やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 スキンケア用品は,様々な種類のものが販売されています.比較的入手しやすくなり臨床でも在宅でも見かけることが多くなってきました.しかし,あまりにも種類が多すぎて「一体どれを使えばよいのだろう?」と迷うことがあります.また,スキンケア用品の存在は知っていても「患者さんに見合ったものなのか?」「効果的に使用する方法がわからない」といったことから,使ってよいのかどうか戸惑うこともあるのではないでしょうか.
 看護師は,患者の清潔ケアや排泄の介助を行うときに,皮膚の状態を直接見てスキントラブルの有無を観察しています.皮膚症状は,乾燥,発赤,びらん,水疱といったものは,他覚的にもわかります.この場合は,皮膚が脆弱であると想定し,すぐに予防的ケアやスキントラブルの対策が必要なことがわかります.一方,かゆみ,ヒリヒリ感,チクチク感,痛みなどは,本人にしかわからないものです.たとえば,かゆみのために夜間眠れないことや,痛みによる精神的苦痛は,日常生活に影響を及ぼすこともあります.この場合は,患者さんの訴えがキャッチできなければ対処が遅れてしまうことがあります.
 スキントラブルは,予防が第一ですが,だれでも同じ方法でケアを行うわけではありません.皮膚の老化や未熟性,下痢の持続,全身状態の悪化,治療の影響などに伴い,皮膚は脆弱化してきます.これらの状況を把握したうえで個々の患者さんに見合った方法を実践していく必要があります.また,スキントラブルが発生した場合には「どのような要因が考えられるか」をアセスメントし,身体的・精神的苦痛,日常生活への影響を考慮した全人的ケアに取り組む必要があります.
 そこで本書では,臨床エキスパートである皮膚・排泄ケア認定看護師が実際にケアを行うときにどのようにアセスメントし,ケアを実践しているのか,そのノウハウを解説しました.スキントラブルの発生リスクが高い10ケースをあげ,基礎知識,予防的スキンケア,スキントラブルが生じたときの対処方法について具体例を提示しながら説明しました.また,各項目の冒頭にはケアのポイント,終わりにはミニ知識としてQ&Aをあげました.
 どの項目からお読みいただいてもわかる内容構成になっていますので,実際のケアで困ったときにはいつでも必要なページだけ開いてお読みください.看護師のみなさまが,日々のケアを行うとき,患者さんやご家族の指導を行うときにお役に立つことを願います.
 最後になりましたが,本書を刊行するにあたり,お忙しい中,執筆してくださった著者のみなさま,ならびに医歯薬出版編集担当者の方々に心より感謝申し上げます.
 2008年5月
 編著者 松原康美

 ◎お読みいただく前に……
 ・本書において,「ドレッシング材」とは,創傷面の湿潤環境形成を目的とした創傷被覆材をいい,一般的な滅菌ガーゼなどは除いたものを示します.
 ・創傷部のケアや有害事象などについては,ケアを行う前に必ず医師と相談してください.
1 高齢者のスキンケア(安藤嘉子)
 ケアのポイント
 はじめに
 1)高齢者に多いスキントラブル
  ドライスキン 掻痒感
 2)おむつを使用している高齢者の臀部のスキンケア
  おむつを使用している高齢者の臀部の皮膚の特徴 おむつを使用している高齢者の臀部のスキントラブル予防の意義 おむつを使用している高齢者の臀部の予防的スキンケア方法 パッド,おむつの選択
 3)臀部以外の乾燥やかゆみへのケア
  かゆみの症状の成り立ち かゆみのある高齢者へのスキンケア
 4)ケアの実際
  プロフィール アセスメント 看護上の問題 看護目標 ケア計画 /評価
 おわりに
 Q&A
  高齢者で皮膚が弱くなっていて,すぐに四肢の表皮剥離を起こしてしまう方がいるので,良い予防法があれば教えてほしい.
  掻痒感を訴える方に対する有効なケアがあれば教えてほしい.
