やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 日本では今,地域包括ケアシステムの構築に向け,さまざまな取り組みがなされています.そのなかで,地域包括支援センター(以下,センター)はとても重要な役割を期待されていると考えています.ひとつは高齢者の総合相談窓口として,困ったときにはここで相談すれば大丈夫,といったワンストップサービスの拠点となること,もうひとつは高齢者が住み慣れた地域で自分らしい生活を最後まで全うできるような地域をつくっていくことです.センターが「ワンストップサービスの拠点」となるのは理解できるけれど,なぜ地域づくりを行っていく必要があるのか,という思いをもつ人もいるかもしれません.2011年の介護保険法改正で示された「地域包括ケアシステム」の構築は,高齢者が住み慣れた地域で安心して暮らせるための仕組みづくり,すなわち必要な医療や介護,福祉サービスなどが一体的に提供される地域をつくっていくことを意味しています.ですから,地域の高齢者や地域をよく知る存在であるセンターが地域づくりに積極的にかかわることで,きっとより地域特性や実態を反映させた地域づくりができると思っています.
 わたしは神戸市でセンターの職員を対象に,地域診断の研修を6年間行い,その経緯と成果を研究としてまとめてきました(本書「APPENDIX」90頁参照).地域診断は保健師の基礎教育のなかで教授されている保健師活動の基盤となる方法のひとつです.保健師はさまざまな地域/コミュニティを対象に,集団としての健康の維持・増進を目的に活動している看護職です.センターには保健師(もしくは地域での活動経験のある看護師)が配置されています.そのほかに社会福祉士,主任ケアマネジャーも配置されており,協働して活動を行っています.
 この研修は,保健師以外の職種も対象として,センターが一丸となって地域活動に取り組んでいけるように神戸市が企画したものでした.はじめは看護のバックグラウンドをもたない職種に対して,地域診断が受け入れられるのか,またうまく活動に取り入れることができるのかについて心配していましたが,その心配は杞憂に終わりました.研修を受けたセンターでは日常的に地域診断が行われるようになり,3年かけてすべてのセンターに対する研修を終えたあとでは,地域の人たちと一緒に地域の課題解決のために活動しているセンター職員の姿を,神戸市のあちこちで見ることができるようになりました.現在,神戸市では地域に根付いたセンターの活動が行われており,その活動の質は年々向上していると感じています.それとともに,神戸のまちが,高齢者が安心して住み続けることができる地域になっていっている,そういう実感を持っています.
 本書では,地域診断を通じてセンターがどのようにして地域づくりを行っていったのかについて,実際のセンターの活動をもとにした事例を紹介しています.本書を手に取る人が,地域診断を通じて,その地域を深く知り,そしてその地域に愛着をもち,やりがいのある仕事として地域にかかわっていけるように,また,そのことが高齢者が安心して住み続けることのできる地域づくりにつながっていくことを願っています.
 本書を作成するにあたり,神戸市介護保険課および多くの地域包括支援センターの方々にご協力をいただきました.厚く御礼申し上げます.
 2020年8月吉日
 都筑千景
I 理論編
 1 地域診断とは(都筑千景)
   1)地域を知ること
   2)地域って何?
