やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

改訂の序
 2011 年に「手術室看護―術前術後をつなげる術中看護」の初版を発行して早8 年がたつ.初版では,手術室で実践される看護に必要な知識や技術について,病態と治療,麻酔や手術が生体に及ぼす影響を含めた基礎知識,専門性の高いアセスメントを看護過程の展開を通して理解してもらえるように企画・構成をした.多くの手術室看護師や看護学生の方々に手にとってもらい,このたび改訂版を出版できることになったことにまず感謝している.この間,手術医療・看護を取り巻く状況は刻々と変化した.例えば,入院期間の短縮化が進むにつれ,より安全に,患者に手術を受けてもらうためには,術前看護は,術前訪問から術前外来での看護に切り替える必要が生じた.手術室看護師が手術室内だけで看護を行う時代は終わり,術前外来から術中看護,術後・退院までの周術期看護にしっかりと携われる力をつけなければならない時代になった.本書の執筆にも携わっている手術看護認定看護師や日本手術看護学会員たちの努力によって,手術看護の質や実践内容も時代にあったものに変化して,手術看護が実践・普及されている.
 そこで,筆者・編集者らは,今後臨床を担う看護学生や,看護実践に役立つ確かな情報を求めている手術に携わる看護師のために,初版を見直し,現在の手術看護に沿って再構成・再編しようと取り組み,本書「手術看護 第2 版」を上梓するに至った.第2 版では,手術看護が手術室だけで実践されるものではないことを示すため,タイトルから「室」を除き,「手術看護」と改題した.今回は次のように内容を検討し構成した.第1 章では,手術室内だけにとどまらない医療チームの中での手術室看護師の役割を示すことを意識し,手術チーム医療と周術期における手術室看護師の役割に分けた.第2 章と第3章で,基礎知識としての手術侵襲や麻酔による生体反応の部分を充実させた.第4章と第5章では,本書の特徴である,術中看護の実際を看護技術の基礎知識と看護の実際として示している.第4章を,術中看護技術の基本とし,手術体位固定,感染管理,医療安全,体温管理を項目立てした.第5 章 術中看護の展開事例では,初版から事例を見直して,実際に多く経験する事例をセレクトした.合併症のある患者の事例としては,内分泌・代謝疾患のある患者,腎疾患のある患者を,対象別では,帝王切開術を受ける産婦の看護を追加した.
 本書が,これからの手術看護を担う人々の看護の力に少しでも寄与することができれば幸いである.
 2018 年晩秋 編著者代表 草柳かほる


