やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

改訂にあたって
 本書は,講義から実習へ「周手術期看護4」の改題・改訂版です.
 これまでも新しいガイドライン等が出るたびに,内容を見直して訂正をしてきましたが,今回はさらに根拠(Evidence)に基づいた医療/看護実践という点に留意して,術前から「術後回復能力を強化する」という看護に重点を置きました.
 改題となったのは,2007年に超高齢社会に突入したわが国では,高度な医療技術や麻酔薬の進歩等によって,高齢者の手術が増加してきているからです.例えば,当大学における平成22年度の老年看護実習では,67〜99歳(平均年齢86.3±7.4歳)の高齢者を受け持ちました.また,成人看護(急性期)実習では,44〜89歳(平均年齢67.5±11.1歳)の方々を受け持って周手術期看護の学習を展開してきています.成人看護実習であっても,高齢者を受け持つという状況は,他校においても同様でしょう.また,当大学病院の外科病棟では,平成22年度の平均在院日数は16.8日でした.平成14年に厚生労働省が診療報酬を改定し,平均在院日数の目標を17日以下としてから,さらなる短縮が求められている今日です.すなわち超高齢社会となった現状を踏まえて示された医療費高騰を抑えるための国の方針から,今までの看護実践や看護体制を大きく見直す必要が生じているのです.
 具体的には外来における看護相談部門やストーマ外来等の看護専門外来の設置,外来における術前指導や術後のケア提供といった看護実践の拡大・充実,手術を受ける高齢者と家族の看護に対するチーム医療の推進等々があげられます.まさに,入院期間の短縮は周手術期看護を担う看護師にとって,より質の高い個別的な看護を効果的に提供することが求められているといえましょう.
 このような現状を鑑み,本書では「高齢者と成人の周手術期看護」という枠組みで,人間の発達段階と健康段階に注目し,その共通点と相違点が理解できるように内容を整理しました.そのなかでも特に,加齢に伴う心身の変化を理解したうえで,高齢者と向き合う看護が実践できるように,および,高齢者だけでなくその家族に対する看護が実践できるようにという点に留意しました.在院日数の短縮によって退院後の生活に不安をもつ患者や家族の声を聞くことが多くなってきている現状があり,患者と家族を含めたチーム医療の推進が必須だと考えるからです.
 講義から実習へ「周手術期看護1〜5」の改訂は,本書の発行をもって「高齢者と成人の周手術期看護1〜5」として全巻が揃いました.本書が,超高齢社会を迎えたわが国における周手術期看護実践と看護教育に,少しでも貢献できれば幸いです.
 竹内 登美子


はじめに
 本書は主に,看護学生や新人ナースを対象としてまとめたものです.読者の方々が,講義や演習などで得た既存の知識を復習・整理することを助け,看護実践(看護学実習)に活かすことができる実践的テキストとして企画しました.
 従来の成人看護学「外科系」や「急性期」,臨床外科看護学などの類書といえますが,周手術期看護perioperative nursing,すなわち「患者が手術療法を選択するか否かに関する看護から,手術前・中・後を経て退院するまでの一連のプロセスに関わる看護」に焦点を絞って内容を整理しました.
 今回のシリーズ4は,看護学生やナースが頻繁に出会うであろう脳神経外科で扱う疾患を厳選し,それらの疾患をもちながら手術療法を選択しようとしている/選択した患者とその家族に焦点をあてています.術前〜術後までに求められる「看護の実際とその根拠」についての理解が本書1冊で深まるように,看護実践に必要な基礎知識のみならず,看護関連領域の知識をも含めて内容を構成しています.既刊のシリーズ1「外来/病棟における術前看護」,シリーズ2「術中/術後の生体反応と急性期看護」と合わせて学習することによって,「脳神経疾患で手術を受ける患者の看護」の特徴と,全身麻酔で手術療法を受ける患者の看護に共通するものとが明確になることでしょう.
 特に,「手術を受ける患者と家族の心理を理解するための看護の要点」,「手術療法の理解と看護実践に必要な解剖・生理学の知識」,「術後合併症予防のための看護技術と指導」に力点をおいています.これらは,周手術期看護の基礎ともいえる必須概念と技術だからです.そしてその際,現在の医療・看護に応じた最新の知見を盛り込んで記述するように努めました.
 その他の特徴としては,章の内容を適切に理解する助けとして学習目標objectivesを明示したこと,図表やイラストを多くしてビジュアルな紙面としたこと,知識の整理を促進するために看護過程の展開例を入れたこと,各章に適宜Q&AやPLUS ONEとしてコラムを入れ,追加情報や知識の補足をしたことなどがあげられます.
 学生や新人ナースの多くは,手術を受けた患者を適切にイメージすることができず,看護援助が患者の回復の後追いになってしまったり,既存の知識を統合することができず,観察したことを看護に結びつけてアセスメントすることができなかったりするものです.しかし,幾つかのヒントを与えたり,幾つかの参考書を提示すれば,自ら答えを導き出してくることが多いのも事実です.臨床で実習指導や新人ナースの指導を担当しているナースの方々と看護大学の教員らで執筆された本書が,そのような折に有用な手引きとしてお役に立てば幸いです.