    COLUMN 地域包括ケアシステムと地域包括支援センターの役割
   3)地域を知るための方法としての地域診断
   4)地域診断を学ぶことでできること
 2 地域診断のプロセス(都筑千景)
   1)地域包括支援センターが行う地域診断
   2)PDCAサイクルを回そう
   3)地域診断のステップ
    (1)気づきをみんなで共有しよう
    (2)気づきを確かめてみよう
    (3)地域の強みと弱み(問題)を考えよう
    (4)どのような地域にしたいか考えてみよう
    (5)取り組みの計画を立ててみよう
    (6)実施・評価し,次の計画につなげよう
 3 情報収集と分析の方法
  1.データの集め方
    (1)入手できるデータから集める(都筑千景)
    (2)必要なデータを意図的に収集する(都筑千景)
  2.データ分析の方法
   1)量的データの分析方法
    (1)比較してみよう(波田弥生)
    (2)グラフにしてみよう(波田弥生)
   2)質的データの分析方法
    (1)カテゴリにまとめてみよう(山下 正)
    (2)マッピングしてみよう(波田弥生)
 4 地域包括支援センターで収集できるデータと計画的調査(藤本優子)
   1)相談や事業の実施など通常業務を通してデータを収集する方法
    (1)地域包括支援センター内資料の分析〜相談受付票や月報の活用〜
    (2)日常業務で得られるデータ
    (3)活動の実施結果
   2)計画的に調査を実施してデータを収集する方法
   3)効果的なデータ収集のために〜相談受付票を用いたデータの蓄積〜
II 事例編
 1 地域住民の力を引き出す「ボランティアの育成」(都筑千景)
  1 圏域の概要
  2 地域診断を行うまでにセンターが感じていた問題意識
  3 センターが行った地域診断の実際
   1)対象としたa・b地区の概況
   2)既存資料,日々の活動からの情報
   3)そのほかの調査,インタビューなどから収集した情報
   4)収集したデータのアセスメント
   5)明確化された地域の課題
  4 地域の課題解決のために立案した計画
  5 実際の活動内容
  6 活動の評価
  7 地域診断をしてみてよかったこと,変わったこと
  8 事例のポイント
 2 地域の特徴を力にする「多世代で見守る地域づくり」(藤本優子)
  1 圏域の概要
  2 地域診断を行うまでにセンターが感じていた問題意識
  3 センターが行った地域診断の実際
   1)対象としたd地区の概況
   2)既存資料,日々の活動からの情報
   3)そのほかの調査,インタビューなどから収集した情報
   4)収集したデータのアセスメント
   5)明確化された地域の課題
  4 地域の課題解決のために立案した計画
  5 実際の活動内容
  6 活動の評価
  7 地域診断をしてみてよかったこと,変わったこと
  8 事例のポイント
 3 住民一人ひとりの強みをつなぐ「地域の場づくり」(波田弥生)
  1 圏域の概要
  2 地域診断を行うまでにセンターが感じていた問題意識
  3 センターが行った地域診断の実際
   1)対象としたc地区の概況
   2)既存資料,日々の活動からの情報
   3)そのほかの調査
   4)収集したデータのアセスメント
   5)明確化された地域の課題
  4 地域の課題解決のために立案した計画
  5 実際の活動内容
  6 活動の評価
  7 地域診断をしてみてよかったこと,変わったこと
  8 事例のポイント
 4 次世代の担い手が少ない地域での高齢者の集い場の立ち上げ(山下 正)
  1 圏域の概要
  2 地域診断を行うまでにセンターが感じていた問題意識
  3 センターが行った地域診断の実際
   1)対象としたd地区の概況
   2)既存資料,日々の活動からの情報
   3)そのほかの調査,インタビューなどから収集した情報
   4)収集したデータのアセスメント
   5)明確化された地域の課題
  4 地域の課題解決のために立案した計画
  5 実際の活動内容
  6 活動の評価
  7 地域診断をしてみてよかったこと,変わったこと
  8 この事例のポイント
APPENDIX 活用できるツール
 1 神戸市における3年間の地域診断研修の実施と地域活動実践システムの開発(都筑千景)
   1)地域診断研修の背景
   2)地域診断研修の概要
   3)地域診断研修の成果
   4)地域診断応用研修の実施
   5)地域活動実践システムの作成と精錬化
   6)市保健師のセンター支援
   7)今後のセンターにおける地域活動実践に向けて
 2 地域包括支援センターにおける地域活動実践システム(都筑千景)
  地域活動計画作成手順
  1 地域情報シート
  2 課題シート
  3 計画評価シート

 巻末付録
  地域包括支援センター地域活動計画 地域情報シート(現状とアセスメント)
  地域包括支援センター地域活動計画 課題シート(課題と根拠)
  地域包括支援センター地域活動計画 計画評価シート(目標・実施・評価)
  地区視診のガイドライン 記入シート

 索引