はじめに
 近年,我が国における社会構造や医療体制の変化に伴い,医療費削減,在院日数が短期化される一方で,安心・安全な医療を求めるニーズはさらに高まっています.手術医療においても治療の進歩とともに,難度の高い手術の増加,手術で使用する機器が高度化・複雑化されています.その中で質の高い医療を提供するため,医師・看護師,放射線技師,臨床工学技士,薬剤師など異職種が,患者を中心としてひとつのチームとなり治療にあたっています.手術室においてはチーム医療を向上させるために,各職種が専門性を向上させるだけでなくスタッフ間の連携を深めていく必要があるといわれており,看護師はチームの要となる調整役を担っていくことを期待されています.手術を受ける患者の身体の状態について情報を共有し,患者の安全かつ合併症予防に留意することで,手術をスムーズに遂行し早期回復を実現するための医療・看護を提供しなければなりません.また,手術看護を手術室内での看護にとどめることなく,手術を受ける患者を中心とした継続看護,いわゆる周手術期看護としてとらえ,手術室での看護実践を多領域の看護職や多職種に明示していくことでより安全な看護を提供できると思っています.
 本書では,手術室看護師に必要な基礎的な医学的・薬理学的な知識,手術室で必要な看護技術,日頃行われている看護実践を看護過程に沿ってまとめた事例を通して,これまであまり示されてこなかった手術室からみた周手術期看護を可視化してみようと試みました.執筆者は,手術室で働く手術看護認定看護師がほとんど担当し,看護実践に必須の知識・理論と,臨床で行っているエキスパートナースの実践知を結びつけて,手術室で行われる看護を活き活きと伝えようと努力しました.
 1章では,手術侵襲や麻酔が生体に及ぼす影響について詳しく記述し,手術室の看護師のみならず,手術に関連する部署で働く看護師や看護学生にもよく理解できる内容となっています.2章は,手術中に起こり得るさまざまな合併症予防,特に手術体位固定とその看護を取り上げています.3・4章では,手術室看護師が実践する周手術期看護を,術中看護を中心とした看護過程の展開を通して示しました.手術室内での器械出し看護・外回り看護の実際,チームの中での看護師の役割,患者の擁護者としての看護師の役割が詳しく記載されています.事例には,緊急時対応,合併症のある人の手術,小児・高齢者など,特別な知識や対応が必要となる事例を取りあげ,手術患者の状況を的確にアセスメントして看護実践する方法を示しました.
 手術室勤務になる新人はもちろん,ローテーションで初めて手術看護に携わる人,手術室勤務2〜3 年目でこれまでの実践を理論と照らし合わせることによってステップアップしたい人,そして,周手術期看護に携わる部署で働く人には術前・術後管理において参考にできる内容になっています.これまで他部署の看護師が目にすることが少なかった「患者が手術をどのように受けているのか」「手術中の患者の状況がわからない」「手術室での看護とは何か」が見えることにより,患者を中心とした周手術期看護がより明らかになっていくことを期待しています.5 章では,手術看護の現状を理解していただくために手術看護認定看護師の活動の実際や手術室看護師のキャリアアップについて収録しました.
 本書が,少しでも手術看護の発展に寄与でき,一人でも多くの手術室看護師や周手術期に関わる看護師の看護実践に役立つことで,患者が安心して手術を受けられ,早期回復が実現できることを願っております.
 2011 年3 月 編者
序章 手術チーム医療と看護
   1.手術チーム医療(山口紀子)
   2.手術チームにおける手術室看護師の役割(山口紀子)
   3.手術チーム医療を推進するために手術室看護師に必要な技能(山口紀子)
第1章 周術期における手術室看護師の役割
  1 術前看護(山口紀子)
   1.術前看護とは
   2.術前外来
   3.術前訪問
  2 術中看護(山口 円)
   1.術中看護とは
   2.外回り看護師の役割
   3.器械出し看護の役割
  3 術後看護(山口紀子)
   1.術後看護とは
   2.術後訪問
  4 倫理的役割(堀越悦子)
   1.倫理面への配慮とアドボカシー
   2.事例
   3.患者・家族の代弁者・擁護者としての役割
 COLUMN認定看護師に期待すること(菊地京子)
第2章 手術侵襲と生体反応
 (豊島康仁)
  1 手術侵襲と生体反応
   1.侵害情報の伝達
   2.自律神経系の生体反応
   3.サイトカインによる炎症反応・免疫系
   4.神経・内分泌系の生体反応
   5.代謝系の生体反応
   6.手術侵襲による生体反応とその機序(まとめ)
 COLUMNムーアの分類からみた生体反応の推移
第3章 麻酔による生体反応
  1 基礎的な解剖生理とモニタリング
   1.呼吸(村井律子)
   2.循環(前田 浩)
   3.神経(小成 聡)
  2 麻酔侵襲と安全管理(小成 聡(1,2,3,4,6),山口 円(5))
   1.麻酔の種類と適応
   2.全身麻酔
   3.脊椎くも膜下麻酔
   4.硬膜外麻酔
   5.麻酔診療の介助・看護
   6.麻酔と安全管理
第4章 術中看護技術の基本
  1 手術体位固定(岡田貴枝)
   1.安全・安楽な手術体位
   2.体位固定に必要な基礎知識
   3.生体への影響と体位固定のポイント
    仰臥位 /側臥位 /腹臥位
  2 感染管理(松嵜 愛)
   1.手術室の環境
   2.機器類の管理
   3.手術メンバーの感染予防
   4.患者の感染予防
   5.手術部位感染SSI
  3 医療安全(大久保千夏)
   1.医療安全の基本的な考え方
   2.チーム医療と医療安全
   3.手術室における医療安全
   4.医療安全における手術室看護師の役割
  4 体温管理(宮川久美子)
   1.体温調節のしくみ
   2.手術で起こりやすい体温変化
   3.体温管理の看護
   4.手術患者の特徴に配慮した体温管理
第5章 術中看護の展開事例
 A.緊急時の対応
  1 緊急手術(山元直樹)
   1.緊急手術を要する疾患
   2.緊急手術受け入れの流れ
   3.情報収集
   4.事例展開
   5.緊急手術における看護のポイント
  2 危機的大量出血(守屋優一)
   1.基本的知識
   2.危機的出血時の対応
   3.事例展開
   4.大量出血時の看護のポイント
 B.合併症のある患者の手術看護
  1 内分泌・代謝疾患(井川 拓)
   1.病態の解説
   2.周術期への影響
   3.事例展開 糖尿病を基礎疾患にもつ患者の上行結腸切除術
   4.看護のポイント
  2 腎疾患(手塚信裕)
   1.病態の解説
   2.周術期への影響
   3.事例展開 糖尿病性腎症末期で,シャントがある患者の胃切除術
   4.看護のポイント
  3 心疾患(古島幸江)
   1.病態の解説
   2.抗凝固剤内服中の患者の術前準備
   3.術中看護のポイント
   4.事例展開 心房細動がある患者の大腿骨骨頭置換術
   5.看護のポイント
  4 呼吸器疾患(徳山 薫)
   1.病態の解説
   2.周術期への影響
   3.事例展開 呼吸器合併症をもつ患者の胃全摘術
   4.看護のポイント
 C.対象別看護
  1 手術を受ける高齢者の看護(渡部みずほ)
   1.加齢に伴う諸機能の変化
   2.高齢者の手術における症状と看護援助
   3.高齢者に多くみられる術後合併症
   4.周術期における認知症高齢者の看護
   5.事例展開 認知症がある高齢者の鼠径ヘルニア修復術
   6.看護のポイント
  2 手術を受ける子どもの看護(峯川美弥子)
   1.子どもの身体的・心理的特徴
   2.手術を受ける子どもへの術前看護
   3.子どもの麻酔と術中管理
   4.モニタリング
   5.事例展開 鼠径ヘルニアで手術を受ける子どもの看護
   6.看護のポイント
  3 帝王切開術を受ける産婦の看護(高橋典子,森 舞)
   1.周産期の身体的・心理的特徴
   2.帝王切開術を受ける妊産婦への心理的支援
   3.妊産婦の麻酔と術中管理
   4.事例展開 超緊急帝王切開を受ける患者への対応
   5.看護のポイント

 索引