 竹内 登美子
第1章 脳神経疾患で手術を受ける患者と家族に対する医療の動向と看護
 (竹内登美子)
 1 脳卒中急性期におけるチーム医療
  1)脳血管疾患の死亡率とブレインアタック・キャンペーン
  2)ストローク・ユニットとストローク・ケア・ユニット
  3)多職種によるチーム医療の中の看護
   PLUS ONE 脳卒中超急性期におけるrt-PA(アルテプラーゼ)静注療法
 2 脳卒中地域連携パスを用いた地域医療の発展と向上
  1)患者の視点に立った質の高い医療体制の確立
  2)脳卒中地域連携パスを用いた医療
 3 手術を受ける患者と家族に対するインフォームド・コンセント
   PLUS ONE 悪性の病名を伝えるときの留意点
第2章 脳神経疾患で手術を受ける患者の看護に必要な知識
 1 神経系(nervous system)・脳血管系の形態と機能(玉田章・早川大輔・藤沢弘範)
  1)脳(brain)および脳神経(cranial nerves)の形態と機能
   (1)大脳(cerebrum)
   (2)間脳(diencephalon)
   (3)脳幹(brain stem)
   (4)小脳(cerebellum)
   (5)脳神経(cranial nerves)
  2)脳血管系の構造と機能
   (1)動脈系
   (2)静脈系
  3)脳脊髄液(cerebrospinal fluid)の循環と機能
 2 脳神経系のフィジカルアセスメント(川村知也・長江美代子)
  1)バイタルサイン(vital sign)
  2)精神機能状態(mental status)
   (1)意識レベル(consciousness level)
   (2)見当識(orientation)
   (3)記憶(memory)
   (4)気分と情動(mood and affect)
   (5)理解力と思考力(intellectual performance)
   (6)判断力と洞察力(judgment and insight)
   (7)言語とコミュニケーション能力(language and communication)
   PLUS ONE JCS,GCS使用時の留意点
  3)頭,頸,背部の状態(head,neck,and back)
  4)脳神経(cranial nerves)
   (1)運動機能(motor system)
    表情 食べる動作 眼の運動 筋力と動作
   (2)感覚機能(sensory function)
    視覚 嗅覚 聴覚 味覚
    触覚,痛覚,振動感覚,位置感覚(固有受容)
   PLUS ONE 中枢性顔面麻痺と末梢性顔面麻痺(ベル麻痺)の見分け方
   PLUS ONE 摂食嚥下機能の神経支配について
  5)反射(reflexes)
   (1)表在反射
   (2)深部腱反射
  6)腸と膀胱機能の状態
  7)高齢者の救急で必要なフィジカルアセスメント
   (1)急性疾患による症状と複合的要因の把握
   (2) 高齢者の救急場面でのフィジカルアセスメントと外傷初期診療における看護
 3 画像診断検査法の基礎知識と検査を受ける患者の看護(松島由美・比嘉肖江)
  1)X線検査と看護
   (1)X線写真(X-ray)を見るポイント
   (2)撮影方法・方向
   (3)看護
  2)CT検査と看護
   (1)CT検査(computed tomography;CT)
   (2)CTを見るポイント
   (3)看護
   PLUS ONE ナースに必要な脳神経外科領域で使用される造影剤の知識
  3)MRI検査と看護
   (1)MRI検査(magnetic sesonance imaging;MRI)
   (2)MRIを見るポイント
   (3)看護
   PLUS ONE 拡散強調画像(DWI)とは
  4)脳血管撮影検査と看護
   (1)脳血管撮影検査(cerebral angiography)
   (2)脳血管造影を見るポイント
   (3)看護
   PLUS ONE ナースに必要な脳血管撮影に伴う合併症の知識
   PLUS ONE 脳血管撮影後の看護のポイント セルディンガー法
  5)核医学検査と看護
   (1)核医学検査(nuclear medicine)
   (2)看護
   PLUS ONE PET(positron emission tomography)
 4 特徴的な症状・治療に対する看護
  1)頭蓋内圧亢進症状と看護(松島由美・橋由起子・竹内登美子)
   (1)頭蓋内圧亢進(increased intracranial pressure)の機序と症状
   (2)モンロー・ケリーの法則
   (3)頭蓋内圧亢進時の治療
   (4)頭蓋内圧亢進時の看護
   PLUS ONE 脳ヘルニア(cerebral herniation)とは
  2)痙攣症状と看護(松島由美・玉田章)
   (1)痙攣(seizure)とは
