やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

推薦の序
 西洋医学を学びつつも東洋の伝統医学にも心を寄せてきた私にとって,本書を紐といたとき抱いた隔世の感と驚きは,ほとんど表現しがたいのである.
 1945年,第二次世界大戦に日本が敗れたのち,科学的根拠に欠けるとして,占領軍が鍼灸医療の中核概念「経絡」の使用中止を迫った事実があった.
 周知のごとく,間中喜雄等の抵抗によりそれは回避され,1949年,長濱善夫と丸山昌朗によるいわゆる「経絡敏感人」の発見により,解剖学的実体はないものの「作用」としての経絡の存在が確証された.その後,経絡はさらに詳細に研究され,1975年には韓国の柳泰佑が内臓体性反射は手指にも完璧に現れることを報告している.
 鍼灸は,今や中国,日本のみならず多くの国々の麻酔科において,西洋で開発された技法に加えて併用されるようになった.また,経穴に対する刺激方法も多彩になり,鍼や熱などの伝統的手法に加え,電気,レーザー,水,音,化学物質も試されるようになった.特に米国において新規な刺激法を開発する動きがあるのも,歴史的経緯を知る私には微笑ましい.
 本書は鍼灸療法を志す者にとり,知的好奇心を刺激する絶好の手引きとなろう.
 平成26年11月
 東京大学名誉教授
 大井 玄


序文
 鍼灸療法は通常の伝統的鍼灸治療と特殊鍼灸治療とに区別できる.
 刺鍼部位については,伝統的鍼灸は全身選穴(体鍼)に施術するのに対して,特殊鍼灸では特定局部の経穴を使用して,局所または全身の疾病を治療する.
 鍼用具による違いでは,現在は主に毫鍼が頻用されているのに対して,特殊な鍼として,長鍼,大鍼,三稜鍼,挫刺鍼,皮内鍼,円皮鍼,皮膚鍼,テイ鍼などがある.
 刺鍼法の観点からは,特殊鍼灸法には,皮内鍼法,灸頭鍼法,小児鍼法,皮膚鍼法,打鍼法,刺絡鍼法,挫刺鍼法などがあげられる.
 また,中国では微鍼療法といわれており,身体のある特定部位に限定された取穴範囲を刺激部位として,頭皮鍼療法,耳鍼療法,手鍼・足鍼法,鼻鍼法,眼鍼法などの,局所と全身の投影関係を利用することにより診断と治療を行う特殊鍼法がある.
 韓国には舎岩(サアム)鍼法,四象体質鍼法,高麗手指鍼法などがある.
 特殊鍼灸法の意義については,気血の鬱滞がはなはだしく,通常の刺入鍼法では十分な効果があがらないとき,病の転機をうながすための特殊な鍼法であるといわれている.病態に応じて特殊鍼灸法が適応するなら積極的に用いるべきであり,また,両者の同時併用も行われる.
 本来,基本的な鍼灸治療法に加えて本書で扱うような特殊な鍼灸治療法・手技を加味しないことには,鍼灸治療の臨床は完全にはならないところがある.そこで,これら特殊な鍼灸治療法の概念と基本の手技および臨床応用について,本書では解説する(一般的で基本的な鍼灸診療については扱わない).
 鍼に加えて電気を利用した新しい分野を押し広めたのは中国における鍼麻酔の手術時の鍼麻酔機器,すなわち低周波治療器の導入であった.さらに多くの筆者らが強調しているのが温灸治療法である.従来からある灸頭鍼法を進歩させた,電気治療器の一層の活用が鍼灸診療の有効性を押し上げる.わが国の独自の灸治療法も本書で広く紹介した.また,とくに韓医師による執筆によって韓国における各種温熱治療器が利用されている現状が理解できる.
 鍼用具で刺鍼しないが,経穴の効用を最大限に生かしたのがSSP療法である.さらに新しい通電波形の開発により中周波通電法が出現した.
 伝統鍼灸を継承しながらも,まったく新しい刺激ジャンルとして登場したのがレーザーアキュパンクチャーlaser acupunctureであり,ハワイ州在住の筆者に紹介していただいた.さらに,光線照射治療の臨床応用研究は新しい分野として,ぜひ試したい治療法である.刺鍼法では危険性を伴う経穴を刺激する場合,まさに光線照射法の利用は鍼灸療法の適応および限界を広げるであろう.
