やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

推薦のことば
 −アドバンス助産師とアドバンス助産師を目指す助産師の皆さまへ−
 CLoCMiP(R)(助産実践能力習熟段階)レベルIII認証制度は,日本の助産関連5団体(日本助産師会,日本看護協会,日本助産学会,全国助産師教育協議会,日本助産評価機構)が,助産実践能力習熟段階(クリニカルラダー;Clinical Ladder of Competencies for Midwifery Practice,CLoCMiP)を基盤に,ALL JAPANで取り組む助産師の継続教育体制として2015(平成27)年に創設された制度です.本制度は助産師がCLoCMiPレベルIIIに達していることを客観的に審査し認証する仕組みであり,一般財団法人日本助産評価機構が認証しています.CLoCMiPでは,日本助産師会が助産師に必須の実践能力として提示しているコア・コンピテンシー(倫理的感応力・マタニティケア能力・ウィメンズヘルスケア能力・専門的自律能力の4要素)を軸に,レベルごとに到達度が設定されています.
 日本中どこで就業していても,標準化された評価指標に基づいて評価され,認証された助産師であれば,ケアの受け手である妊産婦も,助産師を雇用する管理者も,ともに働くチームメンバーもその能力を認知することができます.2015(平成27)年以降,2018(平成30)年度までに3回の認証が行われ,CLoCMiPレベルIIIと認証された助産師は12,000人となりました.CLoCMiPレベルIIIを認証された助産師はアドバンス助産師(R)と呼称され,全国で活躍しています.
 CLoCMiPレベルIII認証制度は5年ごとの更新制であり,2020(令和2)年には1回目の更新年を迎えます.このようななか,本書「助産師のための妊娠糖尿病ケア実践ガイド」が発刊されました.
 近年の出産年齢の上昇等によるハイリスク妊産婦の増加,メンタルヘルスケアや児童虐待予防の観点でのケアの必要性などを背景に,助産師には高度な専門性をもった継続的・長期的なケア,地域における育児期までの切れ目のないケアの実践が求められています.アドバンス助産師はこのような周産期の現状をふまえ,院内助産や助産師外来を開設し,自己の責任において妊産婦へケアを提供しますが,社会資源も活用しながら1人ひとりの妊産婦に合わせてきめ細やかなケアを提供する必要性がよりいっそう高まっています.
 アドバンス助産師が備えるべき能力の一つとして,妊娠糖尿病と診断された妊産婦へのケアがあります.それは,CLoCMiPレベルIII認証制度の必須研修「フィジカルアセスメント:代謝」に該当します.全妊婦の約10%が糖代謝異常と診断される昨今にあって,本書はすべての助産師に役立つ待望の書です.
 アドバンス助産師の皆さま,そしてアドバンス助産師を目指す助産師の皆さまが本書を活用し,助産ケア実践能力の向上に役立てていただけるよう,本書を推薦します.
 2019年9月
 一般財団法人日本助産評価機構 理事長
 堀内成子


はじめに
 助産師は,妊娠,分娩,産褥が順調に経過するように,正常から逸脱しかけた状態から正常な状態に戻るように,助産ケアを提供しています.しかしながら,いまや妊婦の初産年齢は30歳をこえ,40歳台での出産も稀有ではなくなりました.このような状況とも相まってハイリスク妊産婦が増加していることから,正常に経過している妊産婦へのケアのみならず,助産師によるハイリスク妊産婦へのより主体的なケアが必要とされています.
 こうした背景をふまえ,助産実践能力習熟段階(クリニカルラダー)CLoCMiPレベルIII認証制度1)では,妊婦の代謝異常に関する知識のブラッシュアップが必須研修として位置づけられています.本書は,本認証を受けてアドバンス助産師として活躍する助産師はもちろんのこと,これからアドバンス助産師を目指す助産師に最適の書として企画されました.
 本書は3つのchapterとコラムで構成されています.「chapter1.妊娠糖尿病ケアに必要な基礎知識」では,妊娠糖尿病ケアを実践する前に理解しておくべき,妊娠による生理的・身体的変化,妊娠糖尿病の診断基準,母子に与える影響等について解説をしていただいています.助産基礎教育で学んだ内容も含まれますが,妊娠中のインスリン抵抗性が理解できると妊娠糖尿病の機序がわかり,対応方法も自ずと理解できることでしょう.また,妊娠中の糖代謝異常の徴候を見逃さないための臨床推論の重要性,妊娠・出産や糖代謝異常にかかわる診療報酬において助産師の活動が評価されている項目,看護職との連携が重要となる項目についても概説していただきました.診療報酬体系を理解するには少し時間が必要かもしれませんが,まずは関心をもっていただきたいと思います.