   (2)治療
   (3)看護
    観察 看護
  3)頭部ドレーン留置中の患者の看護(玉田章・松島由美)
   (1)ドレーン(ドレナージチューブ)留置の目的
   (2)頭部ドレナージの種類
   (3)ドレーン留置中の患者の看護
第3章 脳血管障害患者の周手術期看護
 1 疾患に対する基礎知識(片瀬智子)
  1)脳血管障害の定義
  2)脳血管障害の分類
  3)脳血管障害の病態
   (1)脳梗塞
    分類 症状 急性期治療
   (2)クモ膜下出血
    疫学 症状 診断 治療
   (3)脳出血
    分類 原因 症状 治療
   (4)頭蓋内血腫
    A.急性硬膜外血腫
     原因 症状 治療
    B.急性硬膜下血腫
     原因 症状 治療
    C.慢性硬膜下血腫
     原因 症状 治療
   PLUS ONE BAD(Branch Atheromatous Disease)と奇異性脳塞栓
   PLUS ONE 心原性脳塞栓症
   PLUS ONE 最近の治療動向
 2 脳梗塞の看護(片瀬智子)
  1)術前の看護
   (1)術前の看護計画
  2)術後の看護
 3 クモ膜下出血(動脈瘤)でクリッピング術を受ける患者の看護(片瀬智子・横山奈緒美)
  1)術前の看護
   (1)術前の看護計画
   (2)手術前の準備
  2)術中経過と術後の看護
   (1)手術室への入室および術中経過
  3)術直後の看護
   (1)術後の全身管理の基本的な考え方
   (2)術後の看護計画
  4)術後回復期の看護
   PLUS ONE 脳血管攣縮について
 4 クモ膜下出血(動脈瘤)で血管内手術を受ける患者の看護
  1)術中経過と術後の看護
   (1)手術室の入室および術中経過
   (2)術直後の看護
第4章 脳腫瘍患者の周手術期看護
 1 疾患に対する基礎知識(藤島則子・松田好美)
  1)脳腫瘍の疫学と分類
   (1)脳実質内発生腫瘍
   (2)脳実質外発生腫瘍
  2)病態
  3)主な治療法
   (1)手術療法
   (2)放射線療法
   (3)化学療法
   (4)免疫療法
   (5)腫瘍による二次的障害に対する治療
   PLUS ONE 脳腫瘍と遺伝子変異
   PLUS ONE 蛍光色素による術中ナビゲーション
   PLUS ONE 神経内視鏡手術
   PLUS ONE 抗悪性腫瘍剤の動向(1)「ギリアデル(R) 脳内留置用剤」
   PLUS ONE 抗悪性腫瘍剤の動向(2)「アバスチン(R)」
 2 脳腫瘍(神経膠腫)で開頭術を受ける患者の看護(藤島則子・松田好美)
  1)神経膠腫の症状・治療
  2)術前の看護
   (1)全身状態の評価と看護
   (2)術前処置
    散髪・剃髪,入浴,洗髪 食事,排泄,与薬
   (3)精神面への援助
  3)術中経過と術直後の看護
   (1)術中経過
   (2)術直後の看護
    意識状態,神経症状の観察 循環器系の管理
    呼吸管理 周術期感染症の管理 体液・輸液管理
    体位
  4)術後の看護
   (1)離床
   (2)創,ドレーンの観察
    手術創の観察 ドレーンの管理
   (3)栄養
   (4)排泄
   (5)安全の確保
   (6)精神的援助
   (7)放射線療法・化学療法を受ける患者の看護
  5)退院に向けての看護
   指導内容
 3 下垂体腺腫で経鼻的手術を受ける患者の看護(藤島則子・横山奈緒美)
  1)下垂体腺腫の症状・治療
  2)術前の看護
   (1)術前検査
   (2)術前の準備
   PLUS ONE 経蝶形骨洞手術について
  3)術中経過と術直後の看護
   (1)術中経過と手術の概要
   (2)術直後の看護
   (3)術直後の看護計画
    1)後出血
    2)髄液漏
    3)尿崩症
    4)呼吸器合併症
    5)下垂体機能低下
    6)スパイナルドレナージの管理
  4)術後の看護
  5)退院へ向けての看護
第5章 水頭症患者の周手術期看護
 (青木頼子)
 1 疾患に対する基礎知識
  1)水頭症の病態
   (1)水頭症(hydrocephalus)の定義
   (2)水頭症の原因
   (3)水頭症の分類
   PLUS ONE 正常圧水頭症(NPH:normal pressure hydrocephalus)の分類と症状
  2)診断と症状
   (1)水頭症の診断方法
   (2)水頭症の症状
  3)水頭症の治療
   (1)脳室ドレナージ
   (2)髄液短絡手術(シャント手術)
   (3)第3脳室底開窓術(ETV:endoscopic third ventriculostomy)
 2 水頭症で髄液短絡手術(シャント手術)を受ける患者の看護
  1)術前の看護
   (1)術前の看護計画
  2)術式の概要
  3)術後の看護(術直後〜退院まで)
   (1)術後の看護計画

 索引