 現代医療と鍼灸を統合されている医師においては注射針+薬物の章が役に立つ.韓国の,ミツバチの持つ薬効物質を抽出して注射する蜂鍼療法は注目に値する.台湾で行われている「針灸埋線」は埋線治療専用の用具が開発され,中医学診療で臨床化している.香港では,わが国では珍しく思われる天灸治療法などの鍼臨床が行われており,興味がつきない.
 鍼灸医療は世界各国で生かされるべき伝統医療であり,経穴に照射する低出力レーザーのように,新しく進化もしている医療である.日本のみならず諸外国(中国,韓国,台湾,香港およびアメリカ各州)で実践されている治療法についても解説した.なぜなら,諸外国の技術をわが国に導入するためと,その便宜を図るためである.
 このように,日本国内での特殊鍼灸にとどまらず海外の執筆者に健筆を奮っていただいたことにより,本書がこれからの鍼灸診療の前進に寄与することを強く期待したい. 多数の執筆者の絶大なご協力を得ることができて,読者諸賢に提供できることに深く感謝する.最後に,医歯薬出版株式会社ならびに編集部竹内大氏のご理解により発刊できたことに感謝する次第である.
 2014年11月7日
 明治国際医療大学名誉教授
 北出利勝
 推薦の序
 序文

I 鍼治療法
 1.皮内鍼療法
  1)概要 2)方法 3)適応
 2.小児鍼療法
  1)概要 2)歴史 3)方法と適応 4)症例
 3.皮膚鍼・車鍼・梅花鍼治療法
  1)皮膚鍼治療法 2)車鍼:ローラー鍼治療法 3)梅花鍼治療法
 4.打鍼法
  1)概要 2)方法 3)適応
 5.中国におけるテイ鍼治療法
  1)概要 2)方法 3)適応
 6.八卦頭皮鍼療法(卦象医学)
  1)概要 2)方法 3)取穴(取卦)法と適応
  4)刺鍼方法 5)注意事項
  コラム 『九宮八卦』と卦象医学
 7.耳鍼療法
  1)概要 2)方法 3)適応 4)症例 5)臨床検討
 8.高麗手指鍼療法
  1)概要 2)刺激方法 3)適応
 9.顔面鍼治療法
  1)概要 2)方法 3)適応
 10.鼻鍼治療法
  1)概要 2)方法 3)適応
 11.眼鍼治療法
  1)概要 2)方法 3)適応
 12.眼窩内刺鍼
  1)概要 2)方法 3)適応 4)症例
 13.毛様体神経節刺鍼
  1)概要 2)方法 3)適応 4)実験と症例
 14.坂井流横刺術
  1)概要 2)方法 3)適応
 15.奇経治療法
  1)概要 2)奇経八脈と宮脇スーパー4の組み合わせと治療方式
  3)診察・診断法 4)宮脇式奇経腹診法 5)テスターについて
  6)施術の方法 7)診察診断から治療までの実践 8)適応と不適応
 16.舎岩(サアム)鍼法
  1)概要 2)取穴方法 3)適応 4)症例
 17.四象体質針法:太極鍼法
  1)概要 2)方法 3)適応 4)症例
 18.澤田流太極療法
  1)太極とは 2)澤田流太極療法の基本穴とその意味 3)症例
 19.経筋治療法
  1)概要 2)方法 3)適応
  コラム 経筋治療のエビデンス 従来の経筋治療と新しい経筋治療の相違点
 20.火鍼治療法
  1)概要 2)方法 3)適応
 21.大鍼治療法
  1)概要 2)方法 3)適応 4)症例
 22.圓利鍼治療法
  1)概要 2)方法 3)適応
 23.長鍼治療法
  1)概要 2)方法 3)適応
 24.芒鍼治療法
  1)概要 2)方法 3)適応
 25.ザン鍼治療法
  1)概要 2)方法 3)適応
 26.日本でのザン鍼治療法
  1)概要 2)方法 3)適応
 27.挫刺鍼治療法
  1)概要 2)方法 3)適応
 28.圓鍼治療法
  1)概要 2)方法 3)適応
II 鍼+電気治療法
 1.良導絡療法
  1)良導絡とは 2)良導絡治療 3)刺激方法 4)症例
 2.直流電気鍼
  1)概要 2)作用 3)効果 4)ER鍼の取り扱い
 3.低周波置鍼療法
  1)概要 2)方法 3)従来の鍼治療と低周波置鍼療法との違い
  4)適応 5)最近の通電方式の進歩 6)注意事項
  コラム 低周波置鍼療法の用語決定にまつわる当時の世相!