 続く「chapter2.妊娠糖尿病妊産婦と新生児のケア」は(1)基礎編と(2)実践編で構成されています.妊産婦への支援を行うために必要な前提知識を伝える「(1)基礎編」では,妊産婦を取り巻く社会状況や子育て環境を概観するとともに,妊産婦のライフスタイルや情緒的変化を考慮した支援,食事療法の基本的な考え方について解説しています.後半の「(2)実践編」では,妊娠糖尿病妊産婦や新生児のケアの実際を,妊娠初期,中期,後期,分娩期,産褥期,産後に分けて解説しています.妊娠糖尿病が妊娠各期でどのように変化するのかを理解できると思います.
 最終章「chapter3.事例から学ぶ 妊娠糖尿病ケア」では,chapter2の「基礎編」の学びを「実践編」で統合し,さらに具体的な事例を通して臨床に応用していただけるよう2事例の展開を行っています.もし,これらの事例の妊娠糖尿病妊産婦に助産師が面談するとしたら,どのような支援が必要か,糖尿病看護認定看護師や栄養士,内科医師,産科医師等と連携するとしたら,どのような連携や協働が考えられるか,検討していただけるとよいと思います.
 近年,妊娠中の糖代謝異常が母親の未来や子どもの成人期にさまざまな影響を及ぼすことが明らかとなっています.この事実はすなわち,助産師が妊娠糖尿病妊産婦やその児に適切なケアを提供することによって,妊娠期のみならず将来の母子の健康をも支援できる大きな役割を担っていることを意味します.
 本書が,新たな命の誕生のために,そして母子の未来のためによりよいケアの実践を目指す助産師諸姉の皆さまの一助となることを願っています.
 2019年9月 福井トシ子・井本寛子
 推薦のことば─アドバンス助産師とアドバンス助産師を目指す助産師の皆さまへ─(堀内成子)
 はじめに(福井トシ子・井本寛子)
chapter1 妊娠糖尿病ケアに必要な基礎知識
  1.妊娠による生理的・身体的変化(安日一郎)
   妊娠と母体内科合併症
   妊娠による母体糖代謝の生理的変化
   妊娠中(妊娠中期〜後期)の正常妊婦の血糖値の日内変動
   インスリン抵抗性とは
   インスリン抵抗性が関与する産婦人科疾患
   胎児プログラミング仮説(DOHaD)
   妊娠による生理的インスリン抵抗性の発現
   妊娠中の生理的インスリン抵抗性が果たしている役割
   母体-胎盤-胎児ユニットにおけるインスリン抵抗性と胎児発育
   母体のエネルギー蓄積
   母体のインスリン抵抗性の発現と周産期合併症
  2.妊娠糖尿病の基礎知識(安日一郎)
   妊娠糖尿病の歴史
   HAPO研究の成果としての新診断基準
   妊娠糖尿病の定義
   妊娠糖尿病の診断プロセス―スクリーニングから診断まで
   妊娠糖尿病の管理・治療
   血糖管理(血糖コントロール)
  3.妊娠糖尿病が母児に与える影響(安日一郎)
   耐糖能異常合併妊娠と周産期合併症
   母児の将来の健康障害リスク
   おわりに
  4.妊娠糖尿病ケアにおける臨床推論の重要性(清水一紀)
   臨床推論とは
   臨床推論の進め方
   SBARを用いた臨床推論の実際─症例1
   SBARを用いた臨床推論の実際─症例2
   臨床推論の注意点
   インスリンの使用についての臨床推論
  5.妊娠・出産と糖代謝異常にかかわる診療報酬(数間恵子)
   はじめに─助産師の行為と医療
   診療報酬制度の概要
   妊娠・出産と糖代謝異常
   糖代謝異常のある妊産婦に適用される可能性のある診療報酬
   糖代謝異常別の診療報酬と課題
   おわりに─助産師に期待されること
chapter2 妊娠糖尿病妊産婦と新生児のケア
 1 基礎編
  1.妊産婦や育児を取り巻く社会的状況(長坂桂子)
