やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 老年看護学は,わが国における急速な高齢化という社会状況を受けて生まれた領域です.そして,わが国の高齢者を取り巻く社会状況は今も日々変化し,とくに昨今の介護保険や高齢者医療制度,年金制度などの問題は,高齢者の将来の姿を予測することさえ困難な状況を招いています.高齢者は,生きてきた年月が長い分,個体差・個人差が大きいとされ,しかも,65歳を過ぎて亡くなる方が8割を超えているため,老年看護には,自分が決して体験できない世代の人々を理解し,看取りのときまで看護実践しなければならない特徴があり,高齢者が満足して人生を閉じられるよう支援することが必要です.さらに,独居や高齢夫婦世帯の増加という家族状況の変化は,看護学生や新人看護師が,高齢者の生活史や生活状況の実際を理解できないままに高齢者看護を実践しなければならないことを余儀なくしています.家族状況の変化は多くの介護上の問題をも生じ,看護の場も病院や地域だけではなく,施設も重要な場となり,介護職員やリハビリテーション職員とのチームアプローチも重要課題になっています.
 このような状況のもとで,私たち看護職は,広い視野をもって,多面的なアプローチをすることが求められています.
 本書は,これらの老年看護に対する考え方を基盤とし,種々な問題のアセスメント,実践のポイントなどを盛り込み構成しました.学生や新人看護師の方々が手元に置いて,日々のケアに役立てていただけることを心より願っております.
 最後になりましたが,本書をまとめるにあたっては,医歯薬出版の編集担当の皆様に大変お世話になりました.この場を借りて御礼申しあげます.
 2009年9月 編者
I 老年看護とは(浅野祐子)
 1.老年看護の考え方
 2.高齢者の理解
 3.老年看護における人権擁護と倫理
 4.生活機能の障害の捉え方
II 高齢者のアセスメントの特徴(浅野祐子)
 1.高齢者のアセスメント
 2.家族のアセスメントと支援
III 高齢者の身体・心理・社会的変化(安川揚子)
 1.老いの考え方
 2.高齢者の病気の特徴
 3.加齢に伴う身体機能の変化
 4.精神・心理機能の変化
 5.社会的変化
IV 老年看護に必要な日常生活援助技術(1〜6:平野美理香,7〜16:外池晴美)
 <コミュニケーション>
  1.視力・聴力機能の変化とコミュニケーション
  2.視力機能の変化と看護
  3.聴力機能の変化と看護
 <活動を高める>
  4.移動・移乗の技術
  5.呼吸・循環を整える技術
  6.いきがい・楽しみ
 <生活を整える看護>
  7.食生活と摂食障害への看護
  8.栄養管理
  9.誤嚥の予防
  10.口腔ケア
  11.排泄と排泄障害
  12.尿失禁への看護
  13.便秘への看護
  14.清潔・入浴への看護
  15.睡眠・休息への看護
  16.環境調整
V 高齢者の主な健康障害(高齢期に多い症状の起こり方と看護)(1〜4:村祐子,5〜9:高柳久美)
 1.脱水
 2.浮腫
 3.せん妄
 4.痛み
 5.褥瘡・皮膚損傷
 6.尿失禁
 7.うつ
 8.ひえ・低体温
 9.かゆみ
VI 健康障害の治療過程における看護(1〜6:近藤智恵,7〜12:山岸千恵,13〜18:中村摩紀,19〜22:荒木亜紀)
 <急性期の看護>
  1.周手術期における高齢者の看護
  2.術前の看護
  3.術後の看護
  4.術後の合併症と急変時の看護
  5.術後せん妄
  6.大腿骨頸部骨折手術患者の一例
 <慢性期の看護>
  7.検査・治療時の看護
  8.薬物治療時の看護
  9.外来における看護
  10.急変時の看護
  11.入院時の看護
  12.COPD患者の一例
 <リハビリテーション期の看護>
  13.治療過程の時期と特徴
  14.日常生活機能の評価方法
  15.寝たきりの予防
  16.廃用症候群の予防
  17.転倒・転落防止
  18.リハビリテーションチーム
 <終末期の看護>
  19.高齢者の終末期とターミナルケア
  20.病院・施設・住宅でのターミナルケア
  21.家族支援
  22.スタッフ支援と協力体制
VII 認知症高齢者の看護(池内彰子)
 1.認知症とは
 2.認知症ケアの理念・原則
 3.日常生活支援
 4.BPSDへのケア
 5.権利擁護
VIII ケアマネジメント(笠井直美)
 1.高齢者にとって最適な生活環境
 2.退院調整
 3.在宅における看護
 4.施設における看護
 5.チームアプローチ
 6.高齢者や介護者(家族など)のニーズとサービス
 7.介護保険制度