2 低出生体重児・新生児のスキンケア(佐々木貴子)
 ケアのポイント
 はじめに
 1)低出生体重児をケアする際の基礎知識
  重視する情報 早産児 低出生体重児
 2)低出生体重児・新生児の皮膚の特徴
  皮膚の発生 早産児・新生児の皮膚の組織学的特徴 アセスメントの方法
 3)予防的スキンケアの実際
  低出生体重児のケアを実施する際の注意点 温度・湿度管理 低出生体重児のスキンケアをめぐる問題点 感染予防―皮膚における異常細菌叢形成に関与する因子
 4)予防的スキンケアの実際
  心電図呼吸モニター 点滴固定 Nasal-DPAP(呼気吸気変換方式経鼻持続陽圧呼吸法) 寝具 酸素飽和度モニター 挿管チューブ
 5)感染予防
  消毒 清潔ケア―沐浴とドライテクニック
 6)新生児に多くみられるスキントラブル
  シャンプー 洗顔 全身洗浄 おむつ皮膚炎
 7)事例
  プロフィール アセスメント ケアプラン 結果
 おわりに
 Q&A
  そけい部などの皮膚が密着した部位に皮膚障害が発生することが多いが,対処方法は?
  トラブルのある皮膚の洗浄時には生理食塩水と温水,どちらを使うほうがいいのか?
3 下痢便が持続する場合のスキンケア(積 美保子)
 ケアのポイント
 はじめに
 1)下痢のタイプに応じたケア
  急性下痢のケア 慢性下痢のケア
 2)下痢による皮膚障害を予防するための予防的スキンケア
  肛門部の清潔保持方法と皮膚障害の予防
 3)皮膚障害が発生した場合の治療的スキンケア
  機械的刺激の除去 排泄物による化学的刺激の除去 スキンケアの実際―事例1:粉状皮膚保護剤の使用 スキンケアの実際―事例2:粉状皮膚保護剤の使用 スキンケアの実際―事例3:粉状・板状皮膚保護剤,下痢用濾過綿,吸収パッドの使用 スキンケアの実際―事例4:肛門専用装具の使用
 おわりに
 Q&A
  下痢による皮膚障害を予防するためにはどうすればよいか?
  下痢による皮膚障害が発生しているときはどうすればよいか?
  下痢が持続しており皮膚障害が改善しない場合にはどうすればよいか?
4 浮腫がある部位のスキンケア(新島早苗)
 ケアのポイント
 はじめに
 1)浮腫の分類
  全身性浮腫 局所性浮腫
 2)浮腫がある皮膚の特徴
  菲薄 乾燥 易感染性
 3)スキンケアの方法
  皮膚の保護 皮膚の清潔 保湿 循環の促進
 4)リンパ浮腫のケア
  リンパ浮腫の皮膚のケア リンパ浮腫の合併症
 5)がん終末期患者の浮腫のケア
 おわりに
 Q&A
  リンパ浮腫でリンパ漏があるが,皮膚に固着しないドレッシング材やガーゼが施設にない場合のケア方法は?
5 医療用粘着テープによるスキントラブルとその予防(工藤礼子)
 ケアのポイント
 はじめに
 1)医療用粘着テープと皮膚への影響
  医療用粘着テープとは 医療用粘着テープの構造と種類 医療用粘着テープが皮膚に与える影響
 2)医療用粘着テープによる皮膚障害
  浸軟 角質・表皮剥離 緊張性水疱 一時刺激性接触性皮膚炎 アレルギー性接触性皮膚炎 感染(毛嚢炎・カンジダ皮膚炎)
 3)医療用粘着テープによる皮膚障害の予防
 4)ケアの実際
  プロフィール アセスメント 看護上の問題点 看護目標 ケア計画
 評価
 おわりに
 Q&A
  ビニールテープを使用していたのはなぜか? またどうしていけなかったのか?
  ベンジンでテープの粘着成分を落とすようにという先輩がいるのだが?
