の保護に関する法律」を中心に
2 SNS等での業務に関する情報発信での注意点
職業倫理資料
参考資料
索引
1 わが国の社会保障
A 社会保障とは
1 社会保障の3つの機能
2 あるべき社会と今後の社会保障
B 社会保険制度とは
1 公的年金の意義
2 公的年金制度の仕組み
a.国民年金と厚生年金
3 介護保険の意義と仕組み
4 社会福祉・公的扶助・公衆衛生の意義と仕組み
C 医療保険制度とは
1 医療保険の目的と意義
a.国民医療費の定義
b.国民医療費の現状
c.保険料率と消費税
2 保険診療の概要
a.3種類の制度
b.保険診療の仕組み
c.2つの審査機関
3 医療保険財政の現状と課題
a.赤字基調の保険者
b.医療費の三面分析
4 診療報酬制度
a.療養の給付
b.診療報酬の2つの“顔”
c.療養費払い
d.最後は「倫理と見識」
2 柔道整復師業務における療養費
A 療養費制度の概要
1 療養費とは
a.現物給付方式と現金給付
b.療養費の支給条件
c.療養費の額
2 柔道整復療養費
a.柔道整復療養費の歴史
b.「受領委任払い」と「償還払い」
c.柔道整復療養費の支給対象
3 柔道整復療養費の推移
4 療養費の算定
a.柔道整復師の施術に係る療養費の料金
b.初検料
c.初検時相談支援料
d.時間外・休日・深夜加算など
e.往療料
f.再検料
g.施術録について
h.一部負担金
B 療養費請求のケーススタディ
a.施術録への記載と支給申請書作成
3 職業倫理
A 医療従事者の職業倫理
1 職業倫理とは
2 医療における従来の倫理観から現代的倫理観への経緯―生命倫理の流れから考える
B 柔道整復師に必要な基本的倫理観と患者への対応
1 患者への説明―インフォームド・コンセントとインフォームド・アセント
2 医療従事者における守秘義務
C 柔道整復師の社会的責任と対応
1 患者への対応I 施術で必ず治せなければならないのか―医療(診療)契約の範囲
2 患者への対応II 施術で患者の状態が悪化してしまったら―医療事故とその対応
3 患者への対応III 患者から暴言・暴行等を受けた場合の対応
4 患者への対応IV 施術料未払いの患者が再来院した場合の対応
D グループ・ディスカッション事例
E 医療における情報と責任
1 患者の個人情報保護―「個人情報の保護に関する法律」を中心に
2 SNS等での業務に関する情報発信での注意点
職業倫理資料
参考資料
索引