   未婚の男女の結婚観と理想とするライフコース
   妊娠・出産・育児と働き方
   出産年齢の上昇─高年妊産婦の健康リスクと悩み─
   産前産後のメンタルヘルス
   現代の子育て─孤立化と負担感─
  2.妊産婦の生活環境と情緒的変化を理解した支援の重要性(福井トシ子)
   妊産婦の生活行動改善に向けた支援
   合併症をもつ妊婦の心身の変化と合併症への対応
   妊娠期の情緒的変化への理解と対応
   妊娠糖尿病妊産婦の気持ちの揺らぎを理解して寄り添う
  3.糖代謝異常妊産婦への食生活支援における基本的な考え方(福井トシ子)
   妊娠中の食事療法
   食生活に関する情報収集とアセスメントの重要性
   糖代謝異常妊産婦の食生活支援の実際
 2 実践編
  1.妊娠初期のケア(松永真由美)
   妊娠初期の妊娠糖尿病妊婦の特徴
   妊娠初期の妊娠糖尿病妊婦の心理状態
   妊娠初期の妊娠糖尿病妊婦への治療とケア
   助産師の役割
   ケアにおける注意点
  2.妊娠中期のケア(横手直美)
   妊娠中期の妊娠糖尿病妊婦の特徴
   妊娠中期の妊娠糖尿病妊婦の心理状態
   妊娠中期の妊娠糖尿病妊婦への治療とケア
   助産師の役割
   ケアにおける注意点
  3.妊娠後期のケア(北岡 朋)
   妊娠後期の妊娠糖尿病妊婦の特徴
   妊娠後期の妊娠糖尿病妊婦の心理状態
   妊娠後期の妊娠糖尿病妊婦への治療とケア
   助産師の役割
   ケアにおける注意点
  4.分娩期のケア(大原明子)
   分娩期の妊娠糖尿病妊婦の特徴
   分娩期の妊娠糖尿病妊婦の心理状態
   分娩期の妊娠糖尿病妊婦への治療とケア
   助産師の役割
   ケアにおける注意点
  5.産褥期のケア(鶴見 薫)
   産褥期の妊娠糖尿病褥婦と児の特徴
   産褥期の妊娠糖尿病褥婦の心理状態
   産褥期の妊娠糖尿病褥婦と児への治療とケア
   助産師の役割
   ケアにおける注意点
  6.産後のケア(片岡弥恵子)
   退院後の妊娠糖尿病既往女性と児の特徴
   退院後の妊娠糖尿病既往女性の心理状態
   退院後の妊娠糖尿病既往女性と児への治療とケア
   助産師の役割
   ケアにおける注意点
  7.妊娠糖尿病の妊産婦さんからよくある質問と対応例(松永真由美・横手直美・北岡 朋・大原明子・鶴見 薫・片岡弥恵子・福井トシ子)
   血糖値の測定・管理に関する質問
   分娩に関する質問
   子どもや育児に関する質問
   産後の血糖管理・将来的なリスクに関する質問
chapter3 事例から学ぶ 妊娠糖尿病ケア
  1.妊娠糖尿病ケアの実践に向けて─「時間軸」に基づく支援の重要性─(森 小律恵)
   生理的なインスリン分泌
   各栄養素が血糖値に及ぼす影響
   妊娠期の糖代謝の特徴
   「時間軸」をもった支援の重要性
   母児の健康と暮らしの充実につながる支援を目指す
  2.妊娠中期に妊娠糖尿病と診断され,食事療法と運動療法を実践した事例(肥後直子・森 小律恵)
   Aさんが妊娠糖尿病と診断されるまでの経過
   妊娠中期〜退院後までの看護
  3.妊娠初期に妊娠糖尿病と診断され,インスリン療法を実践した事例(楢原直美)
   Bさんが妊娠糖尿病と診断されるまでの経過
   妊娠中期〜退院後までの看護

 Column
  1 血糖自己測定指導のポイント(森 小律恵)
  2 妊娠糖尿病妊産婦への切れ目のないケアを目指して─事例から学ぶ多職種連携の重要性と助産師の役割―(井本寛子)
  3 妊娠中の血糖コントロールの状態を把握するための検査項目(森 小律恵)
  4 インスリン療法の基礎知識(弘田伴子)

 索引