6 関節拘縮がある患者のスキンケア(熊谷英子)
 ケアのポイント
 はじめに
 1)関節拘縮の基礎知識
  関節拘縮とは 病理的変化 関節拘縮の原因別分類
 2)関節拘縮の皮膚に及ぼす影響
  関節拘縮の原因に起因する皮膚変化 関節拘縮と褥瘡の発生 皮膚の清潔保持が困難
 3)関節拘縮のある患者の予防的スキンケア
  関節拘縮の予防 褥瘡予防 皮膚の清潔
 4)関節拘縮のある患者のスキンケアの実際
  プロフィール 受診時の状態 アセスメント 看護上の問題点 看護計画 ケアの実際 ケアの評価
 おわりに
 Q&A
  足趾の関節拘縮のために,足趾と足趾が重なり,圧迫による褥瘡が発生した.真皮層に及ぶステージII(NPUAP分類)の褥瘡で痛みがある.様々の工夫をしたが,うまく除圧ができず褥瘡が悪化している.何かいい方法はないだろうか?
7 開放創周囲のスキンケア(渡邉光子)
 ケアのポイント
 はじめに
 1)開放創周囲のスキンケアにあたっての基礎知識
  創傷治癒過程 創周囲の皮膚保護の意義
 2)開放創周囲皮膚の洗浄
 3)創周囲皮膚の保護
  滲出液を拡散させない方法 皮膚保護剤 皮膚被膜剤・保護膜形成剤
 4)ケアの実際
  創周囲の掻痒感,発赤,びらん(プロフィール /アセスメント /看護上の問題 看護目標 ケア計画 評価) 多量の滲出液で創周囲全体が湿潤する(プロフィール アセスメント 看護上の問題 看護目標 ケア計画(ケアの実際) 評価) 消化液がある滲出液によるびらん(プロフィール アセスメント 看護上の問題 看護目標 ケア計画(ケアの実際) 評価)
 おわりに
 Q&A
  開放創の洗浄は生理食塩水?それとも微温湯?何を用いるとよいか?
8 がん化学療法中のスキントラブルとケア(松原康美)
 ケアのポイント
 はじめに
 1)がん化学療法とスキントラブル
  がんの治療 抗がん剤の有害事象 スキントラブルの原因 スキントラブルが起こりやすい抗がん剤
 2)スキントラブル発生時のアセスメント
  抗がん剤の種類と投与期間 局所状態のアセスメント 全身状態のアセスメント 日常生活への影響
 3)スキントラブル発生時のケア
  局所のケア 全身管理 日常生活の援助 精神的サポート
 おわりに
 Q&A
  有害事象と副作用の意味は異なるのか?
9 がん放射線治療によるスキントラブルとケア(松原康美)
 ケアのポイント
 はじめに
 1)がん放射線治療による皮膚への影響
  放射線治療の特徴 放射線皮膚炎
 2)放射線皮膚炎の予防
  セルフケアの必要性 照射部位の皮膚刺激を避ける 皮膚の清潔を保つ /スキンケアの継続
 3)放射線皮膚炎発生時のアセスメント
  局所状態のアセスメント 全身状態のアセスメント 日常生活への影響
 4)放射線皮膚炎発生時のケア
  局所ケア 全身管理 日常生活の援助と精神的サポート
 おわりに
 Q&A
  放射線治療の晩期有害事象は,いつごろ,どのような症状がみられるのか?
10 がん終末期における褥瘡ケア(松原康美)
 ケアのポイント
 はじめに
 1)褥瘡発生のリスクアセスメント
  褥瘡発生のリスク要因 リスクアセスメント結果 ケア上の問題点
 2)褥瘡ケアのポイント
  緩和ケアを前提とした目標設定 患者のQOL・希望を尊重したケア計画 緩和的な視点からみた褥瘡ケアの評価
 3)褥瘡ケアの実際
  症状緩和のケア 体圧分散と体位調整のケア 局所のケア 輸液管理 心理的サポート 医療チームの協働
 おわりに
 Q&A
  高機能型エアマットレスのモード設定とその活用方法は?
 索引
 表紙/本文デザイン:小川さゆり