  メモ 低頻度,中頻度,高頻度の違いによる鎮痛効果のメカニズム
III 鍼+灸・温灸治療法
 1.灸頭鍼療法
  1)概要 2)方法 3)適応
 2.温灸鍼器法
  1)温灸鍼器(電子温灸器)の特徴 2)温灸鍼器の温熱特性
  3)温灸鍼器の臨床的効果 4)温灸鍼器の使用上の注意
 3.BANSHIN治療法
  1)概要 2)方法 3)規格 4)適応 5)実験
 4.温灸治療器法;e-Q
  1)概要 2)開発にあたっての基本的規格
  3)刺激温度条件の検討 4)部位別刺激感覚調査結果
  5)刺激温度の再現性の検討 6)e-Q治療器の特徴
 5.アロマ温灸法(艾パッチ)
  1)概要 2)具体的方法 3)コストパフォーマンス
  4)ユニークな応用法
IV 灸・温灸治療法
 1.塩灸・味噌灸治療法
  1)塩灸 2)味噌灸
 2.枇杷の葉灸治療法
  1)概要 2)方法 3)適応
 3.韮灸治療法
  1)概要 2)方法 3)適応
 4.生姜灸治療法
  1)概要 2)方法 3)適応
 5.大蒜灸治療法
  1)概要 2)方法 3)適応
 6.祈祷灸─焙烙灸,砂灸,二日灸
  1)概要 2)方法と適応
  コラム 俳句や川柳に見られる二日灸
 7.打膿灸治療法
  1)概要 2)方法 3)適応と禁忌
  コラム 欧米における灸施術
 8.温筒灸・艾条灸・和紙灸治療法
  1)温筒灸 2)艾条灸 3)和紙灸
 9.ガーゼ灸治療法
  1)概要 2)方法 3)適応
 10.韓国の各種温灸治療法
  メモ 各種治療法の韓国語での読み方
V 経皮的電気治療法
 1.経皮的電気神経刺激法;TENS
  1)概要 2)方法 3)適応
  メモ TENSの刺激条件と内因性鎮痛系
 2.SSP療法
  1)概要 2)方法 3)適応 4)SSP療法の利点
  メモ SSP療法における低頻度の鎮痛効果の機序
 3.中周波通電法・微弱通電法
  1)中周波通電法 2)微弱通電法
VI 光線治療法
 1.低出力レーザー治療法(低反応レベルレーザー治療法)
  1)レーザーの出力と波長 2)低出力レーザーの作用
  3)低出力レーザー使用上の注意
 2.レーザーアキュパンクチャー
  1)概要 2)レーザーの生体への影響
  コラム 米国各州におけるレーザー照射治療の事情
  メモ 個別媒体による医療用レーザーの種類と応用
 3.光線照射治療法
  1)ピンポイント近赤外線照射の特色 2)主な照射部位と照射方法
  3)症例
VII 注射針+薬物
 1.水鍼治療法
  1)概要 2)方法 3)適応
 2.日本での注射治療法
  1)反応良導点注射治療法 2)枝川直義注射治療法
  3)天柱ブロック注射治療法
 3.アクア・パンクチュアー
  1)概要 2)方法 3)問題点
  コラム アクア・パンクチャー(アメリカ)での状況
 4.蜂毒療法
  1)概要 2)施術方法 3)適応 4)症例
  コラム 蜂針治療法
 5.経筋を利用した筋膜間注入法
  1)概要 2)方法 3)適応
VIII 刺絡治療法・吸角治療法・その他の特殊鍼灸
 1.井穴刺絡治療法
  1)刺絡治療の概要 2)井穴刺絡
 2.硬結刺絡治療法
  1)硬結刺絡 2)具体的方法 3)適応
  コラム 新種の硬結発見
 3.吸角治療法
  1)概要 2)方法 3)刺激量 4)効果・作用
  5)長所・短所・禁忌
  コラム 吸角治療法
 4.金属圧粒子治療法(粒鍼治療法)
 5.埋線治療法
  1)概要 2)方法 3)適応
  コラム 台湾での「針灸埋線」
 6.縫合糸を用いた経穴埋込法
  コラム 埋没鍼は是か非か
 7.米国における特殊な鍼灸治療法
  1)概要 2)ソノパンクチャー・超音波治療法 3)光線療法
 8.香港における特殊な鍼灸治療法
  1)概要 2)天灸

 付.近代頭皮針専門家とその位置決定法の研究(要約)
 あとがき
 索引